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龍神の詩6 - 紅花青嵐  作者: 白楠 月玻
一章 若柳
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一章一節 - 炎

 中州城下町の西にある平野部では、今日も火がたかれていた。壊された家屋のがれきとともに、半月前の戦で亡くなった人々が火葬されているのだ。

 戦が終わり、身元の判明した者から順次行われていた火葬だが、これが続くのもあと二、三日だろう。

 中州はゆっくりとではあるが、復興をはじめていた。


 一面戦場になった平野部は障害物が取り除かれ、早くも小さな草の芽が出はじめている。そのあちらこちらでは、農民が自分の土地や共有の小道、水路などを整えていた。中には準吏や官吏も混ざって作業しているようだ。

 地図を片手に土地の広さや道の幅を確認しながら地ならしをする文官には、見覚えがあった。


 再び火葬場に目を戻すと、中州城主の乱舞(らんぶ)が遺族に向かって何か言っていた。

 城主の妹――与羽(よう)は彼らから少し離れたところに立っている。身にまとうのは喪服。いつも頭の高い位置で束ねている青と黄緑にきらめく黒髪もおろしてあった。

 ここ最近、人前に出る時はいつもこの格好をするようにしている。もうしばらくは中州と戦死者のために喪に服すつもりだ。


 風向きが変わり、煙がこちらに流れてくる。

 前方にいた乱舞たちは煙を避けて風上に回ったが、与羽は動かなかった。煙のせいで目に涙がにじむが気にしない。同じような場面に何度も立ち会い、こうでもしないと泣けなくなってしまった。慣れと言うのは恐ろしい。


 目を閉じると涙がほほを伝いあごから(えり)を濡らした。


 次から次へと涙があふれ、煙による痛みが引いていく。


「う……、ぐ……っ」


「与羽」


 嗚咽(おえつ)をこらえるように苦しげな声を漏らすと、近くで兄の声がした。


「大丈夫?」


 手の甲で目元をぬぐってから目を開けると、目の前に乱舞が立っていた。与羽が煙を浴びないように、風上に立って袖を広げてくれている。

 与羽はコクリとうなずいて鼻をすすった。

 その様子を見て、乱舞がすぐさま手巾を取り出してくれる。そのまま子どもにするように与羽の顔をぬぐおうとするのを、手巾を奪って防いだ。自分で涙の渇きはじめたほほをぬぐい、目元に押し当てる。

 さりげなく腕を取り、煙のこない場所に誘導しようとする乱舞には素直に従った。


「与羽、本当に大丈夫?」


 やさしく与羽を導きながら尋ねる乱舞。


「ん……」


 与羽は短く声を漏らしながら再度首肯する。


「じゃあさ、先に城に帰って絡柳(らくりゅう)たちを手伝ってあげてくれん?」


 これは、これ以上与羽が火葬に立ち会わなくてもいいようにと言う思いやりなのだろうか。


「ええけど――」


 別に断る理由もなかったので、与羽はそう答えた。


「じゃあ、お願い」


 乱舞が淡くほほえんだ。


 与羽は退場の礼をとって、ゆっくりと(きびす)を返した。

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