098
その日の午後の授業は まったく頭に入ってこなかった。
響の言葉で 頭の中が占領されていたからだ。
そして 放課後になり今は 生徒会長室で 出雲さんと面会している。
「どうして、響が学校に居るんですか!」
声を荒げ 出雲さんに詰め寄る。
「彼の力は有用だからな。それに・・・・」
出雲さんは 何かを躊躇っているのを見て 今日 一日分の鬱憤を晴らすように 強く迫る。
「それに 何ですか?」
「彼には 伏せておいて貰いたいのだが 彼も 一種のマインドコントロール つまり洗脳下にあったようなんだ。彼の マリアさんや 遥さんだったか?彼女達にした非道な行動も あの大規模な広域殲滅魔法も その影響によるもののようだ。
・・・・・・・
君にだからこそ話が 今からの話は 本人はもちろん 他言無用で頼む。
彼は 母親を早くに亡くし 父親に育てられた。そして その父親は 魔法使いだったんだ。
彼が 小学生の頃らしいが 当時 田舎の小さな村に住んでいた時 事故にあいそうになり 父親は咄嗟に魔法を使って助けたそうだ。しかし 村人にその様子を見られて 普通の人間ではないと 親子共々 迫害を受けたらしい。村の中で 小さい事 大きい事 何かあれば 父親が疑われたとか・・・・。
まさに、魔女狩りだな・・・・。
そして 父親はある日 風邪で倒れたらしいが 医者は診察を拒否し そのまま 肺炎を拗らせ死んだ。その後 彼は離れた町の施設に引き取られた。
しかし 父親は 早い段階で医者にかかっていれば死なずにすんだはずなんだ。
響は 魔法や魔法使いを世間に 認めさせたいと思っている。自分と同じような境遇の人間を多く見てきたらしいからな。
そして、その思いを アレティーアの幹部達につけこまれたようだ・・・・」
「・・・・そんなことが」
響もまた被害者と言うことなのか。
魔法や魔法使いを認めさせたい。
父親の死が その思いの元になっているのだろう。
俺が世界の王になれば 世の中は魔法を認めなければ ならないだろうし 今まで 迫害を受けた魔法使い達も解放されるかもしれない。
だけど・・・・
俺は 出雲さんに昼休みの響とのやり取りを 話してみた。
「世界征服か・・・・面白いことを考えるな。で、君はどうしたい?」
「どうしたいと言われても・・・・そのつもりは 無いですが 響の言っていることが 全く間違っているとも思えなくて」
「それで、浮かない顔をしていたのか。まあ 将来の可能性の一つではあるな」
「い、出雲さん!?本気で世界征服なんて考えるのですか?それに 仮に 仮にですよ 世界征服したとして 俺にその後の 運営なんてできませんよ」
「可能性の一つだ。それに 運営に関しては 能力があり信頼できる者に任せればいい。問題があるとすれば それは、君の死後のことだな。君の後継者が、君と同等の力を持っているか 世界征服が、悪と思えるほどの 理性を持ち合わせているかだな」
「俺は・・・・」
「兎に角 研究やシュミレーションは必要だし 今すぐという話でもあるまい。今は 気にせず 頭の片隅にでも残しておけばよいのではないか?」
その後も少し話をしたが あまり覚えていない。1000万を受け取り鞄に詰め込んだが こんなに ぼー としていたら 何処かに置き忘れてしまいそうだ。
出雲さんは なんだか乗り気のようだが 俺の気持ちは・・・・
分からない
教室に戻ると 皆が待っていてくれた。
「ナオキさん どうなさったのですか?」
マリアは顔を見るなり聞いてきた。
そんなに 顔に出ているのかな?
考えてみたら 決断もできず 思い悩み それが顔に出ているようじゃ 世界征服なんて 無理だよな。
俺は 器じゃないよな。
「何でもないよ」
無理に結論を出し 答えるがマリアは
「一人で抱え込むのは ナオキさんの悪い癖ですよ。それとも 私達には 聞かせることのできないようなことなのですか?」
響の事については マリアと遥は被害者であり 今後 同じクラスで過ごしていくのだから 知っておいたほうが わだかまりを少しでも無くせるかもしれない。
そう思い 出雲さんにも二人には 話す許可を取ってある。
「取り敢えず もう遅いし学校を出よう。帰りながら話すよ」
学校を出て 帰り道すがら 響の生い立ちについて 話した。
二人は複雑な表情をしている。洗脳されていたのなら仕方のないことかもしれないが 「はい、そうですか」と簡単に許せることもできない。そんな感じだ。その辺りは俺と同じ心境のようだ。
遥にいたっては 朝 響が教室に入ってきたのを見た途端に 俯き 身を小さくし震えていた。遥は催眠状態のときのことを薄っすらだが覚えているらしいのだから その反応も止むを得ない、寧ろ逃げ出さなかっただけ 冷静だったとも言える。
そしてマリアも 遥程の過剰な反応ではないものの ずっと 怖い顔で響を睨みつけていた。
「でも それだけでは ないでしょ?」
「えっ?」
「ナオキさんは 催眠や洗脳を嫌悪されているのは知っています。ですが その被害者までを嫌悪されてはいないでしょ?私やお父様を害しようとしたマキシムのことも既にお許しになっているのですから。
では、今 考え思い悩んでいるのは また別のことなのでしょ?」
マリアさん!
あなたは 魔法使いではなく 心を読むことのできるエスパーでは?
マリアは 心を同期させ共有したサヤ並に俺を理解していてくれている。
とは言え 世界征服を少しでも本気で考えている・・・・いや 考えてはいない・・・・何て言うか 荒唐無稽な話で思いや悩んでいると思われるのが恥ずかしい。
だから できるだけ明るく 冗談のように続ける。
「それにさぁ 響のやつ 俺に魔王になって 世界征服しろなんて 言い出して 笑っちゃうよ ハハハハ」
「ナオキさんは その話を真に受けているのですか?」
マリアだけでなく ガールズ達の呆れた視線が痛い。
「バカねー 世界征服って アニメじゃないんだし!」
はい 遥さん 俺も同意見です。
「で、それの何処に悩む要素があるのよ?」
「響の最大の目的は 俺を魔王にして世界征服を成し 魔法使いの地位向上みたいなんだ。魔法使いが世界で認められる存在であれば 父親は死ななかっただろうとの思いからだろうね。それと 俺が世界を手に入れれば 戦争をなくしたり 飢餓や貧困から世界を救えるだろって・・・・」
言った途端に ガールズ達は押し黙り 皆 考えに耽ってしまう。
俺に 世界を手に入れるだけの力があるだけに 笑い話で終われないのだろう。
理想は 高く崇高なものだ。そして それを現実にできるかもしれない力もある。
ただ、力で世界を手にする事が 良いのか?
俺自身も そうであるように 皆もそれが 引っかかっているのだろう。
言葉少なに時間だけが過ぎ 家に着いてしまった。
遥と踊子さんとは 別れ マリアとシオンさんを連れ家に入ると サヤが出迎えてくれる。
「みんな どうしたの?」
が、サヤの第一声。
部屋に入り 今日の出来事をサヤにも話すと
「止めておきなさい。できる できないじゃないわ。ナオキさんは 向こうの世界を救ってくれたけど それは、魔物との戦いだった。だけど 世界征服は人との戦いよ、半端な覚悟ではできないこと。ナオキさんは それを成すために 人を殺せる?」
サヤの意見は当然だ。だけど 人を殺さなくても・・・・
「人を殺さなくても 世界を手に入れれるだけの力はあると思うんだ」
「だから、覚悟の問題なのよ!最後まで 抵抗する人だっているはずよ。ナオキさんが、そうしたように 命をかけて 今の世界を守ろうとする人がね。医者をしているとね 命を選ばないといけないときもあるのよ。どんなに魔法が万能でも 同時に何人も治療できるわけではないし。誰かを見殺しにする覚悟がなくては医者は できないのよ。現実を見ずに全員 助けるんだ なんて言ってる人は 一人だって救えない。中途半端な治療をすれば苦しむのは患者なの」
サヤの言葉は 経験から来ているものなので とても重い。命の現場から来る言葉だからこそ とても重い。サヤだって本当は 患者 全員を助けたいはずなのに 命の選別をしてきたのだろう。
覚悟
俺には 全くない。
人を殺す?
そんな 覚悟をできるのか?
無理だ。
憑き物が落ちたかのように 心の中がスッキリとした。サヤには 本当に頭が上がらないな。いつもサヤは 本当は言いたくないようなことも俺のために言ってくれる。
本当に頭が上がらない・・・・。
「ありがとう・・・・なんて言うか すっきりしたよ。俺に人を殺すなんてできないし その覚悟もない。ちょっと 自分の力を過信し過ぎだね 反省反省」
「違うわ・・・・多分 ナオキさん程の力があれば 本当に無血で征服だってできるかもしれない。ただね 人の上に立ち 人を纏める人たちって 相応の覚悟が必要なんでしょ?」
そう言って マリアを見る。マリアは 王族としての教えを叩き込まれている。
マリアは 強い視線で俺を見ながら答えた。
「そうですね・・・・王とは 時に配下の者に死ねと命じなければならない事もあります。父も・・・・陛下も あんな時代でしたから 民を守るため そう言った命令をしたこともあります」
うん、とどめだね。俺には やっぱ そんなことできないもん。
「どう考えても 俺には 無理だわ」
「でしょね。ナオキさんは 優し過ぎるから」
ニッコリしたサヤの言葉に 俺は 救われたような気がしたのだった。




