その音がする時
それは、アパートに入居する前に聞いた話だった。
じいちゃんが死ぬ時に、奇妙な音が聞こえたのだという。
痛み止めや意識が朦朧としていたせいだとも言われていたが、俺にはそれが他人事だと思えなかった。
なぜなら子供の頃、よくじいちゃんに叱られると『◎△□に連れていかれるぞっ!!』と脅かされていたからだ。
それがなんだったのか、もうわからないけれど、近づいてくるたびに水が滴る音がすると聞いた。
その音が大きくなると、あの世へ連れ去られてしまうのだそうだ。
なんだ、だったら水の音でいいんじゃないかって?
そうとも言い切れない。
なぜならそれの存在がこの世ならざるものである可能性が高いからだ。
子供の頃やんちゃだった俺は、じいちゃんに預けられているといつも叱られて、正体不明なそれに怯えていたことを思い出す。
それなのにそれがのんだかはからっきし思い出せない。
ぴちょん、と水を張ったたらいに水道水が滴る。
ただそれだけのことで怯えるような年じゃない。
なら、じいちゃんはなにに怯えていたのだろう?
ぴちゃん、とまた水が垂れた。
水道せんが緩いのだろうか?
あしたにでも水道屋に来てもらわなくてはと思いながら眠りにつく。
ぴしゃん、と水の音が近づいてきたように感じたけれど、気のせいだ。
一度眠ったらテコでも動かない俺だから、目をしっかりとつむったまま惰眠を貪る。
やがて、ぴたん、と音がして、すぐ近くで音が鳴った感じがした。
だが、体が金縛りにあったかのように動くことができない。
「かっ」
おそらくそれが声を上げた。
かってなんだ!? かって!?
「おいお前。かっぱを馬鹿にするなよ?」
それは水音をたてながらそう言うと、俺の頬をしたたかにぶった。
それにより、目が覚めたのだけれど。
は?
かっぱ?
なんでかっぱ?
馬鹿にした覚えはないんだがな。
以来、かっぱ巻きを残さず食べるようにしている。
じいちゃんはかっぱに連れ去られたのだろうか?
終わり




