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出雲さんの説明によると
被害が出だしたのは 響の一件からしばらくしてからで 魔力の反応が有った地点に人を向かわせたところ 動物か何かに噛み殺された遺体を発見、その後も しばしば似たような事件が発生し魔力反応を頼りに人を向かわせるが 間に合わず被害は増える一方。実際は 報道されている以上の被害が出ているらしい。運よく 逃げる事ができた人の証言により 大型犬の10頭程の群れが襲ってきたとが分かったが それだけで 被害を食い止める事ができず困っているとのことだった。
そして、『魔力生命体』とは魔力を凝縮した核に構成情報を付与し作り出された人工生命体で知能や理性はなく ただ与えられた命令のみを実行すると考えられている。
アレティーアの秘術らしく 詳しいことは 分からないらしい。
「それに 君は魔力を感じる事ができるのだろう?では 我々以上に迅速な対応もできそうだし 君の魔力と戦闘力が有れば 危険と言うほどでもなかろう?どうだ、やってみてはくれないか?」
煽てられているような気もするが 事実 響が作り出した 大オオカミであれば 10頭程度なら何の問題もなく対処できるだろう。とは言え 相手を見くびったり 見下したりはしない。同じ過ちを繰り返さないし 無理はするつもりはないし 駄目そうなら逃げれば良い。だけど 多くの被害が出ているようなので できるだけのことはしよう。
「分かりました。できるだけはやってみます」
「ああ、頼む」
そう言って 出雲さんは 1000万円の入った紙袋を俺の前に滑らせた。
「では 報酬は渡しておく」
「報酬って 仕事が終わってからでは?」
「危険な仕事を頼むのだ。前払いでよかろう」
「ありがとうございます。受け取らせてもらいますが せめて 放課後まで預かってください」
朝一から こんな大金を持っていたら心配で授業どころではない。仮病を使って 一日 現金を抱いたまま保健室のベッドで隠れるしかなくなってしまう・・・・。
その後 マリアの時と同じように 踊子さんに連れられ シオンさんは職員室に向い 俺は自分の教室に入り 席に着くと すぐにホームルームのチャイムが鳴った。
しばらくすると 朝霧先生が男と女の二人の生徒を連れて教室に入って来るのを見た瞬間 俺は椅子を倒す勢いで立ち上がり呆然とする。
女子はシオンさんだ。それはいい 分かっていた事だが 男子は・・・・。
彼は 制服に身を包み 一瞬 鋭い眼光で俺を睨んできたが すぐに何もなかったかのように 考えられないほど 優しい表情となる。
教室内の男子も女子も 先生が連れて来た生徒を見て歓喜の声を上げた。
当然だ 俺のシオンさんがセーラーを着ているのだから 喜ばない男子は男色決定だろう。そいつには あまり近づかないようにしよう。
もう一人の男子も割りと美形で人当たりのよい笑顔などを浮かべている様子をクラスの女子も放っておけないようだ。
「はい!みんな 静かにして。またまた、転校生です。このクラスはどうなってるんでしょうね?」
呆れた表情で 朝霧先生は俺のほうを見ている。
「直輝君も 座ってね。では 自己紹介をお願いします」
先生の言葉を聞き シオンさんは 優雅に一礼をした後 自己紹介をした。
「シオンと申します。そちらにいらっしゃるマリアさ・・・・んと 同郷で友人でもあります。この国の文化 風習に慣れていませんし 知らない事を多くあります。皆さんに色々教えていただけると嬉しく思います。これから よろしくお願いいたします」
どうしても『さん』の敬称に慣れないようで つい『様』と言ってしまいそうになっている。意識していてこれなら 不意に言ってしまうだろうな。呼ばれたマリアのほうが困るだろう。友達に『様』と呼ばれている時の周囲の反応に・・・・。
そして もう一人の転入生も入れ替わりで一歩前に出て口を開いた。
「僕は響です。よろしくお願いします」
礼をし 顔を上げはにかんだ笑顔に女子からは 「キャー」と小さく悲鳴が沸き起こった。
こいつは マリアを拉致し 遥に非道な催眠をかけ 日本を水没させようとした あの響だったのだ。
説明と抗議の意を込めて朝霧先生を見ていると 意味ありげな笑顔で見つめ返してきた。
「そうですね、では直輝君 彼の世話をお願いしますね。シオンさんは マリアさんのお友達なのですね。では マリアさん シオンさんに 学校のことを教えてあげてくださいね」
「えっ!?ちょっ・・・」
更なる抗議の言葉を聞き終わる事もなく朝霧先生は 矢継ぎ早に席を決めたり その他連絡事項を伝えると 最後に俺に向かって ウインクをし 早々に教室を出て行った。
男にウインクされても嬉しくない・・・・。もしや 朝霧先生って あっちの・・・・?
ちなみに 俺の隣はマリアで マリアの後ろがシオンさんの席になり 響は少し離れた窓際の席になった。
朝霧先生も出雲さんも響きのことを知っている上で転入させているのだから訳があるのだろう 先生が俺に世話を押し付けたのは直接聞けと言う事なのかもしれない。
そう思い 休み時間のたびに様子を窺っていたのだが 常に女子に囲まれていたため話かけれずにいた。
昼休みになり 響は女子からのお昼のお誘いをやんわりと断り教室を出たので 後を追うことにする。追跡に気付いているのだろうか どんどん人気のない所へ向かって行き 桜さんたちに連れてこられた体育館裏へと辿り着いたところで 立ち止まった。
「出てこいよ」
響の言葉に 元より話をするつもりだったため素直に従い 彼の目の前まで行く。
「何でお前が学校に居るんだ?」
俺は何の前置きもなく 聞きたいことを口にした。
「出雲の指示だ。俺の知ったことか。まあ 俺の力を利用したいが野放しにはできない。そんなところだろう」
響はそんな事は どうでもいいといっ感じで 答え そして
「その程度のことで 熱い眼差しで見詰めていたのか?俺はてっきり お前は そっちの趣味があるのかと疑ってしまったぞ。他に用がないなら失礼するぞ」
おいおい そっちの趣味はない!
と、言うか 何で、そんなに普通なんだ?
あんなことをしておいて?
「おい!待てよ!!お前、そんな簡単に許されると思っているのか?」
振り返り 軽く溜め息をつき 答える。
「許されるも何も 何か被害が出たのか?強いて言えば俺のこの手くらいだろう?」
言いながら 自分の腕から義手を外した。
「被害が無かったからって お前のしたことは!」
「それに処分を下したのは出雲だ。不服があるなら出雲に言ってくれ。俺に言われても困る」
確かに 響の言っていることは正しいのかもしれないが 日本の半分を吹き飛ばし 残り半分を水没させようとしたのだ もし あの魔法 アルマゲドンが成功していたら 被害は計り知れない。
そもそも こいつは 反省すらしていない様子だ。
本当に 学生としてこの学校に置いておいて大丈夫なのだろうか?
出雲さんは何で、こんなやつを?
「お前はアレティーアを裏切って WWAに入ったのか?そして今度は WWAも裏切るのか?」
「アレティーアを裏切ったか・・・・裏切った訳ではない。大体 仲間になったつもりもないのだからな。俺があそこにいたのは 年寄り連中から古式魔法を習いたかったからだ。古式魔法の術式はもちろんだが 奴等からは 魔力のコントロール法を盗みたかった。現代魔術師は 機械頼りで魔力のコントロール法を知らないからな。
それに WWAに組したつもりもないし それは出雲にも言ってある。
俺は俺の目的を果たすためなら何でもするつもりだ」
「お前の目的って何なんだ?」
「俺の・・・・俺の目的は 世の中に魔法を魔法を扱えるものを認めさせること 」
響は噛み締めるように 言う。その姿からは 強い決意のようなものを感じた。
そして、何時かの時のように方膝をつき顔を伏せ続ける。
「その為に 直輝様には魔王になっていただき 世界をその手に納めて頂きたい!」
「何を言っているんだ!?魔王?世界征服?意味が分からない!!」
魔王になって世界征服だって?どこの子供向けアニメだよ!?
「意味?直輝様にはそれだけの力がある。それなのに なにもしないほうが 意味が分かりません」
「何もしないって 当たり前だろ!世界征服をしてどれだけの人を苦しめるんだ。俺は悪に落ちるつもりは毛頭ない!!」
「はぁ」
響は小さく溜め息をつき 顔を上げた。
そして
「では、聞きますが 信長が秀吉が 家康が 日本を統一しようとした そして統一した武将たちも悪だったのですか?」
「それは 詭弁だ。戦いになれば 多くの人間が命を落とすのとになるだろ」
「戦いにならなくても 今 この時にも多くの人間が 戦争や飢餓で死んでいっています。もし 直輝様が 世界の王となれば 世界からこれ以上の戦いをなくし 世界の物資を効率的に分配すれば 飢餓や貧困で死んでいく者もなくせます。悪の心を持って世界征服をすれば 暗黒の時代が来るかもしれませんが 正義の心を持って すれば 未来は変わるのではないでしょうか?
それに、それに あなた程の力があれば 戦わずして 世界征服も可能なはずです」
それこそ詭弁だ・・・・と思う・・・・。
それに 仮に 仮にだ、俺が世界征服を成し 世界の王となったとしても 世界を運営していく能力はない。俺にあるのは戦闘力だけだ。暴力と恐怖だけで 世界征服すれば それは悪だと思うし それでは誰も付いてこないはずだ。
「でも 俺には 世界の王になったとしても 世界を動かしていく事なんてできないし やっぱり 暴力だけで 世界征服するのは 悪だと思う。俺には そんなことはできなよ」
「手段が暴力であったとしても その後 どううするかは 別の問題でしょう。それと 『悪』と 仰いますが、戦争や紛争 飢餓や貧困で死んでいった者達にとっては 世界を救う力を持ちながら それを使わないことこそが 『悪』だと言うのではないのでしょうか?
まあ、今は構いません。ですが よく考えておいてください。
では 失礼します」
そう言い残し 立ち上がると颯爽と立ち去っていき 呆然とする俺だけがその場に取り残される。
響が 豹変した・・・・俺を魔王と崇めた・・・・そして 魔王として 世界を奪えと言った。
響の言っている事を 俺は心のどこかで正しいと思っている。
サヤは 言った。
自分を守るために 魔法を使わず 医者を必要とする人を 見捨てるのか と、
サヤは 言った。
医者は 死ぬまで医者でなければならない と、
医者を辞めれば 患者を見捨て それは 殺す事と同義だ と、
つまりは 患者を助ける力を持っているのに それを必要な時に使わないのは 殺すことだということだ。
俺は?
俺は 膨大な力を持っている。恐らく この世界の全ての軍隊を相手にしても勝てるだろう。
何ができる?
戦地に赴き 戦争を止める?
飢餓に苦しむ人たちに 食料を持っていく?
しかしそれでは きりがないだろう。
だったら いっそ 響の言うように 世界征服をし 王にでもなれば ドラスチックに改革を進める事もできるかもしれない。
思考の迷宮に囚われ 答えを出せないまま 昼休みを終えるチャイムを 体育館裏で 聞くこととなった。




