019
城を出て すぐに転移魔法を使い モニリの町の近くに移動し門まで歩く。
2人を少し離れた場所に待たせ 俺は門番の兵士に話し掛けた。
「こんにちは、あの 町長の家の場所を 教えてもらいたいのですが」
「町長に何の用だ?怪しい者・・・ではなさそうだが 用もない者に 教えるわけにもいかんぞ」
「国王陛下より 町長宛の親書を預かってきています」
「ははははっ・・・。バカにしているのか!」
兵士は 大笑いしたかと思うと 怒り出してしまった。嘘じゃないのに・・・。
「お前のような平民が 陛下の手紙をどうやって 預かるというのだ!
付くなら もっとマシな嘘をつけ。このまま 帰るか 詰め所で
取調べを受けるか 好きなほうを 選ばしてやろう」
揉めている様子を見て マリアとシオンさんも やってきてしまった。
「ナオキ様 どうしたのですか?」
「いや、陛下からの手紙を持ってきたのを信じてもらえなくて」
「でしたら 私が お話いたしましょう」
「待って!マリアが話すと こじれそうだから やめて」
「ナオキ様 失礼ですわよ」
兵士は苛立ち 声を荒げる。
「何をゴチャゴチャ言っている!どちらにするか 決めたのか」
はぁ 仕方ない。一度 ここを離れて 町の中に 転移しなおすか。
そんなことを考えていると また、違う兵士がやってきた。
「どうした?何を騒いでいる」
門番の兵は 声の主に気づき 敬礼しながら 答える。
「隊長!こいつらが 国王陛下からの手紙を預かってきていると 嘘をつくもので」
隊長と呼ばれた兵は 俺達を観察しながら近づいてきた。
「陛下からの手紙だと・・・君達 では その手紙とやらを 見せてもらえるか?」
「町長宛ですので 開封されると困りますが 見るだけでしたら」
「それで 構わん」
返事を聞き 俺は 手紙を隊長に手渡すと 彼はヒラヒラ 表や裏を確認し
蝋の部分に 視線が固定され 門番の兵に声をかけた。
「見てみろ、これは間違いなく タラクシャ王家の紋章だ」
蝋に押された紋章を門番にも見せた後 俺に手紙を返してくれた。
「本物のようだな。すまなかった。町長の家には 私が案内しよう」
ようやく 町に入り、隊長さんと 話しながら 町長の家へと向った。
「私は モニリの町の警備隊長をしている ジンだ。門番の兵が 失礼をして申し訳なかった」
「いえいえ 確かに 俺のような身なりのものが 陛下の親書を預かっているといっても
疑われて当然ですから」
「平民に身をやつしているようですが 侍女を従えてるところを見ると 貴族の子弟というところですか?」
「まあ そんな感じです」
俺がはぐらかすように答える。マリアは キョロキョロと町並みを楽しげに
見ながら 話し掛けてきた。
「それにしても 活気のある町ですね」
「国境の町で 交易の中継点でもあり モニリの森に入るもの 出てきたものは必ず
この町で 準備をしたり 休息を取りますから。
ただ、この人の多さは 森に魔物が大量発生して 足止めを食ってるものが
多いせいなのです。君達は その関係で ここに来ているのでは?」
ジンさんは さらりと自然に 探りを入れてくる。
「手紙の内容までは 知らされていませんので」
このモニリの町は 国境の町なので 国境警備のため かなりの数の兵士が常駐している
のだが 今現在 町の警備兵を除く ほぼ全軍が 隣接するダリーン領内に入り
魔王軍に落とされた 街道にかかる 橋の架け替え作業を ダリーンと共同で
行っている。人だけならば 渡し舟を利用すればよいのだが 行商人は荷馬車を
利用しているため船が使えない。そのため 10日以上の 迂回を余儀なくされている。
ジンさんの説明が終わる頃には 町長の家に着き ジンさんが取次ぎをしてくれ
出てきた 町長の奥さんと思われる 初老の女性とジンさんに続き
俺達は 町長の部屋に通された。
「私が モニリの町の町長 グレッグだ」
「私は 陛下の命により モニリの森の魔物討伐に来た ナオキと申します」
俺は 挨拶をし終え 親書を町長へ手渡す。
「おお、やっと軍が動いてくれるのか」
グレッグは安心した表情になる。
「いえ、軍は動きません。討伐に当たるのは ここに居る 私達 3人です」
「なっ」
驚きのあまり立ち上がったグレッグと いつの間にか グレッグの後ろに 控えた
ジンさんも驚愕の表情となる。
「何を馬鹿なことを言っている!」
怒りを露わにしたグレッグに続き ジンさんも声を荒げた。
「君達は モニリの森の広さや 魔物の数を理解しているのか?確かに 王都から
ここまで 森を抜けてきたのだろうから 腕には多少の自信があるのだろうが
3人でどうにかできる 問題ではないぞ!」
グレッグは怒りが収まらない。
「陛下は 事の重要性を理解しておられないのか?そもそも 警備軍の全軍を
他国の公共事業に提供したこと自体 間違っているのだ」
陛下の批判まで始めたグレッグを見て マリアの表情は 少し険しくなるが
なんとか耐えていてくれている。だが これ以上はさすがにまずい思い
話を進める。
「重要性を理解しているからこそ 私達3人を派遣されたのです。とにかく親書の中を
確認していただけますか」
ブツブツ言いながらも 親書を開き中を読んだ グレッグは 小刻みに震えだし
手紙を落としてしまう。だが 驚いたことに 手紙が床に落ちるより先に
グレッグが 床に落ちていたのだ。つまり 土下座していた。
この世界にも 土下座ってあるんだ。
「ゆ、ゆ、ゆ、勇者様に マリア姫 た、た、た、た、大変 失礼をいたしました。
ど、ど、ど どうかお許しを・・・・」
「勇者に姫?」
ポカンとするジンさんに対し 小声で町長が説明した。
「こちらの方々は 勇者様に 我が国の王女 マリア姫だ」
「こ、これは 失礼いたしました」
事態を飲み込めたのか ジンさんも 深々と頭を下げ 謝罪してきた。
「いいんですよ。最初にちゃんと名乗ってなかったわけですし ジンさんも嘘を付いてたのは こちらですから 気にしないでください。できるだけ素性を知られたくなかったもので・・・」
「ですが・・・」
「とにかく 頭を上げてください。町長も立ってください」
「は、はい」
町長とは言え 間近に 王女と会うことなどない。しかも ついさっきまで
その王女の父親の悪口を言っていたのだ。
2人は 並んで立っているが ガチガチに固まり まるで石像のようだ。
見ていて 可哀想になる。
「とにかく 魔物退治は 私達にお任せください」
「はい、よろしくお願いいたします。では 歓迎の準備をさせていただきます」
グレッグは微動だにせず言う。
「あー それは結構です。その必要はありません」
俺が断ると 怒っているのかと勘違いした グレッグは大量の脂汗が噴出していた。
汗をかく石造・・・うん TVの取材とか着そう・・・。
「あー 誤解しないでくださいね。今 マリア姫がここにいることが 公になると
相応の護衛や警備が必要になりますが ジンさん その余裕はありますか?」
「いえ・・・今 そこまでの余裕は・・・」
「それに ここは国境の町 ダリーン側の人間も 居るわけですし もしマリア姫に
何かあると・・・だから 姫が ここに居ることは 秘密にしてもらいたいのですよ」
今後の予定や打ち合わせをした後 ジンさんと共に町長の家を出た。
「ジンさん 俺達は宿を取った後 少し森に入ってみます」
「わかりました。あっ・・・」
ジンさんは 困り顔になる。
「どうしたんですか?」
「宿なんですが、今 足止めされている商人達で ほとんど埋まってるかもしれません」
「まあ 一部屋くらいは 探せば見つかるでしょう。俺は 別に外で野宿でも構いませんし」
「そんな・・・勇者様に野宿など」
「気にしないでください。魔王討伐の旅のときなんか 泥沼の中で 一晩過ごしたこともありますよ。それに比べれば 町の中の野宿なんて 天国ですよ。
まあ とにかく 一度探してみます」
「わかりました。では 私は 詰め所に戻ります。何かありましたら ご遠慮なく顔を出してください」
「ありがとう。あと 俺達のことは 内密にお願いしますね」
「承知しております。門番の者達には 貴族の方だと言っておきますので」
ジンさんとも別れ 宿を探し始めるが 言われたとおり どこも満室だった。
5軒目の宿に入り 店主に話しかける。
「2部屋 空いてませんか?」
「1部屋なら 空いてるが どうする?」
そして 店主は小声で続けた。
「お嬢さんとは 同じベッドでいいだろう?ふふふ、若いのだしな。侍女は床で寝ることになるがな。別料金で 布団は 追加できるぞ」
オッサン 何言ってるんだ・・・。だいたい 同じ部屋の床で寝ている侍女が居て
ベッドで あんなことや こんなこと できるわけがないだろうに・・・。
世の中には そんな趣味の人も居るかもしれないが 俺は違うぞ!
想像して 赤くなり 少し慌てて
「と、とにかく その一部屋を借りるよ」
「赤くなってるぞ!がははは ほれ 鍵だ。3階の一号室だ」
「ありがとう」
店主にからかわれ 鍵を奪うようにして 階段へと向かう。
「ナオキ様 店主と何を喋られてたのですか?赤いとか なんとか?」
そう聞いてくるマリアに対し ジト目で睨んでくる シオンさん。
シオンさんには聞こえていたらしい・・・。
「な、なんの話だい?」
とにかく誤魔化すが まったく誤魔化せていない。
部屋に入り マリアは開口一番 質問してきた。
「変わった部屋ですね。寝室が手前にあって リビングは奥にあるのですか?」
俺とシオンさんは キョトンとした目で見つめあい そして マリアへ視線を移し答える。
「いや、マリア この部屋しかないんだよ」
「そうなのですか?」
「庶民の使う宿は 普通 寝るだけのための施設だからね」
「そうなのですか・・・」
マリアは驚きの表情のまま 部屋を見渡す。部屋には 一人用のベッドと
窓際に 小さな机と椅子 それだけしかない。ベッドで 2人が寝るのも
床で 1人寝るのも 厳しい広さだ。
「ここで、3人は さすがに無理そうですね」
シオンさんは 冷静な意見を述べた。俺は少し考え 答える。
「それじゃあ 俺はここに泊まるよ。2人には 違う部屋を使ってもらうね」
シオンさんは またも冷静な意見を述べる。
「ですが 町の宿は ここが最後のはずですが?」
「安心して。あてがあるから!」
下に降り 店主に 泊まるのは俺だけだと伝え 鍵を預け宿を出た。
「どこへ向かわれるのですか?」
マリアが尋ねてくるが 任せてとだけいい ついさっき通った道をそのまま戻ると
当然 目の前には 町長の家がある。
シオンさんは 「なるほど そう言うことですか」と呟いた。
そして 再度 町長と面会する。
「いやー 宿を探したのですが 一部屋しか 借りれなくて、できれば ここに2人を泊まらせていただきたいのですが?」
俺は軽い調子で グレッグに尋ねると 彼は困惑した表情となる。
「我が家に マリア姫をお泊めするなど 恐れ多い」
「駄目なんですか?それだと 俺1人で 宿に泊まるわけにもいかないので3人で 野宿することになるんですが?」
これって 完全に脅迫だよね・・・などと思いながらも 背に腹は変えられぬ。
グレッグの背をもう一押ししてやるために 小声で言う。
「姫の行幸があり 行宮になったとなれば 町長にも箔が付きますよ。それに俺達は基本的に森に篭りますので 食事もいりませんし 寝る場所だけ 提供してくれればいいのですよ」
「そ、そうですな」
彼の中で計算の答えが出たのだろう。なんとか 承諾してくれた。
「ありがとうございます、町長。では 俺達は 森へ向かいます。夜には戻りますので寝所の準備をお願いします。後 俺達の素性は 奥様にも内密と言うことで お願いしますね」
「承知しております。では お気をつけて」
町長の家を出ると マリアが俺を称えてくれた。
「さすがは ナオキ様です」
「そうだろう!巧みな交渉術だ」
しかし シオンさんは呆れ顔だ。
「ナオキ様 今のは交渉ではなく 脅迫と言うのですよ」
まったく シオンさんは 耳がよすぎる。
町長には 森へ向かうと言ったが 丁度 昼時。
腹も減ったので 食堂へ向かうことにした。




