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「やはり 彼女は魔女で間違いなさそうだな。しかも かなり強力な」
薄暗いオペレーションルームの指揮官席、そこから出雲は 壁面に設置されたモニターを見ながら 副官の男に問いかけた。
「そのようですね」
今度は 手元のモニターに目を移し 画面をスクロールさせ内容をもう一度 確認する。
この少女の名は『マリア』 二日前に突如 姿を現し我が校の生徒の家に ホームステイを始める。周囲の人間は 留学 ホームステイについて何の違和感を感じず 彼女を受け入れている。
しかし 外務省のデータではマリアの入国の記録はなく 文科省 教育委員会にも その様な 留学生の予定はなかった。
「ここまでは 間違いはないな?」
出雲は 読み上げ副官の男に確認する。
「はい。各省庁のデータについては言うまでもありませんし この生徒の母親に 教育委員会の名前で留学生の現状調査と言うことで 確認の電話をしたのですが間違いありません。しかも マリアと言う少女が 留学生で自宅にホームステイすることは認識しているのに どこの学校に通うなど 詳しいことは何も分かっていませんでしたし、その事を疑問にも思っていない様子でした」
「現れたのは 魔力の爆発が観測された直後 彼女の周囲の者には 暗示や洗脳を受けたような反応を示している。そう言うことだな?」
出雲の言葉に副官は肯定し更に説明を続けた。
「更に昨日 南港のショッピングエリアにて 身を守るため かなり強力な結界魔法を行使したのを 確認しました。彼女が魔女であることは 間違いありません」
足場が倒れ 結界が発動する様子の映像と 同時に表示されている各種 解析データを見ながら しばし考え込む出雲。
そう、ナオキが感じていた視線の多くは マリアや遥に見とれている物であったが それだけではなかったのだ。
「我々には未知の魔法であり 解析データを見る限りこの強度の結界を作るのは 我々にも可能だが それには 世界トップクラスの魔法使い5人ほどで 数ヶ月の準備の末ようやくできるといった感じか・・・・それをあの一瞬で 作り出したというのか・・・・」
出雲自身 世界の5指とまでは言わないが 少なくとも10指には入る魔法使いだと自負している。それは自惚れではなく その実力と才能を兼ね備え まだ10代ということもあり 将来は世界でも3本の指に入る魔法使いになるだろうと期待されている。
その出雲でさえ この強度の結界を一人で編み出すのは不可能なのだ。
「やはり、彼女が魔王なのでしょうか?私には 到底そうは思えないのです。日頃の魔力は 一般的なものでしかないのです。しかし、あの結界は 確かに彼女が・・・・」
副官は 答えの出ない自問自答を繰り返していた。
「魔王かどうかは まだ分からない。だが、魔法の多くは口伝でしか伝わっていない。故に多くの魔法が失われたと言われている。その失われた魔法の中に彼女の使った結界魔法があるのかもしれない。それに、魔力についても 自在にコントロールする力を持っていて日頃は 魔力放出を抑えているとか・・・・」
「失われた魔法かどうかは確かめようもありませんが 魔力についてはどうでしょう?一般的な魔力と言いましたが 決して低い訳ではありませんし そもそも魔力の放出をコントロールするなど 聞いたこともありません」
「そうだな・・・・だが 魔法や魔力についての研究が始まったのは近年だ。まだまだ 未知の部分が多いのも事実だからな」
「ところで、出雲様 今後はどういたしましょうか?監視を続行なさいますか?」
副官は 自分も出雲も 答えの出しようもない問題を 必死に解こうとしていることに気付き思考の方向を返るよう話を先に進めた。
「いや、一度 当たってみよう。魔力爆発以降 やつらの活動も活発化しているようだし、先に手を出されては困る」
「兄上、そのお役目 私にやらせては頂けないでしょうか?」
凛とした声に 二人が振り向くと 礼儀正しく頭を下げた 踊子が立っていた。
「踊子 来ていたのか」
出雲は 頭を上げた踊子の真っ直ぐな視線を受け止め しばし思案する。
「危険だぞ?」
「危険は元より承知しております」
踊子の揺ぎ無い意思と視線を感じ 小さく溜息をつく。
「分かった。お前に任そう。ところで マリアなる少女が居座っている家は お前の同級生の家だったな?」
「そうです。私は 彼を 直輝君を助けたいと思っています。そのマリアなる者が魔王であっても そうでなかったとしても・・・・」
「惚れているのか?」
「な、な、な、何を言っているのですか!兄上 私は ただ同級生を・・・・」
踊子は 顔どころか耳の先まで 真っ赤にし 慌てて否定する言葉を吐くが もうその様子は誰が見ても肯定を意味しているのが分かり 出雲にとっても然りであった。
「分かった、分かった。兄としては 少々 複雑だが 気持ちや意思があれば その分 力も増すというものだ」
「兄上!!!」
「はははは」
踊子は 頬を膨らませ 拗ねた様子を見せ 出雲は 愛らしい妹の姿を暖かく見つめ 居心地の悪そうにしている副官は 苦笑いを浮かべていた。
しかし、出雲は 表情を引き締め 言葉を放つ。
「踊子よ 彼女を倒す必要はない。彼女の力を確かめるのが 今回の作戦だ。無理をする必要はないし 魔王でなかったとしても 強力な魔女なのは間違い無いのだからできれば 味方に引き込みたい。これは、魔法使いだけでない、今後の世界の命運をも左右する事なのだ。良いな?」
兄の言葉を 噛み砕けば 自分の恋路より優先しなければならない事があり 最悪 彼・・・・直輝君がどうなろうとも マリアと言う少女を確保しろと言う事だ。納得できる事ではないが 世界の命運とまでいわれ 思い人の事と 任務どちらを優先させるべきか 踊子にとっては明白だった。
「承知しております」
踊子は静かに答え 入ってきたときと同様に 礼儀正しく一礼をしオペレーションルームを後にした。
――連休四日目 最終日
俺は、昨日 今日と町に出たり パソコンを使ったりテレビを見たりして マリアにこの世界について教えていた。マリアは生徒としても優秀で教えたことはすぐに飲み込み 今ではパソコンを使い 調べものくらいはできるようになっている。
しかし この世界のルールや常識など知るにつれ 自分をこの世界で存在させることの難しさも知ることとなり 少し塞ぎ混んでもいる。
俺も マリアに学校に通わせたいとは思うものの 有効な手立てがなく 行き詰まっていた。
タラクシャに帰る選択肢も真剣に考えるべきか?
帰ってきて四日目 何とかなるだろうと 楽観視していたが どうにもならないことは どうにもならない。たったの四日目で現実の厳しさを痛感する。
例え 魔法が使えても 高い戦闘力を持っていても 今は何の役にもたたない。惚れた女と共に暮らすことすら 自力でできないとは 無力にも程がある。
取り敢えず アイリスの事を話なければ 話は進まない。
そして、考えうる最悪の展開は マリアがアイリスの事を許せず、更にこの世界での生活を諦めタラクシャに帰ると決めた場合だ。タラクシャに戻ったあと アイリスを成仏?させれば 俺は、本当に帰れなくなる。こちらから自分の意思であちらにいく場合は ちゃんと時は流れ不老不死ではないらしいので マリアたちと共に年を重ねることができる。
だが、遥はどうする?
付いて来てくれるだろうか?
遥ならもしかしたら?
もし 遥が付いて来てくれるなら それは それでいい。遥自身の意思なのだから。
だけど、遥の家族や友人からすれば 俺のエゴでしかない。
兎に角 アイリスのことをマリアに話そう。でなければ、スタートラインにも立てないのだから。
決めた俺は、アイリスに話しかける。と言っても声に出すわけではなく 頭で念じるだけなのだが。
「アイリス」
「はい、ご主人様」
アイリスはいつも 俺のことをご主人様と呼ぶが 未だに慣れない。背中が痒くなる。
「その ご主人様は なんとかならないか?」
「では、『マスター』とか『旦那様』などがよろしいですか?」
どれも イマイチ・・・・。
「まあ 今まで通りでいいや。そんなことより マリアにお前のことを教えようと思っている。実体化とか できるか?」
「可能です。私のできる、できないは全てご主人様の魔力次第です。そして ご主人様の魔力を考えれば できないことは無いと思います」
「そうか。
・・・・・言いにくいのだが、マリアにとってはお前は親の仇になる。もし マリアが敵討ちをしたいと言えば 止めないし 俺は、マリアの味方をするだろう」
「それは当然でしょう。たった数日でしたが 充実した数日でした。思い残すことはないと言えば嘘になりますが ご主人様のために全てを投げ出す覚悟はできています。どうぞご主人様のお心のままに」
「すまないな・・・・」
夕方になり 俺とマリアは 電車で数駅離れた 高台にある公園にいた。この公園は山の中腹にあり 俺たちが住む町を一望する事ができる。沈み行く夕日は視界全てを茜色に染めていた。
「パソコンの地図で見て分かったつもりではいましたが 生で見ると実感できますね。町の規模が違い過ぎます。ここから見えるもの全てに 人の営みがあるのですね」
マリアは 手すりを握り乗り出すように 町の景色に見いっていた。
「マリア、話があるんだ」
「何でしょう?」
振り向き 手すりにもたれ 俺と向かい合った。
『アイリス 出てきてくれ』
心の中に呼び掛けると 眩い光と共に一人の少女が姿を現す。アイリスは、アラブの踊り子のような装いをしている。スケスケな感じが エ、エロい。
「アイリス、なんて格好をしているんだ!」
「ご主人様の趣味に合わせたつもりなのですが?」
「アイリス?ご主人様?趣味?・・・・ナオキさん?」
マリアさん、目が 怖い、怖い、怖いです!
「マリア、違うって!アイリスは俺の使い魔で、えっと だから 兎に角 最初から説明するので落ち着いて!」
「聞きましょう」
マリアの視線に怯えつつ 説明を始めた。
「アイリスは 次元魔法って言う 空間と時間を操る魔法が使えたせいで、数千年前に捕らわれ タラクシャの召喚陣に封じ込められたんだ」
タラクシャや 召還陣の言葉を聞くとマリアの表情は途端に真剣さを帯びてくる。
「俺が 召喚陣に大量の魔力を供給したので アイリスを封じていた鎖が切れ 自我を取り戻したんだ。で、その魔力供給したせいで 召喚陣も崩壊していまい 今は俺と契約して 使い魔になっている」
俺が心配そうに顔を覗きこむと マリアは怒った表情となる。やはり アイリスの事が許せないのだろうか?無理もない・・・・アイリスの意思でないないし 部品として組み込まれていたに過ぎないが それでも母の仇である事には違いないのだから。
「ナオキさんは 何を心配しているのですか!私がアイリスを仇と思うとでも?アイリスも被害者ではないですか。私が アイリスのことを母の仇と思うかもと思われていたことに腹を立てています!私は、そんな物の道理がわからない人間ではありません」
マリアに近づき そっと抱き締める。
「人の心って 人への思い 特に家族への思いなんて道理で図れる物じゃないじゃないか・・・・だから不安だったんだ。ごめん・・・・そして、ありがとう」
耳元で囁くように言うと マリアの俺に回した手の力が強くなる、強く抱き締めあう。お互いの温もりを確かめ合った後 マリアを引き離す。
「ここからが 本題なんだけど 使い魔としてアイリスと契約しているので 彼女の魔法が使えるんだ。つまり タラクシャへ戻る事ができる」
「!!!!!」
驚き 喜び 期待 不安など マリアはとても複雑そうな表情をしている。
その時、異変に気付いた。いや 異変が起こった。
「アイリス戻れ!」
念じると アイリスの姿は その瞬間に消える。
マリアを見ると彼女も異変に気付き 一気に真剣な表情へと変わった。
見つめ合い 頷く。そう 今この瞬間 魔法が発動されたのだ。
俺か マリアか どちらともなく呟く。
「人払いの結界?」




