3ー1 叙爵と許嫁? その一
いよいよ叙爵の日となった。
キッチリと正装した僕を王都の西門から王宮まで運ぶのは、王都内でも大手の馬借の立派な馬車だ。
叙爵されるまでは平民なんだから、僕としては徒歩で王宮へ行っても差し支えないのじゃないかと思うのだけれど、慣例上は宜しくないみたいなんだよね。
だから式当日は、馬借から御者付きの馬車を借りている。
王宮からの帰りには公爵になっているわけなんだけれど、別にパレードをするわけではないので、そのまま王宮の下馬から馬車に乗って西門まで送ってもらうことになっている。
移動に際して、馬車を使うような貴族や富裕な商家辺りは、そもそも自前で馬車も保有しているのが普通なのだけれど、何らかの事情で馬車が使えないような場合には、馬借から御者込みで借りて急場を凌ぐ場合もあるんだ。
そのために、馬借では、普通の馬車や荷馬車とは別に、貴人を送迎できるような立派な馬車も複数用意してある。
服装については、流石に普段の服装ではまずいので、自前で貴族用の衣装を用意したよ。
実は、先の名誉伯爵の授与の際に王都内の有名なテーラーに仕立てて貰った衣装が有るんだ。
生憎と成長期の僕は三か月もすれば、当該衣装が着られなくなる。
従って、無駄な金を使わずに、同じような色違いのデザインの衣装を僕が造って着ることにしたんだ。
新たにテーラーに頼むこともできたけれど、時間的にあまり余裕が無かったから、自前で作った方が手軽だったんだ。
キチンと勘所は押さえて、王侯貴族でも恥ずかしくない衣装を半日で造ったよ。
こんなのも錬金術と魔法を組み合わせると簡単に造れちゃうんだ。
但し、こんなことは余り人には吹聴できないけれどね。
作ったテーラーの名を誰かに聞かれたら度忘れしたことにしておくしかない。
女性じゃないから、多分そんな細かいことまで聞かれるようなことは無いだろうと思っているよ。
ところで叙爵の前に色々と注意事項を受けることになっているために、式典よりも一刻も前に王宮へと参内した。
そこでは、儀典官と言うのか宮廷における儀礼全般を司る官吏がいて、今日の式典におけるスケジュールと作法を色々と教えられたよ。
かなりの量の情報で、普通の成人になったばかり13歳には覚えきれないんじゃないかと思うぐらいあったな。
まぁ、僕の場合は予め妖精sに情報を仕入れて貰っていたから、ほぼ復習のような話だったけれど、何となく、宮廷官吏の態度を見ると平民の『成り上がり者』に対する見下した態度が透けて見えたね。
例の屋敷の件も含めて、もしかしたら嫌がらせのようなものが有るのかなと勘繰っちゃうよね。
官吏に教えられた通りにその場でやって見せたら、今度は、当該官吏の驚くような表情が見られたけれどね。
この人物については、背後関係を調べてからの話にはなるけれど、別の機会に何某かのお礼参りをしなければならないかもしれないね。
僕は、いじめには耐性ができているけれど、ある意味で腹黒いところもあるからね。
そんな機会が有れば、まぁ、精々覚悟しておくことだね。
◇◇◇◇
叙爵の式典は、王宮の謁見の間で、王都滞在中の貴族や法衣貴族を合わせると百名を超える人々の立ち合いのもとで取り行われた。
宮廷官吏の発声により僕の名前が呼ばれて、国王陛下の前に進み出て跪くと、国王陛下直々に、公爵に僕を任ずる旨と新たにブラッセルマン家の創設を許す旨の口上が述べられ、僕が、予め定められた慣用句である臣従とお礼の口上を述べて、叙爵の式典は終わりである。
この結果、僕は、リック・オルト・バウマー・ブラッセルマンと言う名前になり、公爵位を賜った。
因みに、「オルト」は公爵位を表し、最後のブラッセルマンが公爵家としての家名になるんだ。
叙爵のセレモニーはそれだけであるけれど、この後、参加者が大広間に移動して立食の宴が開催され、僕のところに大勢の貴族がお祝いを述べに来ることになる。
但し、その前に、僕からご機嫌伺いをしなければならない王家一族と上級貴族がいるんだ。
王家一族の宴会出席者にまずご挨拶、それから、大公である王弟殿下、そうして三つの公爵家当主にご挨拶をしなければならないんだ。
大公と公爵については、その代理が出席している場合は、僕から挨拶をする必要もないようだけれど、その辺の調整は王宮の侍従がその都度僕に教え、導いてくれることになっていた。
この王家一族と公爵以上の貴族へのご挨拶に際して、ちょっとしたハプニングが起きた。
産みの母であるはずの王妃が、僕に余計なことを尋ねて来たのだった。
「ところで、王家では、二の姫だけがいまだ許嫁が決まっていないのですよ。
ブラッセルマン公爵は、二の姫と婚約をする気はあるかしら?」
王宮官吏の事前説明では、本来そのような問いかけがなされる予定は無かった筈である。
衆目の中で王妃からお誘いのような質問を受けると、簡単には断れない。
しかしながら、安易な返事もできないのだ。
進退窮まった僕は、止む無く、逃げ口上を言った。
「身に余る光栄にございますが、私にはでき得れば嫁として迎えたいと思っている女子がおります。
未だ、その女子に私の気持ちは伝えていないものの、叶うなれば、その女子に思いを打ち明けたいと存じております。
それ故に、取り敢えず、二の姫様とのお話はご辞退いたしたく存じます。」
「ふむ、左様か?
無理を言うわけには行かぬであろうが、王家との血のつながりにも配慮してくれると妾としては嬉しい。
それと、そなたの思いをかける娘はどこの誰かは教えてはもらえぬのか?」
生憎とここで適当な名を言うわけにもいかない。
ふと、クラウディア嬢の顔も浮かんだが、その名を言えば、王家からダイノス侯爵家に無用な圧力がかかることも考えねばならないだろうね。
「恐れながら、未だ相手にも打ち明けておりませぬ故、ここで名を出すことはお許しくださるよう重ねてお願い申し上げます。」
「そなたが名を申せば、妾から後押しをしてやることもできるであろうに・・・。
いずれにせよ、時折は王家に顔を見せなさい。
そなたは、診療所を営んでおると聞いておる故、下々の生活ぶりにも詳しいのであろう。
参内の折は、王家の子達にもそのような情報を教えてたもれ。」
精霊召喚の血筋を王家に残したいという王妃の考えから生まれた発言なのかもしれない。
特にこの世界では、貴族が世継ぎを残すために複数の妻を持つことが許されている。
正妻として二の姫を押し込まれると、普通に考えて、多分断り切れないだろうね。
さてさて、王妃の考えがどれほどのものかに寄るんだろうが、そもそも王家よりも強い血筋が他家に生まれれば、王家の血筋とは言っても困るのは王家の世継ぎのはずなんだけれど、未だ年端の行かぬ子供ならば何とでもできると考えているのかな?
うーん、色々と取り込まれないように注意をしなければならないのが面倒だよね。
それにしても、母と子の関係ってもっと敏感なものではないのかと思っていたのだけれど、生まれてすぐに捨てた我が子を目の前にしても、そうそうはわからないモノなのだね。
いずれにせよ、この場は、取り敢えず微妙な形で逃げることができたけれど、王妃が二の姫を僕の許嫁にと言い出したことは居並ぶ多数の貴族の耳に残ることになった。
いずれこの情報もあっという間に貴族社会に広がってしまうのだろう。
王妃としてはそれを狙ったのかもしれないね。
事前の説明によれば、僕から王家、大公、それに公爵家への挨拶が終わると、貴族の階級が高い者から順に、僕へ挨拶に来ることになっているようだ。
ここでも代理出席の場合はその順番が下がるようで、その順番までは貴族社会に疎い僕ではよくわからないが、その辺は王家の侍従若しくは王宮官吏が卒なく交通整理をしているようだった。
因みに、ダイノス侯爵とも挨拶を交わしたよ。
侯爵は、領地に一時戻っていたようだけれど、僕の叙爵に合わせて王都に戻っていたようだ。
微妙にやつれていたかもしれないね。
さてさて、突如出て来た二の姫の話をどう乗り切るかが問題なのだけれど、ここは友人である王家相談役のクロイムに相談してみようと思う。
この世界で近親婚の例が無いわけじゃないのだけれど、僕としては是非とも忌避したいと思っている。
宴会場でクロイム・サイルズとも挨拶ができたので、翌日の面会の約束も取り付けたよ。
今回は、彼が僕の診療所まで出向いてくれることになった。
もう一つ、その日に手配したのは、公爵家で召し抱えるべき騎士の準備だった。
妖精sにお願いして騎士の経験のある者とその予備軍を探してもらったんだ。
当然のことながら、その人物の経歴を含めて信条や性格までも判断できるように闇属性の妖精と複数の妖精が一緒になって、王都及びその近郊を探してもらったんだ。
その日の夜半までには、結構な数の人物リストが出来上がったよ。
リストには、妖精sのお勧めの順位までつけられていた。
候補者は、総勢で39名だったが、取り敢えずはその全員に順次面会して意向を確認するつもりだよ。
皆住所が分散しているからね。
僕が直接動くとなれば、頑張っても一日に5人から7人に会うのが限度かも知れない。
但し、公爵になった僕自身が町中を一人でうろつくのはあまり良くないらしいので、一旦は執事長のマイクに投げることにした。
マイクが集めた従者やコネを使って、僕の治癒院へ、リストにある候補者には直に来てもらうことにしたんだ。
その翌日、診療所にいた僕をクロイム・サイルズが訪ねてきてくれた。
意外と王家相談役は自由に動き回れるようだね。
そこで二の姫の件を正直に話すと、クロイム・サイルズは難しい顔をしながら言った。
「今更の話ではあるのだが、第四王子であることを明かすことはできないのかね。
そうすれば二の姫の縁談など一気に消えるのだが・・・。」
「正直なところ、それは嫌だね。
僕の存在が、第一から第三までの王子にとって大いなる脅威になるだろうし、場合により内紛まで引き起こしかねない。
反国王派の貴族も少なからず居ると聞いているからね。
騒乱の火種にはなりたくないし、幽閉されていたことが露見すれば、現国王の立場がなくなるだろうから、反国王派に格好の餌を与えることにもなりかねない。
少なくとも、僕は反国王派の神輿にはなりたくない。」




