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まずは 整理しよう。
第一は マリアの素性についてだ。見た目は 金髪で、見るからに外国人・・・・留学生で うちにホームステイってのが 無難か?
第二は マリアの衣服だな。このまま 裸族でいられては困る。こまちは小柄だから サイズが合わない・・・・特に胸の辺りが・・・・。近所に住む幼馴染みの遥に借りる?これもダメだな。
「ブラとショーツを貸してくれ」
何て言えるわけがないし 言った途端に殴られるだろう。取り敢えず 少し暑いだろうが 俺のトレーナーとジーンズを着てもらおう。トレーナーなら ポッチリも目立たないはずだ。
第三に その衣服を買いそろえるのに 金がいる。当面 着るものを買う程度なら うちの親に頼ることもできるだろうが 今後のこと全てを頼るのもな。せめて 顕現魔法が使えれば 向こうのお金があるのに。
通貨として使うのは無理でも 金貨や銀貨なので 素材として売ればそこそこの金額になるはずなのだが アイリスの話だと向こうの物をこっちに持ってこれないようだ。思考がそこまで進んだところで また、頭の中に声が響いた。
「顕現魔法は使えると思いますよ。私の次元魔法と仕組みが違いますから。顕現魔法は 物体を魔素単位まで分解して 顕現させるときは 分解したときの 設計図を元にその場の魔素を使い再構築するものですから 再構築はここの魔素を使って可能だと思います」
解説だけしてアイリスはまた、意識の中に溶け込んでいった。
だったら お金もなんとかなるか?
試しに 指輪を一つ顕現させる。結果は見事に成功。少し当面のことを考えるので 静かにするように頼んでいたマリアは 黙りながらも 目をキラキラと輝かせている。向こうの世界でも 婚約や結婚の時に指輪を贈る風習があるからだろう。
「マリアにはもっとちゃんとしたものを贈るから」
少し照れながら言うと
「こう言った物は価値や値段ではなく気持ちが大切だと思いますが ナオキ様がそう仰るなら お待ちしております」
嬉しそうに言うマリアに期待しておいてと 答えた。
「ところで、ではその指輪はどうなさるのですか?」
「生活費のために 売ろうと思ってさ」
複雑そうな顔をするが 気にする必要はないと言い含める。この指輪は 回復の術式が彫られており 装着者の微量の魔力を吸い 回復させると言うものだが 吸う魔力が少ないため効果も微々たるものだ。素材自体は金なので安くは無かったが 特別高いものでもない 健康グッズ的な位置付けの指輪である。
こちらで 売れば 素材は金であるし デザインも悪くないのである程度の金額にはなるだろう。
ちなみに 金貨や銀貨は 却下した。詳しくは知らないが 金貨などで 素材以上の価値を得ようとすれば証明書だか 鑑定書のようなものが必要なはずだ。それに 一介の高校生が売るものだから そこまで 気にする必要は無いかもしれないが もし 異世界の金貨を見て 見たこともないデザインで 話題になったり 出所を根掘り葉掘り聞かれても困る。
「これは 異世界の金貨です!」
何て言えば 医者を紹介されそうだ。
指輪なら 自分でデザインをして作っている人も居るので 貰ったなり 何なり 言い訳ができるだろう。
第四は マリアの教育だな。
俺は 向こうに行ったとき こっちの中世位の時代背景だなと 理解し 王様のいる世界に 僅かでも知識がありすぐに受け入れられたが マリアは違う。マリアは この機械文明に全く知識がない。留学生の設定で過ごしていくのなら 外に出なければならないし そのためには 最低限の常識を身に付ける必要があるだろう。都合よく 今日からゴールデンウィークだ。この四日間でできるだけ 慣れてもらうしかない。
不意に頭を過ったことがあり 聞いてみることにした。
「あっ そう言えば アイリス もう一つ聞きたいことがあるのだけど」
「なんでしょうか?」
「どうして 元の時間、えっと 召喚された時間に戻っているんだ?」
「・・・・・ご主人様、凄く今更な質問ですね。最初に聞かれると思っていました。まったく ご主人様は大物過ぎます」
「ん?そうか?で、どうなんだ?」
「それは ですね・・・・」
アイリスの説明をまとめると
「時」は、常に辻褄を合わせるように作用する。そして、俺の体感的には三年前の召喚は タラクシャが 主体となり動き 俺は巻き込まれた形になる。巻き込まれた者が戻ってきたので こちらの世界での辻褄を合わせるため 召喚された時間に 戻されたらしい。
だから その辻褄合わせのため向こうの世界では 不老不死だったのだろうとアイリスは言う。同じ世界から来たものなら殺せると言う 原理までは 分からないらしいが・・・・。
「時」は、独自の理 ルールに従って作用し アイリス自身も細かなとこまでは分からないらしい。こちらから 自分の意思でタラクシャに戻れば 不老不死では いられないだろうし 同じように時間が進むかもしれない。試してみないと分からないとのことだ。
ん?
「アイリス!タラクシャに戻れるのか?」
「はい。それなりに 魔力は必要ですが 問題なく」
「そこから また、こっちに戻るのも?」
「それも問題なく」
何てこった!凄く悩んで決心して戻ってきたのにそんなに簡単に 往き来できるなんて。
こちらの生活が落ち着いたら 一度 戻ってみるか。
それに シオンさんやサヤに何も言わず 帰ってしまったのだから 相当 怒ってるだろうし 淋しがっているだろう。できるだけ 早く 戻ってやらねば。
さて、当面の行動方針が決まったところで マリアに説明する。とは言え 言いにくいことばかりだ。
クローゼットからトレーナーとジーンズを出し 毛布を纏ったマリアの前に置き俺は 後ろを向いて 声をかける。
「とりあえず 裸のままじゃ 話もできないので それを着て。それと 悪いのだけど 下着は用意できないから しばらくは我慢してね」
できましたと 声をかけられたので 振り向く。マリアは 「ズボンの裾が少し長いのですが」と言うので 折ればいいよ と言いながら しゃがんで 折ってやる。
うん!よかった。裾が短いのですが とか言われていたら 自殺モノです!
ん?
グヘッ!!!!!
心の中で血反吐を吐きました。
はい・・・・。
気付くべきでした。
解説します。
俺 しゃがんでいます。
マリア 立っています。
俺の目線 丁度 マリアのオマタの辺りです。
で、マリアは異世界人であり 向こうの世界にはジーンズもなければ チャックなんて物もありません。
そうです 全開でした。
立っていたので ガバッ とは開いてはいませんが 間近と言うか 目の前でしたので 隙間から・・・。
それ以上は言えません。
チャックの説明をして 二人でこれ以上ないほど真っ赤になり 気まずい沈黙が流れたのは言うまでもありません。お互いのため 今、見た物は・・・・忘れて 見なかったことにしよう。
第四のマリアの教育は もっと慎重にしたほうがよさそうだ。
気を取り直して マリアに説明を始める。
「マリアは 海外から来た留学生で うちにホームステイしていることにするよ」
マリアは 呆然とし チンプンカンプンといった感じだ。まあ 当然だろう。チャックを知らない・・・おっと それは 忘れる予定だった。
「えっとね、この国で勉強するために 違う国から来た学生ってこと。で、ホームステイって言うのは 勉強だけでなく この国の一般的な文化を知り 体験するために 宿屋や 宿舎などに泊まるのじゃなくて 普通の家庭で 生活を共にすることを言うんだ」
理解はしたが腑に落ちない様子のマリアは 尋ねてきた。
「ですが、私はナオキ様と、その・・・・・結婚するのでは?」
「あーーー・・・・。そのことなんだけど マリアとは結婚できないんだ」
言い終った途端に マリアの目には 大粒の涙が 溜まっていた。大慌てで 誤解を解く。
「ごめん!ごめん!!言葉が足りなかった。えっと この国の法律では 俺の年ではまだ、結婚できないんだ」
ホッとした様子のマリアを 更に安心させるため言葉を続ける。
「この国には 身分とか階級がないから 恋愛は自由にできるし 今の俺とマリアは 婚約ってことになるのかな」
マリアは婚約と呟き 頬を染めている。俺はそんなマリアを とても愛おしく思う。俺を思い 俺との結婚を夢見ている少女。健全な男子ですから この様な少女を見れば 押し倒したくなるくらいの気持ちだが 問題も やらなくてはならないことも 山積みなので ここは グッと堪え 話を進めた。
「俺は 勇者として タラクシャに召喚だれた訳で タラクシャのみんなは 俺をそう認識してくれていたけど ここに居るマリアは 違う。誰も マリアを知らないし 異世界人だという認識もない。そもそもこの世界には 異世界があるとは 誰も信じていないからね。だから 素性を偽らなくちゃいけないわけなんだけど そのためには 暗示や催眠と言った 魔法を家族や 周りの人間に行使しなくちゃいけないんだ。この魔法については 俺もマリアも思う所があると思うんだけど この世界で 二人で生きていくためにはどうしても必要なことなんだ。それだけは 理解しておいて」
「ナオキ様ばかりに 辛い思いさせて申し訳ありません」
『思う所』『辛い思い』 そう俺やマリアは この魔法・・・操心の玉に 散々な目にあってきた。レノを殺され 危うく マリアの父親も殺されそうになり マリア自信も 玉の被害者になりかけた。そして この魔法が使えるようになったと言うことは 全てが覆される可能性もある。マリアたちの気持ちが俺に操られているかもしれない 少なくともそう疑念を持つかもしれないということだ。
俺の心配を悟ったのか マリアは 力強く俺の手を握り 言った。
「この心の奥底から湧き出る気持ちが 誰かに操られるようなものではありません。私はナオキ様を信じています。だから ナオキ様も私を信じてください。それに 先程も言いましたが その魔法を使って一番お辛いのは ナオキ様ではありませんか。本当に 私のために・・・・」
「マリアの気持ち とても嬉しいよ ありがとう。それと 気にしないで と言っても無理かもしれないけど 俺だって マリアと一緒に居たいんだ。そのための努力は惜しまないさ」
「ありがとうございます・・・・・」
「それじゃあ、家族を紹介するから 行こうか」
マリアは 本当に頭のいい子だ。俺の拙い説明で 自分の立場や状況を よく理解している。
「はい。本当は この家の嫁として紹介していただきたいところですが 今しばらくは 我慢いたします」
マリアは 悪戯っぽい笑顔を浮かべ 俺の腕に しがみ付いてきた。




