081
遥の告白を聞き その日も憂鬱な一日を過ごした。こんなモテモテ ハーレム状態は男一生の夢だと思っていたが 実際はそうでもない。疲れるばかりだ。
そして、もうひとつ疲れる原因が俺の手元にある。可愛い便箋に入った 一通の手紙で放課後 一人で来て欲しいと書かれている。今朝 学校の下駄箱に入っていて 本来なら 飛び上がって喜ぶほどの事なのだが・・・・差出人が 桜さんでなければだが・・・・。
もう、面倒事確定じゃないか。
今日 桜さんは学校を休んでいた。もしかしたらこまちのことで 色々やってくれているのかもしれないと思うと この呼び出しも無下にはできない。
朝に 事情を説明したこともあり 素直にこまちのことで 呼び出されていると マリアと遥には伝え 先に帰ってもらった。
同封されていた地図を頼りに 重い足取りで目的地に向かう。学校から30分程歩くと 目的地に着いたようだが 目の前の建物と 地図、そしてスマホの地図を見比べ 首を捻る。
「ここで、いいんだよな?」
見上げた建物は 運送会社が、使うような大きな倉庫なのだ。しかも 長く使われていないようで、外壁の金属部分は赤く錆び付き 窓ガラスも所々割れている。
「はぁー」
建物を見詰めながら 大きな溜め息が出た。
最近、溜め息が多いような気がする。
溜め息 一回で寿命が、一年減るんだっけ?
ここ最近だけで ゴッソリ数十年分の寿命が減っているはずだ。しかし 今回はやむを得ないだろう。
だって もう、厄介事の臭いが プンプンするのだから。
倉庫の扉を静かに開け中へと入る。中は学校の体育館より広く 天井も高い。当然 使われていないので照明もついていないため 少ない窓から射し込む日の光だけで 薄暗かった。
更に進むと 目の前には あの剣道部所属の先輩が立っている。彼の手には 竹刀でなく 木刀が握られ 事態が尋常でないことを物語っていた。
竹刀と木刀は似て非なる物、竹刀は数枚の竹の板を纏めて作ったもので 竹だけに 打ち込まれたとき しなる上 板を纏めて作られているため 潰れるので、衝撃はかなり緩和される。まあ、緩和されるだけで 痛いことには違いないが・・・・。しかし 木刀は樫などの硬い木材を削り出し作られている。つまりは 打ち込んだ衝撃が全て伝わることになる。同じ力で頭に打ち込んだとしても 竹刀ならタンコブで済むかもしれないが 木刀なら頭蓋骨を骨折する可能性もあると言うことだ。
先輩の近くまで進み 声をかけた。
「俺は 桜さんのラブレターで・・・・
おっと!」
俺の無駄口が気に入らなかったのか はなから 話し合いなどするつもりが無かったのか 先輩は 一気に間合いを詰め持っている木刀を振り下ろした。体を反らし かわすが 先輩は振り下ろした木刀をすぐさま 振り上げる。
燕返し!?
燕返しは佐々木小次郎が得意とした剣技のひとつと言われている。言うのは簡単だが 技としてやるのは難しく体への負担も大きい。フェイントと悟られぬように 渾身の力で振り下ろした刀をすぐさま 渾身の力で振り上げる動作は 筋や筋肉などに大きな負担がかかるはずだ。
先輩は眉ひとつ動かさず 木刀を振り上げてきた。
更に踏み込んだ 返しの剣を避けるため 俺は後ろへステップで回避する。
先輩からは迷いはなく 明確な殺意すら感じられる。その後も先輩は 休むことなく 縦横無尽に木刀を振るってくる。どの攻撃の 先日見た一振りよりも 速度も鋭さも段違いだ。
この人 こんなに凄かったっけ?
先輩は 既に数分間木刀を振るいっぱなしだ。その全てを 体と反らし 時にステップで避ける。そろそろ 体力的に限界だろうに 太刀筋は衰えるどころか鋭さを増していった。
おかしい?
不審に思い改めて 先輩をよく観察すると 微量だが魔力が流れている事が分かった。
魔力による 運動能力補助か
しかし これは補助であって 驚異的に運動能力を向上させる訳ではない。つまり 今の先輩のように 無茶を繰り返せば 体を壊してしまう。早くやめさせたほうがいい。
そう判断した俺の行動は 早かった。いや 速かった。
大きく後ろに下がり 一旦距離をとるが すぐさま 一気に先輩の懐にもぐりこみ 鳩尾に強烈な一撃をくわえる。先輩にしてみれば 消えたようにも見えただろう。そして 気が付けば懐に・・・・。
崩れ落ちる先輩を受け止め そっと 地面に寝かしてやる。
「どうやら 出雲先輩の攻撃をかわしたというのは嘘ではなかったようね」
言いながら物陰から姿を現したのは桜さんと 見覚えのある数名の男女だ。
「桜さん えらく歓迎されているようだけど 俺は どうしたらいいのかな?」
彼女は虚ろな目をしながら答える。
「私達にとってあなたは、邪魔なのよ。だから 排除する・・・・だから いなくなって・・・・」
彼女達は 手のひらを俺に向けると 周囲に光が広がりまた向けられた手に収束し その手がキラリと光った瞬間 一気に発射される。光線が 俺に向かって集まり迫ってくる。体を捻り 光線をかわす。チラリと光線が、当たった所を見ると 赤く変色し金属製の扉が溶解している。
レーザー!?
向こうの世界にも光を操る魔法はあったが こんな使い方はなかった。やはり、こちらとあちらでは 魔法の進化も違うようだ。
と言うか ここが埃っぽくて良かった。でなかったら 光線として認識すらできず 手のひらが光ったと思ったら 俺が焼け焦げていたなんてことに・・・・。
しかし 何故、桜さんが魔法を?彼女達も アレティ−アやWWAに所属する魔法使いなのか?
「やっぱり簡単には 当たらないようね。だから 動かないでくれるかな」
「いや、当たったら死ぬじゃないか!」
「死ぬって 大袈裟ね。私達はあなたを排除したいだけよ」
何か様子がおかしい。彼女達が魔法を使えることもだが 目的と行動の差異について 気付いていない?いや、操られている?
「兎に角 動かないでね。もし動いたら 彼女がどうなっても知らないわよ?」
そう言って 桜さんが顎で促した方を見ると
「こまち!!」
俺の声にも反応はない。気を失っているのだろう。こまちは男に羽交い締めされ 更にもう一人の女は首筋にナイフをあてがっている。
「桜!こまちに何かあってみろ お前たち 命はないと思え!!」
逆上した俺の気迫に一瞬 怯むがそれでも気丈に自分達の要求を突きつける。
「だから、あなたが動かなければ 妹さんには 何もしないわよ」
そして、再度 彼女達は俺に手を向けると そこからレーザー光線が発射される。
それと同時に ガラスが割れる音がし ガラスの破片と 踊子さんが降ってきた。天井の明り取りの窓を割り進入してきたようだ。
綺麗に俺の目の前に着地した踊子さんは素早く 手をかざし 防御結界を張る。
しかし!
「それじゃあ 駄目だ!」
俺は叫び 彼女の手を強く引き寄せ庇うように覆い被さる。
「きゃっ」
バランスを失い俺の胸に抱きつくような形となり踊子さんは 可愛らしい悲鳴をあげた。
この攻撃は 魔法であるが この光線はレーザーそのもの。魔力による攻撃や剣などによる物理攻撃は防げても 透明な結界では光はそのまま 通してしまうのだ。
思った通り レーザーは結界を素通りするが 幸いなことに 曲面に張られた結界のおかげで 光線は屈折により 的を外した。
地面に落ちている木刀を拾い 踊子さんを抱きかかえ こまちの方へと飛ぶ。桜達は俺を見失い こまちの横にいる二人は突然 目の前に現れ驚愕の表情となる。そして 木刀を振るい二人を無力化した。
今の動きは 魔力での補助も強化もしていない。向こうの世界より 体が軽く感じるのは 重力の違いなのか こっちに帰ってきて 勇者スペックが 何か影響を受け強化されたのか・・・・?
兎に角今は この場を何とかしなくては。
残りは六人、纏まっていれば どうにかできるが お互いに距離を取り 分散している。三人くらいなら一気に 片付けられるが・・・・残った連中の攻撃で同士討ちとかされると厄介だ。
さて・・・・
「踊子さんは 水の魔法と火の魔法を同時に使えたりする?」
「やったことはないが 可能だと思う。だが、私は火の系統の魔法の方が強いので 水はすぐに蒸発してしまうぞ?」
「それで良いよ。できれば この倉庫の中を水蒸気で満たして欲しい」
できるかと 問いかけるように見詰め 勿論だと彼女は 頷いた。彼女は手をかざし集中する 無理をしているのだろう 顔をしかめながら 水蒸気を産み出して行く。
横顔を見詰めながら 思う。
桜さんたちや 踊子さんにしろ これ程大きな魔法を 無詠唱で・・・・やはり 魔法の根本的な所が違うのか?
倉庫内は サウナのように蒸し暑くなり 視界が妨げられるほどの水蒸気で満たされた。
「成る程 視界を奪い 奇襲するのだな?直輝君のスピードがあればこの状態で十分 目眩ましになるだろう」
踊子さんの言うように 濃い水蒸気は霧のように充満しているが 完全に視界を奪ったわけではなく こちらからも 桜さんたちの姿は確認はできる。と言う事は 当然向こうからも 俺たちが見えているだろう。
「いや、正面から行くよ。こまちを頼む」
気を失った こまちを踊子さんに託し 俺は桜さんたちの正面に立つ。
「直輝君 よすんだ!」
踊子さんの言葉を無視し その場に立ち尽くすと 桜さん達の周囲に光が広がり また、収束し一斉に 俺に向け光の筋が迫ってくる。そして 頭や胸など 命中する。
踊子さんは 目を反らし そして 恐る恐る俺を見る。
「直輝君?平気なのか?」
桜さんたちは 狼狽え叫ぶ。
「な、何で!?みんな もう一度よ!」
そして またも水蒸気の中をはっきりと線を引きレーザーは命中するが 俺は 微動だにしない。
「どうしてなの!?鉄をも溶かす熱量があるのに・・・・あなたは 一体?」
桜さんたちは 自分達が圧倒的な攻撃力を持っていると思い込んでいる。それが 効かない事に狼狽え怯え 戦意を喪失させたのだった。




