表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら幽閉王子でした~これどうすんの?  作者: サクラ近衛将監
第二章 ハンターとして

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/34

2ー25 執事長マイク・ラバンズ

 私は従者ギルドに所属して「執事長」のクラスを得ているマイク・ラバンズと言う者だ。

 当年とって52歳、まだまだ若いつもりでおったのだが、最近は足腰が多少弱ってきているのは自分でも感じ取っている。


 直近の主はナザリオン侯爵であったが、病に倒れ、ついには帰らぬひととなり、私も浪人となった。

 私が仕えた8人の貴族の中でもナザリオン侯爵は最も良き主であったと思っている。


 まぁ、これまでに蓄えたものが有るので、浪人となっても、長年連れ添った妻と二人暮らすに不自由はしないが、何もせぬでは体が弱る。

 従って、次の仕事を得るために従者ギルドの待機リストに入っておったのじゃが、あろうことか新規に平民から公爵に叙爵されるというお方に見初(みそ)められてしもうた。


 そのお方は、リック・バウマー殿。

 王都西門城郭外に王宮の許しを得て診療所を作り、大銅貨一枚で傷病人に対して治癒活動を行っている変わり者の治癒師のはずであった。


 だが、このお方はハンターギルドにも所属していたようで、王都が前代未聞のスタンピードに襲撃された際に、大勢の兵士やハンターの目の前で西門城壁上において、どう猛なモンスター複数と死闘を演じ、また、精霊を召喚してスタンピードの群れ全てを殲滅させた希代の英雄でもある。

 驚くべきことにこの英雄殿は、平民出身の孤児であり、(よわい)13歳であるという。


 ()のお人がその功績ゆえに公爵として近々叙爵されるであろうということは、従者ギルドであれば公然の秘密として誰もが知っていた。

 しかしながら、この秘密を叙爵前にギルド会員以外に口外するようなことがあれば、直ちに従者ギルドから放逐され、以後いかなる職にも就けなくなるであろう。


 その口の堅さゆえに、従者ギルドの斡旋業務が成り立っているのだ。

 これまでにも新規の爵位を得ることで、従者ギルドに新たな従者の斡旋を依頼するお方は当然に居た。


 例えば、貴族の子息であったお人が何某(なにがし)かの功績を上げて、新たに男爵位を賜った場合などは、貴族としての対面を保つために、少なくとも8名ほどの従者を雇わねばならぬのじゃ。

 その際に、出自の貴族家において余裕が有れば、一人か二人の従者を回してもらえるであろうが、その予の従者は従者ギルドに頼んで斡旋してもらわねばならぬことになる。


 まぁ、()えて従者ギルドに頼まずに信用のおける者を採用するという方法もあるが、往々にしてそのような場合には、質の悪い者が混じって当該新興貴族家に仇を為すことがしばしば起きることになる。

 また、一部を従者ギルドの斡旋で雇い、残りを知己の者で充当した場合、往々にして従者ギルドから斡旋された者とそうではない者の間に軋轢(あつれき)が生じ、多くの場合、従者ギルド側が手を引くことになる。


 その場合、従者ギルドから二回目の斡旋は決して行われないことになる。

 いずれにせよ、一度に6名の斡旋は左程に難しいものではないモノの、その主となるべき人物を見極めてそのお方に対応できる者を集めるともなれば、相応に手間も苦労もかかるというものじゃ。


 また、上位の爵位に陞爵(しょうしゃく)される場合なれば、それぞれの爵位の格に応じて、それまで雇っていた従者に加え、不足する人数だけを揃えれば済むことであろうし、それまでの従者を当てにして未だ技量の低い若い人物を見習い的にあてがうこともできるのだが、此度は全く状況が違う。

 少なくとも公爵の格に応じた25名を超える従者を新たに選定せねばならぬ。


 しかも主となる人物は僅かに13歳で、平民出身の孤児でもある。

 ただでさえ、格式と礼儀にうるさい貴族社会に初めて仲間入りしてもらうには、当該主殿に相当の努力をしてもらうことも必要となるであろう。


 実のところ、儂としては、このお人の従者にだけはなりとうは無かった。

 先々の苦労が垣間見えるからだ。


 だが、遺憾ながら、面接をした上で儂が執事長に選ばれてしもうた。

 一方で、主殿の面接の際の堂々とした振る舞いに儂は感じ入っておった。


 儂の経験からいうと、儂の知る礼儀作法では無いのだが、主殿の立ち居振る舞いは、まるで、異国の高貴な人物の所作のように優雅であった。

 13歳ほどの男子(おのこ)であれば、祖父ほどの大人を前にして、おどおどとしてもおかしくは無いはずであるが、そのような態度が一切認められなかったし、儂を雇った後の指図にもある種の風格があった。


 孤児上がりの平民の者が何故にこのような振舞(ふるまい)ができる?

 ハンターギルドに属する者と言えば、礼儀知らずの野卑な者と相場が決まっている筈なのに、それが一切感じ取れなかったのだ。


 姿形と話しぶりを見ていると間違いなく貴族の御曹司に見えるから不思議なのだった。

 このような状況で、儂もこれまでに得たであろう自らの感性を疑ったものだった。


 噂しか知らぬが、流石に王都の英雄と、無理やり自分を納得せざるを得なかった。

 一緒に選ばれたメイド長のシェリアとともに、主であるリック殿から最初に受けた指示は二つ。


 一つは、男性12名、女性14名を、儂とシェリアの伝手(つて)で選んでほしいというものであった。

 儂とシェリアを含めるなれば、総計で28名になる陣容は、それだけで新公爵家王都別邸の従者としては十分な数であろう。


 但し、新たに26名もの人員を選ぶということが中々に大変なのではあるのだが・・・・。

 二つ目が、新たに公爵邸として旧セントリード侯爵邸及びその西側にある子爵邸を拝領し、そこで披露宴を開催する予定であるので、叙爵後三か月以内に披露宴を開催すべく準備を進めてほしいとのことであった。


 そのために、白金貨を百枚ほども目の前に置かれ、儂に預けると言われたのだった。

 左程の金額は、帳簿上では見たことがあるものの、これまでの三十有余年の執事生活の中で一度も見たことのない現ナマの大金である。


 その大金を雇ったばかりの見知らぬ者にポンと預ける度量と言うか、ある意味で世間知らずに恐れ入ったわい。

 儂がこのような大金を預けられても困ると正直に申し上げると、『では、必要になったらいつでも言うてくれ。それまでは白金貨10枚だけを預けておく。』と言われたな。


 ふむ、あるいはこちらの出方を見ていたのかなと勘繰らざるを得なかった。

 それよりも重要なことは、あの旧セントリード侯爵邸を拝領する予定ということなのだ。


 あの屋敷は(たた)られておるとの共通認識が従者ギルド内でもあった。

 西隣の子爵邸ですら祟りの影響を受けて逃げ出したと云うに、あろうことかセントリード邸と子爵邸の二つを若き公爵に拝領させるなど王宮官吏どもは気が違ったかと思ったわい。


 儂が、『あの屋敷だけはいけませぬ。王宮に御断りして別なお屋敷を拝領するようにお願いすべきです。』と申し上げたのじゃが、主殿はいとも簡単に申された。


「あぁ、祟りならば浄化しておいたよ。

 あらかじめ問題が有る屋敷と聞いたので、住めるかどうかを確認するために下見に行った際に、地下に瘴気が溜まっていたのを見つけたので、それを浄化しておいたから、旧侯爵邸も、西隣の元子爵邸も今は安全だよ。

 尤も、屋敷の内部は長い間放置されていたから埃だらけだし、庭も雑草が生い茂っている。

 取り敢えずは、掃除や相応の整備をしなければ住むことはできないだろうし、家具の新調若しくは入れ替えも必要だと思う。

 それらのためにこの金を必要な分だけ使ってほしい。」


 そう、申されたのだった。

 旧セントリード邸の祟りの話は、従者ギルドではそれこそ誰でも知っている話ではある。


 それが浄化で祟りが無くなるなど簡単には信じられぬ話なのだが・・・。

 これまで貴族街区の不動産業者が大教会の司祭様に頼んで何度もお祓いをしたことすらも、従者ギルド会員ならばよくよく知っておることなのだ。


 その祟りをこのお人が浄化したと?

 本当にこのお方は何というお人なのだろうと思ったわい。


 或いは、この男子(おのこ)は、神の使徒様なのかもしれぬと本気で考えたものじゃ。

 後に聞いたが、王都を襲ったスタンピードは、その群れのボスがオーガ・ロードがであったそうな。


 それは国崩しとまで綽名(あだな)される怪物なのじゃ。

 一国の軍隊ですら討伐できぬものを、このお方が討伐したとなれば、このお方は一国の軍にも匹敵する力を持ったお方じゃ。


 そうして、今、祟りを(はら)ったのであれば伝説の聖人でさえもある。

 このお方の言葉がまことであれば、あの謂れが有る屋敷もきっと住めるようになったのであろう。


 その上でとってつけたように申されたのは、


「そう言えば、二つの屋敷は使えぬことは無いが、掃除をせぬと従者たちもすぐには生活が出来ぬな。

 ふむ、止むを得ないから、従者用の宿舎を明日までに敷地内に用意しておくので、あなた方二人と二人が選出した従者達はそこに住んで当座の掃除等を始めるようにしてください。

 従者達の生活に必要な経費は、渡した経費から鋭意使って構いませんし、不足すれば補充します。

 それからあなた方従者の給与は、当面、相場の1.2倍とします。

 給与の加増或いは減給は、実際の仕事ぶりを見て別途判断しますが、それまでは、1.2倍で支給を願います。

 それから、新公爵の披露宴に使用すべき食器等の整備は、お二人で考えておいてください。

 一応の招待客は50家ほど、人数にして百人から百五十人の間になると思われますので、食器の数量は念のため150人分を予定しておいてください。

 正確な数は、招待状を発してその返事で決まります。

 場合により、披露宴時には臨時従者の増員も念頭においてくださいね。

 それと、一応私の方でも食器類の入手については別途算段を考えます。

 あなた方が揃える食器と重複しても差し支えはないでしょう

 また、屋敷の方については、今の侯爵邸や子爵邸のままでは随分と使い勝手が悪そうですので、大改造を考えています。

 本来であれば大工等の工房に頼むのが筋でしょうが、それでは披露宴に間に合いませんので、少なくとも披露宴会場については私が用意します。

 そうして、また、屋敷の大改造については追々準備して行きますので、基本設計を用意するまで大工等工事の手配は待ってください。

 取り敢えずの整備或いは修理、それに清掃は現状の屋敷を取り敢えず使えるようにする程度で構いません。

 因みに僕は、西門外にある診療所に住んでいますので、用事がある場合にはそこまで来てください。

 午前中は不在が多いですが、午後については大概診療所若しくはその二階にある住居に居ます。

 あなた方二人の雇用は、原則的に今日からとし、あなた方が選定する従者については、明日以降の選抜を決めてからにしましょう。

 取り敢えず、あなた方の選抜を優先しますが、披露宴の一月前には最終的な面接を私が行います。

 それまでは仮の雇用になりますが、給与はその間も日割り計算で支払ってください。

 日給でも、適宜の期間給でも、月給でも構いません。

 それから屋敷の敷地内に新たに造る従者の寮を使用するのに家賃は必要ありません。

 食費等寮の生活に必要な経費は執事長が管理してくださいね。

 これまでのところでわからない部分はありますか?」


 色々と疑問がつく話ではあったものの、取り敢えずは、大事なことを一つ聞いた。


「あの、明後日には叙爵を受けることになりますが、その際のいで立ちや従者の付き添いは如何されますか?

 また、その後もお屋敷には住まずに診療所で住まわれるということでしょうか?」


「いで立ちについては、既にこちらで用意しています。

 王宮に参内する時点では、公爵ではないので従者の付き添いは不要です。

 尤も、王宮から帰る際には、本来ならば護衛が必要なのでしょうけれど、今回は省略します。

 但し、今後は王宮に参内するような場合には、少なくとも専用の馬車が必要でしょうから、馬車と御者も準備しておいて下さい。

 それと取り敢えず、屋敷の改築が住むまでは私の住む場所も無いですからね。

 当面はこれまで通り、診療所の二階に住みます。

 問題が有るでしょうか?」


「いえ、その、・・・。

 侯爵としての対面と言うものが有るかと存じますので、城郭外に住むのは如何なものかと損じますが・・・。」


「執事長の言うことは理解できますが、だからと言って高級旅館に宿泊するような無駄はしません。

 公爵邸が整備できたなら、そこで生活を始めますけれど、公爵となったからと言って旅館を拠点に生活する方がむしろおかしいでしょう?」


 確かに言われればその通りなのだが、これまでそんな前例が有るはずも無いのだ。

 なんというか、公爵等上級貴族の爵位を賜って、宿無しのように城壁外で住むなど、貴族としては絶対にありえない話なのだ。


 但し、そうだからと言って儂にも代わりの案を出せない。

 何せ、これまで城壁外に住んでいた方なのだ。


 そこが危険であると言っても何の意味も無い。

 臣下の一角を占める従者として甚だ遺憾ではあるものの、公爵とは名ばかりで、目の前にいるこのお方には今のところ一人の警護の騎士も存在しないのだ。


 王都の英雄でもあるこのお方に警護の騎士は不要なのかもしれないが、それでも形の上での騎士が必要であろう。


「主様、恐れながら警護の騎士を早急にお雇いくださるよう具申いたします。」


「ふむ、貴族にはやはり騎士が必要ですか・・・。

 まぁ、それも懸案事項として考えておきましょう。

 どのみち、今日・明日のうちに、右から左に騎士が用意できるものでも無いでしょう。」


 主様の言う通り、騎士のギルドなるものは存在しないのだ。

 敢えて言うならば、王立学院の卒業生で貴族の三男坊辺りは実家の爵位も継げないでいるから、公爵家で雇うと言えば乗ってくる者も居るであろうが、そうした者はそもそも玉石混交であるし、有能な者は既にいずれかの貴族家などに召し抱えられるか、その予定が入っているであろう。


 そうしてまた、卒業してすぐの騎士は、物の役に立つ者が少ないのが常識でもある。

 少なくともそれら若手を鍛えられる指導者が絶対に必要である。


 ふむ、儂の知己の者で云えば元副騎士団長辺りに声掛けをしてみようか?

 儂としてもこの若き公爵殿に色々と世話を焼きたいところではあるものの、すぐには妙案も出ては来ない。


 結局、その場での話はそれ以上進められなかった。

 取り敢えず、儂とシェリーは、そのままギルドに残って会員名簿から拾えるものを拾うことにした。


 ギルドから選抜した者達に連絡をしてもらえれば、明日若しくは明後日中には必要人員が集められるじゃろう。

 そうして一度屋敷の方もどのような状況下を確認しておかねばならぬな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
そりゃ、『噂が噂を呼ぶ』お屋敷だもの、 この執事(仮)も、二の足を踏むでしょうね。 問題山積ですね、『新しい公爵家』は。 リック「…問題山積といえば、父が『思い出した、そなた、いなくなった我が息子…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ