035
朝靄の中 数名の兵士が 所々 怪我をしたのであろう 血を流しながら 息も絶え絶え 森を抜け モニリの町の入口に辿り着いていた。
門番の兵は 不信に思い 警戒を強めたが 姿が確認できるところまで近づいてくると 国軍支給の装備を身に纏っていることに気付き 門番の方から駆け寄って行った。
「おい!大丈夫か?」
怪我をし 疲労困憊の兵達はそれでも必死の形相で叫ぶ。
「勇者・・・勇者様に至急 面会を・・・」
門番達はキョトンとした表情で答える。
「この町に勇者様は来ていないぞ?」
「そんなはずはない!森の魔物討伐のため ここに来ているはずだ」
「よくわからんが、とにかく詰所に案内しよう。傷の手当も必要だろう」
門番の一人が傷だらけの兵を詰所に案内する。兵達には一様に悲壮感が漂っていた。早朝で人通りがほとんどなかったので良かったが これが昼間であれば ちょっとした騒ぎになっていたであろう。
「勇者様は いたったいどこに・・・」
詰所に着くが 項垂れる 来訪した兵士達。
「このままでは 王都が・・・」
「王都がどうしたと言うのだ?」
現れたのは 警備隊長のジンだった。
「私はモニリの町を警備隊長を務めているジンだ。お前達は 王都から来たのか?」
「あなたが、隊長か!勇者様は、勇者様はこの町に来られてはいないのか?間違いなく 勇者様はこの町にいらっしゃるはずなのだ!」
ジンですらこの兵達の 迫力、必死さに気圧された。
「まあ、落ち着け。王都で何があった?どうして勇者様に会いたいのだ?」
「これが、落ち着いていられるか!王都が、王都がドラゴンに襲われているのだ!」
その場にいた者 全てが固まってしまった。ジンはそれでも なんとか声を絞り出す。
「バカな!なぜドラゴンが!?」
ジンが驚くのも無理はない。この世界においてドラゴンは 聖獣として人間から崇められている。魔物であることには違いはないが その力は 魔王に及ばないものの 魔王軍の将軍5人を束に相手をしたとしても勝てるほどだと考えられている。
また、ドラゴンは人間と魔王軍との戦いには感心を示さなかったし ちょっかいを出す魔物はことごとく 瞬殺していった。
そんな、ドラコンが人間の町を襲うなど考えられないのだ。
「ドラコンを止めれるのはもう 勇者様しか・・・」
「わかった!すぐに案内しよう」
ジンは詰所内の兵には口止めをした上 王都から来た兵と 警備兵 1人を連れ詰所を飛び出した。
「隊長、この町に勇者様が来ているのですか?」
「ああ、お前もお会いしているぞ」
警備兵はしばし考え はっ とする。
「えっ!?・・・・・もしかして あの貴族?では お供の女性は?」
「マリア姫だ」
「なっ・・・・。わ、私は打ち首に・・・。私は勇者様に無礼を働いてしまいました」
この兵は ナオキが初めてモニリの町を訪れたとき 門番をしていたのだ。
「安心しろ。勇者様は気にしておられない」
そんな会話をしているうちに ナオキが 取っている宿についた。慌てているジンは 勢いよく扉を開き 中に雪崩れ込むように 入った。
「おいおい ジンさん 店を壊さないでくれよ!」
「すまん!それより 盗賊の入った部屋を借りていた 男は部屋にいるか?」
「ああ、外には出ていないようだか?鍵も預かっていないしな。それより 何かあったのか?」
「ありがとう!事情は後でな」
そう言い残し 兵達はまたも 宿内を走っていった。どれだけ急いでいるのかと店主は呆れ顔だが 兵達は急がずにいられなかったのだ。
部屋の前につき 激しくドアをノックするが 返事がない。兵の一人に店主を呼びにいかせ 合鍵でドアを開けるが 中はもぬけのからだった。ナオキは部屋の中から転移魔法で外に出ていたのだ。
「こんな時に 勇者様は どこに・・・」
ジンは呟きながらも考える。そして、姫と侍女が町長の家に泊まっていることを思いだし 店主に 男が戻ってきたら至急 詰所に顔を出すよう 伝言を頼み またまた 走り去った。
町長の家に着き 呼び出してもらおうとしたが 昨夜 男が迎えに来てそのまま 戻っていないらしい。年頃の娘を預かっているのに 朝帰りどころかまだ 戻って来ないと 町長婦人は怒り心頭の様子だった。
「勇者様は どこへ・・・」
待たせていた 王都からの兵のもとに戻ると 彼らの顔色は相当に悪くなっていた。見れば 足元には少なくない血が流れている。
「すまない。怪我をしているのに無理をさせた。取り敢えず 医者に行こう」
ジンの言葉に 兵達は叫ぶ。
「我々がどうなっても構わない!それより 勇者様を探さなければ」
「君達に今 必要なのは 医者だ。勇者様のお顔を知っているのは 今 ここに居る者くらいだ。王都程ではないが この町も相当に広い。この人数で 探すなど不可能だ。それに 森に入られている可能性もある。ここは町で 門 町長の家 宿など勇者様が立ち寄りそうな場所で待ち構えたほうが 確実で早いだろう。君達に倒れられたら 勇者様のお顔を知るものが 更に減ってしまうではないか」
これは、効率と確実性から来た言葉であるのと同時にジンの優しさから来た言葉でもあった。
「わかった。では 医者の所に行こう」
一行はそこでようやく 勇者と出会うことができた。
王都から来た兵たちは サヤに治療してもらっている。そして ジンとナオキはリビングで 話をする。
「勇者様 どうして サヤの家に?」
「いや・・・まあ・・・いろいろ ありまして・・・」
ナオキは 頭を掻き少し照れながら 答える。
「ナオキ様もすみに置けませんな・・・などと言ってる場合ではないのです!」
「どうかしたのですか?」
「王都がドラゴンに襲われているそうです!」
「!?」
絶句する ナオキを見て さすがの勇者もこの事態には驚きを隠せないのだと ジンは思った。
「王都は お父様は無事なのですか?」
泣きそうなになる マリア
「詳しい状況は分かりかねますが 時間的にそろそろ ドラゴンは 王都に到着しそうだと・・・町の住民達は町を出たそうです。 病気や年寄りなどは 城へ避難し 王は城に残られているそうです」
「だけど、ドラゴンほどの魔物が動いていれば 魔力の波動で気が付くはずなんですが・・・・」
首を傾げるナオキは 更に考え込み 口を開いた。
「そう言えば 王都からの兵は 森を抜けてきたそうですね?どうして 転移してこなかったのですか?」
ジンが受けた説明はこうだ。
モニリの森を王都側に抜け 徒歩で3日歩いたところにスナジムと言う町があり 王都からスナジムまでは転移を繰り返し 辿り着くことができたらしいが そこから 何度 転移を試しても 先に飛ぶことがず 仕方なく馬で森の街道を進むが 繰り返される戦闘で馬を失い 怪我を負い 命からがら モニリの町にたどり着いたらしい。
「転移ができなかった・・・ドラゴン程の魔力を感じない・・・まさか?」
俺は意識を集中する。
「やっぱり!」
「どうかしましたか?」
ジンさんは 俺の様子と言葉に何事かと尋ねてくる。
「結界です」
「結界?」
俺はなんて愚かなんだ。目の前のことしか見えていなかった。森の中しか走査しなかった。もっと広範囲に気を配っていれば簡単に気づけたはずなのに・・・。
俺は悔しさのあまり握りこぶしを作ったのを見てシオンさんは言う。
「それはナオキ様のせいではありません。誰もそこまで想定などできないのですから」
「あれ?声に出てた?」
「いいえ、ナオキ様の考えてらっしゃる事くらいお見通しです。それよりも急いで王都に戻られたほうがよろしいのでは?」
そんな場合でもないのに それでもシオンさんは優しく微笑んでくれる。
「いや、取り敢えず結界の様子を見てくるよ」
「ナオキ様なら 王城の時のように 結界を突破できるのでは?」
「多分できるよ。だけど ここまで周到に計画を立てているし、何があるか分からないから できるだけ事を明らかにしておくほうがいいと思うんだ。それに ドームのこともあるし」
ナオキは結界の近くに転移した。観察すると スナジムの町の近くで モニリの町と森から王都方向へ 扇状に かなり広い範囲に結界は展開されていた。そして、その結界も波のように 強いところと弱いところがある。ここから考えられることは 複数の人間を配置して 結界を結合させていると言うことだ。
結界の強い部分へと移動すると 魔方陣の中央に座り瞑想状態の人間がいた。周りには護衛と見える者が3人。服装からはどこの人間かは判断できないが 捕まえて締め上げれば わかるだろう。
ただ 目の前の者達を捕まえた瞬間 結界が切れ他の連中に気付かれて逃げられてしまう。全員を捕まえる必要は無いだろうが手掛かりは多い方がよい。
一計を案じ 準備を整え行動に移す。
魔力弾を4つ作り 茂みから目の前の4人に攻撃を加える。不意の攻撃に気付くことすらできずに 4人は意識を手放した。
予想通り結界は 一部が切り取られ分断された。ここからは時間の勝負と 気を失った4人と共に結界の一番 端に転移した。
結界は俺が切り取った所から順番に消えていく。結界が消えたことに気付いた隣の者が逃げ出し また、消えたことに気付いた隣の者が逃げ出す。そんな感じなのだろう。今更だが 反対の端から攻めればもっと時間を稼げたのにと 少し反省。
とにかく 時間がないので 行動に移した。捕まえた奴等は気を失っているが 念のため 催眠魔法も掛けてやる。これで しばらくは 目を覚まさないだろう。
そして、今度は目の前の4人組に堂々と出ていく。
「お前たち ここで何をやっている?」
あからさまに ガラの悪い 3人組は 俺を威嚇してくる。
「お前には関係ない。怪我をしたくなければ立ち去れ!いや・・・見られたからには 死んでもらったほうがいいのか?おい どうする?」
3人組の一人が 他の2人に ニヤニヤしながら 話を振った。まあ 俺をビビらせて追い払おうとしてるのだろう。
「怪しいやつめ!捕まえて 詰所に連れて行ってやる!」
テンプレな会話に 何故か棒読みの台詞をはく。俺って 役者の素質ゼロだな・・・。とにかく 俺は 次の行動へ移す。
「わーーーー!」
俺は また 感情の篭っていない 雄叫びを上げ 3人組に向かって走り出す。だが 俺の目標は 魔方陣の中に居る魔法使いだ。3人の間をすり抜け 魔法使いにタックルを食らわしてやった。
「おい、待て!」
慌てる3人組だがもう遅い。魔法使いも瞑想から覚めたが 事態を把握できない。
「な、なんだ?」
尻餅をついた魔法使いは 俺が更に 詰め寄ると 後ずさりしていく。
そして 飛び込み ズボンに手を掛ける。逃げようとする魔法使い。結果として ズボンは少し ずり下げられた。
そう!俺は この時を 待っていた!・・・・・・いや・・・待ちたくなかったけど・・・。
心の中で 大きく溜息をつく。どうせなら こんなむさいオッサンではなく うら若き女性の・・・いやいや そんなことしたら 犯罪だ・・・。
とにかく マリア達に作ってやった ミサンガと同じ要領で コヨリ状にした魔力符を魔法使いの下着・・・つまりパンツに融合させた。
「おい、ずらかるぞ!」
4人は 慌てて 逃げ去っていった。俺は 追うことはしないが 「こら~~~ まて~~~」と 声だけは かけておく。
現代風に言うと発信機をつけて泳がせたのだ。これで 奴らがどこの人間かわかるだろう。ちなみに 服に魔力符を融合させると 逃げる際どこかで着替える可能性がある。だが 下着 特にパンツまで 着替える可能性は 極めて低いと 思ったのだ。
周囲の結界は綺麗に消失した。改めて 王都方面に意識を集中する。いや、集中しなくても ドラゴンの魔力の波動は ひしひしと伝わってきた。ドラゴンは まだ、王都まで到達してないようだが 時間の問題だ。
俺は 捕まえた4人と共に モニリの町の警備隊詰所に 転移する。突然現れた 俺に詰所内は騒然とし 武器を構えようとする。
「何者だ!」
「俺は ナオキ、勇者ナオキです。ドラゴンの件は ご存知ですよね?こいつらは この件に関係してるようです。とにかく 牢に放り込んでもらえますか?」
「あなたが 勇者様でしたか。失礼しました」
「では お願いしますね。俺はジンさんに 合流します」
「わかりました」
サヤの家に戻ると マリアは不安げな表情で駆け寄ってきた。
「いかがでしたか?」
「どこの手の者かはわからないけど やはり 結界を張っている奴等が居たよ。ドラゴンの方は もう少しで 王都に辿り着くってとこだね。俺は今から 王都に戻るよ」
マリアは決意に満ちた視線で俺を見てくる。
「ナオキ様 もう置いていくなんて申しませんよね?」
「だけど」
「私はタラクシャの王女です。民や国を捨て一人安全なところに居るなど できません」
「はあー」
マリアの表情、視線を見れば俺に拒否権は無いようだった。
マリアを横に立たせ 転移しようとすると スッと自然に反対側にシオンさんが立つ。
「シオンさんも?」
「当然です。私はナオキ様の侍女、主あるところ どこまでもお供するのが 侍女の務めです」
こっちも拒否権は無いようだ。
「それじゃあ 行こう」




