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第三十六話

「なんだか最近村が賑やかですね」


 ある昼下がり、スロウがそんなことを言い出した。確かに今は村は色々と準備で忙しく動き回っているが、まあ毎年のことなので今更思うようなことも。


「って、あ、そうか。スロウが村の中で過ごすのは今年が初めてなのか」

「芋虫ヘッドの人型の時にちょろっとエミルの家に入れてもらったことはありますけど、それくらいですね」


 そういうことか。いつも一緒にいるんですっかり忘れていたが、こいつとは基本森の中で会ってたんだっけか。なら今何をやっているか知らなくても仕方ない。

 まあ、とはいえ俺も別に積極的に参加していないからそう詳しく説明も案内も出来ないんだけど。


「祭りやるんだよ。村のちょっとした豊穣祭みたいなの」

「お祭り!?」

「だから村でやるちょっとしたのだっての。別に屋台が出るとか催し物があるとかパレードやるとかそういう感じの規模じゃないぞ」


 どちらかというと宴会の延長線上みたいなものだ。会場作って、後は飲んで騒ぐ。そんな感じの、ぶっちゃけ大したこともないし、何を由来した祭りなのかもよく分からないやつ。

 だから、そんな風に目をキラキラさせても多分がっかりするだけだぞ。


「そーなんですか?」

「そうだよ」

「でも、お祭りって参加したことないから、規模の大きさとかもよく分からないんですけど」

「まあ、それもそうか。……いや、でも知識としては知ってるだろ」

「知ってますけど。それでどうがっかりなのかとかがよく分からないんですよ」

「うーむ」


 まあ本人――本虫が良いって言ってるならまあそれでもいいか。そう結論付けた俺は、じゃあついでに残りも誘っておくかと足を進めた。アリアは村のギルドの手伝いを相変わらずしているだろうし、シトリーも多分ギルドの何処かで寝ているはず。

 扉を開けて中に入る。お姉さんがいらっしゃいと声を掛けてきたので、シトリーはいるかとそのまま尋ねた。そこ、とギルドの隅に置いてあるソファーを指差されたので視線を動かすと、アリジゴク花がそこに寝っ転がっている。既に日常の光景になったのか、ギルドの中に堂々とモンスターがいても誰も何も言わない。いやまあ全然知らないモンスターがいれば騒ぎにはなるだろうけど。


「それで、シトリーちゃんに用なの?」

「あ、いや。アリアとシトリーを探してたんだ」

「アリアちゃんも?」

「あたしがどうかしたの?」


 お姉さんの言葉が聞こえたのか、別の場所で作業をしていたアリアがこちらにやってくる。また何か依頼でも受けるの? と聞かれたので、いや違うそうじゃないと言葉を返した。


「もうすぐ村で祭りやるだろ」

「やるね。それがどうかしたの?」


 俺の言葉にお姉さんがそう返す。まあこれが普通の村の人の反応である。飲んで騒ぐのが好きな冒険者はこの時期になると依頼より祭りの準備を優先し始めたりとかするものだが。

 まあ勿論俺はそんなタイプではないのはお姉さんも分かっているので、こういう質問になったわけだ。


「お祭り? 何か催し物でもやるのかしら」


 その一方でよく知らないアリアが話に食いつく。こいつはこいつで色々知識を持っているから、多分もっとしっかりとした祭りを想像したのだろう。だから俺はそんなちゃんとしたものじゃないぞと説明をした。ぶっちゃけ祭りと呼んでいいのかもよく分からないやつだ、と。


「まあ村をあげての大宴会、みたいな感じだものね」

「ああ、そういう感じの祭りなのね」


 俺の説明とお姉さんの言葉でアリアは理解したようで、しかし別段がっかりしたような感じでもなくそれはそれでといった様子だ。知識がしっかりあるとこういう反応になるのか。


「何か今わたし馬鹿にしませんでした?」

「何でだよ」


 じとー、とスロウがこちらを見てくる。ふわっとした感じの知識としっかりとした知識だと反応が違うんだなと思っただけで、別にそこに他意はない。納得していないようだったのでスロウにそう説明したら、それを馬鹿にしてるって言うんですよと怒られた。解せぬ。


「まあ、あたしの場合は普通に経験もあるから」

「え、お前祭り参加したことあるの?」

「軽く見て回っただけよ。アリアンロッテに近付くためにはそういう現地の経験も必要だったもの」


 つまり王都か城下町かそういう系統のでかい規模のやつに参加したということだ。なんというか、こいつのアリアンロッテに対する思いの強さでそこまでしていると感心を通り越してちょっと怖い。


「しかし、よくバレなかったな」

「別にただ見て回るだけなら気付かれないわよ」


 きちんと足も擬態させていたし、と付け加える。普段そのまま虫の下腹部なのは疲れるからだったっけか。


「スロウみたいにいけるのが特例なのよ。まあでも真のアリアンロッテを目指すなら、いつかは下半身も常時人型でいるようにしたいわね」

「そんなもんかね。ん? じゃあシトリーは? あいつも常時人型だろ」

「あれは――」

「ワタシは皮を被っているだけだから、ちょっと違うんだよぉ……」


 ひょこ、といつの間にか起きたらしいシトリーが会話に参加してくる。説明も兼ねてなのか、疑似餌を被った人型モードだ。


「元々ぉ、疑似餌が人型だから、そう見えるだけなんだよぉ……。ぶっちゃけ擬態能力という意味では……ワタシが一番低いと思うよぉ……」

「そんなもんかね」


 さっきと同じようなリアクションをしながら、まあどの程度の規模だろうが基本人の生活に紛れ込めている時点でどれも大分おかしいレベルだと俺は思う。モンスターの擬態って基本獲物を油断ないしは誘き寄せるだけのものだから、用途が全然違うんだよな。


「そういう意味では、傀儡人形さんとかはどっちかとゆーとそっち系ですよね」

「まあ、あれはついでだから人の生活に紛れ込んでいるだけだな」

「もう慣れたけど、ほんとエミル君って水属性の頂点ボロクソに言うわよね」


 あれは言われて然るべきなので仕方ない。間違いない。







 ともあれ。祭りどうする、という最初の話題に戻る。スロウは参加したい、と手を上げ、アリアもまあどうせだしと返答した。


「お祭り……?」

「ん? シトリーはあんまり乗り気じゃないか」

「乗り気じゃないというか……お祭り自体よく知らないんだよぉ……」


 ああ、そういうことか。スロウみたいに多少知識持ってるとか、アリアみたいにガッツリ勉強してるとかと違って、シトリーはその辺の知識はモンスター相応だ。ぼっちな気質が幸いして、こっちに溶け込める基本的な要素を持ってはいたが、細かい知識量はやっぱりこっちの二体より少し劣る。

 まあとは言っても世間知らず程度の認識で済んでしまうのが大分アレだが。普通のモンスターってこういうものだっけか。

 それはともかくとして。じゃあ、と祭りの簡単な説明と、この村でやるのはそういうのじゃなくてちょっとした宴会程度だということを改めて話す。成程、と頷いたシトリーは、そういうことなら参加するとどこかワクワクしながら頷いていた。


「宴会……食べ物沢山だよぉ……」

「あー、そっか。お前そういうやつだもんな」


 基本食い気で行動しているのだから、どっちかというとそういう宴会の方がシトリーにはいいのかもしれない。

 じゃあとりあえず今回は全員参加ということで。そんな決定をするのを見ていたお姉さんが、何だか眩しいものを見る目で俺を見ていた。何か文句でもあるのか、とそちらを向くと、そんなことはないと返される。


「あの捻くれ者が祭りに参加するなんて、とお姉さんは感動しているだけよ」

「うるさいよ」


 ガキの頃はスロウ以外に仲のいい同年代の相手はいなかったから別に参加しても意味はなかったし、向こうだって俺みたいなのが参加されても空気悪くなるだけで困っただろうからお互いの思惑が合致してただけだ。

 今はまあ俺も多少は大人しくなったし、何よりスロウ達が参加したいって言うんだから参加しない理由がない。そういうわけである。


「はいはい。あ、じゃあせっかくだし準備も手伝う? この時期だと、そういう準備も冒険者の依頼にしとくっていう暗黙の了解があるし」


 ほれ向こう、と掲示板を指差す。どれどれと見に行くと、成程確かに村の祭りの準備の手伝いというのが常設の依頼に貼られていた。まあ宴会会場の設置準備とか、料理の材料の調達とか、そういう系統のやつみたいだが、さてどうするか。


「せっかくですし、手伝いもしましょうか」

「まあ、あたしは構わないわよ。この準備のおかげか最近はギルドの手伝いも暇してたし」

「おて、つだい……。が、頑張るよぉ……」


 約一名声が上ずっているが、まあどうやら全員祭りの手伝いをする方向でいいらしい。じゃあそういうことで、とお姉さんに声を掛ける。了解、と笑顔を見せたお姉さんは、さらさらと書類を書くとこれを祭りの準備してる人に見せてねと俺に手渡した。

 書類を受け取った俺達は、じゃあさっそくと準備をしている人達のいる場所に向かう。すいません、と声を掛けると、村の大人連中がこちらを見て、そしてエミルが来るとは珍しいと目を見開いた。


「で、どうした?」

「いや、祭りの準備の手伝いに来たんだよ。ほらギルドの依頼書」


 大人の一人にそれを見せると、再び目を見開き驚かれる。何でだよ、俺冒険者になってから普通に色々やってるだろ。


「それはそうだが。まさか祭りの準備の手伝いまでやるとは」

「仲間が祭りに参加したいって言うから、どうせならってだけだ」


 仲間? と視線を動かした大人は、ああそういえばそうだったっけかと納得したように頷いた。その頷き方は、間違いなく俺一人ならこういうことをやっていなかっただろうなという確信のもとの動きである。

 まあそうなんだけど。


「にしてもお前、本当に可愛い女の子だけを引き連れたパーティー組んでいるんだな」

「いや、こいつら全員モンスターだし。そもそも普段見てるだろ」


 村で生活しているなら、この半年程度の間で全く関わらないということはまずないはずだ。そんなことを思って言葉を紡いだが、全く関わらないわけじゃない程度だと分からないんだと返された。別段広いわけじゃない村だが、まあ遠目で見るとかちょっと話したことがある程度だとかだと確かにそうかもしれない。


「そもそも、モンスターだっていうのも中々に信じられないんだよな。いやまあ実際の姿でいるのを見たやつもいるから本当なんだろうけど」


 まあ村をモンスター姿で歩き回ることは普通やらないので、必然的にギルドに用がある人くらいしかスロウやシトリーの本体を見ることはない。そういう意味ではアリアは俺の家くらいしか本体にならないので、蛾の状態をみているのは俺と家族くらいになるが。

 勿論だが、じゃあとここで本体になることはない。セフィの時にはそれをやったが、今それをやるのは正直めんどい。色々な意味で。

 まあそんなことはいいから、手伝いに来たんだから、何をやればいいか指示してくれ。そう述べると、ああ分かったと会場の設置に必要なものや宴会の料理に必要なものの用意の調達を指示される。


「了解、んじゃ――」

「お前! 何でここに!」


 突然聞こえてきた声に振り返る。そこには以前、俺が冒険者になるほんの少し前にぶちのめしたあの馬鹿三人組がいた。

 確か名前は……覚えてない。


「名前も覚えてないって面だな」

「ああ」

「迷いなく言いやがって……!」

「で、何の用だ? 俺達は祭りの準備するからお前らの相手してる暇ないんだけど」


 そう言うと、馬鹿三人組はふざけるなと叫んだ。何もふざけていないんでいいからどいてくれ。邪魔だ。


「それがふざけてるって言ってんだよ」

「何でだよ。俺はお前達に用がないし、祭りの準備の邪魔だからどいて欲しい。何も間違っちゃいないだろ」


 俺の仲間達もこのままだと動けないしな。そう続けると連中は視線を俺の横の三体に向け、そして再度ふざけやがってと叫んだ。何が何やら分からん。


「村のはみ出しものが美少女三人とパーティーを組んでるとか、娯楽小説じゃねぇんだぞ」

「知らねぇよ。そもそもこいつらは三人じゃなくて」

「うるせぇ! お前をぶちのめして、俺達が――」

「ちょいやー!」


 何か言おうとした馬鹿三人組の一人を問答無用でスロウがぶん殴る。もんどりうって倒れた馬鹿の一人は、そのまま意識を飛ばして動かなくなった。やった当事者はいい加減うるさいとばかりに胸に手を当ててふんぞり返っている。


「エミルにいちゃもんつけるやつに容赦はしません」

「いや、時と場合によってその辺は変えてくれ」

「え? 今は別にいいですよね?」

「まあ、いいけど」

「よくねぇよ!」


 残りの馬鹿二人が伸びた一人を介抱しながらそう叫ぶ。そんなこと言われても、俺はさっきから邪魔だからどっか行けって言ってるし。

 そんなことは知らんとばかりに怒りを顕にした残りの馬鹿は、もう許さんと武器を抜き放ちこちらに攻撃を加えてきた。ぶっちゃけ遅いし隙だらけだ。クロードと戦ったのでその辺の差が非常に良く分かる。

 まあ適当に迎撃するか。そんなことを思った矢先、アリアとシトリーが馬鹿二人に向かって飛び出していた。

 アリアはアリアンロッテモードの時に使う扇を一人の喉元に突きつけ、シトリーは相手の剣を素手で受け止めて微動だにしていない。


「あたしですらこんな事が出来る程度の腕なんだから、エミルに敵いっこないわよ。諦めなさい」

「全然痛くないよぉ……」


 えらくあっさり対処されたことで、馬鹿二人が思わず後ずさる。そこにとどめの一撃を入れようとスロウが一歩踏み出していたので、俺はその腕を掴んで止めた。やめろ、そろそろ大人の視線が痛い。

 いい加減にしろ、と大人達がそこで立ち上がった。さっきまではまあケンカで済んでいたが、流石に武器を出してしまうと看過出来ないというわけだ。準備をしている大人達の中には当然冒険者もいるわけで。げんこつを食らった馬鹿どもはそのまま会場準備を叩き出された。

 それにしても、何しに来たんだあいつら。


「手伝いには来てたんだろうが、エミルを見て我慢出来なくなったんだろうさ」


 自分はまだ下級冒険者なのに、いつの間にかはみ出しものだった俺――エミルが中級冒険者になって、見た目はまあ美少女の連中とパーティーを組んでいる。そんな不公平が許されてなるものか。言うなればまあそんな感じなのだとか。


「ただのやっかみだろう。気にするな」

「いやまあ、気にはしないけど」


 けど、まあ自分が恵まれているというのは良く知っている。あんな奴らに言われなくたって、そんなことは重々承知の上だ。それ以上に厄介事も多いけど、でもまあ、総合的には間違いなく恵まれていると言えるはずだ。

 そしてその中でも。


「どーしたんですか?」

「いや、スロウと幼馴染で良かったな、って改めて思っただけだよ」

「スロウ大好き、とか言ってくれてもいいですよ」

「よし、じゃあ準備の手伝いするか」

「あ、逃げたよぉ……」

「でしょうね」

「むー」


 知らん知らん。その辺は今回の騒ぎに欠片も関係ない。こともないけど、今じゃない。



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