友達
魔獣同士は交流するのだろうか。残念ながら私には魔獣の友人がいないためよく分からない。ちなみに人間の友人もいない。
野の魔獣を見る限り、群れを作ったり同種とつるむものはいるようだ。ヴィラがそういう性格だとも思えなかったが、友人とか、やはりほしいとものだろうか?
ここは保護者としてしっかり考慮してやらねばならないところだった。しかし「同種のともだちがほしい」と言われたら言われたで為す術がなくて困ってしまう。
このところずっとそれを考えていて、だから幼体の魔獣を見つけた時は嬉しかった。
サンドワームの子供だ。好戦的ゆえに戦い慣れない旅人風情でも必死で剣を振り回していればそのうち倒せる、かなり程度の低い魔獣だった。
知能の高いヴィラとは話が合わないかもしれないが、ともかく初めての友人候補だ。会わせてみることにした。
「ほらどうだ、可愛いだろう」
「どこにかわいい部分があるのよ。目と頭が腐ってるんじゃないの? あなたアンデッドだったの?」
あんまりな言われようだ。
半ば予想していたことだが、ヴィラはサンドワームの友人候補を気に入ってはくれなかった。じゃあこれ、どうしよう。
今のところは私がなんとか保護者の役を果たせているけれど、魔獣の知り合いも作っておかなければいずれ困ることもあるのじゃないかと思うんだ。
人間に染まることなく、ヴィラがずっと魔獣らしくあるために。
ヴィラは私の手に提げられたまま硬直しているサンドワームを胡散臭そうに見つめている。
彼女にとっての下等種を友人にどうかと勧めたこと、あるいは属性の異なる種を連れてきたことが気に入らないのかと思ったが、どうやら違うらしい。
「ねえフェルネ、それまだ幼体でしょう。食べられちゃうわよ」
食べられちゃう? 私がこのサンドワームに? まだ片手で軽々と持ち上げられるサイズのこれに?
「大丈夫だろう、こんなに小さいんだから」
「小さいから何でも食べるのよ。食べただけ大きくなる。幼体の間にどれだけ他を殺せるかでぜんぶが決まっちゃうの」
魔獣とはそんなに幼い頃から己の力を頼んで生きているのか。親の保護もなしに、なんて孤高な存在だ。……だからこそ、ひとりでも強くいられるのかもしれないな。
では私がヴィラの殺戮を減らそうとするのは、彼女にとって良くないことなのか。
「……じゃあ、食べるか?」
「どっちを?」
「どっちって」
このサンドワームか……私か?
「いや、私は食べられたくないが、お前は食べたいのか?」
「べつに。あんまり美味しくなさそう」
それはそれで何か失礼なことを言われているような気もするが、美味しそうだったらとっくに食われていたのかと思うと複雑な気分だ。ハルピュイアは人間も食べる。
「できればサンドワームのほうにしてほしいかな」
「食べたくはないけど、食べてやってもいいわよ」
話の雲行きが怪しくなってきたのを察したか、サンドワームがびちびちと身をよじり始めた。ちょっとグロテスクだ。
ヴィラの友人になれず食べもしないと言うなら捕まえておく意味もない。と言って逃がせば私に報復の牙を剝くだろう。
握った手を離すと、ぼとりと地面に落ちた幼い魔獣は全身のばねを駆使して飛び上がり、さっと開いたヴィラの口の中へ消えていった。
「美味しいか?」
「まあまあね」
「そうか」
見た目はともかく新鮮だから健康にいいだろう。魔獣に健康という概念があるのかどうかは不明だ。
サンドワームの食感は、魚なんだろうか。肉っぽいのか。魚だったら食べてみたい気もする。最近食べてないな。今夜は釣りでもしてみようか。
減退したかと思えばまた盛り返してきた私の食欲を無視して、咀嚼を終えたヴィラが私を見上げて言い放つ。
「フェルネも魔獣を狩ったらいいのに。そしたら町へ寄る手間が減るし、お金もいらない」
「うーん」
魔獣を狩って、食べる。村にいた頃は自然とやっていたことだ。だって私は人語を解する魔獣なんて見たことがなかったから気にも留めなかった。しかし“ヴィラ”と出会って以来、人間と近しい生態を持つものの存在を知ってしまった。
ヴィラがハルピュイアだから? 人に近い見た目をしているから? 彼女の前で「魔力を持つ獣」を食べるのは気が引ける? 彼女を守る立場なのに。
いいやきっと私の本音はもっと違うところにある。
私はヴィラを殺さなかった。そのくせ他の魔獣を糧とするのか。一度は同族と選んだものを。
私はそれを自覚したくないのだろう。彼女を同族として見ていることを。
人間ならば人間らしい食事をすべきだ。そのスタイルは崩したくないんだ。努力すれば魔力を持たない肉も魚も手に入る。よっぽど切羽詰まっているのでなければ、私が魔獣を食べる必要はない。
まあ、どうせ魔獣を殺して得た金で買った食料だったりもするのだけれど。人間の矜持なんてものは本当にくだらないな。
それでも私にとって人間と魔獣は違っているべきなのだ。
特に興味もなさそうにあくびをしながらヴィラが告げる。
「魔獣だって人間を食べるんだから、お互い様だと思うけど」
「うん。ちょっと違うような」
だってそれじゃあ、ヴィラと共に過ごす私が、魔獣を平気で食べるようになってしまったら。私のことだ、まず面倒臭くなってまともな食事なんかしなくなるだろう? 次に待ってるのは今ヴィラがしたことだ。
だからその、つまり、共食い。
ハルピュイアとサンドワームでは共食いにはならないとしても、私にとっては魔獣同士だ。その一線を越えることを自分に許して、いずれ私が人間を食らって平気な顔をするようになったらと思うと、それはゾッとする話じゃないか。
「……やっぱり私は、魔獣は食べないよ」
「フェルネは変なところにこだわるのね」
ヴィラが人間だろうと魔獣だろうと気にせず口にするならば、私は意地で真っ当な食事にこだわるよ。そうでなければ自分が人間であることを忘れてしまいそうだもの。




