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第四十一話

 祭りも終わり、いつもの日常が戻ってきた。

 ように見えて、実はそうでもない。その理由は至極簡単で。


「起床」


 げし、と俺の腹に何かが乗る感触がする。目を開けると、一匹の芋虫が腹の上に乗っていた。はぁ、と溜息を吐きながら芋虫をどけると、おはようとそれに挨拶をする。

 ちなみにスロウではない。スロウはそんな俺達を見て笑っている。


「やめさせろ」

「いーじゃないですか。ちょっとしたコミュニケーションですよ」

「ここんとこ毎日腹に衝撃を食らうんだけど」

「そーいうもんです」

「どういうもんだよ」


 まったく、と起き上がる。そうしながらスロウにも改めて挨拶をすると、どかした芋虫に視線を向けた。んで、今日はどうなんだ、とその芋虫に問い掛ける。


「刮目」


 ふふん、と胸を張ると、その芋虫がぐねぐねと動き姿を変えた。スロウがいつもやるようなその動きで、芋虫は少女に擬態を遂げた。師匠である妖精姫に似せた髪型に、スロウと同じ髪色のロングのサイドポニーを揺らしながら、どうだと言わんばかりに胸を張る。


「姉としてはこうもあっさりと人型の擬態を習得されると悔しくなりますけど」

「お前はお前でそれ以外も規格外なんだよ」


 大体こいつは属性頂点の指導があったからこそだろ。独学で、何のお手本もない状態のまま成長するだけで規格外の擬態を身に付けるお前の方が多分よっぽどだぞ。


「姉様」

「どーしました、クーヤ」

「姉様、上、最強」


 そう言ってがばりとスロウに抱き着く妹芋虫。クーヤ、はこいつの名前である。せっかくなので修行するにも姉の近くにいた方がいいだろうと妖精姫は考え、暫くの間この村に滞在することになっていた。他の頂点ならともかく、妖精姫は今のところ何の問題もないので俺としても別段文句はない。

 ちなみに今妖精姫はうちの台所で朝食の手伝いをしているはずである。居候するのだからそれくらいはしないと、ということらしい。何の問題もないどころか、本当に属性頂点か怪しくなるほどの真面目さだ。


「まあでも他の頂点の面々もそういうところきっちりしてそうではあるんですけどね」

「少なくとも傀儡人形は絶対やらないだろ」


 そう俺が言い切ると、スロウもまあそうですねと同意していた。クーヤは傀儡人形に会ったことがないのでその会話に首を傾げている。

 そうこうしているうちに、ご飯よ、という声が聞こえてきた。揃って部屋に向かうと、今日も今日とて妖精姫が腕を振るった朝食が並んでいる。


「やっぱり属性頂点じゃないって」

「朝っぱらから何であちきの存在を疑問視されてるんスか?」

「エミルのことなら気にしないでください」

「そう言われても、気になるもんは気になるっスよ」


 はいどうぞ、とトーストを俺達の前に起きながらそんなことを言って妖精姫は苦笑する。

 まあでも実際気にするようなことでもない、と少なくとも俺は思う。そう述べても納得はしないだろうから、素直に事の経緯を話した。

 あはは、と苦笑が更に追加されただけであった。


「まあ確かに、エミルさんの会ったことのある属性頂点は月と水と土っスよね? それならそういう感想になるのも納得というか」

「あ、同じ属性頂点から見てもあの辺はそういう扱いなんだ」


 そう口にはしたものの、多分妖精姫が特別まともなだけなんだろうなとも思う。この間月の大聖女が言っていたのをふと思い出したのもその理由だ。


「あの辺というか、まあ属性頂点は大体あんな感じというか」

「ほらやっぱり」

「いやでも多少まともなのもちゃんといるんスよ? あちき基準ではあるっスけど、エミルさんが出会った中では土属性、出会ってない中では火属性は多分まとも枠だと思うっス」

「二体だけかよ。俺まだ出会ってない属性頂点もっといるんだけど」

「いやまあ、後は風がギリギリくらい? 木と氷はちゃんと碌でもないんで」


 ちゃんとって言うな。属性頂点がまともじゃないのは普通だって言ってるようなもんだろそれ。いや違う、言ってるようなものじゃなくて、言ってるな完全に。

 しかし、そうなると残りの属性頂点に出会うのは極力避けた方が良いという結論になるな。少なくとも最低半分は碌でもないのだから。

 というかそもそも属性頂点に会うかもしれないという前提条件がおかしいんだが。普通こんな風にぽこじゃか出会うもんじゃないだろ属性頂点。


「とゆーか、妖精姫さんは自分がまとも枠だって自覚はあるんですね」

「いや、あちきは別に自分がまともだとは思ってはいないんスけど。比べる相手がアレなんで、相対的に、って感じで」

「あー」


 質問の答えを聞いてスロウが納得したように声を上げる。なんだかよく分からない、という表情をしていたクーヤは、まあいいやと朝食を食べていた。


「師匠」

「はい」

「修業、続行」


 そうして食べ終えたクーヤが妖精姫にそんな提案をする。やる気があるのはいいことだ、と妖精姫は二つ返事で了承し、じゃあちょっと行ってきますと外に出ていった。

 何でも、擬態自体は中々の精度で人型になれるようになったものの、持続時間がまだまだ課題なのだそうだ。頑張っても一日持つか持たないか、が今のクーヤの最大値で、それ以上擬態を続けようとすると擬態が解けてしまい、暫く擬態出来なくなるのだとか。


「なあ、スロウ」

「どーしました?」

「お前さっき追いつかれて悔しいみたいなこと言ってただろ」

「言いましたよ」

「全然そんなことないじゃないか。お前の規格外が浮き彫りになっただけだ」


 何で俺との修業とかいうあれそれだけでほぼ無制限に完璧な人の擬態が可能になるんだよ。改めて、こいつを落ちこぼれ扱いしてたミミックロウラーの群れはアホだろ。まあそんなだからクーヤからも見放されたのかもしれんが。


「いや、どっちにしろこいつら姉妹がおかしいだけか……」

「何の話ですか?」

「こっちの話だよ」







 そうして今日も平和な一日である。今まで通りではなくなったが、まあ平穏ではあるので良しとしよう。

 そんなことを思いながら村をぶらついていると、シトリーが何だか誰かと話しているのが見えた。どうしたんだろうと近付くと、どうやら一人の見知らぬ少女が会話の相手らしい。


「えっとぉ……」

「ん~とぉ?」


 なんだろう。どっちも独特の話し方っぽいらしく、会話が噛み合ってなさそうだ。そんなことを思った矢先、こちらに気付いたシトリーがぱぁと表情を明るくさせた。

 こちらにポテポテと近寄ると、そのまま俺の手を掴み少女との会話に無理矢理参加させる。


「おいシトリー」

「だって、困ってるんだよぉ……」


 ジロリとシトリーを見ると、泣きそうな顔でそんなことを言われた。おいやめろ、俺が悪者みたいだろ。そうは思うが、まあ困っている仲間を見捨てるのは普通に悪者なのでそこは甘んじて受ける。


「で、何に困ってるんだ?」

「この娘、何言ってるかよく分からないんだよぉ……」

「それは多分俺も分からないんじゃないのか?」

「言語が違うって意味じゃないよぉ……」


 あ、そうじゃないの? そんなことを思いながら再度尋ねると、ちゃんと言葉は共通語だと返された。そういえば改めて思い返すとスロウとアリアはともかく何でこいつ共通語喋れるんだろう。

 その辺りを考えるとどうしようもなくなりそうだったので、とりあえずそれは置いておいて。向こうの少女に話を戻そう。

 ピンクの髪のツインテールにアリアの服と比べてもよりフリフリのゴスロリドレス。少し眠たげな目もくりくりとしており、全体的に可愛さを強調するような姿である。


「えっと、何がどうなってるんだ?」

「何ぃって、ん~。話すのめんどぉだけど」


 さっきシトリーとの会話をちょっと聞いた時も思った、少し間延びしたような独特の間。まあその辺は別にそこまで気にするようなことでもないし。そう思っていたのだが、しかし待てども待てどもその次の言葉が来なかったので流石にちょっと待てとなった。


「めんどぉくさい」

「じゃあ話は終わりだな」

「え~。それじゃあめんどぉだし」

「どっちが面倒なのかで判断してくれ」


 よし分かった、こいつ面倒くさいやつだ。そして確かにこいつ相手にシトリーは致命的に会話の相性が悪い。多分一生会話が進まない。

 ともあれ。俺の言葉で面倒くさそうに何かを考えた少女は、しょうがないとばかりに、こちらを見て口を開いた。どうやら話した方が楽だと結論付けたらしい。


「めんどぉなんだけど」

「いいから言え」

「ここにいるらしぃ、人に擬態するモンスターを、探しぃに来たんだけど」


 ピクリとシトリーが反応した。俺も即座に反応し、身構えながら何のために、と再度問い掛ける。面倒だ、とだけ答えるのならば即座に追い出そうと思いながら、俺とシトリーはこいつの答えを待ち。


「うちのぉ後継者やってくれなぃかって、言ぃに来たんよ。めんどぉだったけど」

「後継者……?」


 討伐なり何なりの話かと思ったが、何だか話が予想外の方向に飛んだ。シトリーも何のことだと首を傾げている。

 そこで俺達はこの少女の名前も聞いていないことに気付いた。そして同時に、それが何かとんでもない爆弾なのではないかということも同時に思う。

 が、聞かないわけにはいかない。顔を見合わせこくりと頷くと、代表して俺は彼女に名前を問い掛けた。


「言ってなかったっけ。まあめんどぉだし」

「いいから言え。誰だお前は」

「めんどぉだなぁ。うちは、隠れ潜む百花、って呼ばれてるんよ」

「……隠れ潜む百花……?」

「エミルくん……それってぇ……」


 うん、とてつもなく嫌な予感がする。というかもう確信だ。ここにアリアなり妖精姫なりがいればもう少ししっかりと分かったんだが、まあ仕方ない。


「面倒だとは思うが、答えてくれ。お前は、何属性の頂点だ?」

「言わなかったっけ? めんどぉなのに」

「それはもう分かってる。というかやっぱり属性頂点なのは確定なんだな」

「そうよぉ。うちぃ、木属性頂点やってるんよ」

「……うげ」


 妖精姫が碌でもない、と評した奴だ。まあ火ではないとは思ってはいたけれど、何とか風辺りだといいなぁと少し思っていた。

 まあ無惨に打ち砕かれたわけだが。


「どうしたの……?」

「あ、そうかお前今日は朝いなかったのか」


 シトリーが俺の表情を見て首を傾げている。まあ属性頂点なんか碌なものではないという共通認識はあるものの、木属性であからさまに表情を変えたのが気になったらしい。

 当事者の前で言うのもあれだが、まあこの性格からすると人の話を聞くのも面倒だとか思ってそうなので気にしないことにして。朝の妖精姫が言っていた、出会っていない残りの四属性の頂点の評価をシトリーに伝える。

 当然と言えば当然だが、シトリーの表情が曇った。


「ということは……この娘はぁ……」

「碌でもない方の属性頂点ってわけだ。くそ、面倒くさい」


 向こうと同じようなことを思いながら、さてではどうするのか、と思考を巡らせる。とりあえず話を聞くしかないのでは、というシトリーの意見は、非常に却下したい。が、ぶっちゃけそれしかないのもまあ事実なわけで。

 なにせ相手は属性頂点。ここで不意打ちしたところで返り討ちに合うのがオチである。


「なあ、それで、後継者を探してるんだったか? ……ん? 後継者?」


 そう思い話の続きを促そうとしたが、そこで俺は気付いた。こいつは木属性の頂点だ。それで、そいつが後継者を探しているということは、だ。


「お前まさか、ここにいるモンスターの誰かを新しい属性頂点にさせようとしてるのか!?」

「あぁ、そうそう。物分りいい人は好きやわぁ。うちがめんどぉじゃないもん」

「話は分かったが、物分りは良くないぞ。絶対に断るからな」


 横にいるシトリーにしろ、ギルドで手伝いしているであろうアリアにしろ、どこかフラフラしているスロウにしろ。そんなほいほいと属性頂点なんかにさせてたまるか。


「エミルくん……?」

「何だよシトリー。俺は今こいつに」

「そもそも……属性頂点ってそんな簡単になれるのかなぁ……」

「……さあ」


 そこんとこどうなんだ。そんな思いを視線に込めて隠れ潜む百花を見たが、まあ面倒だ面倒だとか言ってる奴が視線に込めた意味なんかを察するはずもなし。

 しょうがないと思い切り口に出しながら、今の疑問をそのまま相手にぶつけると、隠れ潜む百花は暫し考えた後、こう答えた。


「知らない。めんどぉだから」

「帰れよ!」


 そもそもそのレベルの面倒くさがりならこんなところまでわざわざ来るんじゃない。ツッコミついでにそう続けると、それもそうなのだけれどとこいつは述べた。


「こぉれから先のめんどぉが減るんだと思うと、少ぉしは頑張れるやん?」

「もう少し別の所頑張っとけよ!」


 駄目だ。こいつ今までの属性頂点とは別の意味で碌でもない。



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