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玄関から出ると 踊子さんにヘルメットを 手渡された。バタバタとなし崩し的に または勢いだけで ここまで連れて来られたが よくよく見ると 踊子さんは 体のラインがハッキリと分かる 革のつなぎを着ていた。イメージとしては 最近 声優が沢城さんに代わった あのキャラクターのような姿だ。ちょっと 目のやり場に困る。
「直輝君 急いでくれ!」
訳も分からず ヘルメットを被り 少しスモークのかかったシールド越しに踊子さんの姿をマジマジと観察していると 彼女は大型バイクに跨り 振り返る。視線がバッチリ合ったような気もするが シールド越しだからばれてはいないだろう。
「直輝君 私に見蕩れていてくれるのは嬉しい限りなのだが兎に角 今は急いでくれ!後ろに乗って しっかりと掴まるのだ」
・・・・バッチリばれていたようだ。誤魔化すためにも取り敢えずバイクの後ろに座るが 掴まれって、どうすれば・・・・?
「ああ、じれったいな。腰に手を回して しっかり掴まってくれ。飛ばすぞ!」
「シ、シツレイします」
恐る恐る 腰の辺りに手を回し掴まるが まだ、足りないらしい。
「もっと 力強く。男の子だろう!振り落とされるぞ」
ギュッと しがみ付く様に回した手に力を込める。
ああああああ・・・・・。
堪らん!
鍛えられ引き締まっているのにかかわらず 女の子特有の柔らかさも併せ持っている。この感触だけでご飯三杯はいけそうだ。などと邪な妄想をしていると 踊子さんが何かを呟いた後 強烈なGに 襲われた。大袈裟ではなく 本当に振り落とされそうになりながら 更に 手に力を込め耐える。もう 妄想どころではない、感触など楽しんでいる余裕もない。ただ、落とされないように 必死に掴まるのみだ。
踊子さんが駆るバイクは 爆音と共に 町を疾走していった。
体感的には一時間以上乗っていた気がするが 実際は 数分で目的の場所に着いた。そこは 見慣れた場所、俺の通う学校だった。シャッター付きの車庫のような場所にバイクを入れると 静かにシャッターが閉まる。
学校に こんな場所があったんだ。
うちの学校は ひかりグループが経営しており その財力を活かし広大な敷地に 充実した施設が売りになっている。とは言え どんなに広くとも どんなに充実していようとも 学生にとって 訪れる場所は限られている。俺自身 自分の教室と図書室 授業で使う特別教室以外 ほとんど足を向けたこともなく 保健室がどこにあるかさえ把握していない。
シャッターが閉まりきると 地面が 僅かに揺れ 落ちる感覚がした。驚いた俺は つい 踊子さんにしがみ付いてしまう。
「直輝君 そろそろ 離してはもらえないだろうか?しっかり掴めといったのは私だが 少々 恥ずかしいのでな」
「ご、ごめん!」
ヘルメット越しで表情までは見えないのだが シールドを開けそこから見える瞳は キョロキョロと定まらないでいる。そして、それは俺も同じだった。
腰に回した手を慌てて 離しバイクから降りる。どうやら この車庫のような部屋自体がエレベーターになっているようだ。また、小さな振動があり 降下は終わる。
シャッターが開き 通路を歩く。通路は白く明るい、壁の素材は金属なのか樹脂、プラスチックなのか 俺には判断のつかない 見たこともないものだ。キョロキョロと 近未来的な映画かアニメに出てきそうな通路を見回していると 扉の前で踊子さんは立ち止まる。
すー と扉が開く。
「兄上 お連れしました」
中に入ると薄暗い部屋の中は一面をモニターで、埋め尽くされ 秘密基地みたいな雰囲気がする。また、何かを世話しなく操作している女性たちの悲鳴のような叫び声が飛び交っていた。
椅子の隣に立つ男性が 振り返り その顔を見て驚かされる。
「やあ、直輝君 ようこそ」
「朝霧先生?」
「驚いたかい?僕はWWA日本支部長の出雲君を補佐しているんだ」
「無駄話をしている場合ではないのだがな。直輝君 ご足労 願って申し訳ないな」
椅子を回転させ 向かい合ったのは 出雲さんだ。
「いえ・・・・それより 何があったのですか?」
この部屋にいる 人達の様子 ピリピリした空気が 肌を刺激する。踊子さんの様子を考えても只事でない事態が起こっていることは 容易に想像がつく。
「直輝君、マリアさんは家に居たか?」
帰宅してすぐに踊子さんに連れ出されたが 家にマリアは居なかった。
「居なかったと思います」
「やはりな」
「マリアがどうしたのですか?」
「取り敢えず 順を追って話そう。まず 我々WWAは 常に世界中の魔力の反応をモニタリングしている」
「世界中って どうやって!?」
俺なら 世界中の魔力の反応を 調べることはできる。しかし それには 自身の魔力を大量に放出しなければならない。この世界にそんな魔力を持っている者など居ないはずだし そもそも 魔力のエコーを感じたこともない。
驚いている俺に 出雲さんは 「これだ」とスマホを見せる。
ん?
「スマホが?」
「ひかりグループの 基幹事業の一つに 通信 ネットワーク関係がある。世界シェアの七割 国内に至っては九割を掌握している。携帯端末用のアンテナに 魔力の観測器も取り付けられているのだ。そして 観測データは全てこのオペレーションルームに集められる」
現在 日本中どこでも 携帯電話で通話やネット接続が可能だ。どんな田舎や山の中ですら使う事ができるようになっている。山の中では 地形の関係で入らないところもあるらしいが それでも少し移動すれば圏外ではなくなるらしい。その携帯用のアンテナに 魔力の観測器が取り付けられているということは 魔力に関しても死角がないということなのだろう。
出雲さんの説明によると 観測器の性能はかなり高いらしく マリアから漏れ出ている微細な魔力すら感知していたようだ。こちらの世界の人間の魔力を考えれば それくらいの精度がなければ意味がないのだろう。街中では 無数のアンテナがあり 複数個所の観測器のデータからかなり正確な 魔力量と位置を調べる事ができるらしい。
「現在の最優先観測対象は・・・・」
「マリア?」
出雲さんの説明を遮り呟く。
「そうだ。だが、今から二時間ほど前 マリアさんの魔力の反応を ロストした」
「ロスト?つまり見失ったと言う事ですか?」
「その通りだ。しかも ロスト直前 違う魔力保持者と接触した形跡もある。つまり マリアさんは その魔力保持者に連れ去られた可能性がある」
「ですが・・・・マリアですよ?そう簡単に・・・・?」
「そうだな。彼女なら身を守る事くらい容易だろう。となると 自分の意志で付いていった と言う事になるな」
「・・・・・・そのマリアに接触した魔力保持者って?」
「魔力のパターンから 恐らくアレティーアの響だろう」
つまり 踊子さんのファンクラブの子達を使い 俺を足止めもしくは 抹殺を狙いその間に マリアを・・・・。だが マリアが 自分の意志で 付いていくとは思えない。つまり 何か口車に乗せられたか そうせざるおえない状況になったのか・・・・。
「響・・・・・あいつ等のやり口から考えれば 脅してとか・・・・付いていかなければならない状況に持っていかれたのでしょう」
「君がそう言うのなら そうなのだろう」
出雲さんはそんなことは どうでもいいと言った感じで 更に話を続ける。
「それよりもだ、今から15分ほど前よりセントラインビルから微量の魔力の放出が始まった。そして
魔力の放出量は徐々にではあるが増えている」
「セントラインビルって あの最近できた高層ビルですよね?もしかして その放出されている魔力って?」
「ああ、そうだ、マリアさんのものだ」
「出雲さん 情報をありがとうございます。俺はすぐに セントラインビルに行ってきます」
「直輝君 もう少し 待ってくれ。話は終わっていないし 話の本題はこれからだ」
走り出そうとしたその時 引き止められた。俺は 急いでマリアを助けに行かなければならないのに。
「兎に角 これを見てくれ」
言いながら 出雲さんは手元のパネルを操作し 正面の大きなモニターに地図が表示された。その地図は この町のものだ。そして その中に 5箇所の赤い点が表示 点滅している。
「地図がどうしたのですか?」
「この五ヶ所の印は何かわかるか?」
「・・・いいえ」
「この印の場所には セントラインビルと同様の高層ビルやマンションが存在する。そして マリアさんの魔力放出に呼応するように この場所にも大きな魔力が集まりつつある。調査のためエージェントを派遣したが・・・・」
「いったい何が?」
「君は知らないのか。これは 五芒星の陣だ。中央から 発せられる魔力を大幅に 増幅し蓄える事ができ 発動する魔法の効果も格段に上がる。これをアレティーアが仕掛けているとすれば、おそらく広域殲滅魔法・・・・この規模の五芒星の陣など前代未聞だ。もし広域殲滅魔法が行使されれば 被害はこの町だけではすまないだろう」
「・・・・マジですか?」
「残念だがな」
俺は また、バイクに跨り 踊子さんに掴まっている。今度は 感触がどうとか そんな浮ついた気持ちではない。それに 踊子さんの背中には いつぞやの日本刀が背負われている。掴まっている俺にも固い感触が伝わってくるのだから 浮ついた気持ちにもなれない。
日本刀がなければ・・・・・なっていたかも・・・・?
セントラインビルの正面は 広場になっている。そこまで バイクで強引に乗り入れてきたが・・・・やはり 人払いの結界が存在した。そのことに気をとられていると 突然 バイクが転倒し 横滑りしていく。ほとんど速度は 出ていなかったので 大したダメージはないのだが よく見ると 地面が凍結していたのだ。もう夏の姿も見えてきているこの時期に 路面が凍結する事などありえない。つまりは 魔法による物・・・・。
踊子さんも 無傷のようだ。手を貸し立たせてやる。そして その様子を 5人のローブを着た者達が眺めていた。
こいつら アレティーアの魔術師か・・・・ってか こいつら バカか?なんで こっちが体勢を整えるまで待ってるんだ。これが 自分達とWWAの魔法使いとの力の差から来る 余裕というやつなのか?
「お前達は アレティーアの魔術師か?」
「その通りです。ところで お前は誰ですか?まあ、いいでしょう・・・・虫の名前を聞いたところで 意味はない・・・・くっくっくっ まずは 舞姫 あなたから血祭りにして差し上げましょう」
「あのさ 俺たち 急いでるんだ。道を空けてくれないかな?」
「やはり 虫には虫程度の知能しかないようですね。その様な事ができる訳ないことは 一目瞭然でしょう」
とことん見下してくる態度に辟易してくる。まあ 最初から話し合いが通じる相手とも思ってはいなかった。となると 強行突破しかないか。
「踊子さん 借りるよ」
と言ったときには 俺の手には既に 日本刀が握られていた。




