2-17 南ギルド支部の判断
いずれにせよ、半信半疑ながらも僕の言うことを真に受けてくれて、ギルド裏手にある解体所に案内してくれた。
受付のお姉さんが、係の人に声をかけた。
そういえば、このお姉さんの名前をまだ聞いていなかったな。
「ブーランさん、この子がオーク47体分の証拠を持ってきたらしいけれど、見てくれる?」
「おう、エミリーじゃねえか。
で、オーク、47体分だとぉ?
いってぇ、どこにあるっていうんだ?」
どうやら受付のお姉さんは「エミリー」さんのようだね。
僕はインベントリからオークの群れを順次解体所の隅へ積み上げていった。
そうして、ついでに大量のゴブリンの耳を出してやると、受付のお姉さんとブーランと呼ばれた男が目を丸くしている。
「あらま。
貴方の言うことは本当だったんだ。
それにとんでもないアイテムボックスを持っているのね。
ブーラン、解体をお願いね。
結果は後で知らせて。」
アイテムボックスは、インベントリの下位互換の収容魔法で、インベントリの所有者は稀の為、その存在自体があまり知られていないようだ。
ブーランと呼ばれた男が言った。
「おう、分かったが、流石にこの量だと今晩までかかる。
坊主、換金は明日になるぞ。」
「了解しました。
明日午前中には再度ここに来ます。
僕は西支部所属のリックというものです。」
「おう、リックだな。
分かった。」
「じゃぁ、リック君、あなたはこのままギルドのサブマスターのところに連れて行きます。
そこで報告をしてください。
サブギルマスがそれなりの判断をしてくれるでしょう。」
◇◇◇◇
その後、僕はエミリーさんに連れられて、南支部のサブマスターのところへと案内された。
ギルマスではなく、サブマスが判断するというならばそれでもかまわないけれど、仮に僕が懸念するようなスタンピードの兆候であるならば、本当はトップの人物がその異変の危険性を判断すべきだとは思うのだけれど、その点についてハンターランクの低い僕が指摘を行っても何も得るところは無いだろうね。
僕の報告内容を聞いて、どの程度ギルドの職員がその重大性を感じ取れるかが問題だ。
それができないなら、僕の友でもある王家相談役であるクロイム・サイルズに動いてもらうまでの話だろう。
その場合、南支部のギルド職員の幹部は、押しなべて左遷されることになるかもしれないな。
事はギルドだけの問題ではなくって、王都の安全にかかわる問題なんだから・・・。
決しておざなりに判断してはならない案件のはずなんだけどねぇ。
サブマスは、四十代のやせぎすの男でサムラスと名乗った。
体型と筋肉のつき方からして、おそらくハンターの経験は少ない人物のようだが・・・。
人物鑑定をかけてみても、サムラスにはハンターとしての経験やランクは無いようで、事務職上がりのサブマスなのだろうと思われる。
何より、僕についている妖精sが彼を毛嫌いしているようなので、余り性格の良い人物ではないかもしれない。
元々、妖精sは見知らぬ人には余所余所しいのが普通だけれど、これまでの経験から言うと、性格の悪い人物や犯罪予備軍のような人物は毛嫌いする傾向がある。
だからと言って、妖精sの反応で人を判断しないようにはしているんだけれどね。
でも、果たして、この人物に、シラブルの異変が分かるのだろうかと若干不安にもなってしまうのは仕方がないことだ。
「それで、8級になって間もない坊やが、ギルドに異変の報告があると聞いたが・・・。
どんな異変なのかね?」
ふむ、どうやら、相手の技量もわからずに8級というだけでハンターを見下す人物のようですね。
「シラブルは、ご存知ですか?」
「あぁ、王都の南部にある台地と聞いているが、そこで合っているかね?」
「失礼ながら、サムラスさんは、そこに行ったことはございますか?」
「いや、無いが、シラブルのことなら報告書を読んでいるから良く知っている。」
「僕は、今日の午前中にシラブルに入ったのですが、そのシラブルの非常に浅い地域で、僕よりも年上の8級の5人パーティが十数匹のゴブリンの群れに襲われていました。
五人パーティが劣勢でしたので、僕が加勢して助けに入りました。
そんな浅いところでは群れのゴブリンは普段は居ないはずなのですが、とても珍しいことです。
五人組パーティは怪我をした者もいたことからそこで引き上げましたが、僕は薬草採取のクエストのためになおも森の中に踏み込みました。
但し、それからわずかの間に四度もゴブリンの群れに遭遇してこれを討伐しましたけれど、その数は70匹を超える数なので間違いなく異常だと判断しています。
そのために、ギルドに知らせようと帰りかけたら、今度はオークの群れにも遭遇したのです。
僕がシラブルに行くようになってから三か月ほどですが、その間にシラブルの浅い場所でゴブリン数匹に出会うことはあっても、数十匹のゴブリンもオークにも遭遇したことはありません。
しかもオークは、ジェネラルを含む47匹の集団でした。
間違いなくシラブルの森で何らかの異変が生じています。
場合によっては、スタンピードの兆候かもしれないので、急ぎギルドに報告に来たというわけです。」
「スタンピード?
ふむ、8級の坊やの見たという証言だけではねぇ・・・。
オークが居たという証拠があるのかね。」
傍にいた受付のエミリーさんが僕の言葉を裏付けてくれた。
「サブマス、このリック君が先ほど解体所で47匹のオークの死体と多数のゴブリンの耳を納品しています。
シラブルにオークの群れが出たというのは間違いないと思います。
ブーランが解体を始めていますけれど、換金ができるのは明日になるようです。」
「その中にジェネラルがいると?」
「私にしかとはわかりませんが、非常に大きなオークの死体もありましたので、あれがジェネラルだったのかも・・・。
ブーランであれば見分けはついていると思いますが、呼んで来ましょうか?」
「いや、いいよ。
要は、シラブルの浅い場所で47体のオークが居たというだけの話なんだろう?
それも討伐されたんだから心配は無い。
たまたま、その中にジェネラルが居たところでなんら問題は無いだろう。
もともと、シラブルの森にはオークがいることはわかっているんだ。
これまでの討伐記録にもあるからね。
浅いところでオークの群れが出たところで、それだけで異変とは言えんだろう。
それだけをとらえてスタンピードの恐れだと?
これまでこの王都の周辺でスタンピードが発生したことなどは無かった筈だ。
もう少し様子を見ることにする。
あー、少なくとも6級以上のハンターを調査に向かわせなさい。
今、王都に居る6級以上のハンターは?」
「ここの受付で把握しているハンターで現在王都に居る最上位の者は、7級のタルバの旋風ですね。
でも確か、隣町のグルーヴィスでの依頼で明後日まで戻りませんが・・・。」
「仕方がないな。
彼らが戻ってきたら、シラブルの調査に向かわせたまえ。」
いやいや、明後日の調査では、遅きに失するだろう。
「失礼ながら、シラブルの森をよく知る古参のハンターに確認しては如何でしょう?
あの浅い場所でゴブリンの群れや、オークの群れがいること自体が絶対におかしいんです。
或いはシラブルの森の奥で異変が生じていて、奥地の魔物が浅いところに移動しているのかもしれません。
特にキングやロードなどの魔物がその中に出現すると、スタンピードになる懸念があります。
少なくともギルマスの耳には入れておく方が宜しいかと思います。」
「ほう、8級になって数か月の坊やが私に指図をする気かね。
南支部の所属ではなさそうだが、以後の昇進に支障が出るかもしれないよ?」
どうやら僕の意見具申は藪蛇だったようですね。
別に僕は昇進と言うか、ハンターの等級を上げることに固執してはいない。
そもそもが身分証明と生活の糧のために始めたことだから、必要十分な稼ぎが有れば8級のままでも構わないし、そもそも王都に居続けるのは診療所のためだからね。
南支部のお世話になっているのはたまたまの話だよ。
いずれにしろ、現場を知らないサブマスで、なおかつ僕を侮っている人では話にならない。
これはもう、やむを得ないから、王家相談役にご注進だな。
少なくとも王宮の騎士団でシラブルの森の監視をする等の配慮はしてくれるんじゃないかと期待してはいるんだが・・・。
ただ、王家相談役に騎士団を動かすような権限が無いとそれも難しいかもしれないんだが・・・。
その場合は、王家相談役からギルマスに話をしてもらうことぐらいはできるだろう。
南支部ではなくって、統括本部のギルマスだって王都にはいるはずだものね。
とどのつまり、僕はハンターギルド南支部を出て、王家の相談役と連絡を取ることにした。
彼は、普段は王宮にいるので簡単には会えないんだが、王宮の門衛に彼の発出した証明書を見せると、彼に連絡が行き、時間が有ればそのまま会えるし、忙しい場合でも、彼が会える場所と時間を指定してくれるんだ。
少なくとも王宮の門衛をたずねて、遅くても二時間ほども待てば彼と話はできる。
うーん、場合によるけれど、いつもの僕の診療は中止になるかもしれないな。
彼が動いても対処に時間を要するようならば、少なくとも森の監視を行う必要があるだろうと思っている。
王都が魔物の群れに襲われたなら、周辺地域を含めて王国内が大変なことになる。
過去には、数千匹の魔物が地方都市を襲って、住民の大多数が殺された事例があると聞いているんだ。
城壁はあっても空を飛ぶ魔物には何の障害にならないし、地竜のような大型の魔物が出現すると王都の周囲を守る城壁や城門さえも破壊されることがあるらしい。
仮にスタンピードがあるとしたなら、今はその前衛の偵察部隊がシラブルの浅いところにまで進出してきているということだ。
背後にはキング若しくはロードが率いる大集団が居る可能性だってあるんだ。
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By サクラ近衛将監




