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龍神の詩6 - 紅花青嵐  作者: 白楠 月玻
一章 若柳
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一章三節 - 報

 

  * * *


 大通りをさらに東へ。


 城の敷地へ入る事ができる唯一の橋を渡ると、門の前で比呼(ひこ)は待っていた。腰をすぎる位の長髪はひとつに束ねられ、濃紺を基調とした袴姿をしている。少しくたびれた感があるのは、今だに戦で傷ついた人々の手当てで忙しいからだろう。


「よっ、比呼」


 与羽(よう)は軽く左手をあげた。

 比呼は浅く会釈して、与羽に駆け寄った。


「与羽。今、時間大丈夫?」


 中性的な顔にかすかに笑みを浮かべてそう問う。


「ん。少しくらいなら」


 与羽はうなずいた。


「ありがとう」


 比呼のほっとしたような言葉に、与羽は再度うなずいて自室へと歩きはじめた。

 そのあとを比呼がついてくる。


「で、何があったん?」


 与羽は歩きながら、後ろの比呼を振り返ることなく問いかけた。


(ナギ)が帰ってこない」


 比呼はまず簡潔に一言で伝えた。


「ふむ……」


 与羽が浅くうなずく。


「八日前だよ。この間のことで薬草が一気に減っちゃったから、『薬草を取りに』って出て行ったきり帰ってこない」


『この間のこと』とは(いくさ)のことだろう。


「長いね」


 与羽がつぶやき、比呼もうなずく。


「二、三日帰ってこないことはよくあるらしいから、あまり心配してなかったけど、さすがに一週間以上はないかなって思って。香子(かおるこ)さんも、朱里(しゅり)さんも沙那(サナ)さんも心配しはじめてて――」


 比呼は凪の家族の名前を挙げた。与羽も浅くうなずいている。


「もしかしたら、迷子とか、怪我とかして帰って来れないんじゃ――」


「凪ちゃんが迷子はないと思うけど……。凪ちゃんが行ったのは、華金(かきん)山脈でしょ? 地理にはよく慣れとるし、山歩きの危険性も分かっとるはず。薬草を取りにって言っても、ほとんどは森の民から仕入れるつもりだろうし。

 怪我も可能性は低かろう。凪ちゃんは薬師(くすし)だから。怪我の治療はうまい。まぁ、骨折とかなら分からんけど。

 ……何か、事件に巻き込まれた、とか?」


 自室へと向かう与羽の足は、次第に遅くなっていく。


「事件?」


 比呼がおうむ返しに聞いた。


「可能性の話だけど。特に今は(いくさ)の後で世が乱れとる。国境あたりじゃまだ小競り合いが起こることもあるし、華金から風見(かざみ)の国境あたりでは、盗賊が活発に動いとるらしいね」


 このあたりの話は、最近城主代理として絡柳(らくりゅう)辰海(たつみ)とともにさまざまな報告を聞いたおかげで、ある程度把握できていた。


「まっ、可能性の話だけど」


 与羽は、険しい顔で与羽の頭を見つめている比呼に軽い口調で、しかし念を押すように言う。


「もしかしたら、ただ森の民にけが人や病人がおって、その手当てにおわれとるだけかもしれんし、目当ての薬草がなかなか見つからんだけかもしれん」


「でも、何か良くないことが起こったって可能性もあるよね? むしろその方が高いって与羽自身も思ってるんじゃないの?」


「…………。……まぁ、そう、だけど」


 しばらく間があって、与羽は低い声で認めた。

 そして不意に振り返る。


「!?」


 急な行動に比呼は驚いて後ずさった。


「謁見の間に――」


 与羽はそれだけ言って今まで通ってきた廊下を戻りはじめる。


「まさか与羽が捜しに行くつもり?」


 与羽の行動と言動から、比呼は彼女の意図を察した。

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