052
「デンドロス 貴様は!」
ナオキの名乗りのあと 広間は 息をするのも躊躇われるほどの緊張感と静けさに支配された。その中 ダリーン王だけが 怒りに身を震わせ デンドロスを呪い殺せそうな 目で睨み付け呟いたのだ。
俺はデンドロスの横まで行き隣に立つ。決して膝まつくことはしない。ダリーン王を 王として認めたくはない、いや 人としても・・・・そのような男に対して膝を折りたくなかった。
「陛下 お久しぶりですね」
「タラクシャの飼い犬が何をしに来た!ワシはお前を城に招待した覚えはないぞ」
確かに招待された覚えは無いが 次期の主が許したのだから まあ 良しとしよう。
「まあ その辺りは 許してください。ところで 陛下は この部屋の灯りが全て消えたら どう思いますか?この国の全ての灯りが消えれば?日の光は厚い雲に阻まれ地に注がなければ?その上 雲があるのに 雨が降らなければ?風は止まり 空気が澱めば?他にも色々 考えられますよ。陛下はそんな事態 どう思われますか?」
「勇者殿の 言っている意味が分からんな。勇者殿が この国を今 言ったようにすると 脅しているのかな?」
「確かに脅しているのかもしれませんが 脅しているのは 私ではなく 精霊王 イリスですよ」
俺の言葉に 周囲は 口々に声を上げ 騒然となる。
「一体 どういうことだ?」
「精霊王は実在するのか?」
「いや ハッタリだ!そうやって タラクシャはダリーンを乗っ取るつもりなのだ」
「だが、勇者様の言葉だ。嘘とも思えん」
「しかし 何故 精霊王が そんな暴挙に?」
貴族 王族達からは 疑問の声が次々に漏れてくるが ただ一人 ダリーン王だけが 先ほどまで激昂していたのが嘘のように 蒼白となっていた。
俺はもう一押しと 畳み掛けるため 懐に手を入れる。地球、アメリカ辺りなら この状況で 懐に手を入れれば その瞬間 射殺されていてもおかしくないかもしれないが ここは異世界・・・・。俺の手には 禍々しく 黒い光を発する 玉が握られていた。魔力を通し 王の近くに転がすと 明らかに 何かしらの魔道具であることや そこから発せられる魔力の 悍ましさに周囲の者は 恐れ戦き 後ずさる。玉は転がり 王の足元まで来ると 薄暗い部屋に フォログラムのような立体映像が 映し出される。そこに 映し出されたのは 赤毛の少女 レノ 宰相 グフタス 宮廷魔術師 ザクリン そして ダリーン王その人であり 内容は レノに対する洗脳であり 筆舌に尽くし難く 玉から 発せられる魔力より 悍ましかった。
この内容には さすがに 国王派の人間も 言葉を失い 驚愕する。根回しのため 事前にこの内容を見せられていたデンドロス派の者は 目を逸らしたり 怒りに震えたり レノに対しての哀れみなのか はたまた 王に対しての怒りなのかは分からないが 涙を流す者まで居た。
「陛下も 私も親になった経験はありませんが 自分の子に このようなことをされ 親が怒ることは 簡単に理解できるでしょ」
「な、な、何を・・・・」
王は 今まで誰にも見せたことがないほど 狼狽する。
「精霊王 イリスは この国に 対する加護をなくすとまで言っています。そうなれば この国は 終わりますよ?」
「ぐぐぐぐぐぅぅぅ・・・・」
その後 王は デンドロスに引導を渡され 玉座に王冠を置き 部屋を出た。翌日 ダリーン王の退位と 新王には デンドロスが就くことが 表明された。前王は 病気療養のための退位と公表されているが 実のところ ダリーン某所で 幽閉される。デンドロスの頼みもあり 幽閉先の屋敷に俺が結界を張ることなる。だが 出入りを完全にできなくすれば 餓死してしまうため 少し考え 2枚の結界を設置した。これは 冷暖房の効率を上げるため ビルなどで 2枚の自動ドアを使う要領で 外の結界を解除してるときは 内側の結界は絶対に解除できず 外と内の結界の間に 物資を運び込み 外の結界を再起動させると 内側の結界を解除できるようになり 物資の受け取りを可能にするといった物だ。
前ダリーン王は
「勇者よ!これで最後と思うなよ!!」
去り際に 捨て台詞を吐き 消えていった。城内にいつまでも続くと思える 笑い声を残して・・・・。
デンドロスも当初は 監視を置くだけのつもりであったが 最後の言葉が気になり 結界を張ることを決意し 俺も 飼い殺しと言うか 生き殺しのようなことをするのに 多少の後ろめたさがあったものの 同意したのだ。
ダリーン国内は 突然 降って湧いた 若き新国王の誕生に 祝福 祝賀ムードで 賑わったが デンドロスの戴冠の儀式は迅速且つ質素に 滞りなく 執り行われた。また、その日の内にダリーンとタラクシャの同盟も調印され 世界を驚かすこととなった。
「僕の戴冠と 世界的にも注目される同盟がなったのですから もっと盛大な祝宴を開きたかったのですが・・・・」
デンドロス・・・・もとい ダリーン王の言葉通り とても質素な宴であったが 現在の国内事情では これが限界らしい。
同盟調印のため タラクシャ王の全権代理としてマリアが マリアの護衛として俺が ダリーンに招待されている。
俺とマリアは 祝宴の後 ダリーン王の個人的な招きを受け 彼の私室に招待されている。
「大国などと言われていますが これが我が国の現状だと思えば お二人には申し訳ないが 前王の所業も分からなくは無いのですよ」
許されることではないですが と王は語った。
「ところで どうですか?勇者様に マリア姫 お二人でし所帯を持ちこの国にとどまりませんか?何なら あの侍女と 女医も連れてきたらいい」
マリアは「所帯」という言葉に ビクリと反応しつつも 慌てて反論する。
「その様なこと あり得ません」
反論したが 特に根拠を示さなかったのを 見逃さず いつもの ニコニコ顔だが 眼光は怪しく光る。
「これは なんと言いますか、我が国と タラクシャの同盟をより強固な物にする提案でもあるのですが?」
「それは・・・・ですが 私の一存で決めれることではありませんので」
マリアは言葉に窮しながら答えるが そこは王のほうが一枚上手
「ですが あなたは タラクシャ王から 全権を委ねられているのでは?」
「そ、それは・・・・それは 同盟に関してでのことです!」
「それに これは 政治と言うより お2人のお気持ち次第と思うのですが?タラクシャに居れば立場上 どうしても政治に巻き込まれますが ここであれば、まったくないとは言いませんがそれでも 遥かに自由に過ごせると思いますよ」
「その・・・・気持ちで言えば・・・・」
俺は 自分の力を自覚しているつもりだ。もし俺が 政治に口を挟めば どこの国であっても無視はできないだろう。だから 政治の話については 極力 口出ししないようにしてきたが このまま 傍観していると まんまと王の口車に乗ってしまいそうなので 口を挟むことにした。
「陛下、あまり姫を困らせないで頂きたい」
「ハハハハ まあ 全部 冗談です。でも 全部 本気でもあるのですがね」
俺とマリアは 一瞬 見つめ合い 再度 王へ視線を送り 説明を求める。
「僕も一国の王となったのです。国のために最大限の努力をする義務があるということですよ。無駄と分かっていてもね」
王の私室と言っても 全ての魔光灯に明かりが灯っている訳ではなく 決して明るくない、部屋が広い分 タラクシャ王城の廊下より暗い気がする。それでも 本人だけは 努めて明るく振舞う。その姿に好感をもったのも束の間 笑みは邪悪な物へと変わった。
「前王は 人というものを 信用していなかったからこそ 失敗したのですよ。僕なら 操心の玉をあの女医に使い 手駒にしますね。僕は愛というものを信じていますからね」
言い終わる頃には 俺は 王に飛び掛り ソファーごと 体を押し倒し 馬乗りになっていた。
「脅しのつもりか!」
怒気の篭った言葉を浴びせかける。
「やはり 勇者様はお若いですな。冗談です。今回は 本気など一欠けらもありませんよ。脅しならもっと効果的にしますし 本気なら 黙って実行します。それに マリア姫に使えば より効果的でしょう。この城に居るのだから 与奪権は僕にあるのです。ただ、勇者様には 知ってもらいたかったのですよ。僕ですらこの程度のことは思いつくのです 勇者様が勇者である以上 こういった事とは無縁ではいられないことをね」
掴んだ胸倉から手を離し 立ち上がる。見下ろした 王は いつもの 人畜無害そうな 笑顔に戻っていた。この男 本当に信用していいのか 駄目なのか・・・・。思いながら 手を差し出し 立ち上がらせる。
「済みませんでした。つい カッと なってしまって」
心配そうに マリアが見ている。一国の王に 手をかけたのだから 普通に考えれば 首を落とされても仕方のない。しかし 王は 気にすることもなく
「いえ 今のは僕が悪かった。こちらこそ申し訳ない。勇者様は 僕に対して 全幅の信頼とまでは言わないまでも それなりには信用していただいてると思っています。ですが 言ったように 僕も一国を預かるもの 必要であれば もっと辛辣な事をするかもしれません。でも 実際は この距離感が丁度良いと思ってもいるんですがね」
倒れたソファーを元に戻すと 改めて 座りなおし 話を続ける。
「でも 本当に気を付けて下さいよ。もし 他の国がちょっかいを出して 勇者様がそちらに流れるようなことがあれば 僕は どんな手でも使ってでも 手に入れにいきますからね」
「肝に命じておきます」
立場上 俺を手に入れたいという気持ちは本物なのだろうが それでも俺のことを心配し思ってくれている 優しい男なのだろう。でなければ 一介の兵士のため 即決で濁流の中に飛び込めないはずだ。ただ、それこそ 立場上 その優しさに付けこまれないよう 一癖 二癖 あるように見せているような気がした。
王は 立ち上がると チェストから酒とグラスを持ってくると 俺達に注いでくれた。注がれた酒からは 果実酒の芳醇な香りが漂い 誘われるように 一口 口を付けると 甘口だが それでいて くどくなくすっきりした味わい そして 喉から鼻に抜ける香りの素晴らしさを 改めて堪能する。酒は 好んでは飲まない。だって 頭脳は大人 体は高校生だし、不老不死だし・・・・。しかし この酒は 美味く さすがは 国王が用意した物だと感心した。
「これは なかなか 美味い酒ですね」
「気に入ったいただけたようで 何よりです」
マリアも気に入ったのか コクコクと飲み 2人とも あっという間に 飲み干していた。王は クツクツ笑いながら お代わりを注いでくれたが 国王にこんなことをさせてもいいのだろうか・・・。
この世界の酒は それ程 アルコール度数は高くないようだが それでも なんどか 酒を注がれ 俺もマリアもすっかり 顔を桜色に染めていた。
「ところで 勇者様と マリア姫は ご結婚なされないのですか?」
「唐突ですね。そりゃ 結婚したいとは思いますけど 俺は元の世界に帰るという 目標があるので」
酔いのせいか いつ 口が軽くなり 要らないことまで口走ってしまう。そして それはマリアも同じだった。
「マリア姫も どうです?思い切って 既成事実を作ってしまえば 後は押し切れると思いますよ」
「既成事実・・・・・それも 良い手かもしれませんね。うふふふふふ・・・・・・・」
その後も 王は根掘り葉掘りと聞かれたことに 余計なことまで 喋ってしまったと 翌朝 二日酔いはなかったが 違う意味で 頭痛に襲われてしまった。
王の部屋を出て 程よく酔っていたため部屋に戻ると すぐにベッドに入ったが その途端に気配に気付き体を起こすと 精霊王 イリスが立っていた。
「イリスか・・・・これで良かったのか?」
「そーねー ナオ君がそれで 良かったのなら それでいいのよ~」
「俺は これでいいさ。お前は 本当に良かったのか?」
「レノちゃんもそうだけど 人間だって 言ってみれば私の子供なのよ~ ナオ君が そんな人間に失望して 魔王になっちゃったら こまるじゃな~い。だから ナオ君が 良ければ それでいいのよ~」
「お前 バカなのに 気は使えるんだな!?でも ありがとう・・・・。俺は 何があっても魔王なんかにはならないさ」
「バカは 余計なのよ~。でもね アプロ様の言葉も忘れたら駄目なのよ~ ナオ君には いろんな可能性があるんだから それを自分で 狭めちゃ駄目なのよ~」
「ああ、でも帰るしか 選択肢はないんだよ」
「そっか~ それじゃ~ そろそろ 行くねぇ~」
「ああ」
ナオキの部屋のドアの向こうには 王の言葉に触発されたのか 枕をもったマリアが立っていた。
「ナオキ様が 魔王・・・・・?」
そこから 数日後 俺達は タラクシャに戻り また いつもの日常が始まった。




