089
・・・・モニリの町
外套 フードで顔の様子すら見えずらい旅装束の4人がモニリの町に入った。
町は騒然としている。
町は 兵隊で溢れかえっているからだ。しかも それが隣国 ダリーンの国軍であるから ただ事ではないのだろうと 察しがつく。
「すみません。兵隊さんでいっぱいですが 何かあったのですか?この兵隊さんたちは ダリーンの・・・・ですよね?」
「お前さんたちは?」
聞いた町の人間は じろりと 上から下まで見ると
「旅の方かい?知らないのも 無理はないか・・・・で、どこに向かうんだい?」
「タラクシャ城ですが?で、何があったのですか?」
「それじゃあ 止めたほうがいいよ。・・・・今 城は魔王軍の攻められているだ。ダリーンの兵隊さんたちも 援軍で来てるんだよ」
「そ、それは!いつごろの話ですか?」
「兵隊さんたちの話だと そろそろ 戦いが始まるんじゃないかって」
「ありがとうございます」
一見 怪しそうな人物達は 丁寧に礼をし急いだ様子でその場を立ち去り 町の外へと向かっていった。町の者にしてみれば 魔王軍と聞いて逃げ出したのだろうと思っただろうが・・・・
タラクシャ軍は 城壁に沿い布陣し 皆 地平線の彼方を睨みつけていた。
そして 視界に小さな点が現れたと思うと 時間と共にその点は 徐々に広がり大きくなっていき 最後には視界を覆いつくすほどになった。
「敵補足!戦闘体制に入れ!!!」
タラクシャ全軍に緊張が走る。
シオンも震える手を抑え付ける。
大丈夫!三賢人様も参戦されている。私たちは 数以上の力があるはず。
振り返り 城壁の上を見詰めると そこには タラクシャの魔法界の最強の三人が皆と同じように 敵軍を見据え 魔法発動の準備にかかっていた。
魔王軍は タラクシャ軍と数百メートルの距離で 一旦進軍を止めた。
そして 一体の魔物が 前に出て叫ぶ。
「愚かでひ弱な人間どもよ!俺は 魔王と言うほどの力は持ってはいないが この軍勢を率いる事ができる程度の力は持っている。もし 命が惜しいのなら我等に跪け!そうすれば 奴隷程度には扱ってやろう。それができぬなら この場で 死ね!」
・・・・降伏勧告
タラクシャ軍は 目が点となり呆然とする。今までの魔王軍は容赦なく全てを蹂躙していき魔王軍が通った後は 草木も生えない荒野と化していた。
動揺が走るが 全軍の指揮を執るマキシムは 言い放つ。
「ここで我等が降伏すれば 国民全てが魔族の奴隷に成り下がることになる。しかし ここで民が逃げる時間を稼げば いずれ再起の機会もあろう!!それにダリーンからの援軍の報も届いているし 散らばった国軍も戻りつつあるのだ。ここで 我等だけで勝つ事は無理かもしれないが 援軍が到着するまでの時間を稼ぐ事くらいはできよう!!!皆 死に急ぐ必要などないのだ、見苦しくとも生き残り 時間を稼げ そうすれば 我々は勝てるのだ!!!!!!!」
誰もが この戦力差であれば時間を稼ぐどころか 一瞬で決着がついてしまう可能性すらあることを 理解しながらも 恐怖を心の奥底へ押し込め 雄叫びをあげる。
「愚かな人間は 所詮愚かだという事だな!我が軍勢よ 聞け!人間たちは死ぬ事を所望している!!ならば 殺してやれ それが強者の慈悲というものだ!!
魔王は死んだ!
勇者も元の世界に帰った!
あんな 化物たちが居たのでは 俺たちがどんなに努力しようが上を目指す事などできなかった。だが、今は違うぞ!魔王も勇者もいないこの世界では 己が力を磨き その力を示した者が頂点に立てるのだ。さあ 殺しまくれ!一番多く殺した奴が この国の王になれるのだ!俺は 戦えればそれで良い、殺せればそれで良い。この国の王になりたい奴は 殺しまくれ!日頃 磨いた力をここで示せ!!!!」
怒号のような雄叫びが 地面を揺らす。
一瞬 高まったタラクシャ軍の士気も 魔物の軍勢の指揮官の演説に それに呼応し高まった魔物たちの士気に飲み込まれ すぐに下がったが 逃げ出す者はいなかった。正確には 逃げ出したいと思う程度の人間は すでに腰が抜け戦うどころか 歩く事さえままならなかったのだ。
魔王軍が 進軍を再開しようとしたその時 突然 タラクシャ軍と魔王軍の丁度 中間地点に外套にフードを被った4人の人間が姿を現した。
顔や姿が見えないのだから 安易に人間と判断することはできない。
どちらの軍勢も 突然現れた4人に 訝しげに見詰める。
どちらの軍勢にも 「何者だ?」 と 動揺が走る。
すると4人のうちの一人が 叫んだ。
「魔物の軍の将が言う事は もっとも正しい。努力しても それが報われなければ 努力の意味がないのだからな」
タラクシャ軍に 戦慄が走る。どうやら 魔王軍の見方のような口振り・・・・。
「だが、だからと言って そのために同胞が死ぬのを 指を咥えて見ている事もできんのでな。悪いが お前達には 引いてもらいたい!」
同胞?つまり あの4人は 人間?人間達の戦慄は安堵へと変わる。
しかし、たったの4人の出現で 一喜一憂する・・・・何故かあの4人からは それ程の力を 人間も魔物たちも感じていたのだ。
「ひ、ひけだと!?ここまで来て引けるわけがないだろう!えーーーい 何を恐れる ひ弱な人間が4匹増えただけだ 全軍で 踏み潰してしまえ!!!!!!!」
魔物たちも 本能的にこの4人から感じる力に 恐怖したが それでも4人・・・・
全軍の力で 踏み潰さんと進撃を始めた。
外套からスルリと出した腕を出し魔物たちへ手のひらを向ける。すると周囲に光の粒子が広がりまた 手のひらに収束し光の筋が放たれる。 4人と突っ込んでくる魔物の軍勢との間に 轟音と共に大きく深い溝ができた。
魔王軍の進撃は そこで再度 止まる事となる。
もし 今の攻撃を自分達に向けられていれば 確実に 1~2割の被害が出ていた。たったの一撃でだ。今度こそ 魔物たちは 恐怖を感じたのではなく 完全に この者に恐怖したのだ。
逃げ惑う 魔物たち 魔王軍の将ですら それを止めることもできず 自身 恐怖から動く事も声を出す事もできなくなっていたのだ。
「せっかく ここまで来て悪いが帰ってもらうよ」
そう言って もう一度 手をかざすと 魔物の軍勢全てを光が包み 気が付けば 魔物の軍勢は忽然と姿を消した。
タラクシャ軍は 呆気に取られ 辺りはシーンと静まりかえった。
その中 一人の少女が 人の壁をかき分け 4人に向かって走り出す。魔法を使い 魔物を消し去った者の前まで行くと フードで見えない顔を 睨み付け
そして・・・・
パシーーーー!
静まりかえった中 平手打ちの音だけが響き渡った。
しかし 少女は その直後 胸に抱き付き涙を流す。
「どうして、どうして私を置いていってしまったのですか・・・・」
「ごめん。だから迎えに来たよ・・・・シオンさん」
フードを脱ぎ捨て 見詰めあった二人は 自然と唇を合わせた。
この日の前日、場所は日本。
今日も 直輝 マリア 踊子 遥の四人は仲睦まじく帰宅していた。しかし直輝だけは 周囲からの視線に胃を痛める思いをしている。
遥は 響の一件以降 自分の気持ちに気付き そして その気持ちに素直になった。
結果、直輝はこの世界においても ちょっとしたハーレムの長となっている。
公序良俗を考えれば 周囲の視線が厳しくなるのは仕方のないことだが 実際は 羨ましさや妬みの視線なのである。
「マリアさんのこと お姫様みたいって思っていたけど 本当にお姫様だったなんて ビックリだわ」
女性陣は周囲の視線も気にすることなく 和気藹々としている中 遥が言った。
「今は ただの学生ですけどね」
「遥さんは信じているのだな。いや、私も信じたいのだが さすがに異世界と言われて はい、そうですかとは いかないぞ」
踊子さんの当然の言葉を 遥は更に当然な言葉で返す。
「だって 魔法が本当にあるって事が私にとっては 既に理解の範疇を越えているんだもん。異世界が あっても もう不思議じゃないわ。それに 直輝が嘘をついてないのは 分かるしね・・・・それより 直輝の言葉が信じられないなんて、踊子さんは 脱落ね」
「いや、それは、だから こ、言葉のあやというやつで・・・・」
必死に取り繕ろうとしている踊子さんを見て マリアも遥もクスクスと笑っている。
「私も舞姫などと呼ばれているが やはり本物のお姫様は気品が違うな!」
あまりに見え透いた また 必死さが みなの笑いを誘う。
しかし・・・・
「あーーーーーーーーーーーー!」
と、気品の欠片もない叫び声を上げ マリアは周囲の人からも視線を集める。更に恥らう事もなく 大きな声で ナオキに詰め寄った。
「ナオキさん!私 大切な事を失念していました。アイリスを紹介してもらったとき タラクシャに戻れるみたいな事を仰っていませんでしたか?」
「うん。言ったよ」
俺の返答を聞き怒りを露わにしながら 更に詰め寄る。
「でしたら 何故 すぐにでも戻らないのですか!シオンやサヤさんは 必ず迎えに来るのを待っています!!」
「マリアだって こっちの世界の事は かなり分かってきただろ?今 呼び寄せたって 住む事さえままならないよ・・・・それに 一旦戻って 体制が整うまで待ってて と言ったところで あの二人が大人しく待ってるわけないよ。絶対 付いてくるから・・・・」
「それが、なんなのですか!ナオキ様は あの二人に対しても責任があるはずです。側室にするからと仰ったのはナオキ様ではありませんか!」
「ちょっと ちょっと 待って、何の話?ねえ 直輝、ソクシツって何よ?まさか 側室?二人?どういう事?」
今度は遥が掴みかかる勢いで詰め寄ってきた。もう 顔が エゲツナイ笑顔で怖過ぎる・・・・。
「と、兎に角 ここじゃ・・・・ね? 落ち着いて話せるところに場所を変えようよ」
ようやく 二人も周囲の視線に気付きキョロキョロと窺い 頬を赤らめ同意した。
ヤレヤレだ・・・・。
で、何故か 俺の部屋に集合する。俺の狭い部屋に女子 三人が入ると、
ああ、溜まらん!お花畑の香りがする・・・・。
「ねえ、直輝 この狭い部屋で マリアさんと二人で寝ているのよね?本当に 何もないんでしょね?」
「な、何を言ってるんだ!?」
慌てて 否定するがマリアが油を注ごうとする。
「私は いつでも 構わないのですよ。覚悟はできていますのに・・・・」
「直輝君 君は女性にここまで言わせておいて・・・・意外に ヘタレなんだな!」
そして 踊子さんに止めを刺された。
どーせ 俺は ヘタレですよ~~~~だ・・・・。ぐすん
その後 マリアにも手伝ってもらい 俺の異世界での出来事 出会った人たちの事を 二人に教えた。
しかし 俺もマリアも話しながら 強烈な違和感に囚われる。何故か肝心な事が言葉にならない、思い出せない・・・・。そして その違和感すら 霞がかかり意識から遠のいていく・・・・。
「ねえ、異世界に行けるんだよね?だったら 行きましょうよ!私も シオンさんとサヤさんに会ってみたい!」
「そうだな。私自身が行けば 何よりの証拠になるし 納得もできる。それに 私も遥さん同様 そのお二人に会ってみたいしな」
マリアの言う通り 俺はシオンさんや、サヤに対して責任がある。それに 俺自身が誰よりもあの二人に会いたいのだから。
「ナオキさんも 会いたいのでしょ?」
マリアには心を見透かされているようだ。
明日は学校も休みだ。
「そうだな・・・・行くか!」




