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踊子は 直輝に好感を超える感情を抱いていた。切っ掛けは ほんの些細なことだった。挨拶をすれば返してくれる。誰とでも普通に接する それは当たり前のことだが 踊子にとっては違った。みんな 何処か 一歩 引いているのだ。
自分の出自は理解しているし 容姿についても多少の自信もあり やむを得ない事だと思ってる。
あまり多くの接点があったわけではないが 直輝は普通に接してくれたのだ。気になり出せば 自然と視線がいく。直輝は いつも 人のために走り回り 振り回されていた。愚かにも見えるが それでも人のために 必死になっている姿は 踊子の感情を 次の段階に進めるのには 十分だった。
しかし 直輝の傍らにはいつも遥が居る。踊子にとって遥は羨ましくも思い 妬ましくも思う存在だったが その感情が 爆発することはなかった。
自分と直輝の住む世界が違うと思っていたからだ。何も自分の家が金持ちで 社会的地位が高い家柄だと そんな不遜な思いからではない。自分は 魔法使いの血筋で 裏の世界にも 身を置いているからだ。
だから お似合いの二人の幸せをただ見守っていた。それなのに・・・・
婚約者?
今まで 自分の気持ちに蓋をし 見ない振りをしてきたのは 一体 なんだったのだ・・・・。
だったら 自分だって!
もう この時の踊子には魔法使いや魔王のことなど どうでもよかった。蓋をしても吹き零れた感情を止めることなど 恋に恋する女の子にできるわけがなかったのだ。
「婚約っていったいどう言う事なのだ?それに 直輝君には 遥さんが・・・・」
「詳しくは言えない」
歯切れの悪い直輝の返答に 踊子の感情は更に高まる。
「だったら、私にも考えがある。覚悟することだ!!」
それ以上 踊子は口を開こうとしなかった。しかし 踊子の視線は 獲物を狙う猛禽の如く鋭い物で直輝は身震いを覚えた。
踊子さんは 何か怒っているのだろうか?素っ気ない答え方ではあったけど プライベートのことではあるし まあ 言えない理由も沢山あるわけで・・・・。
しばらく 気まずい空気が流れ 出雲さんは 空気を変えるためか 妹の援護のためか 口を開いた。
「直輝君、私は 言えない所まで君達に情報を開示したつもりだ。できれば 君達も私を信用してもう少し 話を聞かせてもらいたいのだかな?」
「本気で殺しに来た人を信用しろと?僕の中では 出雲さんも あの響ってやつも 同類ですよ」
「痛いところをつくね。俺としては誠心誠意 謝罪したつもりなのだが。それで、足りないと言うなら 踊子のように 土下座しようか?」
またも 沈黙が流れる。冗談とも本気とも分からない言葉に 戸惑う。片方の話だけを聞いて 全てを判断するのは 危険だろう。出雲さんが 嘘をついていても俺には分からないのだから。ただ、自分の言葉に自分で挙げ足を取るなら・・・・。
「ただ・・・・ただ、その中でも踊子さんだけは 僕を助けてくれました。今の人間関係で、信用できるのは 踊子さんだけだと思います。だから 踊子さんが信用する出雲さんのことも信用することにします。
でも 取り敢えずは 全て保留と言うことで いいですか?」
「わ、私を信用する!?」
よくは聞こえなかったが モゴモゴと 口の中だけで呟いた踊子さんは 頬を染めモジモジしている。呆れたように妹を見ながら 出雲さんは 答える。
「まあ、それでいいだろう」
「ところで、出雲さんは マリアを保護したいと言いましとよね?要するに魔王かどうか判断するために 監視したいと言うことですよね?」
「見も蓋もない言い方だが その通りだ」
「だったら 良い方法がありますよ」
「良い方法?聞かせてもらえるのかな」
「マリアを学校に入れてください。俺と同じクラスで!」
家まで送ってもらい 今は自室の前に居る。
無茶振りと言う名の駆引きは 出雲さんにとっては 「なんだ、そんなことか」で、済まされることだったらしい。
夕食中 宅配が来たと思って 玄関に出ると例の強面のオニイサンが 大きな段ボールを持って立っている。中を確認すると マリアの制服と教科書一式筆記用具や学校生活に必要そうな 小物が纏めて入れられていた。
さすがは 金持ち 仕事が速い。
最後に 俺宛の手紙が一通 箱の底に入っている。開封すると
「明日の朝 迎えをやるので 一緒に登校し生徒会長室に顔を出すように」
と、書かれていた。若干 嫌な予感がするのは気のせいだろうか・・・・?
などと、回想に耽っている場合ではない。部屋の中から呼ばれ 自分の部屋であるのに 「失礼します」と 呟きながらそっと ドアを開き中に入る。
ま、眩しい!
そこには 真新しい制服に身を包んだマリアが立っている。黒を基調にし襟には白いラインの入ったオーソドックスなセーラーで 更に白いタイは輝いて見えた。そして 何よりそれを金髪美少女が着ているとなれば もう以前見た 動画を思い出さずに入られない。
まあ、どんな動画だったかは 聞かないでください・・・・。
見蕩れていると不安そうにマリアが 聞いてくる。
「あの、どうですか?」
「あ、ああ、いいよ!すっごく似合っている!!惚れ直しちゃったよ!!!」
「そんなに、マジマジ見ないでください。恥ずかしくなってきました」
ヤバイ!恥らうマリアが 兎に角 ヤバイ!
俺の理性という名の防波堤は決壊寸前だったのだが 開きっぱなしのドアをノックする音が・・・・。
「お・に・い・ちゃん!」
振り返ると 青筋を立て腕組みをした こまちが仁王立ちしている。
「お兄ちゃん 今 何をしようとしてたのかな?」
俺は 目にも留まらぬ素早さで 土下座をしていた。
「すみません!」
ああ、何だか 既視感が・・・・。
って言うか 兄と妹の立場が逆なような気もするが・・・・。
兄としての出雲さんのあり方に 憧れを感じずにはいられなかった。
「なあ、踊子よ」
「はい、兄上」
兄妹は リビングのソファーで向かい合い 食後のお茶を嗜んでいた。
直輝達が帰った後 踊子が夕食の準備をしていると 出雲は数件電話をし マリアの入学の段取りをしていた。数件の電話だけで 数日前まで地球に存在しなかったマリアを いとも簡単に学校に入学させる事ができるのは ひかりグループの次期総帥候補であり 同時にWWAの幹部である力による物なのだろう。
「踊子はそんなに あの直輝君に惚れているのか?」
「そ、そ、そ、そ、そんな・・・・・」
突然の言葉に動揺を隠せないが 不意に見た兄の表情は 恋の話をするようなものではなく 真剣そのものだった。確かに厳しい兄ではあるが 自分のことを大切にしているからこその厳しさだと知っている。一般的に言う 『シスコン』からの 表情なのかとも思ったが それにしても 度が過ぎていると感じられた。
「正直に答えてみろ」
「はい・・・・直輝君に好意を いえ、好意以上の感情を抱いていましたが・・・・私は魔女・・・・住む世界が違うと思っていました」
「いましたか・・・・今は違うのか?」
「直輝君は 私達と関係を持ってしまいました」
「・・・・・そうか」
出雲は考え込み 珍しく 言葉を何度か飲み込み 躊躇いを見せたが ようやく思いは言葉となった。
「悪い事は言わない・・・・彼は やめておいた方がいい」
踊子にとっては当然、納得のいく物ではなかった。異性を好きになる 本当の意味での初恋の相手、理由もなしに諦める事などできない。今までは 確かに諦める理由があったが 今は違う。彼は、こちら側に足を踏み入れてしまったが 彼自身からは 魔力の欠片すら感じる事ができない。こちら側に足を踏み入れながらも身を守る手段のない彼を 寧ろ自分には 守ってやらなければならない義務があるはずだ。巻き込んだのは自分たちなのだから。
彼の傍らに在ることは 義務と自分の欲求に合致するはずだ。
「理由をお聞かせいただけなければ 納得できません」
今まで 口答えなどしたことのない踊子の強硬な言葉に 驚きと関心の念を抱く。
これが 愛のなせる業なのか。
だが・・・・
「俺は 刀を彼に 向けたとき 今まで感じた事もないような 恐怖を感じたのだ。マリアが 世界中の魔法使いの魔力を足してもまだ届かないほどの魔力を持っていることに驚きはしたが 怖くはなかった。だが、直輝君は違う。魔力の欠片も持っていないのに 対峙した瞬間、身震いするほど怖かったのだよ。
最初は寸止めするつもりだったのに 刀を向けた途端に やらなければ 殺される。そう感じさせられ 刀を止めることができなかった。
それにな 彼に放った一撃、あれは今までの中でも最高の一撃だった。まさに 会心の一撃を彼は簡単に避けて見せた。彼に反撃の意思があれば 俺の命はあそこで 終わっていただろう。
・・・・・・
兎に角、彼はやめておけ」
兄の言葉に 納得できる部分はある。対峙していない 自分には 恐怖を感じることは無かったが、それでも 兄の放った一撃は確かに 会心の一撃と言って良いものだった。
間違いなく、私には 避けることなどできない。
しかし、直輝君は易々と避けた。
だけど 好きだと言う気持ちと 直輝君が何者かと言うことは 別な問題・・・・だったら!
「だったら、私が直輝君の側について 彼が何者か確かめます!彼の側には マリアも居るのですから 彼女の監視もできて一石二鳥ではありませんか」
恋する乙女の猪突な感情をさすがの出雲ももて余してしまった。
翌朝
ゴールデンウィーク明け初日気だるい気持ちと体に鞭を打ち 体を起こす。相変わらず 俺とマリアは同じ部屋で寝起きしているが 当然 俺は床で寝ている。誰か俺の自制心を誉めてほしい。
朝の準備を済ませ 改めてマリアの制服姿を見るが やっぱり ・・・・いい!
朝食も終わり そろそろ家を出ようかと思ったとき インターフォンが鳴る。玄関を開けると 踊子さんが立っていた。ある意味 予想通り。
「おはようございます。お迎えに上がりました」
深々と頭を下げ挨拶し顔を上げた踊子さんは 見るもの全てを魅了しそうな笑顔だった。
以前の数話 修正しました。踊子さんの台詞を 日笠さんや 井上さんのイメージで書き直してみましたw
内容に変更はありません。




