お姫様のワガママ
「よ。マリエッタ元気か?」
勝手知ったるなんとやら。
扉を開けて俺はマリエッタに軽く挨拶をする。
「トーマ、部屋に入るならノック位しなさいよ」
「いや、ノックしても聞こえねぇだろ?」
「そ・・・それは、そうなんだけど・・・」
なら、する必要ないじゃん。
この世界と繋がってから、俺は何度か遊びに来ている。
お陰で知人が結構増えたりしてる。
「ほら、そんな膨れっ面してないで」
「な!?ちょっと、頭撫でないでよ!!子供じゃないんだから!」
「俺から見れば、充分子供だよ」
払い除けられた手を振りながら、俺は呟く。
そんな俺の態度が気に入らないのか、マリエッタはジト目で睨んでくる。
おぉ、こわ・・・。
マリエッタはこの国の第一王女なんだと。
外見は赤い髪を腰まで伸ばしてる。ちょっとつり目がちの赤い瞳は髪と相まって綺麗の一言に尽きる。
身長は、俺が170だから・・・だいたい160位かな?
今日も美しいドレスを着こなすお姫様。
初対面で俺は年上かと思ってたんだが、聞いたら16だそうだ。んで、マリエッタは俺の事を年下かと思ってたらしい。
本当の歳を言ったら「嘘だ」「詐欺だ」と散々言われた。
やはり、東洋人は若く見られるんだろうか?
「そうだ、トーマ?」
「ん?」
「アンタ、仕事してんの?」
「フリーター」
「ふり・・・?」
「まぁ、色んな仕事の手伝いだよ」
「そうなんだ」
まぁ、21でフリーターもどうかと思うが・・・。
「今日は暇なの?」
「暇じゃなきゃ此処に来てないから」
俺の返答にマリエッタはブツブツと思案中。
なんか、イヤな予感しかしないんだけど・・・。
「ちょっと私に付き合「イヤだ」・・・」
「・・・ちょ「イヤだ」・・・」
「「イヤだ」まだ何も言ってないじゃない!!」
バンッと机を叩いて立ち上がるマリエッタ。
俺はそんなマリエッタをチラリと一瞥して、また手元の本に視線を戻す。
この本は、俺が持参した小説だ。こっちの世界は気候が穏やかでなかなか快適だ。
だから、こうやってソファで寛ぎ読書をするのが俺のデフォになりつつある。
「・・・・・」
「・・・・・・・・」
ツカツカと俺の横に来てソファに座り、上目遣いで俺を見るマリエッタ。
その目にはうっすらと涙が見えた。
「・・・・・ハァ」
なんなんだ、この生き物は。
「なんだよ」
「付き合って」
「なんだ、告白か?」
「違うっ!!」
えぇ、分かってますとも。
「じゃあ、なんなんだよ」
「え~っと・・・・」
「?」
「街に・・・・行ってみたい」
「騎士に頼みなさい」
「即答!?」
俺の返答が気に入らないのか、ガーンって擬音が背後に見える様な表情で固まるマリエッタ。
「どうしてダメなのよ!」
「当たり前だろうが。お前はこの国の王女だろう?俺みたいな庶民が連れて回って、何かあったらどうすんだよ」
「でも、前にトーマは武術の心得はあるって・・・」
「そりゃ確かにあるけど、俺が武術やってたのなんて何年も前の話だ。本物の騎士なんか相手にしたら10秒ももたんわ」
確かに俺は昔、武術を習っていた。祖父が道場をやっていたので子供の頃に少しだけ習っていた。
だが、その程度だ。
きちんと訓練を受けた騎士や兵士なんかじゃ簡単にボコられる自信がある。
「まぁ、俺じゃ無理だから他のヤツに頼んでくれ」
「むぅ・・・・トーマ冷たい」
「うっせ」
横でシクシクと泣き出すマリエッタ。
だがしかし!!
俺はそんな事じゃ屈しないのだ!!
いや、チラチラと俺を覗き見るマリエッタが視界の隅に入る。
泣き真似じゃねぇか・・・。
「ねぇ、トーマ?」
「あん?」
自分の要望を受け入れて貰えない事を悟ったマリエッタは俺の横に座り、言葉を投げ掛けてくる。
「最近、街の酒場に腕の良い楽士が居るんだって」
「ふ~ん」
「凄く巧くて、その楽士の音楽を聴く為に結構な人数が店に押し掛けるとか・・・」
「そりゃすげぇな」
パラリと本のページを捲る俺。
「その楽士は異国からの旅人で、見た事もない楽器で演奏するらしいのよ」
「ほうほう」
・・・バレてる?
そういや、店に何人か騎士っぽい人も居たもんなぁ。
「この国には珍しい黒髪でぇ・・・」
「・・・」
「瞳も黒いらしいの」
「・・・」
じぃぃぃっと、俺を見るマリエッタ。
「トーマでしょ?」
「何故バレた」
「私の専属騎士が店で見掛けたって言ってた」
「チッ」
今度から顔隠そうか。いや、まぁ別にバレても実害ある訳じゃないし・・・。
「聴かせてよ」
実害あったし。
「面倒くさい」
「聴かせて」
「イヤだ」
「聴かせろ」
「イヤだ」
「歌え」
「おい」
「踊れ」
「おかしいだろ!?」
「クズ」
「酷くねっ!?」
最後にクズ言われたし!!
まぁ、こんな受け答えっつーか会話するのがマリエッタにしてみれば楽しいんだろうな。
現に今、笑ってやがるし。
まったく・・・我が儘なお姫様だ・・・。
今回は如何だったでしょう?
基本、この作品はトーマ君の日常を描いていく方針でゴザイマス。
主軸は異世界での日常。閑話的な感じで元世界の日常を・・・と言った感じです。
こんな作品ですが、皆様、どうか生暖かい目で見てくださったら幸いです。
読者様からの、ご意見やご感想は作者にとって大好物なので、どうかよろしくお願いします。
では、また次回でお会いしましょう・・・。