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龍神の詩6 - 紅花青嵐  作者: 白楠 月玻
五章 日輪
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五章一節 - 捕虜

「次はどちらに行けばいいんですか?」


 (ナギ)は少女に薬を飲ませた後、青桐(あおぎり)に連れられて外に出ていた。

 先ほどまで診ていた少女は、呼吸が幾分落着いたおかげで、今はぐっすり眠っているはずだ。


「あの家だよ~。俺の友達んち」


 凪についてきた盗賊の少年――風露(ふうろ)が指差したのは、大きさの違う板を何とか組み合わせて建物の形にしたような家。中州では農具を片付ける小屋として使われそうなみすぼらしさだったが、この集落には似たような家が雑多に立ち並び、人が住んでいる。


 あたりは昼間であるにもかかわらず、薄暗い。高い山に囲まれほとんど日が差さない場所があるのだ。

 そのせいか、家々の間を行きかうわずかな人々も肌の色が青白く、痩せていた。

 青桐のような筋骨隆々の人は見かけない。

 空気もひどくよどんでいるようだ。


 凪はかすかに顔をしかめた。

 夏場であるせいもあるだろうが、羽虫が多く飛び回っている。それを払うように首を振った時、視界の端に何かが映った。


 それを確かめるために上を見上げた。

 薄暗い村の様子とは対照的に、夏晴れの雲一つない青い空に鳥が旋回している。不意に聞こえた高く間延びした鳴き声から、トンビだと分かる。


 普通の人なら、「ただの鳥か」と思うだけだろう。

 しかし、凪は違った。森の民や中州の隠密をしている人々にとって、その鳥は特別な意味を持つ。

 もちろんただの鳥である可能性もあるが、今回は違う気がした。


「お頭!」


 青空をのんびりと旋回し続けるトンビを見ていた凪は、前を歩く青桐を呼ぶ声に目線を下げた。

 こちらに駆けてくるのは、弓を背負った男。山を抜けてきたのだろう、着物のところどころに泥汚れがあった。


「どうした? 君影(きみかげ)


 青桐のぶっきらぼうな応え方から、弓の男も青桐の仲間なのだと察せる。

 凪が意識を奪われた場面では、短槍を扱うさくら以外は顔さえ見ることができなかった。それ以降凪の前に出てきたのは、青桐とさくら、そして後ろについてくる風露だけだ。

 凪はわずかに警戒して、盗賊の弓使いを見た。


「『お客さん』でっせ。集落の場所がばれたみてぇです」


 そういう割には、君影の声はある程度落ち着いていた。


「相手は? 殺したわけじゃねぇだろうな?」


 凪に対するよりも荒っぽい口調で青桐は問う。


「その点は安心してくだせぇ。今、鳳梨(ほうり)に連れてこさせてます」


 君影の落ち着きは、侵入者を捉えた余裕から来ているものらしい。


「ならいい。どんな奴だ?」


「小娘ですわ。変わった髪と目の色した。ありゃぁ多分、華金(かきん)の貴族辺りに高く売れる」


「な……!」


 凪は思わず声を出してしまった。「変わった髪と目の色をした小娘」には、心当たりがある。

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