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「そこまで!」
メアリーの声が 中庭にこだまする。
「「はぁはぁはぁはぁ」」
踊子もイーエフも肩で息をする。
「いやぁ・・・・老骨には堪えます。はやり現役は退いて若い方に道を譲るとしましょう」
「はぁはぁはぁ・・・・いえ・・・・まだまだ 私など・・・・」
謙遜ではなく 踊子の素直な気持ちだった。
二人とも息を切らしてはいたが いち早く呼吸を整えたイーエフに対し 踊子はまだ 息が上がったままだ。これは やはり イーエフの洗練された動きに対して 踊子は無駄な動きが多く 運動量も比例して多くなる。なんとか 体力だけでついていっている状態なのである。
「しかし はやり 目的と目標のある若い方は 成長も速いですな。
踊子様 今でしたら 出雲様と互角の勝負ができましょう」
「イーエフの言う通りですね。素晴らしい 動きでした」
「あ、ありがとうございます・・・・・」
二人の賛辞は嬉しく思うが それでも素直に喜ぶことはできない。
「踊子様は まだまだ 納得していないようすですな」
「そう言うわけでは・・・・」
「構いませんのよ。その向上心が あなたと直樹君を結び付ける絆なのでしょう。その心を忘れずに日々 精進なさい」
「ハイッ!」
今度の言葉には 踊子も 同意し中庭に響き渡る声で返事をした。
「さあ、踊子さん ここに来てから2週間になります。彼も心配しているでしょう。そろそろ お戻りなさい」
シャワーで、汗を流しメアリー様の元を訪れると そう言われた。
直樹君・・・・
私は、私は 君に 会いたいよ!
たったの2週間、されど2週間。
恋する乙女にとっては 2週間でも永久の時のように思え それが 更に自分の気持ちの大きさを気付かせてくれるのには 十便過ぎる時間であった。
「ありがとうございました!」
踊子は その名前のように 踊る心を隠せず 大急ぎで 日本へと戻っていった。
一方 踊子が 姿を消してからの直樹と言えば・・・・。
「これじゃないわよ!」
「えっ!違うんですか?言われた所から持って来ましたよ」
「はい!男の子が言い訳しない!!」
「すみません・・・・」
望を異世界に残してきたこともあり 直樹は毎日 一度は ディディの元を訪れている。そして、望に頼まれ 足りない材料や機材を異世界に運ばされている。しかし、失敗が多く 直樹も自身の集中力が 散漫になっていることを自覚していた。
「踊子さんは 何してるんだろう?会いたいな・・・・」
自分の呟きで我に返り 苦笑いを浮かべる。
マリアは 異世界に連れてこられ 孤独に押し潰されそうになったとき 友達になろうと 手を差し伸べてくれた。
シオンさんは いつも俺の身の回りを気遣ってくれている。
サヤとは 心を同期させた。
遥は幼馴染 俺の一番の理解者だ。
踊子さんは?踊子さんと 何か特別な事があった訳ではなかった。でも彼女は共に戦うと言ってくれた。異世界に居たときですら ともに戦うと言ってくれた人など居なかったと言うのにだ。素直に嬉しかった。彼女の気持ちがとても嬉しかった。
「早く会いたいな・・・・」
そんな 悶々とし心が晴れないまま 2週間ほど経った ある日 ディディさんの所へ行くと
「私達 結婚するわ!」
「はぁぁぁぁぁ?」
「勇者様、なんて言うか 望とは 凄く気が合ってな」
「いや・・・・だって・・・・出会って2週間もないのですよ?」
「男と女に時間なんて 関係ないわよ」
どこかで聞いたような と言うか どこかで言われたような台詞だが その通りなのだろう。まあ それを否定してしまえば 自分のことを棚に上げ過ぎになってしまう。
「まあ・・・・何と言うか・・・・おめでとうございます」
「ありがと!」
望さんは ディディさんのたくましい腕に しがみ付き嬉しそうに答えた。ディディさんも 似合わないのに 赤くなり 照れているようだ。
「それより これから どうするんですか?」
「私 こっちの世界で 生きていくわ」
結婚するのだから当然でしょ と言わんばかりに答えるが 本当にそれで良いのだろうか?望さんは その本当の意味を理解しているのだろうか?
「望さん・・・・お祝いの言葉を口にしてから 何なんですが 本当に良いのですか?」
「当たり前よ」
「今は こうやって 俺は毎日 ここに来てますが 今後もそうとは限らないのですよ?時間が経てば 来る回数も減り そのうち来なくなるかもしれませんよ?そうすれば もう二度と地球には帰れなくなる。本当に 分かっていますか?」
「なんだ、そんなことを心配していたの?私は 家族も親戚も居ない 本当に天涯孤独なのよ。まあ 仲の良い友達くらいはいるけど・・・・そうね その子達に会えなくなると思うと寂しいけど 出会いがあれば 別れもある。いつも 覚悟はしていた事だし 悲惨な別れではないのだから・・・・・」
「心配するな!望は 俺が一生 守っていくさ!!」
今度はディディさんが 望さんの肩を抱き寄せ 力強く言う。望さんも そんなディディさんを見上げうっとりしている。
「お気持ちはよく分かりましたが 最後にひとつだけ・・・・別れはあると言ってましたが もしかしたら ディディさんとも別れるかもしれませんよ?」
ディディさんは少し怒った顔で そして、望さんは 何故か呆れた顔をしている。
「バカね。付き合ったり結婚する前に別れることなんか 考える必要なんてないでしょ!それにね、町にはイイ男が結構 居たから 別れたら また、別の相手を探すわよ」
「お、おい 望!」
「私、結構 モテるのよ。しっかり捕まえてなきゃ 何処かに行っちゃうんだから」
「ああ、分かってるさ!お前を誰かに渡したりしない。お前を手離したりしないさ!」
「ディディ!」
「望!」
二人は抱き合い 熱烈なキ・・・・。
健全な少年の前で やめてください!
まったく・・・・。
「あの~~~~ もう いいですか?」
「あ、ああ・・・・ごめんなさい」
二人は慌てて体を離し 恥ずかしそうにしている。恥ずかしがるくらいなら やらなきゃいいのに・・・・。
「こっちは 踊子さんに会えなくて 寂しい思いをしているのに 見せ付けてくれますね」
ディディさんは 照れながら頭をかき 望さんは恥ずかしそうに モジモジしている。
恋とか愛ってのも 不思議なものだな。俺の知る望さんは いつも 面倒そうに 気だるそうにしていたのに 今は キラキラ輝き いきいきした様子は十代の少女のようにも思えるほどだ。
「兎に角 どちらにしても 望さんは一度 地球に戻ってくださいね。出雲さんにも報告しないといけないだろうし 仲のいい友達がいるなら きちんと挨拶してください」
「うん、分かってる」
「ところで!刀の方はどうなってますか?まさかとは思いますが 二人で イチャコラしてて 進んでないとか言わないでしょうね?」
すると ディディさんは 一振りの刀を取りだし 鞘から抜く。
刀身は薄っらだが 赤みを帯びていた。恐らくだが オリハルコンを混ぜたことにより 出た色なのだろう。
「白鶴を元に 異世界と地球の技術を融合させた傑作!白鶴 改めて 『夕鶴』よ!!オリハルコンを微量だけど使ったせいか 赤くなったみたいなの。夕焼けって程 赤い訳じゃないけど それでも我ながらいいネーミングだと思うわ」
「俺も使ってみたが これは凄いぞ!俺の魔力でも 楽に使える上に 勇者様の 剣ほどではないが この世界の名だたる剣に匹敵する物だと思うぞ」
ネーミングにちょっと 格好イイかも と思ったのは 俺の中二心の所為かもしれない。
まあ 名前は置くとしても ディディさんが絶賛する出来だ 間違いないのだろう。
刀を受け取り ほんの少しだけ魔力を流してみると 刀身の赤みがさらに増し 夕鶴の名に相応しい感じになる。
ディディさんに 不要になった剣を固定してもらい 試し切りをすると 一振りで まるで豆腐を切るように簡単に 剣を切断する事ができた。性能も申し分ないようだ。
聞けば 重さや バランスなども白鶴と同じらしいので 違和感なく 使いこなせるだろうとのこと さすが ディディさんの仕事は完璧だ。
「完璧です!ディディさん 望さん 本当にありがとうございます」
お礼の言葉を告げ 夕鶴はそのまま 魔法で消す。
「後 これも返しておくぜ。欠片しか使わなかったから ほとんど 減っていぞ」
そう言って 手渡されたのは オリハルコンの塊だった。
「あっ それ 差し上げます。今回の報酬と結婚の祝いに 受け取っておいてください」
ディディさんは 目が点になっている。しばらくして 現実に戻ってきたようで 顔を左右に激しく振った後 俺にオリハルコンの塊を押し付けながら言う。
「バカ言え!こんな物があったら 盗賊が・・・・いや 盗賊なら 返り討ちにするが 盗賊どころか 王族にだって目を付けられるぞ!!この塊で 小さな国なら 国ごと買えるんだぞ。面倒な事はご免だ。これは返すからな!!!」
いいと思ったが 完全拒否された。冷静に考えれば ディディさんの言うことも もっともだ。
過ぎたお宝は身を滅ぼす と言うことだろう。
しかし、謝礼とお祝いを考え直さないと・・・・。
今後のことを少し話し合って 望さんを連れて 地球に戻る。別れ際 二人がなかなか 離れようとしない。何だか 俺の頭の中では ドナドナが流れていた。




