紡がれる詩は心に溶けて・・・
「どうした、トーマ。浮かない顔して」
「ん?俺、そんな顔してた?」
酒場のカウンターで、酒を飲みながら俯く俺に親父さん・・・マーカスさんが声を掛けてきた。
浮かない顔って、そんな顔してたのか・・・俺は。
「今日は弾くのか?」
「一応、持ってきてるからね」
そう言って足元に立て掛けているギターをチラリと見る。
「さて、ボチボチお客さんも入って来たみたいだし・・・」
ケースからギターを取り出し、いつもの様にチューニングを始める。
「トーマ」
「んぁ?」
名前を呼ばれて顔を上げると、俺の曲に合わせて踊ってくれたお姉さんが立っていた。
ブラウンの髪を肩まで伸ばしてる、クールビューティーなお姉さんだ。
あれ?俺、名前教えたっけ?
「名前、教えましたっけ?」
「いや、仲間内に聞いたんだ」
あぁ、納得。
俺の名前は常連さんには浸透してるからなぁ。
「そういや、最近見掛けませんでしたね」
「仕事で商隊の護衛で街を離れていたんだ」
「護衛・・・ですか」
ここは異世界。この酒場に来る客は近所の住人だけではなく、色々な人がやってくる。その中には荒事を仕事にする人も沢山居る。
「私の名前はリーゼだ」
「既に知ってるみたいですけど、トーマです」
笑いながら握手を交わす。
「今日はトーマの曲を堪能させてもらうよ」
「ハハ・・・。そんな大層なモンじゃないですよ」
いつもの様に、陽気に賑わう店内。
俺の曲に合わせて皆がリズムを身体で刻む。
「いいぞぉ!トーマぁ!!」
「今日もいい曲だなぁ!」
盛り上がる店内。ウェイトレスやトーマスさんまで盛り上がってる。
仕事しなくて良いのか?
数曲ほど弾いた俺は一息つく。
「ふぅ・・・」
「お疲れ」
トーマスが労いの言葉を掛けてくれる。
「親父さん」
「なんだ?」
「一曲だけ・・・・・歌って良いかな?」
俺の言葉に親父さんが固まる。
そんな、驚くこたぁないでしょ・・・。
さて、取り敢えず・・・。
俺はまた、いつもの様にギターを構えてゆっくりと曲を紡ぐ。
今まで店で弾いてきたのは陽気な曲。
でも、今回はスローペースの曲・・・。
店の客は、ジッと聞き入ってくれる。
「―――♪・・・―――――♪」
不意に紡がれた詩に、皆は目を丸くした。
俺は店では演奏しかしなかった。だから、皆は俺が歌うとは思っていなかったみたいだ。
俺も歌う事はあまり好きではない。でも、何だか無性に歌いたくなったのだ。
紡がれる詩は、自作の詩。
昔、片思いだった女性を想い作った詩。
周りの目なんて気にしない。
ただひたすらに歌った。
「―――――♪―――――♪・・・・」
最後のフレーズを紡ぎ、歌は終わる。
「あー・・・・お粗末さまでした」
店内の静寂に到堪れなくなって、ペコリとお辞儀をする。
すると、溢れんばかりの拍手が俺を震わせた。
「トーマ最高!!」
「歌も歌えたんだな!」
「何か、泣けてきた・・・」
予想外の賛辞に俺は恥ずかしくなってきた。
「どもッス」
ポリポリと頬を掻きながらカウンターに座る。
「あ、あの!トーマさん!!」
俺に声を掛けてきたのはウェイトレスの女の子だ。
「どした?」
「さっきの歌、感動しました!!」
「あ、あぁ・・・ありがと」
ちょっと頬が引き攣る。
いや、だって仕方がないだろ?歌を褒めてもらえた事なんて無かったから、嬉しいやら恥ずかしいやら・・・。
「また、歌を聴かせてください!!」
「ま・・・また、今度ね」
俺は彼女にそう言って、前を向くと親父さんがニヤニヤしていた。
「何ッスか?」
ニヤニヤ。
「~~~!何だよっ!!ニヤニヤと!!」
「『また、歌を聴かせてくださいね!!』」
ウェイトレスの言葉をそのまま言いやがった!!
しかも、ちょっと高めの声色で!!
「キモいっ!!」
「ヒドいっ!!」
ヒドくねぇっ!!
そろそろ、断片的な日常風景ではなく本格的な物語にしていこうかと思います( ̄▽ ̄;)