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龍神の詩6 - 紅花青嵐  作者: 白楠 月玻
五章 日輪
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五章五節 - 猶予

 この村は華金(かきん)が母体となっている。何十年も昔に、徴兵に反抗して逃げ出した人々で作った集落だ。

 与羽が比呼をちらりと見ると、「たまにある」とだけ悲しそうな苦笑とともに答えが返ってきた。彼の笑みの理由は、追求しなかった。


 しかし、見つかりにくさだけを重視したこの集落は、日当たりも風通しも水はけも悪く、作物が育ちにくいうえ、病気もはやりやすい。他の集落との交流がなく、自給自足も難しい。

 そんな中で生きていくためには、人から奪うのが最も手っ取り早かったのだ。


「ん~、どうするかなぁ……?」


 大体の話を聞いた後、与羽は頭を抱えた。


「私はこの村を正式に中州に入れて、ここに住む人がみんなまともに暮らせるようにしたいけど――」


「決めるのは城主代理の君だよ。僕は、君が決断したものを整えて、それがちゃんと実行できるように支えるだけ」


 辰海は官吏の顔で与羽に告げる。


「盗賊行為や殺人についてなら心配いらない。中州が国として被害を受けたことはないから、目をつぶれる範囲だよ。それでも納得できないときは、一部の人に中州のために働いてもらうことで罪を償ってもらうよう提案するよ。比呼の前例もあるから、そんなに難しいことじゃない。

 言い方は悪いけど、何人かの人に城下町で働いてもらうことで、人質にもできる。集落をあげて中州へ反抗しようとするのも防げるんじゃないかな。

 もちろん、城主代理が思い描く状態にする前に、あなたたちには中州への絶対的な忠誠を誓っていただきますが……」


 辰海は吊り上って鋭い印象を与える目に、厳しい光を宿して青桐(あおぎり)を見た。


「反抗される場合は、この土地――中州から出ていただかなくてはならないかもしれません」


 与羽はまだ正式な判断を下してはいなかったが、辰海はすでに彼女が思い描く理想が叶うように動きはじめている。そして、わずかに婉曲させて、青桐に中州に従うか、この土地を出るか選択を迫った。


 与羽にも青桐にも、他のここにいる多くの人にも、辰海の言わんとすることは正確に伝わったようだ。

 表情を変える者、周りの人とささやき交わす者――。風が森を吹き抜けるように、辰海を起点にざわめきが巻き起こった。


「……申し訳ないが、すぐには返答しかねる」


 青桐は何とかそう答えることで、この場をやり過ごそうとした。


「そうですか」


 辰海もすんなりとそれを受け入れる。


「それでは――、そうですね。ここから中州城下町まで、長く見積もって五日の道のり。中州で話し合う時間も考え、半月――十五日猶予を差し上げます。その時には、正式な使者をよこしますので、返答をよろしくお願いいたします」


 辰海は頭を下げたが、その目はずっと青桐を鋭く見つめている。


「あ、あぁ」


「もちろん、盗賊行為はこれ以降一切禁止です。そのかわり、猶予期間は中州から食料や生活用品を提供させていただきますので、ご安心ください」


 もはや与羽の手を煩わせることもない。

 与羽の意思は明確だ。

 辰海は、やっと差し込みはじめた陽光に髪をきらめかせる与羽を見た。いつもより厳しい表情でまっすぐ青桐を見つめている。

 辰海の言葉を黙って聞いているのは、彼の意見を受け入れている証拠だ。


 辰海は自分の判断の正しさを無言で確認して、中州の面々にもいくつか指示を出した。

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