045
「私は モニリの町を預かる町長のグレッグだ。皆 朝早くから集まりご苦労である。まずは 皆に報告がある!モニリの森の魔物は ほぼ駆除された」
町長の言葉に集まった 住民や旅の商人達は騒然となる。しかし それは好意的なものではなかった。
「おい、本当か?」
「いや・・・・国軍が動いたって話は聞いてないぞ」
「ああ、町にもそんな大規模な軍隊は到着していないしな」
「それに 王都からの行軍で 1カ月以上かかるだろうし 近くの町の駐屯軍を呼び寄せても数週間 そこから 魔物退治を始めて 俺は早くても2ヶ月はここに足止めされると踏んでいたが いくらなんでも早すぎるだろう」
「町長は 夢でも見ているのじゃないか?」
口々に 似たような会話が あちらこちらで囁かれている。当然 町長の耳にも届いているだろうが したり顔で 話を続けた。
「皆 静まれ!私は 国と交渉を重ねこちらの御二人に来ていただくことに成功した!紹介しよう・・・・・」
町長は 芝居じみた言い回しで グッと言葉をため・・・・
「我が国 タラクシャの王女 マリア姫と 魔王討伐の英雄 勇者ナオキ様だ!!!!!」
正直、こんな人前に出るのは好きではないのだが 民の前に姿を晒し 安心させるのもまた、王族や勇者の仕事なのだとマリアに窘められたのだ。マリアと俺は 旅の出で立ちではなく マリアは淡いピンクのドレスを俺は 見栄えのいい ミスリルの鎧を身に纏っている。
そして、舞台の脇から 前へ出ると 一瞬 観衆は ポカンとし 広場は静寂が支配するが どこからか上がった歓声は 瞬く間に全体へと伝播した。
歓声は 10分以上も続いたが ようやく そのボリュームが下がったところで ようやくマリアが 口を開いた。
「皆さん お集まりいただきありがとうございます。私は 陛下の命を受け 参りました タラクシャの王女マリアです。そして こちらに控えるのは 勇者ナオキ様です」
名乗りを上げると 広場にはまた、歓声が沸き起こるが 王女のお言葉の途中と 警備兵や町長が集まった観衆を宥める。
「皆さん 勇者様の働きにより 森の魔物はほぼ 駆除されました。ですが 完全に 魔物が居なくなったわけではありませんし 時間がたてば いつも通りの数までは回復するはずです。通行に際しては 気を抜かず安全に配慮していただきたく思います」
そして ざっと 観衆を見渡し 俺の方へ手を向け
「勇者ナオキ様からもお言葉をいただきましょう!」
観衆からは先程とは比較にならないほどの 歓声が上がる。
オイオイ 聞いてないぞ・・・・・。
マリアの横へ行き 耳元で抗議の声を上げる。
「マリアの横で立っているだけでいいって言ったじゃないか!」
「民の様子を見れば そうもいかないでしょう?」
美しいマリアが悪い顔をしている。どうやら 謀られたらしい・・・・。
舞台の正面に出ると 更に歓声は大きくなり俺は キョロキョロし キョドってしまう。手汗がとんでもないことになってきた。ようやく 歓声がおさまってきたところで
「あ、あの・・・・ナオキです・・・・・。えっと・・・・気を付けて 旅を続けてください」
逃げるように 舞台の元いた場所まで下がると 呆然とする観衆から まばらに拍手が起こり しばらくすると全体へ広がるが 多くの者は 微妙な表情や苦笑いを浮かべていた。
「まあ 勇者様も 人の子と言うことだな」
「初々しくて いいじゃないか」
「聞けば 気さくで 下働きや 町の人にまでお優しいらしいしな」
等々 頼りない 挨拶も逆に好感を呼んでしまったらしい。とは言え へこむ・・・・。
引き続き 町長が 今後の予定 注意事項 また、商人達に宿代の補填として 森で倒した魔物の魔結晶を手渡されるなど 説明が行われている。
その中 マリアが申し訳なさそうに小声で囁いた。
「ナオキ様が ここまでこのような場を苦手にしているとは思いませんでした。少し意地悪のつもりでしたが 申し訳ありませんでした」
「そうだよ・・・・苦手なんだよ・・・・マリアなんて嫌いだ」
意地悪の仕返しのつもりで 言い返すと うつむき 涙目になった。ヤバい、言い過ぎた。
「ナオキ様に少し意地悪をしただけのつもりでしたのに・・・・そんな・・・・ぐすん・・・・」
「いや、違うんだ。俺も少し仕返しのつもりで!マリアのこと 大好きだから!!」
「知ってました」
マリアは顔を上げると カラッとした笑顔で答えた。またも謀られた・・・・。女の子には勝てないし 怖いです。
広場にはサヤ一家の姿もあった。
「あらあら ナオキさんが勇者様で マリアさんはお姫様とは お母さんは ビックリだわ。サヤ あなたもしっかり やらないと ナオキさんを取られちゃうわよ」
「もう!母さんは何を言ってるのよ」
サヤは顔を真っ赤にしながら言いながらも 心の中では違うことを考えていた。
王家の 召喚の秘密・・・・マリア様やシオンさんは ナオキさんに話せば 帰還を諦めると思っている。だけど ナオキさんの帰還への思いは・・・・「思い」と言う言葉では 足りない・・・・最早 執着や執念と言ってもいいほど・・・・もしナオキさんが秘密を知ったとき 本当に帰還を思いとどまれるのだろうか・・・・もしかしたら・・・・・・・・・。
それに、マリア様は 薄々 この不安を感じ取っているのかもしれない。でなければ とっくに打ち明けているはずだ・・・・。
「サヤ・・・・サヤ・・・・・サヤッ!!!」
「あっ お母さん何?」
「何って こっちが聞きたいわよ。どうしたの ぼうっとして?」
「ああ・・・ごめんなさい。ちょっと考え事をしてて・・・・」
「あら?また、ナオキさんのことを考えていたのね。もう、若いっていいわね」
その後も母さんは なにかいろいろ言っていたようだが 私の耳を素通りするだけであった。
また、広場の違う場所からも 鋭い視線を ナオキとマリアに向けるものが居た。和気藹々と楽しそうな2人を見ながら自身に課せられた命令を思い出す。
ここは ダリーン城内 王の執務室。
「陛下 騎士団団長 ロック参上いたしました」
部屋に入ったところで 頭を下げ王の言葉を待つ。
「ロック、ご苦労だな。まあ こっちに来て 楽にしろ」
「はっ」
ロックが机の前まで来ると 背もたれから背中を離し 今度は机に両肘をつき 組んだ手の上に顎を乗せ話し出す。
「お前に 仕事をしてもらいたくて 呼び出したのだ」
「はっ 何なりとお申し付けください」
「実はな タラクシャ王より書状が来てな 橋の工事の視察がしたいと言ってきた。まあ 建前上 断ることもできんので 了承した。視察に来るのは 娘の マリア姫と 勇者ナオキと言うことらしい」
「なるほど、では私に領内での護衛をせよと?」
王はその言葉を聞くと下卑た笑みを浮かべる。
「違うな・・・・お前には マリア姫を攫うか できなければ 殺してきてもらいたいのだよ」
「えっ?・・・・何を仰って・・・・」
王は 笑みはそのままに 射抜くような鋭い視線を ロックに送った。
王 曰く 今後の我が国の発展には 勇者様がどうしても必要だと。しかし、勇者様は タラクシャの操り人形で、タラクシャから離れることもできない。だから マリア姫を 攫うか殺すかして タラクシャ王家と勇者様の間に 亀裂を入れるのが 目的らしい。しかし、その様なことが 許されるはずもない。ここは命に代えても王をお諌めしなければ・・・・。
言葉を発しようとしたとき 王は もう一度 背もたれに体重を預け 呟いた。
「お前の妹は 確か 城内で侍女をしていたな・・・・最近 治安も悪く物騒だが 大丈夫か?聞けば年頃の美しい娘だそうじゃないか。何でも 若い娘が攫われ 見るどころか聞くことさえ憚られる様な行為を受けた後 無残に殺されるようだぞ・・・・お前も心配であろう?」
「へ、陛下・・・・?」
「・・・・・・・・・・」
王は無言だがその視線は 雄弁に全てを語っていた。
「はっ・・・・全力で事に当たらせていただきます」
「期待しているぞ」
ロックが 部屋を出るのを見送ると 王は 苦虫を噛み締めたように 表情を歪める。
王は 焦っていた。
レノを使った作戦は 完璧だったはずだが、勇者に看破されたのだ。そして 状況から自分が手を引いていたことにも 遅からず 気付くだろうと。
「・・・・・勇者め!」
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ロックは 舞台での2人の様子を見るや 苦虫を噛み潰したような表情をし 人ごみの中に消えていった・・・・。
町長の発表の後 町はお祭りのような状況となった。商人の多くは 出発の準備に終われ 準備の終わった者は 日のあるうちから 酒場で酒盛り・・・・町の住民も 自分達の町に姫と勇者が訪れたことを喜び 酒盛り・・・・。他にすることもないので 自然と 人は酒場に集まってくるのだ。
そして 多くの人が集まる酒場は 格好の情報収集の場となる。とは言え 酒の場 眉唾や出所の怪しい噂から 真実を射ているものまで様々でそこは 聞き手の 分析能力次第と言うところだろう。
ロックもまた 町にある一軒の酒場のカウンターで 客たちの会話に聞き耳をたてていた。多くは マリアとナオキの舞台の上での様子を見て 結婚 間近ではないかではと言うものだったが 他にも この町の医者をしているサヤと言う娘の家に 頻繁に出入りしていて その娘とといい仲ではないかと噂もあった。
ナオキは様々な国の美姫やマリアとの結婚も 辞退したが 自分達の町の娘と 恋仲になり 結婚まで至れば 町の自慢になると この噂は かなりの人気を博した。
ロックは この噂に目をつける。火のないところに 煙は立たない。2人が どのような関係かはわからないが 何かしらの関係はあるのだろうと踏んだのだ。
ロックと その仲間あわせて男女10人が違う酒場で集まり それぞれが行った情報収集の結果を 分析していた。それぞれの話を聞き終わり ロックは口を開く。
「やはり サヤと言う娘と勇者様は 深い関係と考えて良さそうだな・・・・」
一同は同意し頷く。
「それでは その娘には申し訳ないが利用させてもらう方向で作戦を立てるとするか」
ロックの言葉に再度 一同は頷く。作戦会議が一段落したと 集まった者達は 酒を飲み 思いを口々に語りだす。
「しかし 陛下もなぜ このような汚れ仕事を 誉れ高き我が騎士団に命じたのだろう?」
団員の一人が口にするとまた、違う団員が言う。
「相手はあの勇者様だ。失敗できぬ仕事だからこそ 団長以下我らに 命じられたのだ。そうでしょ?団長」
団長のロックは 悲痛な面持ちで 注がれた酒をじっと見つめたまま 動かない。
「団長?」
心配そうに団員の一人が声をかけると ロックはその酒を一気に煽り 飲み干すと 静かに語り出した。
「皆 すまぬな。この様な仕事に付き合わせてしまって。恐らく 陛下は私を処分したいのだよ。成功しても失敗してもな」
「そんな、まさか!?」
「だから 俺は 家族の居ないお前たちを随行に選んだ。作戦の正否に関わらず 作戦が終わり次第 国を出ろ。いや 安全を考えれば 違う大陸にまで逃げるんだ」
「陛下が私たちを殺すなど 考えられませんが もし逃げるとなれば 団長も一緒に!」
「俺は妹を人質に取られているからな・・・・。まあ どちらにしても責任をとる人間は必要だろう」
ロック以外の者は 皆 信じられないと言った様子だ。ダリーン王は意外にも 臣下達に信頼されており、ロックもまた、この作戦を言いつけられるまでは 信頼してた。
王は 自分以外の人間は一切 信用していない。王妃が 世継ぎを設けるため 夜伽に王の寝所に行ったが こう言って断った。
「何故 自分の王位を狙ってくるものを 自分で作らねばならぬ」
と・・・・。
王は30歳を超えても独身だったため 周りがうるさく カモフラージュのため 今の王妃と結婚した。しかも 世界一の美女と言われている者を娶ったため 側室の申し込みもほとんどなかった。
人を信用しない 王がどうして これ程までの信頼を勝ち取れたのか・・・・力のある貴族達に より力を与えないため 重要な役職から外し 空いた席には 仕事のできる 平民や下級貴族などを登用していった。そのものたちにとっては 家柄ではなく 自分の能力を正しく評価し 抜擢してくれた王を信頼してしまうのは無理もないのだ。
ロックもまた 平民出身であり、絶え間ない努力と 才能でどんどん出世を重ね 騎士団団長まで登り詰めた。人望もあったため 多くのものが ロックの周りに集まり始めると 王は面白くない。才能が有る者の周りに 更に才能有る者が集まれば それは 危険な存在となるため 王は何か口実を作って 潰したかったのだ。
信じてきたものに裏切られた 苦悩や苦痛・・・瞳に悲しみの色を滲ませ騎士団の面々の顔を見渡す。
「兎に角、陛下に殺されるも国外へ逃亡するも 勇者様に殺されてなければと言うことだ!作戦は成功させるぞ・・・・・」
自分自身に言い聞かすかのように言ったのだった。




