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「・・・・直輝君。私もこれで 君のハーレムの一員だな!」
「ハーレムって!?」
「違うのか?まあ 良い、これから 末長く よろしく頼む」
とてもロマンチックなシチュエーションだったのを踊子さんの一言で台無しにはなったが 彼女の気持ちは 嬉しく 心強いものとなった。
「さて、心強い相棒ができたことだし 張り切って仕事を終わらせよう」
「ウム、ところで こんな所からでは地上の様子など全く分からないがどうやって見つけるのだ?」
今 俺達が立っているのは 高層ビルの屋上。下を見ても人は豆粒どころか米粒より小さいくらいだ。
「俺は魔力を感じることができるからね。任せておいて!」
その場に座り込み 目を閉じ意識を集中する。察したのか 踊子さんはそれ以上 喋ることなく 少し離れた所の段差に腰を下ろした。
1時間・・・・2時間・・・・
時間だけが過ぎていく。
そろそろ 日付が変わった頃だろうか?
チラリと踊子さんを見ると 優しく微笑み返してくれた。
その笑顔を見るだけでドキドキが止まらなくなりそうだ。
そこから更に1時間ほど経ち 今日も諦めようかと 思ったとき 魔力の広がりを感じる。
人払いの結界だ!
「踊子さん!見つけた、行くよ こっちに来て!」
小走りで横まで来ると 俺は彼女の手を握る。驚いた表情をしていたが すぐに落ち着き 小さく頷く。
俺は踊子さんを連れて 結界の側へと転移する。
「この前も思ったが この魔法は凄いな!私にも使えるようになるだろうか?」
「んー ちょっと 難しいかな?魔法自体は簡単なんだけど消費魔力が半端ないから」
「そうか、それは残念だ」
言葉とは裏腹に微塵も残念さを出さず 意識は既に結界の中に向いているようだ。
人払いの結界は 物理的な障壁ではないため 入るのになんの抵抗もない。ただ 魔力を持たない普通の人は そこに入ろうと思わない 変な言い方だが、意識的に無意識にそこを無視してしまうのだ。
慎重に路地の奥へと進み 曲がり角の先に多数の気配と魔力を感じ そっと奥を覗き込むと 蹲った 女性に 数匹の犬が 群がり 更にその回りを10匹以上の犬が取り囲んでいる。大オオカミ程の大きさはなく 精々 大型犬くらいだろうか。しかし 確実に一匹 一匹から魔力を感じる。
倒れている女性の回りにはかなりの出血がある。
急がなくては!
「直輝君!犬は私に任せて 早く 手当てを!」
「分かった!すぐに応援に行くから 無理せず 身を守ることに徹するんだ!いいね?」
有無を言わさず 返事を聞く間も惜しみ 駆け出す。愛用のオリハルコンの剣を顕現させ 包囲を突破する際 2匹の犬の首を落とし 女性に群がる 4匹の犬の首も一瞬で 切り落とす。
踊子さんも いつもの日本刀を鞘から抜き 澱みのない 見とれてしまうほどの綺麗な構えで 犬の前に出る。しかし 構えの美しさからは考えられないほどの殺気が迸る。
さすがだ。これはつまり ゲームで言うところのヘイト管理 あからさまな殺気を出し 魔物の注意を集めているのだ。
踊子さんに見とれている場合ではない 俺もちゃんと仕事をしなければ。
倒れている女性は いたるところを 食いちぎられ 無惨な姿ではあるが まだ 生きている。
大丈夫!落ち着いて処置すれば助けられる。そのために 踊子さんは 体を張ってくれているんだ!
彼女を抱え 元いた ビルの屋上へと転移しそっと 下ろし 治療を始めた。
右足が かなりの箇所を食われている。
ゴメン!
小さく呟き 剣を振り下ろす。太もも辺りから 右足を切り落とした。
そして すぐさま 治療 回復魔法を使い 彼女の右足を再生させる。その後は 食われた所や噛まれた所を順に再生させていった。
サヤならできるのかもしれないが 俺には 一ヶ所ずつしか治療できないのだ。魔力任せに 手足の再生までできても 複数の傷を一気に治すことはできない。だから、かなりの傷があった 右足をあえてき切り落としたのだ。
これで 大丈夫だ
一通りの治療を終え また 路地へと転移で戻ると 10匹以上いた犬も残り3匹となっていたが 踊子さんは 膝をつき 体は傷だらけににっている。しかし 眼光だけは衰えず 正面を睨み付けていた。
その視線の先には 一人のローブを着た男が立っている。
「踊子さん!大丈夫?」
「これくらい 平気だ・・・・」
疲労から 肩で大きく息をし 痛みで顔を歪めているのだ 言っているほど 平気ではないだろう。
「あー?お前 踊子って言うのか?それじゃ お前が 舞姫なのか?」
表情に あからさまな落胆の色を落とし 更に続ける。
「なんだ、なんだ 噂の舞姫ってのは この程度だったのかよ!・・・・まあ、仕方はないか 所詮は出来損ないの 23号が作った組織の人間なんだからな。もういい お前 死ね」
残った 犬3匹が一斉に踊子さんに飛びかかるが 一閃 俺は 犬を一瞬で屠る。
「ん?その魔力 あんたが魔王さんか?なんだ、なんだ あんた こんな小娘にご執心なのかよ!?なら 尚のこと 殺しとくか!憂いは断っておかなければな」
「させると思うか?」
踊子さんの前に出ると 苦しそうに立ち上がり俺の肩を掴む。
「待ってくれ!直輝君 こいつは私が倒す」
「でも その体じゃ・・・・」
立つのもやっとなのに 歯を食い縛り 俺の肩を引き寄せると ヨロヨロと前に出る。
「この程度で倒れるようでは 君の背中など 守れないだろ!君の傍らに立つ資格など 無いだろう!」
「・・・・踊子さん」
立つのも やっと、小さく震えていたのに 刀を構えた瞬間 全てが静止する。
容姿や立ち振舞いに目を奪われるが やはり 踊子さんは武人なのだ。
全てが静止する中 彼女だけが 動いた。
速く鋭い!
普通の人間では 動いたことに気が付かないほど 自然に 仮に気付けた者も その速さに消えたと思うだろう。
袈裟斬りの 一振り
カキーーーーン
甲高い音が周囲に広がる。
男は ヌルリとした動きで ローブから腕を出すと 指一本を突き出し その指で踊子さんの刀を受け 刀は刀身の半ばで 折れてしまったのだ。
「なんだ、なんだ 渾身の攻撃が これとは 期待はずれも いいとこだ!」
踊子さんは その場で崩れ落ち 男は 手を向けるとそこに魔力が集まってくる。
まずい!
踊子さんと男の間に無理矢理 割り込み 間合いのないその空間で 剣を振るうことはでないので 逆手に持った剣の柄で殴り付ける。しかし手応えはなく 男は大きく後ろに飛び退いていた。
「なんだ、なんだ さすがは魔王さんだ!動きが全く見えなかったぜ!一度 手合わせを願いたいが あんたには 手を出すなって 言われてるんでな。まあ、残念だが ここらで 引かせてもらうぜ」
ローブを翻すと 人間とは思えない跳躍で 建物の屋上へと飛び上がると そのまま姿を消した。
「踊子さん 大丈夫?」
「・・・・白鶴」
白鶴は刀の銘なのだろう。折れた刀を抱き締め呟いく。
「私が、私が未熟だから 白鶴を折ってしまったのだ!私が未熟だから 直輝君の背中を守るどころか 直輝君に守られて・・・・
私には やはり 君の隣に立つ資格など 無かったのだ・・・・」
踊子さんは立ち上がると フラフラと歩きだし 数歩 歩いたところで 倒れてしまう。
彼女を受け止めると 頬には 涙のあとが・・・・
その後 踊子さんに 治療回復魔法をかけ 高層ビルの屋上へと転移し女性を回収したところで 出雲さんに連絡をいれ 指定された病院へ向かった。
診察室の前で 待っていると 出雲さんがやってくる。
「貴様だからこそ 踊子を任せたのだ!なのに何故 怪我をさせる・・・・貴様が付いていながら!!!」
珍しく取り乱した出雲さんは 俺の胸倉を掴み そう言い放った。
まったく 返す言葉もない・・・・
「俺は・・・・」
すると 扉が開き 踊子さんが出てくる。しかし そこにはいつもの 凛とした踊子さんは居なかった。ただ、力なくうな垂れ・・・・
「兄上 おやめください・・・・直輝君の責任ではないのです。ただ 私が未熟だっただけです・・・・。私が未熟ゆえに 白鶴まで・・・・」
「・・・・踊子」
俺から手を離すと 踊子さんの肩を抱き どこかへと消えていってしまった。
どうしたら いいだよ!
分からなかった・・・・どうしていいのか 分からなかった・・・・・
踊子さんの事は 好き・・・・いや 憧れていた。とても美人で 凛とした姿は格好良く 学校のマドンナどころか 象徴と言っても良い存在だ。
そんな人が 俺のことを
好きだと
背中を守りたいと
傍らに居たいと
言ってくれた。飛び上がるほど 舞い上がるほど 嬉しかった。
でも 共に過ごした時間はごく僅か。
踏み込んでいけば良いのか
そっと見守ったほうが良いのか
分からなかった。
踏み込んで 拒絶されるのが怖かった・・・・。
何をどうすれば良かったのか 分からなかった。
翌朝
また キタの家電量販店に行く約束をしていたが 時間になっても 踊子さんは 姿を現さなかった。電話をしても通じない。
俺の様子が変だったのも バレバレだったのだろう。みんなから問い詰められ 昨日の出来事を全て明かす。
「ねえ、直輝は 踊子さんに告白されてどうだったの?」
「そりゃ・・・・嬉しかったさ・・・・」
「・・・・そう。直輝も踊子さんのことが好きなんでしょ?だったら時間なんて関係ないわ!直輝は直輝の気持ちをできる事を 踊子さんと同じように ぶつければ良いじゃない!もしそれで 駄目だったら あなた達のは好きは その程度だったのよ。諦めなさい」
遥の言葉が 心に染みる。
突き放したような言葉だが まさに 言う通りなのだろう。
俺は ただ怖がって動けなかっただけだ。
だったら 俺には 踊子さんのために 何ができるのだろう?
踊子さんに 何を伝えれば良いのだろう?
俺自身 踊子さんをどう思っているのだろう?
俺の心の中で 自問自答は続いた。




