012
ナオキに休息を命じられたシオンだが 自室には戻らず 王城内のある部屋の前に居る。
周囲の様子を伺い 静かにその部屋へ入る。
「ヨーヒム様」
「シオンか。何 用か?」
シオンは ペレスとのことを説明し 今後の対応について 伺いを立てた。
ヨーヒムは 椅子の背もたれに体を預け 目を瞑りしばし考え 静かに目を開き
シオンへ告げる。
「では、ペレス卿のお相手をしてあげなさい」
お相手・・・その意味するところは シオンにもわかる。
「で、ですが・・・」
「良いか シオンよ、ペレス卿が勇者殿を 引き込もうとしているのは明白だが
各国の誘いを全て 断っている勇者殿に 今 接触するのは時期が悪い。ペレス卿も
それくらいの計算はできる男だ。それでも尚 今 接触してきたと言うことは
何か裏があるのか 誰かに唆されたのか。そのあたりを お前に 調べてきてもらいたいのだ。ペレス卿は 女にだらしがないからな ベッドの中では 口も軽くなろう」
「ですが・・・・」
逡巡するシオンに 鋭い視線を送る。
「お前は 私が拾ってなければ 幼少の頃に死んでいたのだ。言わば お前の身も心も
命までもが 王家のものなのだ。わかるな?お前は 王家の道具、道具は道具らしく
道具としての役割を果たせ」
その言葉に シオンは逆らう余地を持っては いなかった。
「わかりました・・・・」
シオンにはその後の 記憶が曖昧だった。気が付けば 自室で朝を迎えていたのだ。
「私は 道具・・・」
そう呟くシオンの目が虚ろだったのは 寝起きのせいではないのだろう。
朝食は喉を通らず ほとんどを残し 身支度を終えた後 ナオキの部屋へと向かった。
「昨日は 申し訳ございませんでした」
「もう、大丈夫?無理しないでね」
「はい、ありがとうございます。では 失礼します」
そう言い残し 控え室に戻っていってしまった。
・・・シオンさん やっぱり 様子が変だな。昨日 何かあったのか?
シオンさんのことは この世界に召還された頃から見知っていた。あまり 接点が
あったわけではなかったが とても綺麗な人だと言うのもあるし それ以上に
意思や生気といったものを感じさせない 目や表情。 元の世界でも まだ、人と
同じような ロボットやアンドロイドなんてものは 存在しなかったけど
あれば こんな感じなんだろうと思わせたのだ。
ただ、ここ最近は 違ってきていた。表情が豊かになり 近寄りがたい雰囲気から
親しみやすい雰囲気へとかわり、とても魅力的になってきていた。
しかし、先ほどのシオンさんは あの頃の無機質な表情に戻っている。
やっぱり 昨日、何かあったのか・・・出会った頃の表情に戻ったことが
悪いことだと言うのは俺の身勝手な意見かもしれない。でも そう さっき思った
「無機質な表情」ってのは 違う その瞳には 確かに「苦しい」「辛い」そんな
感情が 見て取れたのだから。
「どうしたものか?」
考えが呟きとした出る。こう言うのは やっぱり無理に聞き出すのは良くないんだろうな。
本人が 話す気になるまで待つしかないのかな?
結局 答えの出ないまま こうしていても仕方ないと ターシャを伴い召還の間へ
向かうことにする。
「いってらっしゃいませ」
部屋の扉のところで シオンさんは 見送ってくれた。
「シオンさんも 無理しないで ゆっくりしてて。じゃ 行ってくるよ」
召還の間に着き ターシャを外で 待たせ 1人で入る。召還の間は 王族と俺しか
入ることを許されていないからだ。外で待たす侍女には いつも 「自由にしてて」と
言うのだが 律儀に待っていてくれるのが 心苦しいところだ。
部屋に入り 俺が持ち込んだ 椅子に座り 召還陣の解読を始めるが 頭に浮かぶのは
シオンさんのことばかりで 集中できない。
「やっぱり、シオンさんとちゃんと向き合って 話をしよう。それでも 言えないなら
無理に聞き出さなくてもいいじゃないか。自分ひとりで 考えていたって答えが出る
問題じゃないだろう。まあ ヨーヒムさん辺りが 俺の監視のために シオンさんを
派遣したんだろうけど・・・。だったら 話せないか・・・。って こうやって
1人で 考えても駄目なんだって!話をしに行こう!」
ナオキ自身 シオンへの感情がどのような物か 理解していないが
マリアへの気持ちに近しいものだと言うことは なんとなく自覚はしている。
だから、余計にシオンのことが気になるのだ。
召還の間から出て
「ターシャ 部屋に戻るよ」
「は、はい」
俺は 逸る心を抑えきれず 早足で自室へと戻った。
シオンがナオキとターシャを見送る様子を 影から覗く人物が居た。
ペレス卿だ。彼はナオキが 部屋から十分離れたのを見計らい ノックもせずに
侍女の控え室へと入った。
「ふふ、シオンよ 決心はついたか?」
「・・・・・」
沈黙は肯定。そう理解したペレスは シオンへと近づき、下卑た笑みを浮かべながら
脂ぎった顔をシオンの顔に重ねようとするが シオンは顔を背けてしまう。
「ふふふ、良いぞ!良いぞ!抵抗する女が 最後に心が折れる瞬間が たまらないのだ!」
すると、今度はシオンの服の中へ手を突っ込み 胸を荒く掴む。
痛みと恐怖で 身を硬くすることしかできない。
「ほー 思ったより 立派な胸をしているな!ははは たまらんな!」
ようやく胸から手を離したかと思うと 服の中に 入れたままの腕を 思いっきり
引き寄せると、薄手の服は簡単に 破けてしまう。その勢いで シオンは 転んでしまう。
床に寝そべった体勢になってしまい 両手で露わになった胸を隠す。
ペレスは シオンを見下ろし ニヤニヤしながら 言った。
「みな 最初はその様な態度をとるが 我が家には 世界中から集めた 様々な
薬があってな、それらを使うと どの女も ワシなしでは 生きてはいけぬ体に
なるのだ。シオンよ 楽しみにしておれ はははっ」
寝そべったまま 後ろに 逃げようとするシオンを ゆっくり 近づき 追い詰める
ペレス。
シオンの脳裏には 様々な思いが 浮かんだ。
「嫌だ、嫌だ・・・ だけど 私は道具・・・。私は 情報を集める道具・・・。
私は 男の欲望を満たすための道具・・・。でも 私を見てくれる人が居る。
シオンを見てくれる人が居る。ナオキ様は シオンを見てくれている」
そして 思いは 声となり 発せられた。
「いやーーー ナオキ様! ナオキ様 助けてください・・・」
「無駄だ!無駄だ!ここには 人があまり来ない。勇者殿もしばらくは帰ってこまい」
そう言いながら 追いついたペレスは シオンに跨り
胸を隠す両腕を引き剥がそうとしていた
その時
扉が開かれた。
「貴様! 何をしているーーーーーー!」
ナオキは 絶叫しながら 素早く2人のそばに詰め寄り ペレス卿を 蹴り上げる。
恰幅の良いペレス卿の体だが まるでゴムボールを蹴ったかのように 壁まで吹き飛んだ。
「げほっ がはっ」 悶絶し蹲っているペレスを一瞥し 着ていた上着を シオンさんに
かけてやる。
「シオンさん 大丈夫?」
「ああ、ナオキ様・・・ナオキ様・・・ううう」
俺の胸の中で 一頻り泣いた後 少し落ち着きを取り戻し 同じ頃 ペレスも
ようやく 普通に呼吸ができるようになっていた。
「お前!ワシを誰か わかっているのか?こんなことをして ただで済むと思うな!」
怒り心頭のペレスは言い放つ
「知らんな」
冷たくそう言い返した。
「なっ」・・・「あっ」
ナオキの言葉に一瞬絶句するが そこでようやく 自分の対峙した相手が誰か
気が付いた。
「ゆ、勇者殿。こ、これは 違うのです。勇者殿の誤解だ。えーー そう
そこの侍女が ワシを誘って来たのだ。」
鋭く 刺す様にペレスを睨みつける。
「勇者殿はご存じないかも知れんが 侍女は 大貴族の情けを受け 金集めをする
そう、金集めの道具として 売られてきたような ものなのだ」
俺の頭の中で 何かが弾けとんだ気がした。
「俺の大切な 大事な人を それ以上 侮辱するのは やめろ・・・」
言いながら ペレスのそばへ行く。
そして、ペレスの首に手をかけ 強引に立たせる。
「シオンさんを泣かせたのは お前か?」
「確か この国では 強姦は重罪だったはず」
「だったら、俺が お前に 罰を与えよう・・・」
首に掛けた手をそのままに 持ち上げると ペレスの足は 地面から離れた。
ペレスは 悶え苦しむ。
その様子を見てシオンは慌てて ナオキに駆け寄る。
「ナオキ様 それ以上は おやめください。お願いします。どうかお願いします。
ナオキ様は 勇者なのです。勇者は人の血で 手を汚してはいけません!
それに 私のために ナオキ様の手を 汚させるなんて・・・」
シオンの辛そうな顔を見てようやく 冷静さを取り戻し、ペレスを解放した。
俺の行動で シオンさんに辛い思いをさせるなんて 本末転倒じゃないか。
「ごめん、ありがとう シオンさんのおかげで 少し落ち着いたよ」
さて、後始末だな。
「ターシャ 居るかい?」
「は、はい」
「ターシャ 憲兵・・・いや ヨーヒムさんを 呼んできて」
ターシャが走っていくのを見送り フー 吐息を吐くと 力が抜け 近くにあった
椅子に座り込んでしまった。
「あれ?」
「ナオキ様 どうなさったのですか?」
気が付くと俺の目から 涙がボロボロと 零れ落ちた。
「シオンさんが 無事だったって わかって・・・安心したら・・・急に・・・」
「ナオキ様・・・」
座ったままの俺を シオンさんは優しく 抱きしめてくれた。シオンさんの胸の中は
とても柔らかく とても暖かかった。涙が止まり 落ち着いた俺が 「ありがとう」と
告げると 抱擁から 開放される。
そして シオンさんを見ると そこには 露わになった胸が・・・
「シオンさん む、むね・・・」
「ッ」
慌てて 俺の掛けた上着を 纏いなおす。
「ナオキ様 見ましたね?」
「えっ いや」
「はー まったく・・・。やっぱり、ナオキ様には 私が付いていないと 駄目ですね。
何を仕出かすか わかった物ではありません。ですから これからも ずっと 私を
ナオキ様の侍女として 勤めさせてください。
ナオキ様が元の世界に お戻りになるときも 私をお連れになってくださいね」
「でも、それは」
「いいですね?」
「はい・・・」
あっ 「はい」って言っちゃったって言うか 言わされた・・・。
そこには さっきまでとは まったく違う 晴れ晴れとした青空のように
微笑むシオンさんが 居た。
そうこうしてると ヨーヒムさんが ターシャに連れられ やってきた。
「これは?」
シオンさんの姿と 気絶している ペレス卿を交互に見て 悟ったようだ。
「シオンがペレス卿に襲われそうになっているところを 勇者殿が助けた。
そう、理解してよろしいのでしょうか?」
「まさにその通りです」
はー と溜息をつき ヨーヒムさんは 部下を呼び 何やら命令すると 部下達は
ペレス卿を抱えて どこかへ消えていった。
「勇者殿 ペレス卿の処遇については私に 預からせていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい、そのつもりで ヨーヒムさんを呼びましたし」
「わかりました。処罰については 陛下と相談の上 決定されると思いますが
ペレス卿は 国の重鎮、勇者殿の望む結果には ならないかも知れませんが
ご理解ください」
「わかっています。そもそも俺に 処罰を決める権限なんて ありませんし」
「では シオン、お前にも事情を聞きたい 付いて参れ」
「あっ 待ってください。さすがに この姿では まずいでしょ?先に 着替えさせて
あげたいのですが?」
今の シオンさんの姿に ヨーヒムさんが 欲情しても困る。
「それもそうですな」
「ターシャ、シオンさんに付いていってあげて」
ターシャと シオンさんは いったん宿舎へと戻った。
ヨーヒムさんも 執務室に戻ろうとするが 呼び止める。
「同じようなことが 起こらないように お願いしますね」
「ペレス卿もさすがに 懲りるでしょ」
「俺は ヨーヒムさんに言ってるんですよ」
ヨーヒムさんの視線が 鋭くなるが 俺も 負けないよう 強く睨み返す。
「シオンさんを泣かすようなことがあれば 戦いますよ?例え国を敵に回してもね」
追い討ちが効いたのか ヨーヒムさんは 降参だといわんばかりに 肩を小さくすぼめ
目を閉じ 「わかりました」そう 一言だけ告げ 今度こそ 部屋を出て行った。
着替えを済ましたシオンはヨーヒムの執務室に居た。
「ヨーヒム様 申し訳ありませんでした」
「まあ 良い。望んだものではないが 望んだもの以上の結果になったしな」
「望んだ以上?」
「ああ、現在 王家は他国に対し 無償に近い形で 物資を提供している。それに対し
ペレス卿をはじめとする 大貴族たちは 復興の景気に乗って その財力を 大きくしている。王家と貴族との力関係が悪くなっているのだ。だから、手を打ちたかったのだが
今回の件は 上手く使える。ペレス卿の領地 財産の一部の 没収辺りが 今回の
落としどころになるだろう。それに 公になることで ペレス卿の発言力も少しは
抑えられる」
その後 ヨーヒムは 事の始終を確認する。
「わかった。では 下がってよいぞ」
「失礼します」と言い 部屋を出ようとしたシオンを 呼び止めた。
「シオンよ 私を恨んでいるか?」
振り返り答える。
「恨んでなどいません。むしろ感謝しています。やはり、私はヨーヒム様に 拾われてなければ死んでいた身です。ヨーヒム様は 私に命を与えてくれたのです。とても感謝していますし、今は ナオキ様のおかげで 生きる目的も 見つけられました」
「そうか、生きる目的か。呼び止めて 悪かった。今日は ゆっくり休め」
「ありがとうございます」
ヨーヒムは 今度こそ 部屋を出るシオンを見送り 椅子に深々と座り 思いにふける。
勇者殿は 実に面白い、関わる者の多くが 変わっていく。「恨んでいるか」か・・・
私も変わってしまったのだろうか。
その日の深夜 城下町でも もう一つ 大きな捕り物が行われようとしていた。
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ここは ダリーン王城 地下牢
そこに 3人の姿があった。
1人は この城の主 ダリーン王 もう1人は 宰相 グフタス。
最後の1人は 青白い肌を持ち 手足は長く
爪の一本 一本はまるでナイフのように鋭く
背中には異形の翼を生やしている。
鎖に繋がれたこの男は 魔王軍 5人の将軍の1人
ドームだ。
「おい、魔物よ 儂のために働け」
座ったまま 鎖で縛られた ドームを見下ろし
いい放つ。
「お前は誰だ?俺をこのような目にあわせて 生きてられると思うなよ」
眼光だけで人を殺せそうな視線を受けても王は
たじろかない。
「ふんっ。儂は この国の王だ。儂は勇者を手に入れる。お前は その手伝いをしろ」
「ははははっ 人間の愚かな王よ 魔王様の仇の勇者を殺すのならば 手伝いもしようが 何故 お前のために 俺が動かなければならん」
王は 残虐な笑みを浮かべる。
「愚かなのはお前だ。魔王を殺した勇者をお前ごときが 倒せると思っているのか?」
ドームは 悔しそうな表情となる。王の言葉が
正しすぎる からだ。王は満足そうに 続ける。
「儂にもお前にも勇者を殺すことなどできない。ならば どうするか?簡単なことじゃ。勇者を儂の奴隷とするのだ。勇者の国も奪い 帰還のための召喚陣も奪い、その事を知らず 全てを奪ったのは儂だと知らず 勇者は儂に仕えるのだ。お前はその勇者の姿を影から笑えば良いのだ。どうだ?痛快じゃろう?その後は南の大陸にでも行って お前が魔王でもなんでも 名乗れ良かろう。お前の好きにすればいい」
ドームは驚愕の表情となりながらも
「人間の王よ。お前は 魔族より悪辣だな。だが、面白い!ははははっ 手伝ってやろう!」
「後の事は そこのグフタスに聞け」
王は そう言い残し 牢から出ていった。




