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第四十六話

 何だかよく分からないが、とりあえずクーヤは無事そうだ。妖精姫も言ってた通り、隠れ潜む百花はあいつに危害を加えなかったらしい。

 それはそれとして、中々に面倒なことになっていそうだが。


「めんどくせぇ……」

「そぉれはうちの口癖なんよぉ」

「やかましい。面倒面倒言いながら面倒な状況作りやがって」


 そもそもクーヤが先生呼びしているということは、少なくとも隠れ潜む百花が何かしら指導をしたということに他ならない。まあ木属性の頂点の後継作るっていう理由だったのだからしない理由はないんだが、しかし。


「クーヤ」

「姉様」


 ててて、と掃除をしていたクーヤがスロウのもとへと向かう。何かあったのかと言わんばかりのその表情を見て、スロウはふむ、と顎に手を当てていた。


「えっと、先生なんですか?」


 コクリと頷く。じゃああっちは、とスロウは項垂れている妖精姫を指差した。クーヤは迷うことなく、師匠、と答える。


「ひょっとして両方から教えをもらうつもりだったりします?」

「肯定。クーヤ、修行、続行」


 ぶい、と指を二本立てるクーヤを見て、成程なと言わんばかりにスロウは頷いた。そうしながら、妖精姫に声を掛ける。

 そういうわけらしいですよ、と情緒もへったくれもない言葉を告げた。


「何がどういうわけなんスか!」

「クーヤは妖精姫さんを師匠にして、隠れ潜む百花さんは先生にするらしいです」

「何がどういうわけなんスか!?」


 だろうな。多分俺も同じツッコミを入れると思う。そんなことを思いながら、さてこの状況はどうしたものかと俺は頭を悩ませていた。

 何が問題かってクーヤが隠れ潜む百花を先生として考えている場合、別に取り返す理由がなくなるからだ。


「なあ、アリア」

「多分同じこと考えてるだろうから言っておくわ。どうしようもないわよ」

「だよなぁ……」

「でも、クーヤちゃんが戻るって言うかもしれないよぉ……?」


 シトリーの言葉に、まあそれは確かにと俺達は頷く。が、いかんせんこの空気の中聞きに行くのは中々に面倒くさい。

 なんというか、全てが面倒くさいという隠れ潜む百花のことをちょっと理解しそうで嫌になる。


「と、とにかく。隠れ潜む百花はクーヤを後継者にしようとするのをやめるっスよ!」

「えぇー」

「えーじゃない! 大体、こう言っちゃなんスけど、クーヤをそこまで引き上げるには相当の指導と修行が必要っスよ? 面倒くさがりのあんたがそこまで育てられるんスか?」

「めんどぉ」

「じゃあ無理っスね」


 ハイ終了、とばかりに妖精姫がパンと手を叩く。それを聞いていた隠れ潜む百花は、眠たげな目をくりくりとさせながら妖精姫を見た。そうしながら、いいこと思い付いたとばかりに口を開く。


「妖精姫が育ててぇ、うちがもらう」

「させるわけねえっスよ! アホか!」

「えぇー。でぇも、クーヤはうちのこぉとも先生呼びしてくれとるし、もらってもええやん?」

「いいわけあるかぁ! そもそも、クーヤはあちきが先に弟子にしたんスよ。あとから来たあんたには渡さないっス」

「もぅ、うちの弟子でもあるんよ」


 ふふん、と胸を張った隠れ潜む百花を見る妖精姫の目付きが怖い。これまでの、どちらかといえばマスコット気質だった雰囲気が一気に変わった気さえした。


「隠れ潜む百花、あちきに一発ぶん殴らせるっスよ」

「めんどぉだからぁ、やぁだ」

「ああ、そうっスか。……じゃあ、無理矢理にでもぶん殴って! てめぇに諦めさせてやるっスよ!」

「もぉ、めんどぉやわぁ」


 一瞬で隠れ潜む百花の懐に移動した妖精姫が、そのままやつの顔面に拳を叩き込む。それよりも早く反応した隠れ潜む百花が、背中から生やしたカマキリの鎌で拳を受け止め、逆に妖精姫をぶっ飛ばしていた。

 流石頂点同士、と言うべきだろうか。とはいえ、それでも恐らく本当の本気ではないような気もする。頭に血が上っていても妖精姫は恐らく周囲に気を配っているだろうし、隠れ潜む百花は多分面倒だろうから全力を出していない。

 それでもまあ、考えなしにあれに割って入ったら、間違いなく一撃で戦闘不能になる自信がある。


「めんどぉなことぉしてくれるわぁ、ほんと」

「こ、のっ……!」


 再度攻撃、と妖精姫が突き進もうとしたそこに、一対のカマキリの鎌が迫りくる。舌打ちをしながら妖精姫が掌に光の盾のようなものを生み出してそれを弾いたが、しかし鎌は気にせず何度も攻撃を繰り返す。


「くっ、こっ、んっ、ちっく」


 光の盾を両手にして鎌の攻撃を弾きながら進もうとするが、やる気なさげな隠れ潜む百花の表情とは裏腹に鎌の攻撃は苛烈さを増していった。妖精姫の両手の光の盾もその輝きを段々と鈍らせていき、そして小さなヒビが生まれる。


「おしまぁい」

「こ、んなろぉ!」


 左手の盾が壊れた。滅茶苦茶悔しそうな表情の妖精姫が即座に光の盾を再生成したが、崩れた体勢はどうにもならず。

 追撃の鎌を食らい、見学しか出来なかった俺達の後方へとぶっ飛ばされていった。


「あいたぁ」


 そんな妖精姫を目で追っていたら、向こうから声。視線を隠れ潜む百花に移動させると、顔面に先程の光の盾が激突していた。防御出来ない、と判断した妖精姫が即座に攻撃に切り替えたのだろう。

 隠れ潜む百花の顔面で光の盾が砕け散り、その眠たげな目が一瞬だけ見開かれる。が、すぐに元に戻ると、ぶつかった顔面をさすさすと撫でていた。


「痛いわぁ、もぅ」

「こっちのセリフっスよ! 思い切りぶっ飛ばしやがって」


 こんちくしょう、と立ち上がった妖精姫が再度ズカズカと前に出る。光の盾を両手に生み出しすと、今度はこっちの番だとばかりにそれを投擲した。と、同時に再生成、再び投擲。それを繰り返し、光の円盤が四方八方に飛び回る。


「妖精姫さんって、ああいう戦いかたするんですね」


 スロウが呑気にそんなことを言っているが、まあ、あそこに俺達は参加出来ないので仕方ない。精々邪魔にならないように距離を取るくらいのことしか出来ることがない。


「貴重。参考」


 そんな中、クーヤは目を輝かせながら二体の戦いを見守っていたが、こいつはこいつで中々いい性格をしていると思う。褒めてはいない。







「むぅ、めんどぉやわぁ」

「じゃあ諦めてあちきにボコされるんスね!」


 妖精姫の投擲した盾、光の円盤は隠れ潜む百花の鎌をことごとく弾く。振り上げようとした状態でガキンガキンと弾かれ動きが制限されたため薙ぎ払いに移行したが、それも変わらず弾かれる。

 眠たげな目がどことなく不機嫌そうに細められた。


「じゃぁま」

「そりゃあそういう風にやってるっスから」

「なら」


 す、と姿勢を低くする。カマキリの鎌を背中に仕舞い直し、滑るように妖精姫に距離を詰めた。ち、と妖精姫が舌打ちするが、隠れ潜む百花の方が一手早い。


「かはっ」


 膝蹴りを腹に叩き込んだ。妖精姫が目を見開き、腹に溜まっていた空気を無理矢理吐き出される。そのままつま先もねじ込み、跳ね上げるように蹴り飛ばした。


「わ、パンツ丸見えですね」

「なあ他に感想ないのかよ。妖精姫の心配とかさ」

「もぅ、えっちやわぁ」

「何で俺見るんだよ! 言い出したのスロウだろ!?」


 そもそもの問題として、帝国第三皇子の彼女? とまではいっていないが惚れている相手に対してそういうことすると非常によろしくない。

 いやだから俺は何もやってないんだよ。


「それより、妖精姫は大丈夫なのか?」

「この程度でやぁられるなら、光属性の頂点やってないんよぉ」

「あーはいはいそうっスね! くっそおもっきしぶっ飛ばしやがって」


 妖精姫が立ち上がる。そこそこボロっているが、しかし見た目ほどダメージはないらしく、悪態をつきながら先程飛ばしていた光の円盤を再度操作し隠れ潜む百花の周囲に停滞させていた。


「えぇ、まぁだやるん?」

「やらいでか! あちきまだお前を全然ぶん殴ってないんスからね!」

「いぃけど、このめんどぉなのだけじゃ、うちは殴れんよ?」


 カマキリの鎌を再び出しながら、じゃあ今度はもうちょっと強めに行くとばかりに姿勢を落とした。同じ手を食うか、と妖精姫も光の円盤を操作しつつ自身の両手に光を詰めていた。


「範囲を狭ぁめたくらいじゃ」

「誰が狭めたっつったんスか」

「んお?」


 回っているのは隠れ潜む百花の周囲じゃない、妖精姫の周囲だ。突っ込んでくる隠れ潜む百花に対し、自身の周囲に展開させた光の円盤と両手の光の盾を真っ直ぐに構え。


「げ」

「一発――ぶん殴る!」


 それを思い切り突き出した。カウンターでカマキリの鎌のガードごと隠れ潜む百花をぶっ飛ばした妖精姫は、そのまま円盤を再び展開、転がる相手に向かって飛来させる。


「あ、やぁば」

「さっきまでの、お返しっス!」


 立ち上がる暇もなく、光の円盤が次々に隠れ潜む百花に着弾していく。大分やばめな音がしているが、あれ大丈夫なんだろうか。

 あ、何事もなかったかのように立ち上がった。やっぱり属性頂点って化け物だ。


「いったぁい」

「痛くしたんスから、当たり前っスよ」

「……あーもぅ、めんどぉになってきた」


 ゴキン、と音がした。隠れ潜む百花のカマキリの鎌が、先程よりも二回りほど巨大になって背中から生えている。あれは間違いなく、当たったら死ぬ。少なくとも俺達は。

 じゃあ妖精姫ならどうだろうか。死ぬことはないだろう、なんだかんだその辺りをきちんと理解して向こうも攻撃をしているだろうから、いや待てさっき面倒になったとか言ってなかったか。


「は、あんたは最初から面倒くさがってるでしょうが!」

「まぁ、そぅだけどぉ」


 ブン、と巨大な鎌が振り下ろされた。両手にそれぞれ、ではなく、両手を使って生み出した巨大な光の盾で妖精姫はそれを受け止め。


「受け止めきれないっ!?」


 勢いは殺されたものの、防ぎきれない大鎌の一撃を食らい妖精姫は地面に倒れ伏した。おいピクリとも動いてないんだけど、やばくないか。


「ふぅ……これで、うちの勝ちやわぁ」

「いや言ってる場合か!? 妖精姫は」

「うぎぎぎぎ……」

「あ、無事だ」

「さっきも言ったけぇれど、この程度でやられる属性頂点じゃないんよ」


 そう言って笑う隠れ潜む百花は、何とも楽しそうで。悔しそうに床をドンドンと叩く妖精姫を見下ろしながら、今回もうちの勝ちやね、と告げていた。


「殴れぇはしたから、まあ良かったん?」

「良いわけあるかぁ! ぐぅ、ちくしょう、覚えてろ、絶対リベンジしてやるっスから!」


 立ち上がり、そうやって隠れ潜む百花に指を突きつける妖精姫はなんというか小物臭い。属性頂点のはずなんだけどなぁ。

 そんなことを思っていたタイミングで、ガラリという音がした。音の発生源は何か、と視線を巡らせ、そしてそこで俺達はようやく気付いた。

 戦ってた場所が、隠れ潜む百花の家の中だったということに。


「まぁ、次もうちがぁ……んん?」

「今度こそあちきが……あ」


 向こうの属性頂点二体も気付いたらしい。周囲をぐるりと見て、ああそういえば、と隠れ潜む百花は納得言ったように手を叩いている。

 一方の妖精姫は顔を真っ青にしていた。そりゃそうだろう、気付いたら家がボロボロ、今にも崩れそうと来た。しかも他人の家だ、人じゃないけど。


「こりゃぁ、駄目そうやわぁ」

「あ、ああああちきは」

「別にぃ、そこまで気ぃにする必要はないんよ。そういうのめんどぉ」

「でもこれ、リベルト皇子のプレゼントっすよね!?」

「まぁ。……ついでぇだし、リベルトのところに転がり込むのもありかぁ」

「……あれ? あんたら意外と進んでるんスか?」

「リベルトがうちにベタ惚れ。それから先は、めんどぉ」


 そう言って小さく微笑んだ隠れ潜む百花は、じゃあそろそろ脱出しようかと穴の空いた壁から外に出る。それに合わせるように、俺達も崩れそうな家から脱出した。


「とぉりあえず、クーヤはうちの弟子でもある、でええよね」

「……しょうがないっス」


 結局ぶちのめされた上に住処をズタボロにした手前、妖精姫は文句も言えずぐぎぎと唸りながら了承する。

 そんな妖精姫に、隠れ潜む百花は安心しろとばかりに言葉を続けた。後継者の方は一旦諦めておくと述べた。


「ど、どうしたんすか?」

「めんどぉになったんよ」

「最初からなっといて欲しかったっスね……」


 がくりと肩を落とす妖精姫に、隠れ潜む百花はあくまで一旦だ、と語る。後継者探し自体は続けるつもりだし、クーヤが相応しくなったら後継者にするのは変わらないらしい。

 まあ、今の様子じゃ多分そんな日は来ないだろうけれど。


「じゃぁ、うちはリベルトのところ行くから、クーヤはよろしくぅ」

「へ? あ、ちょっと待つっスよ!」


 それだけ言うと隠れ潜む百花は帝都の居城に通じる扉をさっさとくぐっていってしまった。そうして残されたのは、俺達と、妖精姫と、クーヤ。


「帰還」

「そうですね、おかえりなさい、クーヤ」

「これおかえりでいいの?」

「多分……いいんじゃ、ないかなぁ……」

「もうなんでもいいっス……」


 何かずっと不憫だった妖精姫を見ながら、掛ける言葉が見付からず、どうしたものかと俺は一人頭を掻いていた。まあ目的は達成したし、よしとしよう、うん。



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