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切りどころの関係で 今回は少し短めです。
ジトッとした目で踊子さんが 見詰めてくる。
いや マジですから 本当に勇者なんですから。
「・・・・・・・・・直輝君?」
「はははは・・・・まあ どう捉えるかは踊子さん次第と言う事で」
ふっ と一息つき 踊子さんは表情を緩めた。
「直輝君がそう言うのなら 君は勇者なのだろう。意味は一切分からないがな。ただ、嘘を言っているようにも思えない。直輝君が 私を信じてくれたのだから私も君を信じるよ」
踊子さんの熱い視線に今更ながら気付き なんだか急に気恥ずかしくなってきた。照れ隠しについ 視線を反らすと 彼女は覗き込むように 顔を寄せてくる。
「どうしたのだ?顔が赤いぞ」
「なんでもないよ」
いや、本当にどうしたんだろう・・・・。踊子さんのことを 綺麗だとも思っているし 憧れもしていた。
だけど・・・・
『信じる』と言ってくれた事が 嬉しかったのか?
急に身近に感じたのか?
ヤバイ、ほ、惚れてしまいそうだ。
俺って、本当に節操が・・・・。
コンコン
「ナオキさん 遅かったのですね」
扉を開くと マリアは後ろに大きく飛びのいた。
「あなたは 確か 響でしたか。どうしてここに居るのです!」
そこに立っていたのは 直輝ではなく アレティーアの魔術師 響だった。響は纏ったローブを翻し方膝を付いて目を伏せる。
「魔王様に 我が名を覚えていただいていたとは、感激でございます。私は 魔王様を お迎えに上がりました」
マリアはこの事態にも動じず 響を睨みつける。しかし 響は伏せた目を少し上げ マリアの視線を感じつつ 口角を上げる。
「直輝と申しましたか、あの者はもう戻ってきません。ですから どうか私と参りましょう」
「戻ってこないとはどういうことですか!」
「今頃は天に召している事でしょう」
「んん・・・・フフ・・・・フフフッ・・・・・・アハハハハッ」
マリアはついに 耐え切れなくなり 噴出し 声を上げ笑い始めてしまった。
「な、何が おかしいのですか!?」
狼狽える 響だが その様子が更にマリアの笑いを誘う。
ナオキさんの本当のお力を 響は知らないのだから仕方はありませんが、この程度の者がナオキさんを害する事ができると思い込んでるのが もう滑稽でなりません。
「あなたごときが ナオキさんをどうにかできると 思っている。これが、笑わずにいられるとでも?」
「ぬぐぐぐ・・・・あのような者のことを・・・・あいつはただの人間です。魔王様のように美しく 強大なお力を持っている方には それに相応しい力を持った者こそが必要なのです。確かに 私ごときあなた様の足元にも及びませんが それでも人類最強クラスの魔術師でございます。どうぞ 魔王様の覇道の為 私の力をお使いください!!」
なんとか 笑いのツボから脱したマリアだが 今度は響の台詞を聞き キョトンとする。マリアにとって 響の言っている意味が 全く理解できないからだ。
「そもそも 私は魔王ではありませんし、その覇道とはなんなのですか?」
「召喚され日が浅く 混乱されているのでしょう。覇道とは 魔王様の名の下 我等 魔術師が世界を支配し人間どもを 膝まつかせること!力を持った者が力を持たぬ者を導くのは 道理でございましょう」
愚かな・・・・この者は 力 と言うものを理解していない。暴力 戦力も確かに力ではあるが それだけで 世界を支配できるとでも?
響、この者は 滑稽を通り越し 愚かで憐れに思えてくる。
本当の力とはナオキさんのように・・・・。
「愚かで憐れな 響。私はあなたに付いていく気はありません。早々に立ち去りなさい。さもなければ・・・・」
マリアは殺気と魔力を高め響に 言い放つが 響は 立ち上がり 邪悪な笑みを浮かべる。そして、廊下へ目配せをすると 一人の少女が 虚ろな瞳のまま姿を現す。
「それは残念だ。ですが私も手ぶらで帰るわけにもいきませんので 彼女からもう一度 説得させましょう」
「は、遥さん!」
そこに立っていたのは 焦点を結ばない目をした遥だった。
「マリアさん・・・・私と一緒に行きましょう・・・・」
先程より 更に殺気と魔力を高め 響を睨み付ける。
「あなたは 遥さんに何をしたのです!!」
一瞬 眼光に怯むも それを表には出さず 答える。
「簡単なことですよ。私たちの理念を説明し 理解してもらっただけです」
「・・・・・私には あなたを殺すと言う選択肢が増えたことを理解していますか?」
遥は その言葉を聞き 響の前に立ち塞がる。
「私を殺せばこの女も死にますよ。それにこの女は 自分の意思で あの男より 私を選んだのです。クックックックッ!」
奥歯を噛み締め 遥を見詰める。
一瞬、ほんの一瞬であるが遥の目に悲しみの色が見えた気がした。
まだ、まだ、大丈夫!
だから、今は・・・・。
「分かりました。付いていきましょう」
「ありがとございます。では こちらへ」
響は ローブを翻して 手をかざしマリアを促した。
黒塗りの高級車に乗せられ連れてこられたのは 都心のオフィス街にある高層ビルの最上階だった。応接室のような部屋で ソファーを勧められ素直に座る。
「おい」
響は遥に対して横柄な物言いで指示を出し 慌てて頭を下げ 元から居た タイトなスーツを着込んだ秘書のような女性と部屋を出た。
「あなた、遥さんに この様な事をして ただで済むと思っているのですか?」
「魔王様が魔王様として覚醒なさるなら 私は何でもしますよ」
「あなたは、本当に何も見えていないのですね。まあ、いいでしょう。あなたは、私に何をさせたいのですか?」
「そうですね。では 手始めにこの町を壊滅していただきましょうか?」
表情も変えず さも当たり前であるかのように言ってのける。
「あなたは、何を言っているのか分かっているのですか?」
さすがのマリアも 響の言葉に動揺してしまう。まだ、この世界 この町に来たばかりのマリアであっても この町だけで タラクシャ全国民より多くの人間が居ることくらいは理解している。それを 破壊しろと言われたのだ。
「力を持たぬ虫けらがいくら死のうが問題はないでしょう。寧ろ 我等の目的のための礎となれることを喜ぶべきなのです」
「私が・・・・わたし・・・・そんなことに・・・・あな・・・た・・・は、わたしに・・・・な・・・に・・・を・・・・・・・」
出されたお茶には口をつけてい。催眠術も警戒していたが そんな様子もなかった。なのになぜ?マリアの意識は そこで、唐突に途絶えた。
「あなたの意思など関係ない。我等に必要なのは あなたの力だけなのですよ」
響は 中和剤を服用した上で 気付かれないよう 移動の車内を薄い薄い 催眠剤で満たしていっていたのだった。
響は口角を吊り上げ邪悪な笑みを浮かべ意識を失い倒れるマリアを見下ろしていた。
踊子さんと別れ 廃倉庫を 後にした直輝が 自宅についたのはドップリ日が暮れてからのことだった。
母親によると こまちは無事 帰ってきているらしい。友人宅に遊びに行き そこで、寝てしまい 友人の兄に送ってもらったことになっている。
ホッとし 自室に入ると マリアではなく 意外な人物が出迎えてくれた。
「直輝君、遅いではないか!待ちかねたぞ」
ついさっき、廃倉庫で別れたばかりの踊子さんが 立っていたのだ。
踊子さんの表情には余裕がなく 悲壮感すら漂っている。
「ど、どうして?」
「説明は後だ!兎に角 一緒に来てくれ」
訳もわからず 踊子さんに手を引かれ 帰ってきたばかりの家を後にすることになる。
そして 直輝は 長い 長い夜が始まった事をこの時はまだ 知るよしもなかった。




