0 シルバーキャット
窓の外から響く怒号。空を焼き舞い散る火の粉の群れ。
背後に近付く足音を耳に入れ、安らかに横たわる我が子の手を握る。
睡眠薬の調合は、ずいぶんとうまくいったようだった。
背後から、扉が勢いよく開け放たれる音が響く。
「奥方様、もはやここも危険です」
覚悟に震わせた両耳に響いたのは、そんな声。
模擬刀を手に、こちらを見据える家令長だった。
その刃は潰れているはずなのに、よくぞ生き残ってくれたものだ。
「わかっているわ」
「ええ……と、奥方様!? 何を……」
「交代よ。あなたはこの子をお願い」
家令長の手袋を握り、儀礼刀をよこすように促す。
威勢よく振る舞ってくれているけれど、彼女も肩で息をしている。
満身創痍の彼女よりも、私の方が戦えるはずだった。
「次にこの扉を開けるものがいたら、迷わず組み伏せてしまいなさい」
「しかし、それでは!」
「大丈夫。相手が私であったなら、貴方に遅れは取らないわ」
別に、戻るつもりがないわけではない。
私はただ確実に、我が子を守り抜きたいだけだ。
「……ご健闘を、奥方様」
「ええ」
儀礼刀を手放した家令長に、視線で我が子の傍へ寄るように伝える。
一瞬、躊躇いの色を示した家令長も気圧されてくれたようだ。
彼女はその両耳と尻尾をピンと立てて、我が子の手を握ってくれた。
「では、任せます」
模擬刀の柄を右手に握りこみ、扉を引いて後ろ手に閉じる。
一度だけ深く息を吸い、我が子の寝顔を想起する。
父親譲りの銀髪に、よくよく映える青の瞳。
こんな悲劇を、貴方に知られるわけにはいかない。
カヤ。私の愛しい子。
どうか、私のようにはならないで。
貴方は何者にも縛られず、自分の思うままに生きて。
カヤ。貴方はただ、あるがままの——カヤでいて。
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