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勇者と姫のそれから  作者: べるこさん
第1章 異世界編
56/135

056

『ナオキ様が 魔王に?』

精霊王は あの時 確かにそう言っていた。いったい どう言う意味なのか?


「マリア?」

「マリアよ!」


父でもある タラクシャ王の声に はっ とする。ここ最近は いつも その事を考えてしまう。考えても 分かることではないし ナオキ様に 直接お聞きするのも 憚れる。かと言って 誰にでも相談できることでもない。グルグルと 同じ所を回り続けているのだ。


「申し訳ありません。少し考え事を」


「リバーシを夜遅くまで やっているのであろう。程々にな」


「いえ・・・・あっ はい。気を付けます」


父親は 誤解しているようだが 本当の悩みを打ち明けるわけにもいかず 訂正することをしなかった。


「しかし 勇者殿も 多才だな。予も やったが なかなか 面白かった。民にも広まれば 活気も出るであろう。どうだ 今晩辺り 一つ手合わせでもせぬか?」


「はい。お願いします」


マリアは笑顔で答え その様子を見た王も安心し笑みがこぼれたもののすぐに表情を引き締め 本題に入った。


「まずは 橋の工事の視察 ダリーンとの 同盟 調印 ご苦労だった。報告 並びに報告書は完璧であった。さすがは 我が娘だ」


「陛下 お褒めにあずかり光栄です」


マリアと王は親子であると同時に 主従の関係でもあるが それでも 手放しに娘を誉める所は 王も人の子と言うことなのだろう。


「今日 呼んだのは ダリーン王についてだ。王の人となりをお前の感じたままを聞かせて欲しい」


「そうですね・・・・・食えないお方という言い方が一番 しっくり来るかと思います」


しばらく悩み 出た答えが これなのだが ナオキとマリアの共通の意見であり 彼を如実に表していた。

その後 マリアは 自身が見聞きした内容と分析を王に伝えた。

ざっと マリアが感じたことをありのまま伝えると王が何かを聞こうと 声を出そうとした時 重厚な扉がノックされた。


「マキシムです」


「団長か 入れ!」


王の返事を待ち マキシムは 扉を開き 中に入ろうとするが マリアの姿が目に入り 立ち止まる。


「これは マリア姫・・・・・陛下 改めましょうか?」


「いや 構わぬ。マリアよ、隣室で待っていてくれ」


「はい」


マリアは短く答え 王とマキシム 順に礼をすると 王の執務室の中にある 控え室へと 姿を消した。

王の部屋と通路を隔てる扉は 重厚であり 中の音を外には漏らさないが 控え室の扉はそうではない。決して薄く安物の扉と言うわけではないが 戦場でも 届くように鍛えられた声は 大声でなくともよく通り 聞き耳をたてなくとも 隣室に届いていた。


「国軍ならびに 騎士団の予算改定案をお持ちしました」


王は書類にさっと目を通し マキシムを睨む。


「相当な増額要求だな?この額だと 他が黙ってはいまい。それに 今はペレスの一件で国庫は潤ってはいるが 将来的に この規模の軍備 人員を維持するのは 不可能だぞ」


書類を 机の上を滑らしマキシムの元に戻すが マキシムはたじろぎもしない。


「陛下も 勇者殿を当てになさっているのでしょうか?」


「当てにしていないと言えば嘘になるが 全面的に勇者殿に任せれば良いと言うものは 少なくないな」


王は 自身はそこまで楽観視はしていないが そう思っているものは 多いと伝え マキシムは 落胆しながら答える。


「勇者殿は 帰還を望まれているのですよ?私自身も この世界の異物である 勇者殿には 早く帰ってもらいたいと思っています」


「だが 今 お前の望む予算を通したところで すぐに 戦力が 充実するわけではあるまい?勇者殿が 世界に対する抑止力になっているからこそ その準備もできるというものではないのか?」


「確かにその通りでございますが その時間稼ぎのための ダリーンとの同盟なのでは?」


「ダリーンは大国であり 疲弊した大国が 復興するには かなりの時間が必要だろう。予は 将来のダリーンとの関係を考え 今のうちに 同盟を結んだのだ。しかし お前は何故 そこまで 勇者殿の帰還にこだわる?」


「私は 勇者殿が 怖く恐ろしいのです。考えてもみてください。一個人の力で 魔王も凌駕する力で 一国どころか 世界の独裁者にも それこそ世界を滅ぼすことも可能なのですよ。勇者殿の気分次第で この世界は 変わってしまうかもしれないのです」


王も実はその事に思い当たってはいた。しかし ヨーヒムとも 何度となく その事は話し合い 今のところは 大丈夫だろうと結論を出していたのだ。


「私も 勇者殿の人となりには 好感を持っています。勇者殿は高潔で実直な方だと思っています。しかし 前ダリーン王のように 手段も選ばず勇者殿を 手に入れようとする輩は必ず出てくるでしょう。その時 勇者殿の無垢な心が人の醜い部分を見て どうなるのか・・・・。人に絶望したとき 我らに 勇者殿を止める力などないのです。魔王は南の大陸 奥深くに居たので多少の時間の余裕がありましたが 人の懐に居る勇者殿が人に牙を剥いたとき 我らは その瞬間にも滅んでしまうかもしれません」


確かに 王も 一人の人間が 強大な力を持つことに対する懸念はあったが 前ダリーン王のような 強硬手段で来るとは 予想外であった。しかも 勇者の数少ないこの世界で心を許した者を利用し 命まで奪った・・・・。「紅竜」 それは このタラクシャ王都を焼き付くそうとした竜だが 勇者の友でもあったらしい。勇者の心は今 どうなっているのだろう?想像しただけで マキシムの言うように 王は恐怖で身震いを覚えた。


「お前の言いたい事は分かった。無理に連れてきたのだ 送り帰すのは人としての道理であるしな。しかし 送り帰すにしても方法が分からなければ 論じても意味があるまい。 勇者殿の・・・・言い方は悪いが どう ご機嫌を取るかを 考えた方が現実的であろう?」


マキシムは口角に微かな、嘲るような微笑を浮かべ言う。


「本当に帰す方法はないのですか?」


王は探るような視線を送る。


「何が言いたい?」


「以前 王家の秘密と仰っていましたので」


「ああ、あれか・・・・。召喚に関して 確かに秘密はある。お前には 言えぬがな。だが その方法で送還も可能かは 分からぬ。何より 魔法を発動させるには 大きな代償が必要なのだ。可能かどうか分からぬことに払える代償ではない」


王は 真実をぼかしながらマキシムをいい含めようとするが 当のマキシムは 心の中で 嘲る。

この国に 何も寄与しない王族など 掃いて捨てるほど 居るだろうに・・・・。


「代償がどのような物かを知らぬのに 差出口ではありますが その代償と 世界の安定どちらが 重いか陛下には 今一度 ご検討願いたいと思います」


マキシムにしてみれば 王に対し 揺さぶりをかけれれば それでよかったので 目的の1つは達成された。そして もう1つの 目的 それは・・・・


「軍人の私が これこそ 差出口ではありますが・・・・マリア姫について 昨今 貴族の中では その去就が話題に上がることが多いのを 陛下はご存知でしょうか?」


訝しながら 王は尋ねた。


「知らぬな。どう言う話題だ?」


「勇者殿との御婚姻がならなかったのに 何故 いつまでも王宮に残っているのかと・・・・。まあ ほとんどの者は 自身やその息子に 姫を娶り 王家との繋がりを強くしたいと言う思いからの話でしょうが 中には 国のため ダリーンとの同盟強化のためにも ダリーン王に嫁がせてはと言う意見もございます。陛下の仰るように 将来のダリーンとの関係をお考えであるのなら 私も ダリーン王とのご結婚は 最良の策と考えます」


この話題自体 マキシム自身が マリアと勇者を引き離すために流した話なのだ。貴族たちも マキシムの言う事は正論であることは理解できるし それならば 自分の陣営に マリア姫を迎え入れ 王家との繋がりを 強くしたいとの思いが その話題を急速に広めた。更に 貴族の中には ペレス程ではないが それでも権威主義にとらわれ 異世界人であり 平民に当たらないかもしれないが 貴族でもない者が いくら 魔王を倒した勇者であったとしても 城に居を構え 姫と結婚する事を 面白く思っていない者も少なからず 居た。そう言った貴族たちは 結婚するなら 貴族と と思ったのだ。


「マキシムよ・・・。お前の言うことは 恐らくは正しいのであろう。しかし それは 先ほどの話と矛盾するのではないか?惹かれあっている2人を引き離し 別の男と結婚させれば 勇者殿の気分を害するのではないか?そうであれば 勇者殿の帰還後に 話を進めても遅くはないだろう」


「いつになるか分からぬ帰還を待つと?しかも 結婚をお断りになったのは 勇者殿本人でございます。マリア姫の ご結婚について 勇者殿が口を挟む権利など 元よりないと考えますが・・・・。それに 勇者殿であれば 自分が断った結婚相手が 嫁がれ 幸せな姿を見れば 安心なさるのではないでしょうか?」


その後 しばらく 王とマキシムのやり取りは続いた。


言いたいことを言い切った マキシムは 王の執務室を退室後 通路を歩きながら ほくそ笑む。

『勇者よ・・・・お前の全てを 奪ってやる・・・・。全てを失った お前に 召喚の秘密を教えれば お前は 帰還への衝動を抑えきることが できるかな・・・・。まあ 例え 抑えきったとしても 俺が お前を 発動した召喚陣に突き落としてやるから 安心しろ・・・・・』

歩きながら 平静を装うが 心の中では 高笑いをするマキシムだった。




王の執務室の中にある 控え室の扉のノブを握り締め マリアは呆然としていた。マキシムの一言一句が 心に突き刺さる。

マキシムの言う事はどれも正しいように思えた。


『ナオキ様と離れ 他の人に嫁ぐくらいなら いっそ ナオキ様のために 私が生け贄になれば・・・・。』


一度は封印したはずのその思いが また 頭にもたげてくる。


ーー私の気持ち

ーー私の想い


私はどうすれば・・・・。


何度呼んでも 返事の無い娘を心配し 王、自ら控え室の扉を開く。マリアが握り締めていたはずのドアノブは何の抵抗もなく滑りぬけ マリアは ドアノブを握り締めた形のまま 固まり まるで彫刻のようだった。

王は 何度も娘の肩を揺さぶり名を呼ぶ。我に返ったマリアは 呟く。


「・・・・・・お父様さま」


「マリア 聞いていたのだな?」


「聞き耳を立てるような真似 申し訳ございませんでした」


「よいのだ・・・・マリア 私の部屋に来なさい」


王は 侍女にヨーヒムを呼ぶように 言い付け 彼はすぐに やって来た。ヨーヒムは 入室するとすぐに マリアに目をやり 僅かに 眉を動かしいつもの表情に戻る。王は 残り僅かではあったが 今日の執務 予定をキャンセルする旨を伝える。

ヨーヒムも 何かあったのを敏感に感じ取っていたのであろう 反論することもなく 了承した。


マリアは王に連れられ 王の私室に入る。


「マリア 座りなさい」


促されるまま 革張りの ソファーへと静かに座るが 静寂の支配する部屋の中 革とドレスが擦れる音 ソファー自身が軋む音が やけに大きく響いたように思えた。


「マリアよ!まずは 言っておくが その考えでは 誰も救われない」



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