26 ツノイシ迎撃戦
私も、両足でどっしりと構え、杖を握り直します。
「わかってると思うけど、敵は登り側。そして、下れば川沿いだから、逃げ道は無いわ。私は一人でなんとかできるから、剣士のあなたはカヤちゃんを守ってあげて」
「わかった!」
「カヤちゃんもその人からできるだけ離れないで。とにかく、ツノイシを迎え撃つわよ!」
「了解です!!」
少し治ったとはいえ男の子は負傷していますから、逃げるよりも迎え撃つ方が良い。
それも私と二人一組なら、大きな動きなしに戦えると、そういうことでしょう。
即座に作戦を立案し、端的に説明する、やっぱり師匠はすごいです。
「来るわよ! 構えて!」
「地に沸き流れる恵みの魔力よ……!」
だったら私は魔法の準備で返事をしましょう。
使う魔法はグレイナー。私が「撃てる」二つの魔法のうち一つ!
地鳴りが大きくなり、薄暗い木々の間からツノイシの群れが現れます!
数は……5体! だったら……威力は抑え込まなくていい!
「今ここに戻り、水流を生め! グレイナー!」
ドドドドッという重低音と共に、ツノイシにむけて濁流が放たれます。
五体のうち一体に直撃したことを確認して、すぐさまとなりのツノイシに杖を向けます。
水が弾ける音で、ツノイシの声は聞こえませんが、確かな手ごたえがあります。
実際、濁流が止んだ瞬間、湿った地面の落ち葉と共に、ツノイシは坂を転がり落ちていきました。
「せああああ!」「うおおおお!」
ツノイシが数歩先まで近付いたところで、師匠と男の子が動きます。
師匠は杖を、男の子は直剣を腰に携えてツノイシに向け踏み込みます。
二人とも、取った行動はほとんど同じ。武器をツノイシに向けた刺突でした。
大きな違いは、男の子はそのまま直剣を突き込み、師匠は杖をツノイシの下方に向けた事でしょうか。
結果として、男の子の方のツノイシは痙攣しながら沈黙し、師匠の方のツノイシは、顎を砕かれながら進路をそらされて、斜面を転がっていきました。
しかし、ツノイシはまだ一体残っています。
男の子は剣を突き込んでしまってますし、師匠も一体を転がし落としたばかり。
だったら次は、私の出番です。
買ったばかりの杖ですが、金属製ならきっと……
「私も……!」
「私がやるわ!」
「っ、はい!」
師匠の一言で、私は冷静になります。
そうだ、今のはあくまで第一陣。
ツノイシの群れは、まだまだいるはずなのです。
だったら私は、次の魔法を準備するべきでした。
「せらああ!」
「地に沸き流れる恵みの魔力よ……!」
集中を乱さない範囲で、師匠の影を追ってみれば、宣言通り、最後のツノイシを処理してくれたことがわかりました。
それが分かったなら、私の仕事は、よくよく狙いを定めること!
上方に固まった影が見えて、私はそこに杖を向けます。
「今ここに戻り、水流を生め! グレイナー!」
水流が噴出されると同時に、固まった影も鮮明になります。
所狭しと固まった、三体のツノイシ。
このコースなら直撃でしょう!
「危ないぞ!」
「えっ?」
彼の声の意味を理解するのに、一秒。
その一秒で、水流の直撃したツノイシたちは、落ちてきました。
姿勢を崩して、転がって、私のすぐ目の前に向けて。
「許してくれ!」
「ぐうっ!」
ツノイシに激突される直前で、側面から衝撃。
咄嗟に行われた、男の子の突進。
私は突き飛ばされて、斜面を転がります。
ツノイシと同じように、滑落してしまいそうになったところで、身体の回転が止まり、腕を掴まれます。
「無事か!? 立ってくれ!」
「はい!」
頭の帽子を抑えて立ち上がり、彼に返事をします。
決して文句は言いません。
突き飛ばしてでも、高速で迫るツノイシの身体を躱せなければ、危ないところでした。
しかし、その代償は、痛みだけでは済まなかったようです。
「武器を失った! 離脱する!」
「了解! 殿は任せて!」
「援護します!」
男の子は先ほど私を助けた際に、武器を落としてしまったようです。
彼が離脱の判断をすると、師匠は即座に、背後を守ると約束してくれました。
だったら私は、最初の指示通り、男の子の横に立って、護衛するべきでしょう。
私たちは宣言通りに動き、斜面に沿って走ります。
結論から言えば、師匠は完璧にツノイシを押さえ込んでくれていたようで、私たちは、ほとんど走ることだけに集中できました。
「見ての通り。師匠は信頼できる人ですよ」
「ハッ、あなたもなかなか、頼りになりそうだ」
走りながら軽口をたたいてみると、彼は即座に答えてくれました。
なかなか粋な回答です。でも、百点ではないですね。
「それは前回で、証明できたと思ってましたけど?」
「ははっ、それはそうだな」
足を動かして、息を切らして、走っているのに、しまいにはこんな会話までして。
師匠に聞かれていたら、ため息の一つでも貰ってしまいそうですが、いいのです。
だって私、今ものすごく満たされた気持ちになっているのですから。
冒険者になってから、ずっとあこがれていた、特別な存在。
「仲間」と一緒に走りながら、お互いを認め合えているのですから。
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