027
どれくらい経ったのだろう?人の気配で目を覚ます。静かに身を起こし 扉を見ると 解錠を試みているようだ。なんだか 急に 悪戯心が疼き 扉の前まで移動すると 鍵のノブを 手で押さえる。
「あれ・・・?」
「おい!早くしろ!」
「もう 開きそうだったのに 急に硬くなって・・・」
コソコソ話が 扉越しに聞こえてきて 噴出しそうになる。
「おい!いい加減にしろよ。こんな安宿の鍵ぐらい さっさと、開けろ!この程度もできない奴は要らねえ 殺すぞ」
なんだか、少し可哀想になって来たので タイミングを合わせて こちらから鍵を開けてやる。
「やった!開きました」
「遅いんだよ。まったく!」
だけど まだまだ 悪戯心は止まらない。今度は勢い良く 扉を開いてやると解錠を担当してた奴にぶち当たり 壁まで吹き飛んだ。廊下に出て 見ると吹き飛んで気を失っている男と後 3人の男が立っている。
「テメー 何しやがる!」
気を失った男を一瞥し
「まあ いい。それより 女を大人しく渡せば命だけは助けてやるがどうする?」
男の様子から鍵開けの男は町で臨時で雇ったのかもしれない。俺は3人の男達を部屋の中に促すと俺を警戒しながらも部屋へと立ち入り見渡すほどもない狭い部屋を確認した。
「女はどこへ はうっ」
言い終わるのも待たずに 鍵開けの男を中に投げ込んでぶつけてやった。そして、静かに扉を閉める。
「クソー 何しやがる!」
扉を叩きながら叫ぶ男に
「みんな 寝てるから 静かにしてくださいね」
言いながら 部屋を壊されると 宿の主人に悪いと思い中に結界を張ると 先程まで 叫び扉を叩く音が嘘のように静かになった。騒ぎを聞き付けた 宿の主人がやって来たので中に盗賊を閉じ込めたことを伝えた。
「俺は警備兵を呼んできますので ご主人は ここを見張っておいてください」
「ああ わかった。すまんが頼む」
さて、外にも見張りくらいは 居るだろうな。宿の入口の横にある窓から外の様子を窺うと路地から こちらを見ている男が居た。さて、どうしてやろうか?しばし考え堂々と 宿屋を出て そいつに近づき
「宿の中で ガラの悪いおっさんに伝言を頼まれたんだけど あんたでいいのかな?」
怪訝そうな顔をするも 「ああ」と答えた。
「今から 楽しむから出るのはしばらくかかる。後で交代してやるから そこで待っていろ。だってさ」
「ちぇ お頭もするいぜ・・・わかった ありがとう」
返事を聞き俺は立ち去り 警備兵の詰め所に向いながら2人には聞かせられない嘘だな思いつつ 心の中で謝罪する。警備兵の詰め所に付くと 何やら 慌しかった。隊長のジンさんが見えたので 声をかけてみた。
「ジンさん こんばんは こんな夜中まで 仕事ですか?何かあったのですか?」
「ああ これは ゆう・・・ナオキ殿。実は この町に住む少女が1人 行方不明になってまして。1人で町を出た と言う 証言もあるのですが 確認も取れず ただ 今のこの町の治安を考えると 誘拐されたと見るほうが・・・」
「誘拐ですか・・・実は 俺の部屋に あの2人の女性を狙って盗賊が入りまして とりあえず 部屋に閉じ込めてます。もしかしたら 関係あるかもしれませんね?」
「おおっ 本当ですか!?では 至急 向かいましょう」
夜勤の隊員の多くは 見回りに出ていたため 寮で休んでいる 若い隊員たちを叩き起こし 15人ほど かき集め 宿屋に向かうこととなった。宿屋の近くまで来ると 例の見張りがブツブツ言いながら 律儀に待っているのが見えた。
「早く代わってくれねえかな・・・あんないい女 滅多と拝めね 俺も早くヤリたいぜ」
俺の付いた嘘とは言え マリアとシオンさんで そんな想像してると思うとなんか 腹が立ってくる・・・。やっぱ 嘘はいけないね・・・。そして 静かに近づいた警備兵に 後ろから 取り押さえられる。
いい気味だ・・・。
宿に入り 部屋の前で 結界を解除したが意外にも静かだった。扉を開けると 4人とも疲弊した顔で 床に座り込んでいた。警備兵に何か聞かれ答えていたがガラガラ声になっていたので 相当 叫んでいたのだろうと想像できる。
こっちも いい気味だ。
男達は警備兵に連れて行かれた後 宿屋の主人が
「すまなかった。盗賊にお客の部屋に入られるとは 本当に面目ない。お詫びに宿代は こちらで持たせて欲しい」
「いえ そんな 気にしないでください」
断ろうとしたが 主人に押し切られてしまった。部屋に入り 一息つくが すぐに
「よし!行きますか」
魔法を発動すると そこは昼間に来た森だ。昼間のことが 気になり 調査のため再度 やって来たのだ。
「まあ 調査って言っても 俺にできるのは 魔物を倒していくしかできないんだけどな」
森は 町と違って真っ暗だ。月は出ているが 木々に遮られ 光は足元には届かない。だが、俺には 問題ない。この世界に来てから 五感は自在にその上限を上げられる。視覚に頼らなくても匂い 音 空気の動きなどを敏感に感じ取れる。正確には視覚すら 僅かな光でも辺りを確認できる。更に魔力の感知能力は五感の比ではない。この森くらいの広さなら魔物 全ての位置を正確に把握することもできるのだ。
「おかしい?また、魔物が増えている」
自分達が 今朝 ここに来たときと同じくらいの魔物の数を感じる。念のため 自身の魔力を使い 森全体を走査してみるが結果は変わらない。魔物の数 以外はおかしな所はないが 違和感は感じる。昼間はそうでもなかったが 夜になって 強く感じるようになった。
「空気が重い。まるで、南の大陸に居るみたいだ。とにかく、魔物退治していきますか!」
無理矢理テンションを上げ 魔物退治を始める。森の魔物は俺にとっては雑魚ばかりだ。例え 大きな群れであろうと どんな連携を見せようとも力でねじ伏せていく。 倒しては転移し 倒しては転移しをひたすらく繰り返す。昼間の戦いと比較にならない かなりのハイペースだが、まだまだ 力を出してはいない。昼間は手を抜いていた。それで 2人に危ない思いをさせたのだから 反省が必要だろうが・・・。怖かったのだ。2人に 自分のあまりに強大な力を 人外さを見せるのが怖かったのだ。2人も 俺の力がこんなものではないことは わかっているだろうが それでも 想像と実際 目の当たりにするのでは 明らかに違うだろう。俺の本当の力を見たとき 2人はどのような反応をするか それを思うと 怖かったのだ。
そんな とりとめのないことを つらつらと考えながらも 戦闘は続ける。1時間も経つとすでに 昼間の戦果を越えていた。疲れたわけではないが 少し休憩をとることにした。自分1人なので わざわざ火を起こして お茶を淹れたりはせず、水筒に入れ持ってきた 水を口に含む。
「特におかしな所は ないよなー でも やっぱり 多種混合の群れもあったし んーーー・・・」
夜の狩りでも 3つの群れが 多種混合だった。注意深く 観察したが これらの群れのリーダーは 他の魔物より 強く 賢かったが それ以外 おかしな点はない。
「今度は 混合の群れを見つけたら リーダーだけ残して よく調べてみるか」
手掛かりは 皆無な状態だ。明確な異常と言えば 多種混合の群れ やはりそこに注目し調べていくしかないのかもしれない。もう一口 水を飲み 出発する。目を閉じ 魔物の気配を探ると 近くに激しい魔力の移動を感じた。
「誰かと戦闘をしているのか 一方的に襲っているのか・・・。とは言っても 戦闘なら相手の魔力を感じるはずだから 誰かが襲われている可能性が高いか。急ごう」
そう判断した俺は 魔力を感じた場所へ転移する。
しかし・・・・
俺の到着は遅すぎた。魔物のそばには 肩から肘の辺りまで 切り裂かれた少女が倒れていた。少女の周りには 全身の血液が流れ出たのではないかと思うほどの血が溜まり それを吸った 衣服は赤く染まっている。そして 強烈な血の臭い・・・。
「くそっ くそっ くそーーーーーーっ」
俺は叫びながら 魔物の数と同じだけの魔力弾を作り 一気に魔物へ 放つ。その全てをコントロールし 一撃で そして一瞬に魔物を 葬り去った。魔物を倒し 少女へと駆け寄る。少女の体は まだ 温もりを残しているが 肌の色は 血の気を一切感じさせない。急激な出血のせいだろうか 少女の心臓は 止まっていた・・・。
「くそっ・・・何が勇者・・・何が英雄だ・・・こんな幼い少女も助けれなくて 何が・・・」
とにかく まだ 間に合うかもしれないと 治療魔法 回復魔法を 慎重に繊細に魔力を調整しながら かけていく。みるみる 傷口は塞がり 回復魔法により 増血もされているはずだが やはり 心臓は動き出さない・・・。考えた俺は 一か八か 少女の衣服を破る。服に染み込んだ血が 体をも赤く染めていた。胸の 心臓の辺りにそっと手を沿え 慎重に 慎重に ごく弱い 電撃魔法を 一瞬だけ 彼女に流す。
「頑張れ!」
「戻って来い!」
「死ぬな!」
「頼む!」
必死に 人工呼吸 心臓マッサージを繰り返し 3回目の電撃を与えたときに 僅かに体に反応があった。胸に添えた手には微かな振動を感じる。耳を胸にあて確認すると力強い鼓動の旋律を聞き取ることができた。自発呼吸もしている!
「おかえり・・・」
俺は目頭に熱いものを感じたが まだ安心はできない。少女をそっと 抱き上げ 転移魔法でモニリの町の町長の家の前まで一気に転移し そして扉を激しく叩く。
ドンドン ドンドン ドンドン
「町長!町長!起きてください、町長!」
ようやく 部屋に明かりがつき 扉が開かれた。
「こんな時間に 何事だ?」
眠そうな声を出しながら 扉を開いた町長は その瞬間に目が覚め 驚いた顔のまま固まった。
「ゆ、勇者様、これは?」
周囲には血の臭いが漂い 服に染み込んだ血は乾くこともなく未だに滴り落ちる。そして、俺の顔や腕は少女の血で汚れて居たのだから 驚くのも無理はないだろう。俺のことを大きな声で「勇者」と呼んでしまったのもまた 仕方ないだろう。騒ぎに マリアやシオンさんも出てきた。
「ナオキ様 これは一体?」
「この子が森で魔物に襲われていたのを助けたんだ」
マリアとシオンさんは 森でという言葉に ピクリと反応したが場をわきまえ ここでは出かけた言葉を飲み込んだようだ。でも後で何か言われるだろう、覚悟しておかなければ・・・。町長は暗さに目が馴れてきたのか 少女の顔を覗きこみ
「スズではないか。どうして・・・。」
「とにかく、早く医者に見せたいのですが この町には医者は 居ますか?」
「この娘は スズと言って この町の唯一の医者の妹です」
「わかりました。場所は?」
「警備隊の詰所のすぐ近くなのですが お分かりになりますか?」
「詰所の場所はわかりますので また、そこで聞きます」
俺はまた、転移で移動しようとしたが マリアとシオンさんは
「待ってください。私達も ご一緒致します」
断る理由も 例え理由があったとしても断れないような気がしたので同行を認め 2人を連れ 詰所近くの路地に転移した。スズと言う名の少々を抱えたまま 路地を出て詰所へと入ると 当然 騒然となり 殺気すら生じた。
「ジンさん」
声をかけると 俺の姿を見るや 飛んできた。
「ナオキ殿 これは・・・スズ スズではないですか!?」
「この子の姉は 医者だそうですね?早く連れて行って 診てもらいたいのですが 案内を頼めますか?」
「わ、わかりました。私が案内します」
道すがら 事情を説明をする。
「森で魔物に襲われていたのです。ああ、一応 安心はしてください。治療魔法で傷は塞がっていますので 命には問題ないと思います」
「森で?やはり 1人で町を出ていたのですか・・・。我々が探していた少女と言うのが このスズだったのです。しかし 何故 森に入ったのか・・・?」
「それは 俺にもわかりせん」
すぐに 家に着いた。家には深夜だと言うのに 明かりがついている。ジンさんは 「サヤ サヤいるか?」声をかけると すぐに扉が開かれ 1人の女性が姿を現し 血まみれの俺とスズを見て 殺気の篭った視線となり 俺に詰め寄ろうとした。
「あなた、スズに何をしたの!」




