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第六話

色々出てきても話はゆるふわでいく予定

「なあ、スロウ」

「はい?」

「支援の出番は無かったけど、回復はどうなんだ?」


 いつぞや、というほどでもないつい昨日、ミミックロウラーを討伐したその時の話だ。支援魔法の出番がなかったとぼやくスロウに、俺はそんなことを尋ねていた。確かこいつ、支援魔法と回復魔法を全部覚えたとか抜かしてたはずだ。その過程で破魔呪文も取得したとかいう絶対通過点にしちゃいけないものもあるがまあ、それは置いておいて。

 俺の質問に対し、そりゃ全部覚えているから最強ですよとか眼の前の芋虫は言いやがっている。最強ってなんだ最強って。


「そうですね。たとえば、今そこに討伐したばっかりのミミックロウラーがいるじゃないですか」

「ん? ああ、素材剥ぎ取ったのがいるな」

「これに、《リザレクション》!」

「ぶふっ!」


 何やってんのお前!? そんなツッコミを入れる隙間もなく、眼前で死んでいたミミックロウラーが再び動き出す。まじかよ。そんな俺の驚きとは別に、スロウはなんてことない様子で動き出したそれを指差した。無駄にドヤ顔なのが何かムカつく。


「はい、じゃあもう一回殺ってください」

「お前人としてどうなの!?」

「人じゃないですし」


 文字通りの人でなしの芋虫であるスロウはさらりとそう返すと、はいどうぞと俺に同族殺し再びを勧めてくる。ああもうちくしょう、と二回殺された哀れなミミックロウラーにほんの少しだけ同情してから、念の為もう一回素材を剥ぎ取った。復活した際に傷も癒えたから報酬も二倍になったわけだ。俺も大概人でなしだな。

 それはともかく。さっきの呪文、俺が講義で習った基本範囲どころか、そこまで習っていない応用範囲からも大幅に逸脱している、一応教本には載っている専門項目レベルの最上級蘇生回復だ。こんなもん覚えているのはそれこそ勇者とかそう呼ばれる肩書の冒険者の専門知識だろ。

 そうは思ったが、まあ覚えている以上仕方ないと諦めることにした。というか全部覚えたで本当に全部覚えているやつがどこにいる。ここにいるんだよ、しかも芋虫だ。







 というわけで。《リザレクション》でセフィを蘇生回復出来るのは織り込み済みだったので、スロウにはまずそっちを優先してもらったわけだ。やっぱり一度体験してると違うな、もし昨日あれ見てなかったら、あそこまでとっさに動けなかったかもしれない。

 それはそれとして。見事潰された状態から元通りの美少女お嬢様に戻ったセフィは、スロウのそんな行動を見てなんとしても聖女に推薦すると意気込んでいた。


「んーと。エミルはどう思います?」

「いや、どう思うって言われてもな。なんかメリットあるのか?」

「聖女認定はスキル職でも上級ですので、所持しているだけでも様々な恩恵が得られます。私のような見習いでもある程度の行動の自由が保証されるのですから、スロウさんならばたとえモンスターだとしても単独でどこへでも旅することが可能になるはずです」

「あ、それは別にいらないですね。エミルと一緒じゃないと意味ないですし」

「というかこいつ俺の使役モンスターになってるはずだけど、そこんとこどうなの? 聖女認定された途端、聖女を奴隷のように扱う犯罪者とか言われて捕まらない?」


 もしそうだとしたら、セフィが何と言おうと断る。そうは思ったが、彼女もそんな扱いになるのならば提案などしていませんと言い切った。というか友人を犯罪者にすることより聖女認定を優先するような人だと思われていたのですか、と追加で抗議された。いやまあそこら辺は、ちょっとだけしか思っていないぞ。


「ごめんねセフィちゃん先輩。エミル捻くれてますから」

「いえ。まあそれは昨晩から今日にかけてで非常に良く分かりました」

「なんか失礼なこと言ってるな」


 俺の性格についてはどうでもいいだろ。話を戻すぞ。そう言って、俺は先程の質問を少しニュアンスを変えてセフィに述べた。使役モンスターが聖女認定というのはどういう扱いになるのだ、と。


「その辺りは手続き次第ですが、恐らく使役モンスターからエミルさんのパーティーメンバーに肩書が変更されるくらいではないでしょうか」

「それもちょっと嫌ですね」

「何お前、そんなに俺の使役モンスターでいたいの?」

「それなら絶対離れないですし」

「……書類上の手続きなので、使役モンスターも離れることはありますよ? 元々扱いとしては恐らくパーティーメンバーと同じかと」

「そーなんですか!?」


 まあ普通モンスターをパーティーメンバーとして申請しないし出来ないからな。そのための魔物使いのスキルだし。

 ともあれ、まあ精々そんなに取るのに苦労しなかった魔物使いのスキルが宝の持ち腐れになるくらいで、俺とスロウの関係はそこまで変わらないらしい。ちょっと惜しくはあるが、講義を受けて取った程度のスキルだし、またそのうち使う機会が来るなんてことがなくてもまあ別にといったところだ、問題ない。


「まあ、使役モンスターのまま聖女認定も不可能ではないでしょうから、もしスロウさんがそちらを希望するのならば、私はその方向で手続をさせてもらいますし」


 そんなことを結論付けた俺を他所に、セフィはセフィでそんな爆弾発言をした。何だ最初から出来るなら言えよ。とかそういうツッコミを入れたくなったからではない。その辺の手続きで、ある程度好きなように動かすこと出来ると言ったからだ。


「あ、じゃあそっちでお願いしましょう」

「わかりました」

「待った待った。それはそれで別にいいし、スロウが聖女認定されてもいいっていうならそれでいい。でもな、ちょっと聞きたいことがある」

「どうされましたか?」

「使役モンスターのまま聖女認定って結構大変じゃないのか? というか出来るのか?」

「はい。私ならそちらの方向で進めさせていただくことも――」

「そこだよそこ。セフィならってどういうことだ」


 正直嫌な予感がプンプンしている。割と当たって欲しくない予想も何個か浮かんで、そして多分その内の一つは合ってるんだろうなという謎の確信がある。

 が、それでも本人の口から聞きたいので、俺はよく分かってなさそうなスロウを気にすることなく彼女に尋ねた。


「あ、はい。御存知の通り、教会の現在の頂点にして守護者は月の大聖女様です。そして、幸いにも私は月の大聖女様とも交流が出来ますので」

「ほらそこがおかしい!」

「月の大聖女?」


 俺のツッコミとスロウが首を傾げるのが同時。ああそうか、そういやこいつ魔王と勇者がスキルの肩書じゃない状態から情報そこまでアップデートしてない森の芋虫だったっけ。

 仕方ない、ととりあえず俺のツッコミの続きをする前に、スロウにそのあたりの説明をかいつまんでしておくことにする。と言っても概要は軽くしただろう、と俺は奴に述べた。


「ほれ、前言っただろ、魔王はもういないけどそういった立場的なのはいるってやつ」

「言いましたね。色々やらかしている自称魔王は討伐対象だとかなんとか」


 その『そういった立場』の枠組みに基本四属性と応用四属性の頂点に立つであろう魔物も含まれている。頂点に立つというのは割と大変なのか、それらは基本自称魔王みたいな討伐されるような脅威にはならず、どちらかといえば崇拝されたり尊敬されたりといった感じの存在なのだが。

 その中の一体。応用四属性の一つ、月属性の頂点の魔物が今セフィが紹介した教会の守護者、月の大聖女だ。


「……よくよく考えると教会トップが魔物ならモンスターが聖女でも何の問題もない気がしてきたな」

「世の中って結構ぶっ飛んでますね~」

「お前がそのぶっ飛んでる筆頭なんだぞ、分かってんのか?」

「ふふっ……」


 そのやり取りにセフィが笑っていたが、それ多分苦笑よね。笑って誤魔化すしかない的なやつよね。







「で、じゃあ俺のツッコミに戻させてもらうけど」

「はい」

「月の大聖女とコネがあるって、つまり?」

「……やはり、分かりますか?」

「当たり前だ、いくら村育ちでも流石に分かるわ。城下町住みでそんな事が出来るお嬢様は、この国の貴族のトップの二大公爵家の」

「はい。私の本名は、セフィーリア・フォン・ベルンシュタインと申します」


 ベルンシュタイン公爵家。この国の二大公爵家の片割れ、奥の片翼。新しい技術を積極的に取り入れる気風で、大元は魔道具技師から成り上がってきた歴史がそれに関係しているとか何とか。そういう情報くらいは村のクソガキである俺でも知ってるレベルで、セフィ――セフィーリア嬢はそこのお嬢様だというわけだ。


「でもエミル、セフィちゃん先輩のことは分かってなかったですよね?」

「公爵家のことは知ってるけど、家族構成までは分からんっての。というか二大公爵のお嬢様がこんなとこでクマ討伐してるとか予想できるか」


 しかもこれ場合によってはベルンシュタイン公爵家令嬢死去のニュースが明日流れたかもしれなかったんだぞ。危ないにもほどがある。


「その辺りは大丈夫です。跡継ぎは兄弟がおりますし、両親も果てるなら自己責任という約束もしていますので」


 そう言いながら、でもそうですね、とセフィは少し沈んだ顔で笑った。どうやら自分にはまだそこに至れないようです。そう言うと、何かを諦めたように一度空を見て、そして再度俺達に向き直った。


「しかし、その代わりに。素晴らしい友人達に出会えました。そして、とても偉大な聖女になるであろう人物――虫物? の方も」

「セフィ……」

「セフィちゃん先輩……」


 多分、今ここで彼女の旅の目的は終わった。聖女になる、という武者修業は、ウッドベアに殺されたことで終わりを告げたのだ。いやまあ殺されたらそりゃ終わりだろとか思ってはいけない。そこら辺はスロウのせいである。助かったんだから何の問題もない。

 ともあれ。その代わりに、彼女は新しい道を見付けたのだ。自分が成れなかった聖女を、スロウが代わりに継いでくれる、ということを。


「よし、じゃあ行きましょう城下町。セフィちゃん先輩の代わりに、しっかり聖女になりますから」

「スロウさん……」

「いけるのか? 聖女になったからあれやれこれやれとか言われたりしないか?」

「その時はエミルが一緒にいてくれますよね?」

「いやそりゃ一緒にいるけど」

「じゃあ、何の問題もありませんよ」

「ふふっ。本当に、お二人は仲がよろしいですね」


 そう言って微笑んだセフィの表情に影はもうない。そういう気持ちの切り替え、思い切りというのもある意味公爵令嬢には必要なんだろう。俺みたいな捻くれ者には多分絶対ムリなことで、モンスターらしく割と色々バッサリ行くスロウもそうだが、それらの部分はちょっとだけ羨ましくもあり。

 やめやめ、と頭を振った。まあそんなことは今更だ。考えても仕方がない。なので、今必要なのは依頼完了の手続きをしっかりと終えること。そして、なにはともあれ一度城下町へと向かうことだ。

 とはいっても、これではい今から向かいますよは流石にキツイ。冒険者になって初日にスロウの同族殺しをして、その日に隣町に移動。翌日ウッドベアの異常個体と遭遇、戦闘して俺一人で倒して。そしてその日に城下町とか言われたら流石に。


「俺まだ冒険者始めて二日しか経ってないんだぞ……」

「二日でこれだけの成果を上げるエミルさんも大概逸脱していると私は思います」

「そういうのやめてくれよ。俺は精々村では何でも出来るっていう評価もらっていた程度の捻くれ者だよ」

「そうかな? わたしはエミルなら当然、って思ってますよ」


 ふふん、とまるで自分のことのようにドヤ顔を見せるスロウ。そんな顔をされると、無性にこそばゆくなってしまう。俺そういうの苦手なんだよ。まあスロウのことだから分かってやってる半分、本気半分だろうけど。

 まあともあれ。流石に今日出発は色々と問題があるだろう。移動手段、はセフィがどうにでも出来るかもしれないが、なんだかんだ疲労も溜まっている。

 なにより、セフィの血まみれの装備をどうにかしないと非常に目立つ。返り血です、と言い張ってもいいがその場合彼女がバーサーカー判定受けそうだし。


「確かにそうですね。我ながら、失念しておりました」

「わたしに乗れば、って思ったけど。流石に二人はちょっと無理ですしね」


 スロウに乗る、という言葉を聞いて、俺もセフィも身構える。俺はここに来るまでのあれそれを思い出して。セフィは多分、スロウのミミックロウラーの正体お披露目の衝撃を思い出してだろう。

 揃って、それはちょっと、とお断りしたのは思わず笑ってしまった。

 そんなわけで冒険者の依頼は達成。負傷者は多少あれど重傷者や死者は無し。無しったら無し。成功報酬も貰い、今回は討伐の素材は俺に回ってきたのでありがたく頂くことにして。

 隣町の宿で、今日も一泊させてもらうことにした。セフィは今日もお二人は同じ部屋なのですねとか言っていたが、まあそこら辺は向こうも流石に誤解していないだろう。してないよね? 俺は人でこいつは芋虫よ? 人型で寝てても寝相が悪いと芋虫に戻ってこっちにのしかかってくる奴よ? すっげぇぶにぶにするし、多足がもぞもぞするんだぞ。

 まあそんなことはどうでもいい。問題なのは、明日は明日で恐らく今日以上の面倒事が待ち受けていることだ。セフィの話しぶりだと、場合によっちゃ月の大聖女と対面する羽目になるんだぞ。冒険者生活三日目のクソガキが。


「すぴー」

「…………はぁ」


 まあ、呑気に寝ているこいつの寝顔見てたら割とどうでも良くなったので、溜息を一つ吐いて俺も寝ることにした。明日は明日だ。その時になればどうにかなるだろう。スロウもいるしな。



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