トーマ、異世界に立つ
非常識な出来事に直面すると、パニックになるかと思ってたけど、意外と冷静に受け入れる事が出来るモンだと実感しました。
「で、アンタは何なの?」
マリエッタの言葉で思考の海から引き揚げられた俺は、彼女の問いに何と答えれば良いのか考えていた。
「・・・何なのか・・・・と言われても」
何て答えたらいいのだろうか?
「異世界の住人?」
「バカにしてる?」
「滅相もない」
そりゃ彼女の反応も最もだわ。
いきなり現れた奴が「異世界の人間です」なんて、誰が信じるんだよ。
「っと、そうだった」
俺はさっき買ってきた詫びの品を彼女に差し出す。
「これ、さっきのお詫びです」
「ん?」
「まぁ、こっちの世界のお菓子ですよ」
「菓子!?」
俺の言葉に、カッと目を見開く。
(やべ・・・選択間違えた?)
内心ビクビクしながらも、箱に入ったケーキを差し出す。
「た・・・・食べても良いの?」
「へ?・・・あ、あぁ。どうぞ」
なにやら目がキラキラとしている様だが・・・どうやら向こうの女性もスイーツがお好きな様だ。
「お〜!!これは美しいな・・・」
近所のケーキ屋で買ってきた物で、今回はシンプルにショートケーキなんだが、えらく気に入った様子。
「・・・!!うまい!この様な菓子は食べた事がない!!」
「喜んで貰えて良かった」
結局、四つ買ってきたケーキを3つも胃の中に収めた彼女は、ご満悦だった。
「トーマ」
「ん?」
「アンタが異世界の人間というのは理解した」
「理解早いな・・・」
「こんな菓子は私は食べた事もないし、見た事もない」
納得の判断基準がケーキってどうなんだ?
「まぁ、理解してくれたんなら助かるよ」
「でも、何故私の部屋の扉から現れたの?」
あ〜、確かに疑問だよな。それは俺も疑問だ。
「こればっかりは、俺にも分からん。自分の部屋の扉を開けたらココに繋がっちまったとしか言い様がない」
「ふむ・・・」
顎に手を当てて思案するマリエッタ。
「トーマはコチラに来ないの?」
「いや、行ってみたいのは山々なんだけど・・・」
問題がある。
もし、こっちからマリエッタ側に行って扉を閉めたら帰れません。では困るのだ。
だが、ここで俺はある事を思い出す。
「なぁ、この扉のそっち側・・・ドアノブはどうなってる?」
「ドアノブ?そんなの、こっちに来て確かめれば良いじゃない」
「いや、扉を閉めて帰れなくなるのは困るから」
「だったら、開けたままにしとけば良いじゃない」
・・・おぉ。そっか。
わざわざ閉めなくても良いのだ。
「じゃ、お邪魔します」
俺は扉を開けたまま、マリエッタの部屋に入りマリエッタ側のドアノブを確認。
ふむ、丸型だ。確かに左右に回るタイプだな。
「何か分かった?」
「俺側のノブと同じタイプだな・・・ならば」
『バタン』
「いきなり閉めても大丈夫なの!?」
「ん?大丈夫だろ・・・・多分」
「多分って・・・」
さて、ドアノブを右に回してっと・・・。
『ガチャ』
「ふむ・・・」
扉の向こうには石造りの長い廊下が伸びていた。
『バタン』
では、お次は・・・。
扉を一度閉め、ドアノブを左に回す。
『ガチャ』
「・・・おぉ」
扉の向こうには、先程の廊下ではなく、間違いなく俺の部屋があった。
「マリエッタさん」
「何?」
「このドアノブ、左に回して開けてみてくれない?」
「?」
俺に言われるままに、ドアノブに手をかけて左に回すマリエッタ。
『ガチャ』
扉の向こうには石造りの廊下。
と言う事は、俺がドアノブを左に回さないと世界は繋がらないという事か。
「なるほど」
原理は分からんが、とりあえず分かった事だけをマリエッタに報告。
俺の言葉に「そんな・・・」とか「でも、ありえるかも・・・」とか言っていたが、まぁ、そこは本人が納得してくれたらそれで良い。
しばらくマリエッタと話をしていたが、ポケットに入れていたスマホで時間を見ると午後6時になっていた。
「やべ。そろそろ帰らねぇと」
「もう帰るの?」
「そろそろ夕飯の時間だからな」
そう言って席を立ち、扉を開ける。
「ま、また来てくれる?」
俺の背中に投げかけられた言葉に、ヒラヒラと手を振りながら
「また手土産持ってくるよ」
と言って俺は自室に戻った。
自分の世界に戻った俺は、風呂に入り夕飯を平らげて自室に戻った。
「ふぅ・・・」
そういや、マリエッタと話してる時に知ったのだが、彼女はあの国の王女さまだった。
名前から気付けよって感じだが、俺の頭は非日常の出来事に沸いていたんだろう。
そんな事をぼんやりと考えていたら、不意にスマホが鳴った。
「メールか?」
ディスプレイに映るメールの内容を確認。
[久しぶりに呑みに行こうぜ]
高校時代からの友人からのメール。
卒業して3年・・・21になってもまだ学生気分の抜けない友人からのメールに苦笑を浮かべながら返信する。
[気が向いたら行く]
呑みか・・・最近は行ってないから、久しぶりに顔出すのも良いかも・・・。
場所は近所の居酒屋だし、服装も適当で良いか。
俺はズボンにタバコとサイフ、スマホを突っ込んで部屋を出ようと扉を開く。
「いくら夜でも、外は暑いんだろうなぁ・・・・」
そんな事を呟きながら、顔を上げると・・・・・。
「・・・・・あるぇ?」
そこは自宅の廊下ではなく、喧騒賑やかな・・・・・・
異世界の酒場だった・・・・
「あ・・・あるぇ!?」