043
本人や イリスが言うには 本当にこのセーラー幼女は 人間や魔物からも信仰の対象とされている この世界 唯一の神 女神アプロ様らしい。
「まずは 改めて自己紹介しておこうかの」
そう言いながら アプロ様は何もないところに 座ろうとした。
まさかの 空気椅子!?
思った瞬間には 突然 椅子と机が現れ 彼女の転倒を阻止したばかりか その机の上には ティーセットが置かれているのを見て さすがは神様と 少し見直した。
ん!?
またもや 驚かされる!
とても懐かしい香りが俺の鼻腔をくすぐった。目の前に置かれ 湯気を上げる黒い飲み物、そこから漂う芳ばしい香り。
まさか!
コーヒーなのか!?
恐る恐る 一口 口をつけると コクのあるほどよい苦味が いっぱいに広がる。間違いなく コーヒーだった。3年以上ぶりのコーヒー、つい嬉しくなり カップの半分ほどを一気に飲んでしまい もっと 味わえばよかったかと後悔する。そんな 俺の様子を見たアプロ様は したり顔で 言った。
「どうじゃ?懐かしかろう。おかわりは まだあるからの、それより そろそろ話を始めてもよいか?」
「あっ はい、すみません」
おかわりがあると言う言葉に安心し 残ったコーヒーを一気に飲み干してから答えた。アプロ様は クツクツと笑いながら立てた指を軽く振ると 新しいコーヒーと おそらく おかわり用のポットが机の上に現れた。
「ワシは この世界や他に幾つかの世界を管理する この世界では 女神アプロと呼ばれ お前の元に居た世界の概念でも神と呼んで差し支えのない存在じゃ」
「幾つかって もしかして?」
アプロ様は ニヤリと笑う。
「そうじゃな お前が地球と呼んでいる星が存在する世界も ワシの管轄じゃ」
「!?」
地球も管轄している?それじゃあ もしかして!
しかし 心を読んだのか 表情から察したのか 彼女は俺の期待をすぐさま 打ち砕いた。
「残念だが それはできぬな」
俺は神の力で 元の世界に帰してもらおうと思ったのだ。
「ワシは 管理していても干渉はできんのだよ。そうだな、地球には その昔 お前たちが恐竜と呼ぶ 大きな トカゲが居ったのは知っておるな?」
「はい」
「なかなか 可愛い奴らじゃったが ワシの力で 隕石の衝突を回避したとしたら 今 お前は ここに存在しなくなるだろうな。人間は いまだに 裸で獣を狩してることになるだろうよ」
「・・・・・・」
言っている理屈はわかるが 俺を元の世界に戻すことと 隕石の衝突を等価で語られても・・・人間一人 世界を跨ぐだけじゃないか。
「納得してないようじゃな。ウム・・・蝶の羽ばたきで起こった風が遠く離れた場所で嵐になる・・・バタフライ効果じゃったか?これは 地球の言葉ではなかったか?それに お前の存在は 蝶の羽ばたきどころか 最初から嵐なのだ。その影響力は 半端ではないぞ」
一瞬で大きく膨らんだ期待が 簡単に弾けとんだ 衝撃は大きく 落ち込んだ俺を見たアプロ様は 申し訳なさそうな顔をした。
「すまんな。変に期待させるような物言いになってしまった。それに 我らの都合とはいえ お前には 辛い思いばかりかさせておる。まったくもって すまぬ」
「我らの都合って?」
「ああ、世界そのものや 世界を構成する全ての理に我ら神が介在してるのじゃよ」
「それじゃあ 全て 神様の手のひらの上って ことなんですか!」
俺はつい 怒気の篭った声をあげてしまう。
「否定はしないがな、全てをお前の肩に乗せるのは 違うだろうと いくつかの神に交渉はしておる・・・が なかなかの・・・。しかしな、未来の選択権は お前ら人間にあるのだ。それは忘れるでないぞ。いずれお前には 地球に帰るチャンスが訪れるだろうが その時 帰るか帰らぬか よく考えることじゃ」
意味深な言葉であるが 俺の心は決まっている。いや・・・選択の余地がないといってもいいかもしれない。
「アプロ様は 全てをご存知なのではないのですか?」
「ああ、知ってるさ。お前は 魔王になりたくはないのだろ?だが、それも心の持ち様だと言うことじゃ」
魔王になりたくない・・・・。
そう、俺は魔王なんかにはなりたくない!
アプロ様の言葉で 俺は あの日の・・・魔王軍の本拠地 南の大陸に入り魔王と 対決した日のことを思い出した。
勇者の武具をそろえ終わった俺は 南の大陸に上陸する。多数の魔王軍の軍勢の出迎えを受けたが 難なく排除し ついに 魔王城へと立ち入る。不思議なことに 城の中には 一切 魔物は居なかったが、しかし 城の奥からひしひしと感じる強力な魔力は そこに魔王が居ることを如実にあらわしていた。魔力の感じるほうへ一気に駆け 大きな扉を 開くと・・・
その部屋は 広大と言っていいほど 大きな部屋で 明かりもほとんどなく薄暗い部屋の奥に 椅子に座った 何者かが いや・・・魔王が居た。
俺は剣を抜き 近づく・・・部屋の中ほどまで来たところで ついに魔王が口を開いた。
「当代の勇者よ 待ちかねたよ さぁ 早く ボクの元へおいで」
魔王の声は ごくありふれた少年のものだった。俺は魔王の言葉に答えることもなく 更に近づく。徐々に魔王の姿が 確認できるようになるが その椅子に座った魔王は 声と同じように 体躯も華奢な少年と言う感じだった。しかし 外見はどうであれ そこから発せられる魔力は 間違いなく 俺と同等・・それ以上かもしれない。
いつでも 斬りつけられる距離まで 近づいた俺は 愕然とした。そこに座っていた少年に 見覚えがあるからだ。
「祐太?」
「あれ?君はどうしてボクの真名を知っているんだい?」
「何を言ってるんだ?俺だ 直輝だ!」
魔王は・・・いや 祐太は俺の名を呟きながら 目を閉じ 考え込んだ。
「・・・・・おー!直輝君か、久しぶりだね」
やっぱり 間違いない。祐太だ!祐太と俺は 家も近く 高校まで ずっと同じ学校で 何度か同じクラスにもなった。ガキの頃から よく一緒に遊び 気心の知れた まあ 親友と言っていい間柄だ。
「おい、酷いじゃないか!たった、3年 会ってなかっただけで 忘れるなんて」
「はははは、ごめんごめん。そっかー 3年か・・・君には 直輝君には3年なんだね・・・・」
そう言って 俯いた祐太だが しばらくすると 顔を上げ寂しげな笑顔で 語りだした。
「たぶん、学校からの帰り道 あの時に 同時に召喚されたんだろうね。直輝君は3年前かもしれないけど ボクが召喚されたのは 500年以上前だよ・・・数えるのも嫌になって 正確には分からないけどね」
「祐太は500歳以上には 見えないぞ?何の冗談なんだ?」
「まあ、信じられないだろうね。だけどさ、思い出してみて 直輝君はさ こっちに来てから 髪を切ったり 爪を切ったりしたことがあるかい?異世界人は この世界では 不老不死なんだよ・・・」
雄太が言うには 例え 大きな怪我を負って 放置してても 時間はかかるが 自然に治るらしい。それに 病気にすら かからない・・・確かに 祐太が言うように 病気にはかかっていないし 爪や髪も切った覚えがない。
「はぁーーー・・・・」
祐太は 大きな溜息を一つ つき続けた。
「本当は ボクが苦しんだ分 当代の勇者には 意地悪をしてやろうと思っていたんだけど、相手が直輝君じゃそうもいかないね。そうだね、直輝君には全てを教えてあげるから その代わりにボクのお願いを1つだけ聞いて欲しいんだ。いいかな?」
「事情があるなら聞かせて欲しいし 俺のできることなら 何でもするよ」
「ありがとう!むしろ 直輝君にしかできないことなんだよ。と言っても とても簡単なことさ」
祐太は 魔王の玉座から立ち上がり 数段ある段差に腰掛けた。そして 話が長くなるからと 俺にもそこに座るよう 促し 雄太の隣に座った。祐太とこうして 隣り合って座り語らうなど とても懐かしい感じがする。
「どこから 話せばいいのかな・・・・そうだね ボクも500年以上前に 勇者としてこの世界に召喚されたんだ。直輝君が使っている武具 ボクも使っていたんだよ。そして 数年の旅のすえ 君と同じように 魔王と対面したんだ。勝負は一瞬で 簡単についたよ。魔王を倒し意気揚々と タラクシャに帰ったんだけどね その後 直輝君にもあったんじゃないかな?人間の汚い部分をまざまざと見せられ しばらくしたら 城を飛び出し旅に出たんだよ。旅の途中に出会った女性と愛し合い結婚までしたんだけど ボクは不老不死、いつまでもこの姿のままだけど 彼女はそうはいかなかった。彼女は年老いていきボクはこのまま・・・・彼女はある日 突然 ボクの前から姿を消したんだよ。年を取らないボクが怖くなったのか 愛しているからこそ 年老いていく自分を見せたくなかったのか 今となってはわからないけどね」
裕太は遠い目をし 噛み締めるように話を続ける。
「その後も何度かは 人と関係を築き 絆を深めたけど 時間がそれらを蝕み 壊していく。だから誰とも関わらず 一人で孤独に生きていたけど そんな生活にも疲れはて 自ら死ぬことを選んだんだ。その頃は 不老であっても 不死だとは知らなかったからね。自分で自分の胸を剣で貫いた。だけど 目覚めたんだ。剣は胸から抜け 傷痕すら残ってはいなかったよ」
祐太は自分の胸を押さえながら 自嘲気味言った。
「死ぬこともできないことがわかって もうそこからは どこをどう歩いたかも覚えてない。気がついたら この魔王城に辿り着いていたんだ。驚いたことにさ 何百年も経っているのに 魔王の遺体はボクが倒したときのまま 腐りもせず 朽ちることもしてなかった。よく見るとさ 魔王の死に顔は とても穏やかで 幸せそうだったんだ。とにかく ボクが殺したわけだし そのままって言うのもね・・・・正直に言うとその時は ボクがこんな体になったのは魔王の呪いじゃないかと思ったんだよ。だから ちゃんと埋葬しようと思って・・・遺体を動かしたらさ 数百年経ってる訳だから 服とかボロボロになってたよ。 服の隙間に紙が挟まっていたのを見つけ そっと紙を開いたら これもボロボロで インクもほとんど消えていたんだけど いくつかの文字は読めたんだ。そこには 漢字と平仮名が書かれていてビックリしたよ。
魔王の遺体を埋めた後 魔王城の中を調べたら 結界に守られた部屋があって そこは 魔王の私室だったんだ。中は 結界のおかげで 全てが傷むこともなく 当時のままみたいで いろいろ見ていたら 魔王の日記を見つけたんだ。そこには ボクが欲しかった情報がすべて書いてあったよ。
日記によると この世界で 異世界から来た者を殺せるのは 同じ異世界から来た人間だけだって・・・。つまりね ボクが倒した魔王もまた ボク達と同じように最初は勇者として地球から日本から来てたんだよ」
俺は 目の前が真っ白になった感覚に襲われた・・・。祐太は何を言ってるんだ?いったい、どういうことなんだ・・・?
「信じられない 顔をしてるね。でも本当のことだよ。平和な世の中では 勇者を召喚することはない。でも 勇者を召喚してくれなくては 自分を殺せるものは居ない・・・。だから 魔王になるんだよ。だからボクも魔王になったんだよ。勇者を召喚させるためにね」
祐太は立ち上がり 俺の正面に立つ。
「話しはこれで終わりだよ。それじゃあ ボクのお願いを聞いてくれるかな。直輝君!さあ ボクを殺してくれ!」




