2―20 スタンピードの攻防 その一
実際に魔物集団が場外にまで迫って来たから、ようやく軍務局での尋問(?)から解放されたよ。
多分、戻って来た騎士団から状況は聞いているのだろうけれど、一体何が目的なんだろうと思っちゃうよね。
目前に脅威が迫っているんだから、そっちへの対応を協議してしかるべきと思うのに・・・。
どっか別のところに参謀部でもあって、そちらで何かやってるのかな?
妖精sに調べて貰ったら、確かに参謀格の若手連中が色々と頭を絞ってはいるらしいけれど、頼みにもしていた近衛師団の調査隊が、スタンピードの前衛に蹴散らされてことから随分と焦っているようだね。
元々王国の近衛師団を含めて王都駐留の軍団はそもそも実際の戦闘に関わったことのある連中は少ないんだ。
仮にそのような優秀な武断派の連中が居ると、危険な前線方面に回されるらしい。
従って、王都に残っているのは貴族と言う称号を誇りにしている余り戦力にならない連中ばかりのようだ。
そのためか、参謀部門にしても実戦を知らないもやし連中だから、魔物との戦闘の仕方も知らないようだ。
うーん、この様子から見て近衛師団や王都在留の軍部の戦力はアテにならないようだね。
こんな時、初代国王のようにサラマンダーとか召喚できる奴は王族には居ないのかねぇ。
だって、そのための王家の聖紋のはずでしょう?
王都の危難に際して、大勢の民を救うために王が動かなければどうするの?
とは言いながら、平民(?)である僕も放置はできないからね。
この王都にはいろいろ世話になった人も多いし、既知になった人々も多いから、その柵をバッサリと切り捨てるわけにもいかないんだ。
そのつもりなら何時でも隣国あたりに逃げることだってできるんだよ。
既に地点登録も済ませたから、空間転移で何時でも行けるんだ。
いずれにしろ、仕方がないから様子を診つつ、必要に応じて介入することにする。
◇◇◇◇
王都を守る将兵の多くは、城壁の上から攻撃をすべく弓矢を構え、大石を準備し、熱湯を造っている。
ハンターの一団も、有志が城壁に上って防戦態勢を整えているところだよ。
少し遅れて魔法師団も城壁に上って来たけれど、魔法発動はまだしていないようだね。
やっぱり魔法の有効範囲が有るのかもしれないな。
少なくとも魔物の集団は城壁から50mは離れているから、城壁の上からならば間違いなく50m以上になるのかな?
その距離では攻撃が届かないか、若しくは、魔力を温存するためにもっと近くに寄るまで待っているのかもしれない。
陽が少し傾き始めた頃に唐突に戦闘は始まった。
ガタイの大きな魔物が十体ほどゆっくりと前に出て来たんだ。
鑑定によればオーガ・ナイトであり、所謂オーガの戦士クラスであるらしい。
凄いね。
魔物の方が余程戦術を知っているみたいだよ。
まずは大きな戦力を集中して先陣を切らせようとしているんだが、狙いは多分城壁の上なんだろうね。
その魔物を狙って魔法を発動しようと魔法師の一団が呪文を唱え始めると、オーガ・ナイトの群れが一気に走り出して、城壁の10mほど手前から空中に跳び上がったんだ。
その時、魔法師団は何をしているかと言うと、狙っていた的が急接近してきたので照準が合わなくなって魔法を中止してしまったんだ。
慌てふためいている魔法師団のど真ん中に二体の魔物が飛び込み、辺りかまわず剛力を振るもんだから、たちまち魔法師団の面々は暴力にさらされて一気に肉片と血しぶきに変わってしまったよ。
他のオーガ・ナイトと言えば、城壁上部にいた将兵に殴り込みをかけているところだ。
僕は妖精sに見張りを頼んでいて、ハンターギルドの西支部で待機していたのだけれど、このままじゃ城壁上部にいる将兵全てとハンターが嬲り殺されることになりかねない。
やむを得ないから、急遽、当該城壁に空間転移して、オーガ・ナイトと一線を交えることにした。
腕力じゃ負けるかもしれないけれど、僕には魔法がある。
近接戦闘をしながら、オーガ・ナイトの心臓とその脇にある魔石を空間転移で抜き出す戦法だ。
心臓と魔石を抜かれた途端にオーガ・ナイトは倒れ伏す。
そんな感じで10体のオーガ・ナイトを次々に倒すと、新手が攻撃をしてきたし、また跳び上がって来たよ。
地面から攻撃してきたのは、メイジだろうね。
風魔法と火魔法で僕を狙って来たんだけれど、少なくともメイジが6体いるようだね。
射出点が6カ所あったみたいだ。
僕は瞬時にそれらの魔法を避けた上で、魔法で反撃を加えたよ。
僕が発動したのは土魔法で岩弾を目標に向けてぶっ放すこと。
狙いはメイジと思われる魔物の頭部だった。
奴らが弾道を避けても、こちらは魔力を操ってホーミングさせているから、ドンピシャで命中してメイジをやっつけたと思う。
次いで、相手にするのはオーク・ジェネラルが五体だった。
こいつらはオーク・ナイトと同様に城壁に跳び上がって来たんだ。
城壁の上で待ち構えていた将兵やハンターでは当然に持ちこたえられない。
オーク・ジェネラルは上級ハンターでも複数居ないと討伐できないはずなんだ。
王都には左程の狩場が無いから中級ぐらいまでのハンターしか居ないからね。
オーク・ジェネラルに対応できる人は多分居ないんじゃないかな?
戦闘経験のない将兵は言わずもがなだよね。
魔物に向かって行く先から死体になっている。
僕はと言えば、こいつにも接近戦を挑みながら、心臓と魔石を取り除いて退治して行く。
ゴブリンやオークのアーチャーが、遠距離から僕めがけて弓矢を射かけて来るけれど、僕の周囲には結界を張っているから、矢が当たろうがそんなのは無視だね。
でもオーガ・ナイトとオーク・ジェネラルの殴り込みで南ゲート周辺の城壁の上にいた将兵はほぼ壊滅し、魔物達が既に南門に向かって群がり、城門を破壊しようとしているようだ。
放置すると城門を破られるかもしれないから、上から特大のファイヤー・ボールを連発で見舞って、門の周囲に群がっていた魔物集団を撃破したところだ。
ついでに城門から離れたところに群れていた集団に向かっても魔法攻撃を仕掛けたよ。
ファイヤー・ストームという奴で、火魔法と風魔法の複合魔法だよ。
僕の場合、時空魔法も併せて使うと攻撃範囲が十倍以上にも広がるんだ。
従って、80mほど離れて木立の陰に隠れているような魔物集団に向けても攻撃可能なんだ。
周囲に隠れている魔物集団をあぶりだすために、5発のファイヤー・ストームを連発したよ。
妖精sに確認してもらったところでは、二千匹ほどの魔物集団のうち概ね五百匹ほどが殲滅されたようだけれど、まだその三倍ほどの魔物が健在のようだね。
こいつは骨が折れるね。
それでも、取り敢えずの魔物の一度目の攻撃は何とか凌いだみたい。
魔物集団は少なくとも200mほども離れて様子をうかがっているみたいだから、陽が暮れてから再度の襲撃があるかもしれないね。
この200mという距離は、依然として僕の魔法攻撃の射程圏内ではあるけれど、今は王都防衛側の準備を整えるためにも敢えて攻撃を控えている。
魔物という奴は、本来夜行性のものが多いんだ。
ゴブリンなんかは昼間に活動しているものも多いけれど、ゴブリンでも上位のものは夜の方が活発になると言われているようだ。
オークはどちらかと言うと昼間に活動するようだ。
オーガの生態は今一よくわかっていないようだけれど、妖精sの情報では夜でも昼でもあまり関係なく活動できるようだ。
従って、夜に襲撃をしてくるとなればオーガとゴブリンの上位種が主体になるのかな。
僕が、南ゲートの真上付近で監視がてら待機していると、ハンターらしき男女二人が近づいてきた。
この二人に一応警戒したが、鑑定をかけてみたら一人はハンターギルド南支部のギルマスだとわかった。
そのギルマスである男の方が言った。
「もしかして、オメェがリックか?
俺は、ハンター多ギルド西支部のギルドマスターをやっているベック・ハンソンだ。
あ、ついでに紹介しておくと、こっちは、ハンターギルド統括本部のサブマスをやっているミシェル・ローレンスだ。」
「初めまして、僕は、ハンターギルド西支部に所属している8級ハンターのリック・バウアーと言います。」
「おう、ウチのサブマスが、せっかくのオメェからの重要情報を半ば無視していたようで済まなかったな。
尤も、その情報を信じていたにしても所属しているハンターではロクな調査なんてできなかったろうと思うぜ。
何せ、精鋭と言われる近衛騎士団50騎がなすすべもなく半数が殺され、残った半数もボロボロになって帰って来たところを俺も見ていたからな。
それにしても、今回は西支部の屋上から見ていたんだが、・・・。
少なくともこの城壁の上でオーガ十体を片付け、今また複数のオーク・ジェネラルを片付けた。
リック、オメェ、一体何もんだ?
とても12歳の8級ハンターの駆け出しができる芸当じゃねぇぞ。
それに西支部の屋上からは良く見えなかったんだが、オメェ、魔法攻撃もやっていただろう。
そんなことのできるハンターは、流石に、この王都には居ねえぞ。
ダンジョン都市として有名なマジョリスタなら、ベテランで居るかも知れねえがな。」
傍にいたミシェルが口を開いた。
「あなたのことは事前に調べさせてもらったわ。
10歳で西支部にハンターとして登録、以後順調に昇級し、今では8級になっている。
主として薬草採取をメインにクエストを受けているようだけれど、最近は、魔物の討伐もしているみたいね。
尤も、クエストで受けるのはいつも薬草採取だけなんだけれど、合間に出会った魔物も討伐している。
おまけに、西門の近くで診療所を開いていて、とっても安い料金で傷病者を診ているようね。
最近では隣国の王族の難病を治したりして、名誉伯爵位までもらっている治癒師としては有名人なのよね。」
「おう、ちょい待て。
ミシェル。
名誉伯爵って、このリックがか?」
「ええそうよ。
西の隣国ノルディア公国の王太后の死病を癒して、ノルディア公国から名誉伯爵を賜ったわ。
その後、サルバドス王国にも彼の噂が届き、サルバドス王国からの要請にこたえて、隣国にわたり、クロイゼル王太子殿下の病をも治して、サルバドス王国からも名誉伯爵の称号を賜った。
この功績から、後にハーゲン王国からも名誉伯爵を賜ったのよ。
だから、あなたの目の前にいるのは、ハンターではあるけれど立派な伯爵様なのよ。」




