047
予約するの忘れていました・・・・。
目的地のダリーン領内 街道に架かる橋の工事現場に到着すると 金髪碧眼の絵に描いたような異世界人の男が 爽やかな笑顔 そこから見える白い歯を光らせ 近寄ってきた。
「これは マリア姫に 勇者ナオキ様 このような場所にご足労頂き 恐悦至極にございます。私はここの責任者を陛下から命じられました デンドロスと申します。と、まあ 堅苦しい挨拶はこの程度にしまして 丁度 昼休憩に入ったところですので どうですか ご一緒に昼食でも?」
俺は 少々この軽いノリに驚いたが マリアは 動じることもなく 「喜んで」と 申し出を受け入れた。
「デンドロス殿下は ダリーン王の 甥に当たる方になります」
マリアの説明に 柄ではないので「殿下」はやめてくださいと 苦笑いを浮かべていた。
「男所帯で ろくなおもてなしもできませんが 食事の味と量には自信があります。どうぞ 堪能してください」
言われて案内されたのは なんと 一般の兵と同じ 食堂で 100人ほどの兵が食事には手をつけず 俺達の到着を待っていてくれたようだ。
「いつも 兵達と一緒に食事を?」
驚きのあまり つい 思いが言葉となって出てきてしまった。
「ここは 現場ですからね。効率を考えるとこれが一番ですよ。私 専用の部屋を設けたり そこに食事を運ばせたりしていては 手間がかかりますから」
お付に者は ヤレヤレといった感じだが むしろ この世界では そのお付の者の方が正しいといえる。俺は これまで 世界中を旅し 多くの王族や貴族とも面識をもった。彼らは 例え戦場であっても 自分達の部屋を用意し そこで過ごしていたのだ。ただそれは 権威を示したりするものではなく 戦場だからこそ 軍隊の将たる者の安全や 体調に気を配ることが 重要だからなのだ。
俺は 貴族でも王族でもない 一般人なので 抵抗はないし そんな俺と付き合いを長くしたマリアにとっても 拒絶するほどのものでもなかったのだが・・・・・
このデンドロスという人物は この世界において いい意味なのか 悪い意味なのかは判断しかねるが 変わった男であることには間違いないようだ。
食事係の兵だろうか 俺達の前に配膳しながら
「殿下!今日は マリア姫と勇者様が来られると言うことで 特に腕によりをかけて 作らせていただきましたよ」
デンドロスは 笑顔を崩さず 答えた。
「酷いなー 僕のためには 腕によりをかけてくれないんだ」
しかし その兵は 臆することもなく 平然と言い返す。
「殿下は 質より量でしょう?」
「いや・・・違いない。はははは」
俺とマリアはそのやり取りを見て 呆然とした。国王の甥という立場であれば 一般の兵が こうまで平然と 気安く 冗談を交えて話すなど ありえない。この場で切り捨てられても文句を言えないほどの行為なのだ。
そして、お付の者は またも渋い表情をしながら
「デンドロス様 そろそろ・・・・」
「ああ、そうだな。僕も腹ペコだ」
その答えに 更に表情を険しくした。
「さあ!皆も 知ってのように 今日は タラクシャよりマリア姫と勇者様が 激励のため 来てくれた。今は 腹を満たし 午後の仕事も励んでもらい その姿をお二人に見てもらうのだ」
「はい!」
答えたのは ダリーンの者ばかりでなくタラクシャの人間までもが声をあげていた。デンドロスは 見渡し納得したように頷きく。
「夜には祝宴も用意しているぞ。そこでは 僕が自腹を切って 酒もたくさん準備してるから 楽しみにしておいてくれ!」
「うぉぉぉ!」
兵達は一斉に雄叫びをあげる。
「僕も腹が減って倒れそうだよ。さて 食事を始めよう!」
食事が始まり 和やかな時間が過ぎたかのように見えたが 食事中にも デンドロスの回りには何度も 「殿下 殿下」と 国を問わず 兵達は気安く話しかけている様子をマリアは深刻そうな表情で見ていた。
「我が国の兵もすっかりデンドロス殿下に篭絡されてしまったようですわね。これでは 殿下が兵をあげて 我が国に攻め込んでこられては 守るどころか 殿下の旗下に駆けつけてしまうかもしれませんね」
マリアは笑顔でとんでもないことを言ったが 目は笑っていなかった。俺にも何度かそんな表情を見せたこともあるが 俺に向けるものとはまた 違う物を乗せた視線のように思えた。
「美しい姫がその様な表情をなさっては台無しですよ。そもそも 我がダリーンがタラクシャを攻めることなど 邪推と言うものですよ」
タラクシャとダリーンは 敵対国では無いものの 友好度が高いわけでもない。どちらも隙有らば と考えていたが 魔王軍の進行により それどころではなくなっただけなのだ。
しかし このデンドロスと言う男 それほど悪い男には思えない。もしこれが演技であるとすれば 相当の役者だろう・・・・。
マリアはできるだけ隙を見せまいと 平静を装い 「だといいのですが」と答えるのみだった。
その後 昼食も終わり 橋の工事現場を視察をする。どちらの国の兵達も士気が高く 皆 懸命に作業をしていた。作業をしているのは 約100人程で 半分がタラクシャの兵らしい。しかし 国境警備軍が50人と言うことはない。モニリの町と国境付近の砦にあわせて5000人の兵が常駐しており その全てが今回の工事に駆り出されている。では 残りのほとんどの兵が何をしているか?それは 石の切り出しや 材料の調達 その輸送と護衛をなどを行っている。
俺達は 視察を終えるとタラクシャ側の宿舎の一室で 警備軍の隊長に それらの説明を受けていた。
「更にデンドロス様は 他の現場にも頻繁に顔を出し 国を問わず 兵達を労ってくれています。デンドロス様の人気はこの現場だけのものではないのです」
表情を意識して変えず マリアは淡々と聞いた。
「あなたの個人的な意見でいいです。デンドロス様をどの様に思いますか?」
「私も デンドロス様を危険に思いましたが・・・・ですが、時間が経つにつれ 杞憂ではないかと思うようにもなってきました」
隊長は 理由として デンドロスについてのエピソードを聞かせてくれた。
元々、デンドロスはこの現場の責任者ではなかった。前任者の頃 工事も半ばまで来たところで 大雨により 全てが流されてしまった。手抜きと言う訳ではなかったのだが 工事を急ぐあまり 強度についての目算が甘かったらしい。そして、新たにデンドロスが 責任者として やってきた。彼は非常に優秀で 尚且つ あの性格で兵達の心も掴み 前回よりも数段強度のある橋を 前回よりも早いペースで 工事を進めている。
そして、彼がこれほどの信頼を得たのには 訳があった。
工事の最中 タラクシャの兵の一人が 川へ転落し 流されたのだが デンドロスは誰よりも早く 川へ飛び込み その兵を助けたと言う。我が身も省みず 一人の一般兵を助けるために 濁流の中へ飛び込んだ話は 瞬く間にタラクシャ兵へ伝わり 彼に 心を許すようになった。
「その様なことがあったのですか・・・・」
マリアは デンドロスをどのように判断してよいのか分からず ただそう呟いたのみだった。
隊長を下がらせた後 マリアに 俺の意見をぶつけてみた。
「紅竜・・・・レノのこともあったし 精霊王のこともある。ダリーンの人間 しかもダリーン王の近い親戚ともなれば 俺も正直 信用に値しないと思っていたけど どうも デンドロス殿下は 信用してもいいような気がするんだ・・・・・普通はできないよ。自分の命を懸けて 他人を助けるなんてね」
「・・・・・・私もそう思うのですが」
俺自身レノのことを完全に吹っ切れたわけではないし マリアにとっても 自分の父親や 城や町の人間全ての命を奪われそうになったことは 大きな蟠りとなっているのだろう。
「俺は デンドロス殿下に 全てを打ち明けてみても いいんじゃないかと思っている。と言うか ここに来るまでに 馬車の中でも話していたけど 王の首を挿げ替える・・・・彼は 適任じゃないのかな?」
マリアは ハッとする。他国の王の首を挿げ替えるなど 与太話もいいとこだ。だが 全てを話 彼自身の意思として 王になるならば あるいは・・・。
「それにさ、現実的な問題として もし ダリーンから全ての加護がなくなれば 民は生活できなくなるよね?すると 国を捨て ちゃんと生活のできる土地に 移り住む・・・・今の状態で考えれば 多くの者はタラクシャに押し寄せるだろう。だけど タラクシャだって 一国分の難民を受け入れるなんて 不可能だろう。すると結局そこで 争いになる・・・・国と国との争いじゃない、国と民との争いだ。他国の民だから どうなってもいいなんて俺には考えられない。だから それだけは 避けたいと思っているんだ・・・・・・シオンさんはどう思う?」
シオンさんは 昼食会の最中も 俺とマリアが 橋の視察をしているときも 侍女として 手伝いをしてくれていた。そして さり気なく デンドロスの人となりを 兵達に聞いてもらっていたのだ。
「私には政治の話などは分かりかねますが 兵達の話を聞く限りは信用に値する人物だと思いました。ただ、ダリーン王の血縁者ですから 油断はできないかもしれませんが それを言い出すと 切りがありません。ならば、全てを話 出方を窺うのも手かと思います」
マリアは 驚いた様子で
「ナオキ様は ただの武人ではないと思っていましたが やはり・・・・。お父様も・・・・タラクシャ王も日頃から ナオキ様のことを とても頭のいい方だと 仰っています・・・・そして 危険なことだとも・・・・」
マリアは少し目を伏せ それは 誰かに利用される可能性があるということだといい訳をしたが それ以外の可能性も言われていたのだろう。気にするなとばかりに 微笑むと マリアも気を取り直し 行動方針を示した。
「打ち明けましょう!動かずに 後悔するよりも 動いて 後悔するほうが・・・・少なくとも 自分自身の慰めにはなります」
マリアにしては珍しく皮肉めいた言い方だったが 自身の優柔不断さに嘲笑したのかもしれない。 だが シオンさんの言葉通り 動いて相手の出方を見るのは 正しいと判断したのだろう。ここで 何時間も話したところで相手のあること 答えが出るわけではないのだから。
「では 晩餐会の時に 会談の席を設けていただくよう お願いしてみます」
マリアは 不安そうではあるが 意を決したようだ。俺がしっかり フォローしなくては・・・・。
日も暮れ 昼と同じ食堂で晩餐会が始まった。晩餐会や祝宴と言うよりも 日本で見たドラマやニュースでやっていた サラリーマンの 宴会のようだった。
最初は マリアも俺も戸惑ったが 時間が経つにつれ 楽しい気分に支配されていった。
しかし 気分を切り替え マリアは会談を申し込む。
「殿下とはじっくり お話をしたいことがあります。できれば あまり時間もありませんので 今晩にでもお時間をいただけないでしょうか?」
デンドロスは驚き答えた。
「マリア姫はてっきり勇者様とご結婚なさると思っていましたが まさか 僕に求婚されるとは驚きです!」
俺は思わず立ち上がり マリアは顔を真っ赤にして反論する。
「何をどう取ったら 今のが求婚になるのですか!」
しかし デンドロスは平然と
「ハハハハ 冗談ですよ。お二人の慌てようを見ると満更でも無いのですね。わかりました。会談の件は了承しました。宴が終わった後 僕の部屋に来てください」
俺とマリアは からかわれたことがわかり 俯いてしまった。




