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01. 前世のやらかし

ご無沙汰しております。真朱です。

始めましての方、ようこそおいで下さいました。


ずっと別のお話を書いていたのですが、

最終コーナーを曲がったところで「何か違う…」と思ってしまい、

簡単に手直しできそうな気配もなく、

「息抜きがてら短編でも」と思って書き始めたのがこのお話です。


短編に収まらなくなってしまったのですが、要素は完全に短編向きなので、

皆様に読み進めていただけるものやら物凄く不安なのですが、

お付き合いいただけたらとても嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。

 いま学園は、ピンクブロンドの髪色をした男爵令嬢、ミーナ・ワトソンの登場により、ピリついた空気に覆われている。


 平民として育ち、最近になって男爵家に引き取られたというその天真爛漫で可愛らしいご令嬢の、早い話が距離感のバグったコミュニケーション手法に、デレデレになる男子生徒が後を絶たなくなっているのだ。


 はじめは低位貴族の令息だけだったのだが、徐々に高位貴族にまでその影響は及びはじめ、婚約者のいる男子生徒までもが惑わされはじめ、遂には第二王子までもが男爵令嬢・ミーナに肩入れしはじめたとの噂がまことしやかに囁かれ始めたとき―――――


 生徒会で庶務を務めているセラフィの許に、生徒会長からの緊急招集がかかった。


 セラフィが駆けつけると、生徒会室には既に生徒会メンバーが勢ぞろいしていた。


 生徒会長を務めるのは、第一学年の第三王子。

 副会長は王太子殿下のご婚約者、第二学年の公爵令嬢。

 会計は宰相のご子息、第二学年の侯爵令息。

 書記は騎士団長のご子息、第一学年の伯爵令息。

 そして庶務のセラフィ(ただの伯爵令嬢)、第一学年という総勢五名である。


 生徒会長である第三王子・リーンハルトは、苦々しい表情で口を開いた。


 「ピンクブロンドの髪色が特徴的な男爵令嬢、ワトソン嬢の話は聞き及んでいることと思います。彼女の行動によってトラブルが頻発しているということも。そして大変不甲斐ないことに、私の兄がその一人に名を連ね、周囲の苦言にも聞く耳を持ってくれない状況に陥っています。これは由々しき事態です」


 第三王子は三番目の王子ってことなので、当然だが兄王子が二人いる。

 正妃のお子である第一王子は、昨年度末に学園を卒業したことを機に立太子しており、既に王太子として日々執務に励んでいる。

 同じく正妃のお子である第二王子・ラインハルトは、現在この学園の第二学年に在籍しており、母を同じくする第一王子へのライバル意識を隠すことなく、日々切磋琢磨している。


 第三王子・リーンハルトは、後ろ盾の弱い側妃のお子ということもあってか兄王子二人からライバル視されることはなく、体よくこき使われている感が否めない。まだ第一学年でありながら生徒会長を押し付けられていることからも、その傾向がありありと窺える。

 リーンハルトも自分の立場は重々弁えているようで、兄たちからの命令であれば下手に抗うことなく諾々と従うことにしているらしい。リーンハルトとて大変優秀なのにも関わらず、決して自らしゃしゃり出ることはない。


 「皆さん、とうとう我々生徒会が、陰の任務を遂行するときが訪れたようです」


 リーンハルトのその言葉を聞いた瞬間

 突如セラフィに、前世の記憶が蘇った。


 このシチュエーション。このメンバーに、このセリフ。

 知っている。セラフィは、この後の展開を知ってしまっている。

 何故ならこれは、前世のセラフィが、趣味で書きなぐったオリジナル小説の内容そのものだったのだから。

 

 (―――――あああああっっっ!!)


 それを悟った途端、セラフィの顔面から凄まじい勢いで血の気が引いて行った。


 その小説は、前世のセラフィが、自己満足のためだけに何も考えずに書いた、超いい加減な作品だった。

 誰かに見せる予定もなく、一人で楽しむつもりだったのをいいことに、設定もあらすじも碌に考えず、これといったヤマもオチもなく、捻りも伏線もなく、不自然な部分があろうが辻褄があってなかろうがお構いなしに気の向くまま好き勝手に綴った、勢いだけの大変くだらない作品だった。


 異世界もののアニメも漫画も小説もそこらへんに溢れかえっている現代ニッポンに生きていたからこそ、多少の無茶も違和感も「これは異世界です! フィクションです!」って言っときゃ大丈夫とばかりに、深いことなど一切考えることなく軽~い気持ちで書いてしまった、自分で言うのもどうかと思うが、はっきり言ってしまうと駄作である。


 だが。


 いまセラフィは、そのテキトー設定の異世界にリアルに生きている。

 生まれてから本日に至るまで、実家の伯爵家で積み重ねて来た日常が確かにあって、それに関わる人々がいて、皆それぞれに立場も思いもあって…


 だからこそセラフィは、リーンハルトに続きを言わせてはならないことを理解していた。


 が、ただの伯爵令嬢には、許可もなく王子の言葉を遮ることなど、ましてや口を塞ぐことなどできやしない。

 前世の記憶が蘇ろうが、この世界で生きて来た伯爵令嬢としての記憶が失われたわけではなく、性格も前世の人格に引きずられたりはせず、完全にこの世界における常識人なままだったので、そんな無礼な行動を取ることなんかできるわけがなかった。


 (何とか会長の気を逸らさなくちゃ……)


 諦めるのはまだ早い。

 だってこの世界は、前世のセラフィ(※あんま何も考えてない、いい加減で能天気な子)が考えたグダグダな世界なのだ。勢いと力業だけでも、きっとそこそこゴリ押せる。


 「あの会ちょ「おおお陰の任務!! 超かっけー!! 会長、してその任務って!?」」


 セラフィが決死の覚悟で口を開いた瞬間、異世界ものでは最早お約束とばかりにキャスティングされていた脳筋担当、騎士団長の息子・オーガスタ(書記)が興奮気味に声を張り上げたことにより、セラフィの声は掻き消されてしまった。

 喜色満面でリーンハルトににじり寄るオーガスタの迸らんばかりの生命力を前にすると、セラフィ如き弱々しい生気しか発せない貧弱な人間は存在自体が霞んでしまう。


 (ああもう馬鹿馬鹿! 前世の私の馬鹿!! お約束も何も、生徒会に猪突猛進タイプって必要だった? 肉体労働担当が必要ならカタブツ騎士とか充てがっとけばよかったのに…)


 セラフィが自責の念に苛まれている間に、脳筋にせかされたリーンハルトは続きを語り始めてしまった。


 「我々生徒会には、隠された使命があります。学園内のトラブルに関して難しい対応を迫られた際には、『学園レンジャー・シークレットファイブ』を名乗り、正体を明かさず速やかに事の解決にあたるという、陰の任務を負っているのです」


 (ぎゃ――――――――――っっっ!!!)


 ―――――そう。前世のセラフィがふざけ倒したその作品。

 それは、生徒会メンバーが秘密の戦隊もどきを結成して、学園の問題を陰から解決していくという、お気楽学園コメディだったのだ。


 尚、悪の軍団と戦ったりするわけではないので、『戦隊』ではなく『レンジャー』となっている。あくまで『戦隊もどき』で正解である。


 あれは…あれは誰にも見せるつもりがなかったからこそ好き勝手にふざけることができたのであって、自らが演じる羽目になるとわかっていたのなら、間違っても絶対に冗談でも書くわきゃないようなヒドい代物だった。

 素人作品だからとかいう以前に…何だろう。一言で言うならしょーもなかった。


 現代ニッポンの、王族だの身分制度だのには縁がない、王子とか公爵令嬢なんて物語の中にしか登場しないと思っている一般市民だったからこそ、何も考えずに「王子がレッドね~」なんて気軽に書けてしまったが、この世界に生を受け、幼少の頃から身分制度をしっかり叩き込まれている今のセラフィには、王子にレッド役を担っていただくという現実に、とんでもない畏怖を覚える。


 (前世の私、怖いもの知らずにもほどがあるでしょ…。「キラキラの爽やかイケメン王子様が戦隊ヒーローの名乗りポーズとかキメたら面白いかも~」とか何で考えちゃったの…? 面白いとか以前に、ただただ恐れ多いだけじゃない…)


 いや、いまセラフィが現実に生きているこの世界において、「生徒会役員は、密かに戦隊もどきを結成して問題解決にあたれ」などという正気の沙汰とは思いたくないお役目を授けたのは、正真正銘セラフィではない別の誰かである。

 前世のセラフィは何も考えてなかったので、「そういう伝統がある」的なテキトー設定で濁していたはずで、つまりはこの世界に現実に生を受けた先人のどなたかが作った隠された伝統ってことで間違いなく、誰もセラフィを責めたりはしない。


 それはわかっていても、何かどうにも身の置き所がない。


 前世のセラフィが、「生徒会長はやっぱ王子じゃなきゃね~。副会長は公爵令嬢がテッパンよね!」くらいの超絶安易なノリでこんな設定にしちゃったが故に、第三王子はレッド役を、公爵令嬢はホワイト役を演じにゃならんくなってしまっている。


 ちなみに、生徒会長がレッド、副会長はホワイト、会計はブラック、書記はブルー、庶務はピンクである。

 前世のセラフィのテキトー設定により、役職で色を決め打ちにしてしまっているため、庶務が男性だった場合でも強制的にピンクである。きっと過去には実際にピンクを纏った男性がいたことだろう。お似合いだったに違いないとセラフィは信じている。


 「へえ…。正体を明かさずにってことは、変装か何かするんですか?」

 インテリ眼鏡枠に抜擢されている宰相の息子・ユング(会計)は、特に驚いた様子も見せず、冷静に詳細を確認している。


 ネーミングなどに対するツッコミを入れるとしたら、インテリ枠担当者が適任だと思うのだが、何故ユングは華麗にスルーしているのだろう。セラフィ的には「シークレット・ファイブ」なんて、ベタなだけでなく大分イタイと思うのだが、何か思うところはないのだろうか。


 「ええ。当初はぴっちぴちのボディスーツを着用する予定だったそうなんですが、速やかに着脱できないせいで、駆けつけたときには時すでに遅しとなっては意味がないと変更されたそうです。私達は制服の上にマントと仮面を装着することになります」

 

 担当カラーのマントと仮面を披露されて「おお~」とか歓声を上げながら確認している生徒会の皆様を横目に、セラフィは呆然と立ち尽くすしかなかった。


 (それ、全然変装になってなくないですか………)


 制服は生徒全員同じなので、そこだけに着目するなら、個人を特定する要素にはならないという主張なのかもしれない。

 が、体形も着こなしもまんまな状態でマントだけ羽織ったからといって、何が隠せると言うのだろう。


 しかも仮面はフルフェイスではなく、目許から鼻までが何となく隠れる程度の布製のもので、後頭部で紐を結んで留めているだけであり、髪色どころか髪型すらも隠せていない。

 はっきり言ってしまうと、「生徒会長、今日はマントを羽織ってらっしゃるのね。あら、眼鏡かと思ったら仮面をつけてらっしゃったの…?」ってカンジでしかない。


 まったく隠せていないというのにあたかも隠せているような顔をして、王子であるリーンハルトに「シークレット・レッド!」とか恥ずかしい名乗りを上げてもらわなきゃならないだなんて…


 (どうしよう…。凄まじく居たたまれない………!)


 言い訳させていただきたいのだが、このマントと仮面を考えたのは断じて前世のセラフィではない。ズバリ、前世のセラフィはそんな細かいところまで描写した覚えがない。


 制服や校舎のデザインだってセラフィ自身は一切描写していなかったのだが、それでは世界が成立しなくなってしまうからなんだろう。表現していない部分は、この世界が自動的に補完してくれているらしい。

 それならもっとこう、いいカンジに補ってくれればいいものを、なんとも微妙な仕上がりにしてくるあたり、テキトー世界観の弊害というしかなさそうだ。


 終始そんな調子なので、第三王子・リーンハルトにあのマントと仮面を装着して陰の任務にあたっていただくだなんて、セラフィのメンタルがぎったんぎったんに殺られる。


 高貴で上品でお美しい公爵令嬢・フリデリカ(副会長)にも同じことが言える。

 リーンハルトの長兄である王太子(第一王子)の婚約者であり、近い将来には王太子妃となることが約束されているフリデリカに、ちっとも正体を隠せていない仮面&マント姿でホワイトポーズを取らせるだなんて、冗談にしたって少しも笑えない。


 しかも、リーンハルトもフリデリカも、優秀でありながら努力を惜しまず、厳しさの中に優しさも併せ持つという、人としてとても尊敬できる方々なのだ。

 馬鹿馬鹿しいお話に巻き込んでしまったことが心底申し訳なく、もう居たたまれないにも程がある。


 この際、宰相の息子・ユング(会計)は諦めよう。

 クール系インテリ眼鏡が無表情でブラックポーズかます姿は、正直セラフィもちょっと見てみたいような気もするので、ユングには潔くブラックを務めてもらうこととして、リーンハルトとフリデリカは巻き込むわけにはいかない。セラフィのメンタルがしんどい。

 

 (お二人には、何としても変身とポージングを回避していただかなきゃ…!)

 セラフィは意を決して、リーンハルトに進言した。


 「会長! 確かにワトソンさんの行動は目に余るものがございます。ですが、会長のお手を煩わせる前に、まずは私とオーガスタにて対処にあたらせていただけないでしょうか」

 「―――――オーガスタと二人で…?」

 「はい。私達はワトソンさんと同じ第一学年ですし、爵位もほどほどですので、とっつきやすいのではと思うのです」

 「おお~! 確かにな! 先鋒ってやつだな!」


 リーンハルトとフリデリカを関わらせないためには、もうセラフィが身を削って、率先して問題を解決していくしかないと思う。

 前世のセラフィが考えなしだった報いだと思って、甘んじて受け入れる所存である。


 騎士団長の息子・オーガスタは、さきほどムダに脳筋を炸裂させて、リーンハルトの気を逸らせようとしたセラフィの妨害をしてくれちゃった責任の一環ということにして、道連れにしたいと思う。

 オーガスタは頭脳労働にはあまり向いていないが、肉体労働は率先してやってくれるし、性格はカラっとしていて根に持つタイプでもないので、こういう表現もどうかとは思うが正直巻き込みやすい。


 「いきなりフルメンバーで臨んで全員が警戒されることになりましても、後々手づまりになってしまいそうですし、まずはお二人にお任せしてみてはいかがかしら?」


 フリデリカの一言に、口元に手を当てて思案していたリーンハルトも納得してくれたようだ。

 「…ではお願いしようかな。困ったことがあれば、すぐに私に相談してね?」

 「はい!」

 「了解です!」

 

 かくしてセラフィは、自分が書いてしまった超いい加減でふざけた作品の後始末をするべく、陰の任務に邁進することとなったのだ。



今回は、各話の文字数が割と多めなので、

分割しようかどうしようか悩んでおります。


第1話は途中で切りたくなかったので多めのままいきますが

あまり文量多くない方が読みやすいでしょうか…?

悩みます…。

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