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「直輝君 君はいったい何者なんだ!?」
魔法の攻撃を受けても平然としている姿を見て 桜さんたち同様 踊子さんも驚愕の表情で見詰めてくる。
「君の 異常なほどの身体能力は 置くとしてもどうして魔法が効かない?」
「どうしてって・・・・それはですね・・・・・」
「それは?」
「えーと・・・・何か面白い事を言おうと思ったけど思いつかない・・・・」
「・・・・・直輝君」
「ごめん。えーと 答えは 理科とか 物理とか 科学と言えばいいのか?」
「いや よく分からないのだが?」
「レーザーって 簡単に言えば 圧縮した光の束なんだ。で、水蒸気は 水の粒の集まりだろ?水の粒は 一つ一つが レンズの役割をして 光を拡散させてしまうんだ。レーザーとして 集めた光が 水蒸気の中を通る事によって 分散 拡散して 本来のエネルギーが得られなかった と言う事だよ」
「驚いた!君は 意外に博識なんだな!!」
驚くな そして 意外とは何だ!これでも 無駄に ラノベを読み漁ってはないのだ・・・・。
こまちを一旦 壁際に寝かせ桜さんたちの元へ向かう。彼女たちは 魔力も枯渇し 俺に攻撃が効かないという事態に心が折れ 完全に戦意を喪失している。
踊子さんには 薀蓄を披露したが俺は 科学者でも物理学者でもない あの出力のレーザーが この程度の距離と水蒸気の量で 無力化できるかは 分からなかった。実際は 魔力が底をつき 元から威力のある攻撃ではなかったのかもしれない。まあ 今はそんなことは、どうでもいい。
「私たちは・・・・ただ・・・・姫様の幸せを・・・・」
桜さんはうわ言の様に呟いていた。
「直輝君 すまないが こいつらが腕につけているブレスレットと取り上げてくれ」
「えっ?どうして?」
確かに 全員 腕には同じ幅広のブレスレットを着けている。女性が着けるには大きすぎて野暮ったい感じはするがそれをどうして今、外す必要が?
「うむ・・・・後で説明をするので 今は 兎に角 外すのを手伝ってくれ」
「分かったよ」
手分けし 全員のブレスレットを回収し終わると 踊子さんは携帯を取り出しどこかへ連絡をしている。
「今 本部に連絡をした。すぐに 彼女達を回収しに来てくれるだろう」
「彼女たちは アレティ−アの魔術師なのか?」
踊子さんは 苦虫を噛み潰したような表情となり 吐き捨てるように言う。
「違う!彼女たちは 私の友人たちは 奴等に利用されたのだ!!!」
「利用?」
「そうだ。催眠は奴等の常套手段だ。私から 直輝君を遠ざけたいと言う思いを上手く利用されたのだろう。そして 遠ざけると 殺すと言う事を すり返られたのだろう。
・・・・・・こんなになるまで 魔法を使わされ さぞ辛かっただろうに」
既に全員 魔力の枯渇により意識がない。踊子さんは 桜を膝枕し 優しく頭を撫でる。彼女たちが魔法使いではないということは 訓練もしないまま 枯渇するまで魔力を無理矢理引き出され精神的にも大きなダメージを受けているはずだ。
五分もしないうちに 一台のバスが倉庫に横付けされ 次々と桜さん達は運び込まれていった。後ろには この前のリムジンもいる。例のオニイサンが こまちを抱え後ろの席に座らせた。
おい!こまちに変な事をしてみろ、ただではおかないぞ!
と 視線に込め睨むとオニイサンは 優しく微笑んだ。
おいおい!その笑顔はなんだ?逆に怖いぞ。本当に大丈夫だろうか・・・・?
そしてまた、五分もしないうちに撤収作業は終わり 倉庫の外には俺と踊子さんだけが残された。不意に踊子さんを見ると セーラー服の腕の部分が破け 白い肌は赤く爛れている。
「踊子さん!怪我してるじゃないか!」
「ああ、本当だな。気付かなかった。かすったのだろうな」
気付かなかったって 酷い火傷なのに・・・・
「早く 手当てしないと 痕が残るかもしれない」
「大袈裟だな。ツバでも付けておけば治るさ。それに 傷は戦士の勲章だし この傷を見るたびに 直輝君と共に戦った今日と言う日を思い出せるだろう」
重い、重い!思いが重い!
冗談めかしていった言葉のようだが 辛そうな表情をする踊子さんは 無理をしているように見える。いくら自称戦士でも 女の子の体に火傷の痕が残るのは 辛いはずだ。それにこの傷は 俺やこまちを守るために付いたもの。ここで できることがあるのに やらないのは やはり違うだろう。例え後々その行為が 厄介事を招くと分かっていても・・・・。
「はぁー」
俺は またも寿命を一年 減らし踊子さんと向き合った。
「腕をちゃんと見せて」
「いや、それは・・・・」
抵抗するが 無理に腕を掴み よく確認すると 思っていた以上に酷い状態だ。やせ我慢にも程がある。
「直輝君!これは女性に対しての行為ではないぞ」
「いいから、少し黙ってて」
尚も抵抗するが 強引に押さえつける。好きだと言っている男に対して 醜い姿を見せたくはないと言う女心なのかもしれないが
だからこそ・・・・
傷口にそっと手を当て 治療魔法を発動させると みるみる焼けただれた痕は元の瑞々しい白い肌へと変わる。
手を離すと 踊子さんは 急に痛みが消えたせいか不思議そうな顔をしていた。そして 傷口があったところを見るや 今度は驚きの顔になる。
「直輝君!これは、一体どういうことだ!?」
答えず、ウインクして見せる。おー!俺ってアメリカ人みたいだ。だが、日本人の踊子さんは納得しなかったらしい。
「いや、だから これは?」
「うん。踊子さん こんな時は察して何も聞かないものだよ。それより さっきのブレスレットは何だったの?」
あまり俺が魔法を使えることは 聞かれたくないので 話を反らす事にする。とは言え この状況、踊子さんも引けないようで考え込む。
「・・・・・・では、こうしよう。私の知りうる全てを直輝君に教える代わりに 私の質問に一つだけ答えて欲しい」
「うん。分かった、そうしよう」
「では、ブレスレットだが あれは『ジェネレーター』と呼んでいる物で 魔法発動のための補助具といえば良いのかな?現代魔法での必需品だ。呪文を詠唱する古式魔法も現存するが我等 WWAの魔法使いのほとんどが ジェネレーターを使っている。これがなければ魔法が使えないと言ったほうが正確だな。
ジェネレーターの中には 呪文の部分がプログラムとして格納されていて 脳波信号を読み取り 使う魔法に必要なプログラムが起動する。そして 術者の魔力を増幅し 魔法を発動させるような仕組みになっている」
踊子さんは 服の内側からペンダントを引っ張り出し これが自分のジェネレーターだと見せてくれた。
しかし 地球の魔法は機械仕掛けだったとは驚いた。更に説明を聞くと 魔法の研究はまだ始まって日が浅く ほとんど詳しい事は分かっていないらしい。魔力を増幅する仕組みもたまたま 発見されただけで何故 増幅できるかは分からないとか・・・・。踊子さんの魔法を使っている様子を見る限り おそらく大気中の魔素を取り込み 魔力に変換しているように思える。魔素から魔力への変換は向こうの世界にもなかった技術だ。
それに 脳波から思考を正確に読み取る技術があるのにも驚かされた。もう アニメの世界じゃないか!
ん?ちょっと待て・・・・。
「あのさ 桜さんたちは 魔法使いじゃないんだよね?」
「ああ、そうだ」
「でも おかしくない?魔法の訓練とかしていないのに どうして ジェネレーターを使えたの?えっと・・・・脳波を読み取るんだよね?だったら 元から魔法の知識がないと 使えないように思えるんだけど」
「それは あのジェネレーターは あの魔法の専用品だからだ。キーワードだけ設定しておけば それを念じるだけで使えるようになる」
「なるほど・・・・一つの魔法しか使えないのに サイズ的にかなり大きかったね。踊子さんのは 小さなペンダントで いくつもの魔法が使えるんだろ?」
「アレティ−アの連中は 現代魔法に否定的なようだ。ジェネレーターの開発にはそれほど力を入れていないらしい。それに 私のジェネレーターは ひかり電機 ひかりグループが作り上げた傑作だからな」
「そっか。でも ある意味 良かったんだじゃない?もし アレティ−アの連中が ジェネレーターを大量に撒き散らしたら もうパニックどころの騒ぎじゃなくなるし」
「その心配はないぞ。誰でも魔法が使えるわけではないからな」
「ん?でも あのファンクラブの子達はみんな使えたじゃないか?たまたまなのか?」
「うちの学校は魔力を持つ者を多く集めているのだ。そのために作られた学校だと言ってもよい」
魔力を持つ者を集めている?勢力の拡大を狙っているのか?組織であるのだから 当然なのかもしれないが、それでは 人の世に紛れて暮らすのが 難しくなるのでは?
「集めてどうするの?」
「君の懸念は何となくわかるよ。確かに能力の高いものは スカウトする事もあるが 基本的に 魔力を持った者の所在を管理 追跡を目的にしているんだ。在校生はもちろん 卒業生も 所在を調べるのに学校と言う立場なら自然だろ?
裏の世界など 知らぬに越したことはないではないか。無理に引き込むようなことはしないさ。だが、無理に引き込もうとする組織もあり 守るためにも集めているのだよ」
「それじゃあ 俺にも魔法が使えるのかな?」
冗談めかして言った言葉に 踊子さんは鼻を鳴らし答えた。
「直輝君には魔力がないはずなんだがな」
探るように鋭い視線を向けられ 身を竦めた。
「他に聞きたいことはあるかな?」
「んーーー。そうだ、アレティーアはどうしてジェネレーターを使わないの?」
踊子さんは 何故か悔しそうな顔をする。
「彼らが私たちより 優れているからだ」
「優れている?何が?踊子さんも凄いと思うけど」
「アレティーアに所属している連中は 皆 魔法の素養が高いのだ。魔力の量でも私は 以前 会った 響の1/10にも満たない。WWAの中でもジェネレーター無しに 奴等と対等に勝負できるのは 兄上を含め幹部数名だけだ。だから 奴等は自分達は人より優れた存在だと勘違いしているのだ」
「優れた力を持てば 振るいたくなる。そんな感じなのかな・・・・」
その気持ちは 分からなくはない。戦闘力では俺はこの世界でも ダントツだろう。そこに 自身 傲りがないと 否定しきれないのだから。
そこから 暫しの沈黙が流れる。
踊子さんは ひとつ頷き 問い掛けてきた。
「聞きたいことは 終わりかな?では、私からの質問だ。
・・・・・・直輝君は、魔法使いなのか?」
さて、何と答えたものか。
踊子さんは 質問に誠実に答えてくれた。
そんな 彼女に対して嘘などつきたくない。
心は決まっている。
踊子さんの目をじっと見詰め 答える。
「違うよ。俺は魔法使いじゃない」
「だが、この腕を治したのは どう見ても・・・・」
手を突き出し 彼女の言葉を遮り 続ける。
「魔法使いじゃない。俺は 勇者なんだ!」




