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第三十七話

 にしても。いくらあいつらが馬鹿だからといって、こんな場所で武器まで振り回すのは流石にやりすぎじゃないだろうか。

 そんなことを考えながら作業をしていたら、大人達も俺の思考に気付いたのか、そうだよな、と同意してくれた。


「お前のところのお嬢さん達が強かったからまだ良かったが、下手すりゃ殺傷事件だ。冒険者の資格剥奪とかそういうレベルじゃない問題になる」

「そう思うんなら武器出した時点で止めてくれよ」

「まあ中級冒険者なら下級になって半年程度には遅れを取らないだろうと思ってたからな」


 そう言いながら、後あまりにも急展開過ぎて動くのが少し遅れたと謝罪された。いやまあとりあえず無事だったからいいんだけど。

 後俺も冒険者になってまだ半年程度だから。経験の長さは変わらないから。

 そう告げたら、その半年で中級になったやつが何を抜かすと背中をバンバン叩かれた。痛い。


「まあそういう意味でのやっかみはいくらでも出てくるだろうけどな。実際俺達大人組でも中級やってない連中も結構いる」

「それはただ単に面倒なだけだからだろ」


 ある程度の経験を詰めば中級の資格自体は試験と簡単な実践で取れるはずだ。俺達の時みたいな自称キュートでポップなやつじゃなくて普通のやつ。余計な責任とか難しい依頼とか受けたくないからって下級の上澄みで止まってる人も中には結構いる、というのは聞いたことがある。

 まあお姉さんみたいに普通に才能ない人もいるんだろうけど。


「お前ギルド受付の姉ちゃん軽く見てるが、あの娘も現役時代は結構な強さ持ってたんだぞ」


 まあそれだけじゃやってけないとお姉さんが思ったから今に至っているんだろうけど。おっさんの言葉を聞きながらそんなことを思いつつ、まあそれは置いておいて、と多少自分で脱線させておいてなんだが話を戻す。


「で、だ。あいつらの様子がおかしかった気がするんだよな」

「俺はその辺よく知らないからなんとも言えないな」

「お前そこら辺は変わってないな」


 そりゃそうだ、多少成長したからといって根本はそう変わらない。ただ単に今はその振る舞いでも気にされなくなっただけなんだから。

 また話が逸れた。要はあの馬鹿三人も流石にこんな場所であんなことをするほど馬鹿ではないと言いたいわけだ。そしてそこには理由がある、と。


「馬鹿が極まっただけじゃないんですか?」

「言い方」


 スロウが会話に割り込んでくる。ふんす、と鼻息の荒いスロウを見ながら、流石にそこまでだったら大人連中でも分かると返した。


「でも、エミルにあんなこと言ってましたよ」

「それは前から変わってないしな」


 お前が俺に初めて擬態の顔を見せた時と反応自体は変わっていない。だから今回に関してはどっちかというとおっさん達の方の言い分を信用するぞ。

 そう告げると、しかしスロウは納得いかないようで眉を逆ハの字にしてこちらを睨んだ。エミルに悪いことを言うやつはボコボコにされて当然なんですと言い出した。


「いやまあ、そこまで怒らなくても」

「怒りますよ。だってエミルが悪く言われてるんですし」

「そんな言うほどか? ぶっちゃけ俺はそういうの慣れてるからあまり気にしないんだけど」


 いやまあムカつくのはムカつくけどね。でも、今のスロウみたいにそこまで怒りを顕にするほどではないというか。

 そこまで考えて、ん? と俺は眉を顰めた。何かスロウも極端になってないか、そう思ったのだ。


「なあ、アリア」

「どうしたのよ」

「スロウってこんなんだっけ?」

「いや、それはあんたの方がよく知ってるでしょうが。……まあでも、確かにちょっと怒りっぽくなってるかもしれないわね」

「こないだのことがあったから、じゃないのぉ……?」


 アリアの横にいたシトリーがそんなことを言う。いやまあ確かにこの間のクロードとの試合で無茶したのは確かだが、あの後例の限界突破は使っていないし、ぶっ倒れていもいない。だからスロウも一旦は安堵したんだと思っていたんだが。


「いや、まあ。一応念の為か。なあ、スロウ」

「どーしたんですか? あの馬鹿連中をボコボコにするんなら手伝いますよ」

「そうじゃなくて。ちょっと自分に治療の魔法を掛けてみろ。思い付くやつ全部」

「へ? まあ、いいですけど」


 そう言うとスロウは自分自身にとりあえず覚えている治療の魔法を片っ端からかけ始めた。何やってんだとおっさん達が見守る中、毒やら麻痺やらの基本的なのを通り過ぎて、特殊系の治療に差し掛かったタイミングの時だ。


「ん、んぐ!? ぐへ、ぺっぺっぺ」


 スロウが吐いた。糸を吐くのはまあ芋虫なんでいつものことだが、今回は違う。何か口から繭みたいなのを吐き出したのだ。べしょ、と地面に落ちる繭。それはモゾモゾと少しだけ動いたが、やがて動かなくなった。


「おい、スロウ。大丈夫か?」

「うげー。気持ち悪いです……」


 ふらふらとしながら、スロウが自身に別の治療魔法を掛ける。あースッキリした、と言いながら体調を整えたスロウは、先程吐き出した繭を見下ろした。


「なんじゃこりゃー!?」

「繭ね」

「繭だよぉ……」

「見りゃ分かりますよ! わたし何でいきなり繭吐いたんですか!?」

「俺達が知りたいんだよそれは」


 とりあえずスロウの吐いた繭を調べることにしよう。いつも吐く糸と違って唾液でべっちゃべちゃだが、まあここは我慢するとして。

 適当な木の棒を使い、繭を開く。そこには何だか死にかけた虫の幼虫みたいなものが入っていた。変色とかもしていないし、多分さっきの呪文の何かしらに引っ掛かってこうなったのだろう。

 問題は、これが何の幼虫で、何でスロウが吐き出したのかってことだ。


「一応聞くけど、これ、おまえの子供ってことはないよな?」

「エミルがわたしと子供が出来るようなことをした心当たりがあるなら、その可能性もないこともないかもしれないですね」

「じゃあ違うな」


 というかそうだった場合最優先で助けなきゃいけない。ちなみにスロウは俺とそういうことをした心当たりがあるのか、と聞くのは踏みとどまった。頷かれたら幼馴染崩壊の危機だったからだ。

 まあそもそもスロウみたいな芋虫じゃないしな、この幼虫。どっちかというと、蜂とかそういう系統だ。


「……これ、アンガービーじゃない?」


 アリアが死にかけの幼虫を覗き込みそう呟く。相変わらずの知識担当だが、それには俺も聞き覚えがあった。確か、生物に寄生するモンスターだ。

 主な寄生先は確か芋虫。体内で育って芋虫を中から食い尽くして成体になるタイプのモンスターで、芋虫系のモンスターだと思ったら中身はこいつだったみたいなこともあるために注意が必要だ。そういうわけで危険度がちょっと高めだが、まあ中級の他のモンスターと比べると直接の戦闘力は中級でも下側、ぶっちゃけ純粋な攻撃力ならウッドベアの方が強いくらいだ。


「なんだ、知ってるじゃないの」

「まあ、このくらいは。って、待った。じゃあこいつ」

「スロウに寄生してたみたいね」

「え? わたしひょっとして体内から食い破られるところでした?」


 見た目美少女に擬態しててもまあ結局は芋虫だ。こういう罠が潜んでいても不思議ではない。ないのだが、これは色々とマズいので早急に対策を練る必要がある。

 とりあえず幼虫にはとどめを刺しておく。念の為にアリアに死骸も焼いてもらった。万が一にもまたスロウが寄生されることがないように。


「さて、まあ元凶は始末したわけだけど」


 そう呟いて、果たして本当なのかと疑問に思った。アンガービーは寄生する蜂のモンスターであるが、それ以外にもちょっと厄介な特性を持っている。戦闘力自体は高くないが中級に位置している理由がそれだ。

 それは、相手の冷静さを無くして負の感情を高めさせ、怒りを呼び起こすというものだ。これのおかげで寄生された芋虫系モンスターは凶暴さが増す。凶暴になったそれを倒したと思ったら中からアンガービーが出てきて二連戦だ。その際、対象が寄生先ではなく相対している敵にも適用されるようになる。つまり、戦っている冒険者達にも、だ。


「あの馬鹿達、アンガービーの影響受けてたんじゃないのか……?」

「え? でもわたしの体内にいたのは幼虫でしたよ?」

「ああ。だから、どこか村の近くに成体がいる可能性があるのかも」


 俺の言葉に、おっさん達がざわめき始める。それは中々面倒くさいな、と言っている辺り、まあ倒すの自体は別に問題ないのだろう。

 そんな話をしながら、徐々におっさん達の視線が俺達に集まってくるのを感じて、しまったと俺は舌打ちした。その可能性を考えていなかったわけではないが、何だかんだ向こうで何とかするだろうと思ってしまっていたのだ。


「でも、お前の彼女を安心させるなら直接討伐したほうがいいだろ」

「彼女じゃない、ただの幼馴染だ」

「わたしは彼女でもいいんですけど」

「幼馴染だ」

「念押ししなくてもよくないですか!?」


 むすー、と不機嫌になるスロウ。これはアンガービーとは関係ないのは俺でも分かる。分かるが、今その辺の話しなくてもいいよね、と思ったからであって、まあ決して嫌とか嫌いとかそういう話はしていないからな。

 そんなことをやっている間に、おっさん達はほれこれ、と何か突貫で作った書類を俺に手渡した。見ると、アンガービー討伐の依頼書が出来ている。


「受付の姉ちゃんに渡してくれ」

「で、そのまま受けろと?」

「それは任せる」


 ぐ。そう言われてじゃあ受けないとなった場合、しばらくはスロウが寄生されていないか心配しながらもやもやした日々を過ごさなくてはいけなくなる。さっきはああ言ったものの、向こうに任せていてはこっちが安心するまで時間が掛かるというのは分かりきっていた。

 だから、どっちみちそうは言いつつ自分達で討伐するんだろうと思ってはいたんだ。


「いいじゃない。逆に考えれば、元々勝手にやるつもりの話がちゃんとした依頼になったんだもの」

「報酬、貰えるんだよぉ……」


 言われてみればそうか。なるほど、と頷いた俺は、じゃあ遠慮なくとその依頼書を改めて受け取りギルドに向かった。

 そうしてギルドに入ると、お姉さんが丁度良かった、とこちらに駆けてくる。


「どうしたんだ?」

「祭りの準備は一段落ついた?」

「まあ、一応? それで、ちょっとこれを」

「今それどころじゃ――アンガービー!?」


 受け取った依頼書を見たお姉さんは目を見開き、ああじゃあそういうことかと額に手を当てた。ちょっとこっちに、とカウンターに俺達をひきつれ、椅子に座るとお姉さんは溜息を吐く。


「実はね、祭りの祭事に使うお面が盗まれたのよ」

「盗まれた?」

「あれ? 祭事があるの?」


 俺とお姉さんのやり取りにアリアが疑問を零す。まあ宴会の延長線上みたいなものだとは言ったけど、一応祭りの体をなしているので祭事っぽいことはやるのだ。その際に、宴会の一発芸みたいなノリで代表者がお面を付けて演舞をする、というのがあるんだけれども。


「そのお面が盗まれた、と」

「そうなのよ。あんなボロくて価値のないお面を盗むような物好きはいないだろうと村の倉庫に適当に突っ込んであったものだったんだけど」


 まさかそれが盗まれるとは。はぁ、と溜息を吐きながらそう続けたお姉さんは、俺から貰った依頼書を見ながらどこか納得したように肩を落とした。


「何かエミル君と同じ時期に冒険者になった子達が森や倉庫で何かやってたって話を聞いたから、いたずらにしてはやりすぎじゃないかと思ってたんだけど」

「アンガービーの影響ってことか? でも流石に操るとかまではいかないだろ」

「それはそうよ。でもまあ、お祭り台無しにしてエミル君のせいにするくらいは怒りに任せてやりそうだなって」

「やべーですね」

「何だかんだ、結構エミル君羨んでる子達いるんだよね。アンガービーの影響受けたんなら、それが全部マイナスになってもおかしくない」


 はた迷惑な。いやまあ今まで鼻つまみ者だったやつがいきなり急成長したらそうなるのも必然とは思う。別に表に出されているわけでもなかったし、羨んでいるだけなら別に何の問題もなかったんで気にしてなかった。

 まあつまり何が悪いってマイナス方向に振り切れさせたアンガービーが悪い。スロウに寄生して中身食い尽くそうとしやがったし、こいつだけは絶対にぶち殺す。


「エミル君? 何か君までアンガービーの影響受けてないよね?」

「さっきスロウに幼虫が寄生していたんですよ」

「あ、じゃあしょうがないわね」


 それ多分私もブチ切れるわ。そう言って納得したお姉さんは、じゃあそういうわけだからとアンガービー討伐の依頼書に判子を押した。そしてそこに、お面の回収、という一文を追加する。


「お面の場所は、分からないんじゃないのかなぁ……」


 それを見たシトリーが首を傾げるが、俺はいや多分大丈夫だと返す。アンガービーの居場所の正確な位置はまだ分からないが、少なくとも。


「お面は多分、俺とスロウが会ってた森の方に落ちてるはずだ」

「エミルを犯人にしたいからってことね」

「そーいうことなら、早速行きましょう」


 そして多分だけど、アンガービーもその辺りにいるはずだ。あの辺は俺とスロウが二人きりでのんびりしてる場所でもあるから、スロウが寄生されるとしたら多分。


「じゃあ、よろしくね」

「ああ、任せとけ」


 スロウを寄生先にするようなやつに、遠慮なんか欠片もいらないからな。



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