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勇者と姫のそれから  作者: べるこさん
第1章 異世界編
58/135

058

マリアは ナオキの部屋の前で 何度も何度も深呼吸をしていた。


父親であるタラクシャ王に ナオキとの結婚も踏まえ 話し合うことを勧められた。その際 ナオキを引き止めるためなら 王家の 召喚の秘密を打ち明けることも許されている。

しかし マリアは知っている。理由は分からないが どうしても元の世界に帰りたいと思っていることを。

そして、もう1つ気になることは ナオキが 「魔王にはならない」と言っていたこと。


マリアは この5日 ナオキに会わないでいた。 と言っても 希望と現実の狭間に身動きが取れなくなり 俯き膝を抱え 思い悩んでいた訳ではないのだ。マリアなりに考え 解決策はないのか 城下の図書館や 王城内に残された文献や資料 そしてナオキにすら開示が許されていない 王家の歴史書まで 眠る間も惜しみ 読み漁っていたのだ。


マリアは 調べ物をする前に ある仮説を立てていた。


「ナオキが帰ることに固執していること」

「ナオキが魔王にはならないと言っていたこと」


ナオキが帰りたがっている理由を 頑なに話そうとしないため 仮設を立てるための条件が2つしかないが ここから マリアが予測したことは


「ナオキ様が 魔王の呪いや魔法で 魔に落ちる」


実際は当たらずとも遠からずと言った感じだが マリアには知る由もない。

マリアの半ば思い込みでしかないのだが そこに注目して調べていくと 魔王の容姿についての記述に多く見られたのが 人間の少年のような姿をしていた と言うものだった。

しかし それでは矛盾がある。魔王を倒した勇者に呪いをかけるとして 魔王が歴史に姿を現すのは 数百年おきという点だ。数百年経っても 少年の姿なのは おかしいが 少年の姿のまま 数百年かけて魔に落ちるなら 手立てがない訳ではない。

そもそも まったく何の根拠もない想像でしかないのだが・・・・もし 見当はずれなら いい笑い話になりそうだ。マリアは 資料から 目を上げ自嘲気味に笑うが それでも ナオキのために 何かできないかと必死だったのだ。


たったの5日で何かが分かる訳ではないだろうが 時間をかけたところで 答えが出るはずもない。それでも ナオキのために 何かをしたかった・・・・一緒に居るために 何かをしたかった・・・・。


この5日間を思い返しながら 挫けそうな心を奮い立たせ ナオキの部屋の扉をノックした。 


「はい、ただいま」


シオンの声が聞こえる。たったの5日間ではあるが 故意に会わないようにしていたので どのような顔をして 会えばいいのか マリアは戸惑った。ゆっくりと 扉が開かれ シオンが顔を覗かす。


「マ、マリア様!」


「シオン・・・・その・・・・お久しぶり」


「あ、あの 少々 お待ちください!」


マリアはどう対応しようか悩んでいたが 対応する前に シオンは 王宮侍女とは 思えないほど 慌て駆けて行った。いつも無表情だが 心なしか 笑みが見て取れたような気がして マリアは 胸を撫で下ろす。すぐに また 慌しく駆けて来たシオンは 「どうぞお入りください」と招き入れてくれた。その表情は 戸惑いがあるものの 笑みが含まれていたのは 気のせいではなかったようだった。

立ち上がって 待ち構えていてくれたナオキ様は どうぞと ソファーを勧めてくる。私が座ると ナオキ様も正面に座り シオンは お茶を淹れに一旦 控え室に戻っていった。


「マリア どうしてたんだい?」


「その・・・・・」


「俺 マリアを怒らしたんじゃないかと 心配してんだよ」


そう言って ナオキ様は おどけて見せた。お茶を持って戻ってきたシオンも 一言付け加える。


「ナオキ様は 女癖が悪いですので ついにマリア様は愛想を尽かされたのではないかと」


マリアからは 自然と笑みがこぼれる。

『2人は きっと私のことを心配してくれていたんだろう。元気付けようともしてくれているのだろう。私は こんな人たちと 別れたくはないし ずっと 一緒にいたい・・・・だから・・・・』

マリアは 表情を引き締め 声を発した。


「ナオキ様・・・・ナオキ様と2人でお話したいことがあります」


真面目な 深刻な話をしようとしていることを 表情から汲み取られたのでしょう、ナオキ様も表情を改め 後ろに控えていたシオンに視線を送り シオンも 一礼をして 部屋を出ようとした。


「シオン!」


シオンは私の大切な友達。できれば 一緒に居てもらいたい。だけどナオキ様の秘密にかかわるかもしれない話し合い・・・・。いえ、きっと シオンにも聞く権利はあるはずだが・・・・。兎に角今は・・・。

呼び止められ 振り向いたシオンを じっと見つめ


「後で、後で必ず お話します。だけど今だけは どうか 譲ってください」


そう言って マリアは 深々と頭を下げた。


「マ、マリア様!そんな・・・・頭をお上げください」


一向に頭を上げない マリアを見て シオンは 込み上げてくるものを押さえつつ答えた。


「わかりました。後ほど お話を伺わせていただきます。だから・・・・」


「・・・・・ありがとう」


シオンは マリアの感謝の言葉を聞き 今度こそ 部屋を出て行った。





ソファーに 座りなおし 二人は 喋ることもなく 見詰め合っている。ナオキとしては マリアの言葉を待ち マリアは どこから話し始めれば良いのか 迷っていた。ナオキも シオンを下がらせてまでする話なのだから よほどのことだろうと 待つが 沈黙に耐えかね 声を発した。


「マリア?」


「その・・・・すみません・・・・・」


マリアは 逃げたしたい気持ちでいっぱいになるが どうにか踏みとどまるも 動揺した心は 今まで 何度もシュミレーションし考えてきたことを どこかへ吹き飛ばし 口から出た言葉は・・・・


「ナオキ様は 魔王になるのですか?」


「!!!!」


ナオキは今まで見せたことのないような険しい表情をし 勢いよく立ち上がり その拍子に足がテーブルに当たり 置かれた茶器は転倒すらしなかったものの 大きな音をたてた。


「どうして・・・・」


「申し訳ありません。ダリーン城で ナオキ様と精霊王が お話になっているのを 聞いてしまいました」


すまなそうな表情のマリアだが 盗み聞きするつもりなどなかったのはわかっている。俺が ドア一枚隔てた人の気配を感じれない訳がない。恐らくは イリスが マリアの気配を隠したのだろう。俺の隠していることをマリアに聞かせるために・・・・。


マリアはナオキの動揺振りを目の当たりにし 自身の動揺は 急激に収まった。


「全てをお話になってはくれませんか?」


ナオキは 迷いに迷った。

いつかは 話さなければならないときが来るだろうとは思っていた。マリア シオンさん サヤには 必ず話さなければならないだろうと。

シオンさんに言われたように この事に限らず話さなければ 互いの気持ちを分かりあうことはできないし、この事を秘密にした上で 気持ちを確かめあっても 将来の事を 考えても 無駄だろう。打ち明けるなら 早ければ早いほど良いだろうが いくらなんでも 早すぎる。シオンさんと話をして 話そうと決意して 1時間も経たないうちにその場面が来るとは思っていない。準備も整理もあったものではない。

だが、マリアはもう知っている。

覚悟を決めるしかない・・・・のか・・・・。


立ち尽くしていたナオキは ゆっくりと座りなおす。長い沈黙が続く。そして 一言 呟いた。


「シオンさんも 呼んでいいかな?」


「できれば 私だけで聞きたいのですが・・・・ああ、誤解なさらないでください。私だけ 特別と言うわけではなく 事は恐らく ナオキ様と私達の個人的なことで 済む問題ではないと思ったからです」


「わかったよ。ところで、マリアはどこまで知っているの?」


マリアは肩をすくめ答えた。


「実のところ 何も・・・・ナオキ様が 魔王に と言うことだけで 魔王を倒した際に 呪いをかけられたのではないかと 想像はしているのですが」


「そっか・・・・」


ナオキは天井を見上げる。色々な記憶を辿り 様々な思いを整理する。そして 纏まったのだろう マリアの顔をじっと 見つめポツリ ポツリと語りだした。


「魔王と俺は 友達だったんだ。元の世界のね」


マリアは 目を見開き 相当に驚いた様子だった。


「では 魔王も 魔族によって召喚されていたということなのですか?」


「違うよ・・・・・・・・・・・・・・・勇者だったんだ」


「えっ?」


尻窄みな 声のトーンではあるが 何とか聞き取ったマリアは 聞き間違いかと 聞きなおす。


「祐太は・・・魔王も 元々は 勇者として タラクシャに召喚されたんだ」


マリアは 既に理解が追いつかない状態になっていた。


「えっ?魔王も元は 勇者だったと?でも・・・・そんな・・・・」


「魔王が勇者として召喚されたのは 今から500年以上前のタラクシャだったらしい」


「500年前と言えば 前回の魔王襲来の頃ですね。ですが 勇者として召喚されたのであれば 人間ですよね?そんな500年も 生きていれるはずは・・・・」


ナオキは じっと見つめていたマリアから視線を外し答える。


「人間だけど・・・・理屈は分からないけど 召喚された者は 不老不死らしいよ。そして 俺も・・・・。魔王に言われて気付いたけど 髪や爪も伸びないし 病気もしない。たった3年だから 自覚するのは無理かもしれないけど 成長も老化もしてる感じはないね。不死のほうは 確かめようはないけど 恐らく間違いないと思うよ」


旅をしているときも そう レノに腕を食いちぎられたときも 死んでもおかしくはないほどの怪我を負ったことはある。大量の出血をしてもなお 鮮明に意識を保ち 怪我の治療をすることができた。祐太が言ったように 放置してても 治っていたんじゃないかと 今更ながら思う。


「その・・・・ごめん・・・・騙すつもりはなかったんだけど、俺 おかしいよね?こんな体・・・・魔物より よっぽど 化物じみているよな・・・・?」


マリアは その告白を聞いたところで ナオキへの愛が揺らぐ物ではなかったのだが ナオキの謝罪には少々 腹も立てた。


「何を言っているのですか!ナオキ様が その様な体になったのは 召喚が原因ではないですか。では その責任は 私達にあるのです。ナオキ様は 悪くない。悪くないのであれば 謝る必要などないのです。そして 何より・・・・・その程度のこと なぜ いつまでも秘密になさっていたのですか・・・・その程度のことで 私の愛が 私達の愛が 揺らぐと思われていたのでしたら それこそ心外です」


「・・・・・マリア」


マリアたちを信じ切れていなかったことに 怒っているのだろう。マリアはその程度と言うが 俺にとっては とても大きな問題だった。ただ、単純に 嫌われたくなかった。自分が大切に思っている人達に 自分を大切に思ってくれている人達に 嫌われたくなかったのだ。


「ですが、何故 勇者が魔王になるのでしょうか?やはり 呪いか何かなのでしょうか?」


「錬金術師なんかは 不老不死は永遠の目標みたいだけど 実際にそうなると 死にたくなるらしい。そして 不老不死の者を殺せるのは 同じ世界から来た者だけ。だから 同じ世界から殺してくれる人間を呼び寄せるため 勇者を召喚させるために 魔王になる・・・・・ということみたい」


まだ 20年しか生きてはいない 自分には分からない境地だけどね と自嘲気味な乾いた笑顔を浮かべる。


「それは・・・・変な言い方ですが 無い物ねだりと言った感じなのでしょうか」


有限の命だからこそ 不老不死を求め 不老不死であれば 死を求める。マリアの表現は 間違ってはいないのだろう。


マリアは 今までの話を何とか理解し 納得したようだった。そして 意を決し 自身の秘密を語る。


「私もナオキ様に 秘密にしていることがあります」


「えっ?」


「召喚についての秘密です」


ついにマリアは ナオキが最も欲している事を そして 聞けば絶望するであろう事を 話す決意をしたのであった。




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