超能力おぢさん
瀬能「あ、多胡さん。・・・・・こんにちは。」
多胡「ああ、瀬能さん。・・・・・今日も暑いねぇ。」
瀬能「多胡さん、ここ、私有地ですよ。勝手に入ったら怒られますよ?」
多胡「ああ、そうか。・・・・・・・・・ごめんごめん。子供の頃の癖で。つい。・・・・・・・そうか、私有地か。」
瀬能「・・・・・・・・・・。」
多胡「・・・・・・・。」
瀬能「多胡さん。これ、食べます?・・・・・・あずきの棒アイス。」
多胡「瀬能さん? 瀬能さんも、不法侵入者になっちゃうよ?」
瀬能「・・・・少しくらいならいいでしょ?誰か来たら帰ればいいし。」
多胡「え?ああ、そうだね。・・・・・・じゃ、せっかくだからアイス、いただくよ。」
瀬能「はい、どうぞ。」
多胡「このアイス、僕、好きなんだ。僕が子供の頃から売っていてね。・・・・・・・いただきます。」
瀬能「買い食いするには丁度いい大きさですよ。」
多胡「・・・・瀬能さん、アイスのお礼に、僕の超能力を見せてあげる。」
瀬能「別に結構です。」
多胡「・・・・・遠慮しなくても」
瀬能「興味ないんで。」
多胡「そんな事、言わないで」
瀬能「多胡さん。私の話、聞いてます?」
多胡「僕が持っている超能力の一つ。透視能力。・・・・・・・・・白だね。今日のパン・・・・」
瀬能「パン?」
多胡「いや、あの、パンダ。パンダの色。」
瀬能「・・・・・・・多胡さん。パンダはだいたい白と黒の二色ですよ。白?・・・・全身、白だったら、白熊じゃないですか? 私のパンツ、私のパンツ、見たんですか?透視したんですか?」
多胡「だからパンダ。 パンダ。」
瀬能「百円。ほら百円。ただで私のパンツ、見られると思わないで下さい。超能力でもなんでも、無料で私のパンツを見られると思ったら大間違いですよ? ほら、早く、百円!」
多胡「瀬能さんには敵わないなぁ。・・・・・つけといて。」
瀬能「今、オッパイ、見たでしょう?」
多胡「見てないよ!誓う。誓って見てない。」
瀬能「・・・・・まぁ。いいでしょう。オッパイに関しては保留にしておいてあげます。 じゃ、私、帰りますけど、多胡さん。ここ、空き地じゃありませんからね。見つかったら怒られますから、早く、帰った方がいいですよ。」
多胡「ああ、瀬能さん。そうするよ。・・・・アイスとパン、ダ・・・・ありがとう。」
ワイドショー「なんでも天文学的な数字らしいですね。」
コメンテーター「ええ。私も専門ではありませんが、報道では、一億年ぶりの再来らしいですね。」
ワイドショー「一億年ぶり。ですか。はぁ。とんでもない数字ですね。」
コメンテーター「今回、たまたま私達は彗星の再来に居合わせる事ができましたが、次、彗星が来る頃には、私は、一億五十三歳ですよ、はっはっはっはははっははははははっははははは!」
ワイドショー「きっと、一億五十三歳でもお元気ですよ、わははっはっはっはっはははっははっははっはっはっはっは!」
コメンテーター「こりゃ一本取られましたな。」
ワイドショー「『スターブリリアント彗星、再来』のニュースをお届けしました。次のテーマは」
皇「凄ぇ彗星が来るんだな。」
瀬能「今年の夏はきっと、彗星観測ブームですよ。・・・・こういうのは望遠鏡メーカーが売れる為に、何年か毎に、ブームを起こすんですよ。じゃなきゃ望遠鏡、売れませんからね。」
皇「お前なぁ。・・・・望遠鏡メーカーが彗星を呼び込むなんて、おかしいだろ?」
瀬能「おかしくないですよ。ハレー彗星ブームから始まって、定期的に、五年に一回、十年に一回の割合で、でっかい観測イベントが発生します。望遠鏡メーカーのステルスマーケットか、そうじゃなきゃ、雨乞いならぬ、彗星乞いをしているに違いありません。陰謀です、陰謀。」
火野「陰謀かどうかは知らないけど、望遠鏡メーカーだって、望遠鏡、売らないと、ご飯、食べていけないからね。・・・・なんだっていいのよ、彗星とか隕石は、年がら年中、地球の周りを飛んでいるんだから、適当に、名前をつけて、観測イベント、やってるだけだから。・・・・あれよ、あれ、土用の丑の日と同じ。うなぎのステルスマーケットじゃない。」
皇「お前、身も蓋もない事、言うな。」
火野「あれよ、中学生だか高校生ぐらいのカップルが、観測イベントを出汁にイチャイチャ、イチャイチャするのが嫌なの! お前等、どうせ星なんか見てないじゃん!星、見ろ、星をぉぉぉおおお!」
皇「お前、なにかあったのか?」
瀬能「御影は、学生時代のそういう青春熱々イベントを体験していないから妬いているだけですよ。」
火野「あんたは、あるの?そういう、あんたは?」
瀬能「ありますよ、私、学生時代は、モテモテモテ子ちゃんでしたから。 奥手な男子にわざと抱き着いて、好きにさせるとか、やっていましたよ。童貞はチョロイですから。」
皇「・・・・・お前、最低だな。」
ウメ「・・・・・こんなの。何回、ジュース飲んだって、もう一本、当たるはずないじゃない。7、7、、、、、、、、、6! おい!バカにすんな、コノヤロウ!」
多胡「・・・・・」
ウメ「あ、すみません。すみません。今、どきます。」
多胡「・・・・・」
自動販売機「当たるかな? 当たるかな? 7、・・・・7、・・・・・・トゥルルルルルルルルルル ポン 7! 当たり! もう一本!」
多胡「・・・・」ガチャン
ウメ「えぇぇぇぇ? はぁぁぁぁぁ?」
多胡「・・・・・・」
ウメ「え? は? え? 今、どうやったんですか? 何したんですか?」
多胡「・・・・・・・」
ウメ「私、ここで何回もジュース、買ってますけど、一回も当たった事ありませんよ? どうやったんですか? いったい、どうやったんですか?」
多胡「・・・・・・いや、べつに・・・・・」
自動販売機「当たるかな? 当たるかな? 7、・・・・・・・7,・・・・・・・・・・・トゥルルルルルルルルルルルルルン ポン 7! 当たり! もう一本!」
ウメ「はぁ? はぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁ? どうして、どうして二回も連続で当たるの? おかしいでしょ? はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ? なに、これ、ドッキリ?これドッキリ? 私をひっかけるドッキリ?」
多胡「・・・・・・・・・・君、飲む?ジュース」
ウメ「別にいらないです。」
多胡「ジュースを飲みたいんじゃないの?」
ウメ「違いますよ。・・・・・自動販売機のスロットを当てたいだけぇ! おじさん! どうやって当てたの? なに?目押し?パチプロ?」
多胡「・・・・・・・・しいて言うなら、超能力かな」
ウメ「超能力?」
多胡「・・・・・・・・・・」
自動販売機「当たるかな?当たるかな? 7、・・・・7,・・・・・・ トゥルルルルルルルル トゥルルルルルルルルルルルル ポン! 7! 当たり、もう一本!」
多胡「・・・・・・・・いる?」
ウメ「いらないって言ってるでしょ? なんなの、私の一生分の運、使ってるの? はぁぁぁぁぁぁぁぁ? ・・・・・おじさん、何者?」
空知「ねぇ?瑠思亜ちゃん。・・・超能力おぢさんって知ってる?」
皇「ん????」
空知「超能力おぢさん。知ってる?瑠思亜ちゃん。」
皇「空知さん。落ち着いて下さい。え?なんですって?・・・・・超能力、なんですって?」
空知「超能力おぢさん。」
皇「超能力おぢさん?・・・・・いや、初耳です。」
空知「なんかねぇ。私、聞いたのよ。ラーメン屋さんで。」
皇「ラーメン屋?・・・・エースですか?」
空知「そうそう。エース。エースのマスターに聞いたのよ。あそこ、随分と遅い時間まで開いているじゃない?」
皇「あそこは朝まで開いてますからね。」
空知「そしたらね。マスターがね。日付が変わるくらいの時間帯に、サラリーマン風のおじさんが入って来たんだって。別に、サラリーマンが仕事帰りに寄る時間でもおかしくないし、タクシーの運転手さんかも知れないし、ま、とにかく、よれよれのスーツを着たおじさんが入って来たんだって。」
皇「よれよれ?」
空知「くたびれた? よれよれ? どっちでもいいんだけど、ま、小奇麗ではあるんだけど、ピシっとはしてないんだって。それでね、チャーハンを食べて行ったんだって。」
皇「はぁ。」
空知「でね。ほら、お会計とか片付けるタイミングもあるから、食べる様子、マスター、見てたんだって。あ、そろそろ食べ終わるかなぁとか、そんな感じで。そのおじさん、チャーハン食べ終わって、お冷飲んで、さて、会計だ、って思ってマスター、カウンター越しに、お金を受け取ろうと、してたんだって。」
皇「はぁ。」
空知「そしたらさぁ、瑠思亜ちゃん! マスターの目の前で、空になったグラスが、空中に浮いていたんだってぇぇぇぇぇえ! えぇぇぇぇぇ!凄くない? マスターも最初、自分の目を疑ったんだってぇぇぇ! コップが浮くわけないじゃん! おじさんの前でコップが浮いて、グルグル、グルグル、回っているんだってえぇぇぇぇぇぇ! いやぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁ!」
皇「・・・・・空知さんの方が怖いですよ。」
空知「なぁぁっぁぁっぁぁぁにぃぃぃ、言ってんのよぉぉぉぉぉぉおおおお! 私のどこが怖いっていうのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
皇「・・・・・・・。」
空知「いやいやいやいや。コップが空に浮かんで、グルグル回っているのに驚いちゃって、マスターが。 それでマスター、そのお客さんに向かって、
「なにやってるぅんですかぁぁぁぁぁぁっぁぁ!」って言っちゃったんだって。そうしたら、そのおじさん、何も言わないで、ニヤニヤして、そうしたらコップがゆっくりカウンターに降りて来たんだって。それで、おじさん。何事もなかったみたいにお会計して帰っていったんだって。マスター、呆気に取られちゃって、信じられなかったって。・・・・・凄くない?」
皇「ええ、まぁ。空知さんが凄いと思います。」
空知「私じゃないって言ってるでしょ?マスターよ、マスター。エースのマスター。むしろ、おじさん!そのおじさんが凄いの!わかるぅ?」
皇「・・・・あれじゃないですか?手品。手品の練習でもしてたんじゃないですか?」
空知「手品じゃないわよ!マスターがあれは超能力だ、って言ってんだから、超能力よ!」
皇「手品も超能力も一緒でしょ?」
空知「瑠思亜ちゃん!あなた、あなた、手品と超能力を一緒にしないでくれるぅぅぅぅぅ?はぁぁぁぁぁあああああああああぁぁっぁぁ?」
皇「・・・・・・・・・いや、あの、どうして、空知さんが怒っているんですか?落ち着いて。落ち着いて下さい。」
空知「瑠思亜ちゃんはさぁ、世代じゃないから、知らないと思うけど、キヨタよ、キヨタ。ユリゲラー。ユリゲラー、知らない? 超能力、バカにすんじゃないわよ!」
皇「すいません。よく、わかりませんけど、すいません。・・・・・すいませんでした。私が悪かったです。」
空知「・・・・・・・・・分かればいいのよ、分かれば。そう、分かればいいのよ。ああ、私も見たかったなぁ、超能力!」
皇「はははは。ははは。超能力。超能力。」
空知「マスターが驚くのも分かるわよ。だって、目の前で超能力、見せられたら、誰だって、驚くわよ。ねぇ?」
皇「いや、きっと、そうだと思います。驚くと思います。」
ユア「でね、一昨日ね、パパがね、夜、見たんだって。超能力で車を運転している人。」
瀬能「超能力?」
ユア「その話をしてもね、誰も信じてくれないの。タイガ君なんか、絶対、嘘だって言うの。ユアのパパが嘘ついているみたいじゃない。」
タイガ「だって、そんなの、あり得ないだろ? 超能力で運転なんて?」
ユア「ほら、また言う。将来、タイガ君のパパになるかも知れないのに、今から、そんなんで大丈夫なの? ユア、知らないから。」
タイガ「待って、待って。待てよ、ユア。それと、これとは違うだろ。」
ユア「だってぇぇ、ユアのパパの話、信じてないじゃん!」
タイガ「俺はユアの事は信じるけど、ユアのパパ?・・・・・なぁ、杏子、お前、どう思う?」
瀬能「奥さんのお父さんをヨイショできない男は、ダンナ失格ですよ。ユアちゃん、考え直した方がいいですよ?」
ユア「そうでしょ?」
タイガ「待てえぇぇぇぇぇぇぇえぇぇ! そう言う話じゃねぇだろぉぉぉおおおおおおおおおおおお!」
瀬能「そうですね。手放し運転くらいじゃ、一概に超能力と断定するのは難しいですね。ほら、車によっては自動運転の機能もありますし。」
ユア「あっち行ったり、こっち行ったり、曲がったりしてたって言ってたよ?自動運転じゃ、曲がれないでしょ?」
瀬能「まぁそうですね。航続運転が基本ですから。」
タイガ「コウゾク? なんだそりゃ?」
瀬能「ああ、航続運転っていうのは、同じ速さで同じ所を、ずっと走るっていう機能で、基本的に、曲がったり、止まったりは、出来ない事を言います。例えば、前がつかえて止まらないといけない時は、警告音を出して、緊急停止を促したりします。あくまで人間が運転するのが基本なんですよ。曲がるのも、止まるのも、人間が行わないといけません。車は、その、指示を出すだけ。」
タイガ「じゃ、車が、勝手に曲がるって事はないんだな?」
瀬能「無いですね。特に日本はそういう機能がある車はあっても、法律が整備されていませんから、今の所、一般道では不可能でしょうね。」
ユア「じゃやっぱり超能力じゃない! ユアのパパが言った通りじゃない! タイガ君はユアのお家、出入り禁止。」
タイガ「ちょ、ちょっと、待てよ、ユア。それは酷くないか! ま、待て。分かった。信じる。お前のパパを信じる!」
ユア「お前呼ばわりしないで!」
タイガ「・・・・・ユアのパパを信じます。ユアさんのお父さんを信じます。」
ユア「よろしい。」
瀬能「タイガ君。・・・・・情けないですよ。」
ウメ「だぁかぁらぁ、見たんだってぇ!」
瀬能「別に疑ってないですよ。」
ウメ「いや、それは、信じてない。杏子ちゃんは信じてない。」
瀬能「いやいやいや。信じてますって。・・・・これを、・・・・・こう、浮かせたんでしょ?」
ウメ「! はぁ? ぇぇぇ! なんでぇ?は?」
瀬能「超能力です。超能力。」
ウメ「杏子ちゃん! 超能力、超能力、使えるの? はぁえ?」
瀬能「あ、ウソです。ウソ。 手品です。」
ウメ「手品ぁぁぁ?」
瀬能「ウメさんみたいな頭の弱い子をダマすなんて、お茶の子さいさいです。・・・・ウメさんなら五分後にはホテルの中でフラフープさせてますよ。全裸フラフープ。あははははははははは」
ウメ「全裸フラフー・・・・はぁ? 頭、弱い言うな!」
瀬能「ほら、ウメさん。種明かししますよ。・・・・ここ。ここ、ほら、指。・・・・・こうやって動かすと、浮いている様に見えるでしょ?」
ウメ「納得いかない。・・・・・納得いかない。」
瀬能「怒らない。怒らない。ウメさんは本当に素直だから。ほんと、ダマしやすくて面白い。」
ウメ「ダマしやすい言うな! あのねぇ、そういう事じゃなくて、あたしは、本当に見たの。超能力を。・・・・おじさんが、こう、持ってる傘を浮かせたのよ。」
瀬能「・・・・・手に糸かなんか、付いていて、吊るしていたんじゃないんですか?」
ウメ「手品の類じゃないんだって。はっきり、あたし、見たんだから。この目で。近くで。・・・・おじさんが、超能力、見せてあげるよ?って言って。」
瀬能「変態じゃないですか。とんだ超能力変態じゃないですか。」
ウメ「・・・・・・いや、まぁ。確かに、変態ではあるかも知れないけど、でも、超能力、超能力は本物だったわよ。」
瀬能「おじさんが知らない、高校生に、しかも、女生徒に、声をかけてくる時点で、通報案件ですよ?」
ウメ「まぁ。まぁ、確かに、そうだけど。うん。確かに通報案件だけれども。それと、超能力は、別問題よ。あれは、本物よ。」
瀬能「傘を浮かせればいいんですね?」
ウメ「だぁかぁらぁ、杏子ちゃん? 手品で再現しろ?なんて言ってないから。 あれは本物よ。本物の超能力者よ。」
瀬能「・・・・・ウメさんがそう言うならそうなんでしょう、きっと。」
皇「なぁ。杏子。・・・お前、超能力、信じる?」
瀬能「いやぁ。別に、信じるも、信じないも、・・・・・まぁ。どっちでもないかなぁ。」
皇「なんだよ、はっきりしないな。」
瀬能「いやあの、信じるとか、信じないとか、まぁ、そういうものもあるんだろうなぁ程度で、私、正直、興味ないんですよ、そういうの。」
皇「興味ない?」
瀬能「ええ。超能力があろうがなかろうが、自分には、関係ないじゃないですか。自分が超能力、使える訳でもなく。」
皇「まぁ、そうだけど。さ。」
瀬能「あっても、なくっても、どっちでもいい、っていうのが私の考えです。」
皇「ふぅん。」
瀬能「例えば、絶対音感とか絶対味覚とか、それに、一度みた物は忘れないとか、そういうのも私からしてみれば超能力ですよ。私には無い能力ですから。」
皇「サヴァンかぁ、まぁ。・・・・そうだろうなぁ。音を聞いただけで、これは、何の音だとか、分かるんだから、超能力だよな。」
瀬能「他にも、何ミクロンとか、ゼロゼロゼロゼロゼロ・・・・・ゼロ分の一、とか、とんでもなく研磨する人、いるじゃないですか。電子顕微鏡クラスの精度を指先だけで、調整しちゃうとか。それはもう、超能力ですよ。」
皇「お前の言いたい事は分かるけど、それは、どっちかと言うとビックリ人間の方だろ?私が言っているのはエスパーの方の超能力だ。」
瀬能「似たようなもんじゃないんですか?」
皇「お前、ほんと、興味ないんだな。いやさ、空知さんが、超能力者とニアピンしたらしくてさ。そりゃもう大興奮でさ。」
瀬能「へぇ。」
皇「・・・・お前、もっと興味もてよ。私、この前、大変だったんだからな? スプーン曲げがどうのこうのとか、壊れた時計が動いたとか、ずっと聞かされて。」
瀬能「超能力ブーム、真っ只中だったんでしょう?きっと。」
皇「そうみたいだけど。・・・・・実際、超能力なんてあると思うか?」
瀬能「あるんじゃないんですか?・・・・・・・そういう話、昔から聞きますし。ただ、それを超能力と言うのかは分かりませんが、事象から捉えると、そういうものはあると思いますよ。物を動かしたり浮かしたりする。でもそれって超能力じゃなくて、魔法かも知れないし、忍術かも知れないし、霊力かも知れない。果てはプラズマ、物理的な方法かもしれないし。」
皇「ああなるほどな。事象はあるけど、手段が超能力とは限らない、って事か。でも、魔法はいくらなんでも無いだろ?」
瀬能「超能力があって、魔法がない、っていうのもおかしな話で、どっちも根拠の乏しい話です。魔法も超能力も、見た人からすれば同じですから。物理現象で同じ事が起きても、きっと同じですよ。・・・・・それに、ずっと昔から、ヨーロッパなどで貴族相手に、そういうのを見世物として披露していた詐欺師もいたようですし。もちろん種がある手品です。富裕層はそういうのを面白がって、大金を払ったそうですからね。本物も偽物も偽実入り乱れて現在まできています、だから、真偽の程は、分かりません。」
皇「信じる者は救われる、とか、そういう話になっちゃうのか。」
瀬能「そこですよね。そういう特殊な技能を持っていたとしても、人心を惑わせたり、金儲けに使ったり、・・・・・まぁそれも使う人の自由だから、他人がどうこう言う話じゃないんですけど、本当の所は、でも、私は違うかなとは思いますけど。」
皇「・・・まぁなぁ。」
スルスルスルスル~
皇「・・・・・・・お前、今、どうやって、ペットボトル。動かした?」
瀬能「え、あ? ああ、ここ、基礎が傾いているんで、だんだんこっちに物が滑ってくるんですよ。高校の時、習ったでしょ?作用反作用。摩擦係数。それです。」
おばちゃん「ああ、多胡さんね。」
火野「多胡さん?」
おばちゃん「そう。この辺じゃ有名よ。超能力おぢさん。」
火野「超能力おぢさん?」
おばちゃん「そう。昔から。・・・・超能力、使うのよ。コップ持ち上げたり、箸持ち上げたり。」
火野「はぁ。」
おばちゃん「なに?あなた、多胡さんの事、調べているの?警察?」
火野「いや、あの。・・・・インターネットのニュースをやっている、あ、これ。名刺です。」
おばちゃん「火野さん・・・・・・・・。へぇ。インターネットの。」
火野「ニュースって言っても、おっきな奴じゃなくて、こういうご近所の話題を掲載している地味な奴でして。」
おばちゃん「それで多胡さんを?」
火野「超能力が話題になっていると伺ったものですから。」
おばちゃん「それは知らないけど、この辺で、超能力って言ったら多胡さんよ。きっとそうよ。」
火野「どんな人なんですか?」
おばちゃん「うぅううん。どんな人ねぇ? 地味なおじさんよ。超能力、見せて、って言えば見せてくれるし。コップ浮かせたり、箸浮かせたり。」
火野「浮かせるだけなんですか?」
おばちゃん「・・・・そうね。浮かせるだけね。ま、それで何って話だけど。あ、そうそう。重たいもの、持ってくれたりしたわ。」
火野「重たい物?ですか」
おばちゃん「そうそう。うちのワンちゃん。もう死んじゃったんだけど、ワンちゃん連れて、スーパーで醤油買ったのね。箱で。」
火野「箱で。」
おばちゃん「ほら、六個、入っているじゃない?うち、ヒゲタだから。ヒゲタしか使わないから。それでね。ほら、ワンちゃん連れながら、六個も醤油、持てないでしょ?」
火野「・・・・・・そうですよねぇ。」
おばちゃん「そしたらたまたま多胡さんと行き合って。頼んでもないのに手伝ってくれて。ワンちゃん持ちましょうか?ですって。ねぇ?逆でしょう?逆? ふつう、醤油の方、持ってくれると思うじゃない?」
火野「そうですよね。」
おばちゃん「醤油、持ちなさいよ!って言ったら、持ってくれてね。ほら、一本一リットル。六本で六リットル。六キロじゃない。・・・・軽々と持っちゃってね。やっぱりあれは超能力だわ、って思ったのよ。そうそう。」
火野「・・・・まぁ、六キロぐらいは、誰でも持てそうな気も、しないでも、ないですけどぉ・・・・・」
おばちゃん「あん時はホント、助かったわぁ。超能力も役に立つもんねぇ、って思ったもの。 あ、そうだ。あれよ、あれ。」
火野「あれ?」
おばちゃん「新聞にも載ったのよ。多胡さん。町で噂の有名人。超能力者って。」
火野「え?じゃあ、一度、取材を受けていらっしゃるんですね。その、多胡さんは。」
おばちゃん「そうね。・・・・やっぱり、何か、浮かしていたんじゃないかしら?」
火野「浮かす、専門の人なんですか?」
おばちゃん「いや、それはよく知らないけど、浮かしてたわ。コップとか箸。たまに、栓抜き。」
火野「栓抜きも?」
おばちゃん「ビールは浮かさないのよ。こぼれたら嫌だとか、なんとか、言っていたような気もするんだけど。」
皇「わかった、わかった、わかったから、話すから、離せ! 抱き着くな、熱い!」
瀬能「多胡さんが逮捕ってどういう事なんですか?」
皇「いや、だから、知り合いの警察に聞いたんだよ。自称、超能力者を逮捕した、って。」
瀬能「多胡さんが何をしたんですか!」
皇「あぁ? ああ、ああ、未成年児童誘拐、未遂?・・・・・よく分からねぇ」
瀬能「よく分からないのに逮捕したんですか!」
皇「だから落ち着けよ! 私が逮捕したんじゃなくてぇ、警察官から聞いたって話をしただけだろ? ううぅん、なんか、中学生だか小学生に通報されたらしいぞ?その場で現行犯逮捕だって言うから、痴漢か誘拐か、そんな所だろ?」
瀬能「・・・・・・うぅぅぅぅぅん。」
皇「どうしたよ?」
瀬能「いつかはやり兼ねないとは思っていましたが。」
皇「・・・・変態なのか、そいつ?」
瀬能「まぁ、否定はしませんが、変態のカテゴリーには入るとは思いますけど、歴とした変態ではなく、軽い変態と言うか、」
皇「お前、何、言ってんだ?」
瀬能「人畜無害で、地味なおじさんなんですよ。・・・・子供に超能力を見せるのが趣味みたいなおじさんで、そういう人いるでしょ?」
皇「いねぇよ。」
瀬能「別に、危害を加えるとか、そういう人じゃないんです。ただ、超能力を披露するのが、好きなだけで。」
皇「・・・・・まぁ、仮に、仮にそうだとしてもだぞ? 本人の気持ちはどうあれだ。今は、受け取り側の気持ち次第だからな。・・・・超能力だか何だか知らねぇけど、見せられた本人が嫌だと思えば、通報されるだろ?このご時世。」
瀬能「それは、・・・・・瑠思亜の言う通りだから。そう、ですけど。でも、悪い人じゃないんですよ?」
皇「悪いか、どうかは、本人が決める話じゃねぇからな。」
瀬能「ちょっと、瑠思亜からその警察に話して下さいよ? その人、悪い人じゃないって。誤解だって。」
皇「私が言ったって、仕方がないだろ? 見てないし、本人、知らないし。」
瀬能「じゃ、じゃ、顔よし性格よし器量よしの瑠思亜の友達が、そう、言っている!って。」
皇「・・・・お前、いつもそうだよな? ・・・・・誰が器量よしだよ。あのなぁ、言っておくけど、昨日一昨日の話だぞ?拘留されているかどうかも分からないんだからな?」
瀬能「死刑?死刑ですか?」
皇「・・・・・・・・。ああ、いいよ。わかった、わかった、うるさい、うるさい。聞いてやるから。色白ヒョロガリは黙ってろ。・・・肋骨が当たって痛てぇんだよ」
瀬能「あのねぇ、私、そこまでフラットじゃないですよ?ちゃんと出てますよ。それに色白は七難隠すって言うんですよ?」
皇「お前、何難あるんだよ? 隠しきれてないからな? まず離れろ、熱い。熱いから。・・・・・・・・・・・・あぁ、あの、もしもし? あの、皇です。すみません。お仕事中ですか?お楽しみ中で・・・・・・あ、あ、ああ。 それは空知さんに言って下さいよ? え。ええ。あ、あ、はい。
え?
・・・・・・・・
ああ。それはお気の毒に。・・・・・・・・ええ。はい。では、失礼します。お忙しい所、ありがとうございます。
・・・・・ふぅ。」
瀬能「・・・・どうでした?」
皇「超能力おぢさん。消えたってよ。・・・・・・警察から。」
ワイドショー「スターブリリアント彗星が、地球に真っ逆さまのルートを取っているようですね。」
コメンテーター「・・・・そういうの、近くに来るまで分からなかったんでしょうか。ちょっと疑問ですね。」
ワイドショー「一億年に一回、地球に接近してきたわけですが、彗星っていうのは、いつも、同じルートを通るんでしょう? なんでまた今回だけ、地球に衝突するんでしょうか?」
コメンテーター「彗星っていうのも星ですから、形態がある訳ですね。岩石などの固体で出来た彗星もあれば、ガスや液体が凝固している固体の彗星もある訳でして、もし、そのような場合は、徐々に質量が変わっていききますから、どこかのタイミングでルートが変わる事は、そりゃありますよ。」
ワイドショー「それが、たまたま、今回で、たまたま、地球にぶつかる、と?」
コメンテーター「そうでしょうね。地球にぶつからなかったとしても、違うタイミングで、他所の星にぶつかる事だって、十分、ありますから。」
ワイドショー「地球にその彗星が衝突してしまったら、いったい、どのようになってしまうのでしょうか?」
コメンテーター「過去、たかだか十キロメートル四方の隕石が地球に衝突して、ユカタン半島に。恐竜が滅亡したわけですから、まぁ、同程度の被害は予測されますよね?」
ワイドショー「・・・・人類滅亡って事ですか?」
コメンテーター「う~ん。滅亡でしょうね。・・・・・隕石の衝突で生き残ったとしても、その後の、核の冬同様の、氷河期然とした時代が、何百年、続きますから、まず、生き残れないでしょうね。」
ワイドショー「我々はどうしたら、いいんでしょうか?」
コメンテーター「ウルトラ警備隊、サンダーバードみたいな地球を守ってくれる正義の味方がいてくれれば助かる見込みもあるでしょうが、現実問題として、うううぅううん。難しいでしょうねぇ。」
ワイドショー「ブルース・ウィルスみたいな人が、宇宙に飛び立って、その彗星を爆発させるとか、そういう方法は、可能性はないんでしょうか?」
コメンテーター「ううぅうん。実際問題、決死隊ですからね。日本で言えば、白虎隊、神風特攻隊。日本には昔から武士の文化で、そういう文化に理解がありますが、欧米には理解しにくい文化でしょう?片道切符で死んできてくれ?って。一番、嫌がるタイプですよ、欧米が。
仮に、そういう作戦を立案したなら、あれですよね。犯罪者ですよ。懲役五百年とか千年の受刑者を使って、懲役刑を免除する代わりに、特攻してもらう。そんなシナリオが自然だと思いますね。」
ワイドショー「・・・・日本の武士道と相いれない考えですね。死に対する、美、というか、潔さをまるで感じないですね。受刑者を使うとか、今の欧米の精神を体現しているかのような考え方です。その、自分は安全な所で、無人機を使った人を殺す、戦争をしているような。血が通っていないというか。後ろ向きなんですよね。逆に、日本は、前向きというか。・・・・・今こそ、先進国は、日本の武士道精神を、サムライスピリットを思い出してもらいたいですね。」
コメンテーター「まぁ、ナサがどういう作戦を立案するか、それを注視していきたいとは思いますが。」
ワイドショー「では、次のニュースです。」
空知「ねぇ聞いて!瑠思亜ちゃん。私、私、ついに会っちゃったの。有名人! 誰だと思う?」
皇「伊吹五郎?」
空知「・・・・会わないわよ。」
皇「ずんの、ヤス?」
空知「・・・・どうしてそういう微妙な人なのよ? あれよ、あれ、この前、話してた超能力おぢさん! 私、会っちゃったのよ!!!!」
皇「え?」
空知「たまたまエースで、レバニラ食べてたら、入ってきてね。マスターが、あれ、超能力使う人、って教えてくれて。 私、生で見っちゃった! 超能力!」
皇「空知さん、それ、いつの話ですか?」
空知「なによ、瑠思亜ちゃん。この前はまるで興味ない感じだったのに。やっぱり、アレ? 超能力、生で見たいよね?」
皇「いや、あの、そういう訳じゃないんですが」
空知「いいわよ、遠慮しないで。マスターの話だと、ほん~とぉに、思い出した位に、お店に来るんだって。・・・・ある意味、常連よ、常連。」
皇「空知さん、いつ、会ったんですか?その超能力おぢさんに」
空知「え? えぇぇぇぇぇっと、昨日?」
皇「昨日、会ったんですか?」
空知「そう。ここ、終わって、レバニラ食べに行こうと思って。・・・・・来れば良かったのに。瑠思亜ちゃんも。生で見られたわよ? 物体浮遊術! 私、感動しちゃった。コップ、浮いてたわよ! ふわぁ~って。うわぁぁぁぁぁぁっぁって、そんな驚く人、いないっておじさんに言われちゃった。やっぱりキヨタ世代だからね、私。」
皇「それで、おじさん。おじさんは、その後、どうしたんですか?」
空知「うん?帰ったわよ。おじさん、チャーハン食べて。それで、帰ったわよ。そりゃ、食べたら帰るわよね?」
皇「そりゃ、ま、そうなんですけど。・・・・・・・空知さん。驚かないで聞いて下さいね。そのおじさん。超能力おぢさん。先日、警察に逮捕されているんです。」
空知「・・・・・逮捕? え? まさかぁ?だって、昨日、エースにいたわよ?おかしいじゃない?」
皇「いや、だから、おかしいと思って。 ・・・・それに、逮捕されただけじゃなくて、警察署から消えたそうなんです。」
空知「消えた? おじさんが? 脱走でもしたの?」
皇「事実だけ言うなら脱走なんでしょうが、拘留していたはずなのに、いなくなってしまったそうなんです。それで警察は、もっか、行方を捜している、と聞きました。」
空知「・・・・・じゃ、昨日、私が見た、おじさんは何? 逃亡中のおじさん?」
皇「そうなると思います。」
空知「えぇぇぇぇぇぇっっっっと、うん? それって、警察に電話した方がいいの?おじさん、見たって?」
皇「・・・・・まだ警察は公にその情報を公開している訳じゃありませんから、そこまでする必要はないと思うんですけど、・・・・ほら。丹羽さんには、教えてあげた方がいいと思います。」
空知「・・・・・そうねぇ。 おじさん。脱走した後だったんだ。気さくな、いい人だったのに。」
皇「でもどうやって留置場から逃げ出したんでしょうね?まず逃げられませんよ?」
空知「だっておじさん、超能力者よ。超能力を使えば、逃げるのも簡単でしょ? ・・・・・倫理的な話もあるけど。」
皇「ですよねぇ。」
火野「取材する前に、そのおじさんがいなくなるなんて。・・・・ついてないわ。」
皇「うちの空知さんが、夜、ラーメン屋で会ったんだ。」
火野「え? 逃亡中のおじさんに?」
皇「ああ、そうだ。」
火野「取材できる?」
皇「まぁ、話は聞かせてくれると思うけど、だったら、ラーメン屋に直接、行った方が早いんじゃないか? なんでも超能力おぢさん。そこの常連らしいから。」
火野「そうなの? なんてお店?」
皇「エース。」
火野「近所の有名人から、脱走犯に、記事としては格上げよ。」
皇「空知さんと話してたんだけど。どうやって、そのおじさん。警察から抜け出したと思う? 警察から脱走なんて、素人じゃ無理だぞ?」
瀬能「・・・・素人じゃないじゃないですか。超能力おぢさんですよ。」
皇「脱走って言うよりな、忽然と、姿を消した、っていう感じらしい。ちょっと目を話した隙に、いなくなってしまったそうなんだ。」
火野「・・・・だって、留置場に入っていたわけでしょ? 消えるなんておかしいじゃない?」
瀬能「プリンセステンコーも真っ青な、脱出マジックですね。」
皇「それが脱出マジックなら、種があるはずだろ?予め警察署の壁やら床やらに穴を開けておくとか、万全な打ち合わせでもしていない限り、あの手のイリュージョンは不可能だ。」
瀬能「そうですね。秒単位のタイミングで行うマジックですから、それに、一人じゃ行えませんしね。」
火野「じゃあなに?・・・・・消去法で言えば、マジックじゃないから、本物の超能力とでも言いたい訳ぇ?あんた達は?」
瀬能「おじさんが、CIAとかKGB、陸軍中野学校じゃない限り、そうなりますね。」
皇「ご近所の超能力おぢさんが、特殊工作員?・・・・・・・人は見かけじゃ分からないしな。特にスパイとかは。」
火野「スパイが警察に捕まるとか、そんなヘマしないでしょ?」
瀬能「・・・・おじさんの足取りを追わないと、どっちにしろ、分からない事ばかりです。」
皇「脱走は、罪を重たくするだけだ。捕まえて、自首させないと、・・・・な。」
瀬能「すると、ユアちゃんのお友達が、警察に通報したんですか?」
ユア「別に友達じゃないけど。・・・・同じ、学校の子。」
タイガ「だからな、俺とユアが、駄菓子屋に行ったら、そのおじさんが先にいて、・・・・・ラムネ、飲んでて。」
瀬能「ラムネくらい飲むでしょう。いくらおじさんだって。」
タイガ「俺達もラムネ、飲もうとしたんだよ。な?」
ユア「うん。暑かったから。おじさん、お店の前で涼んでたの。」
タイガ「知らないおじさんだったから無視しようとしたら、ユアが。」
ユア「だって、おじさん。 おじさん、ラムネの瓶、持ってないのに、瓶が浮いてるの! えぇ?って思って! だって手に持ってないんだよ! それで、近くで見せて!ってお願いしたいの。あ、このおじさん、パパが見た、超能力おぢさんだって、思ったの。」
瀬能「うん。それで?」
タイガ「・・・・超能力? 見たけどさ? 思ってたのと違ったけど。」
ユア「こうやってねぇ、ラムネの瓶、空中に、浮かすの。フワフワ~って。」
タイガ「俺さ、超能力って言うからさ、もっと、凄いの期待してたらさ、瓶が浮くだけだぜ?」
ユア「なによ、タイガ君! 瓶が浮いてたじゃない!凄いじゃない! 私、目の前で見たの! あれ、浮いてた! あれは絶対、超能力よ!」
タイガ「なぁユア? わかるけど、わかるけど、でも、・・・・・地味だろ?な、杏子?」
ユア「じゃ、タイガ君! 何か浮かせてみなさいよ! 出来ない癖に文句ばっかり! ユア、そういう人、嫌い!」
タイガ「ちょっと、ちょっと待てよ、ユア。そういう事じゃないだろ? なぁ?杏子、なんとか、ユアに言ってくれよ?」
瀬能「・・・・ユアちゃんが正しいと思いますけど」
ユア「でしょ? ほらぁぁぁぁぁ! 杏子ちゃんだってそう言ってるじゃない! タイガ君、大嫌い!」
タイガ「お前なぁぁぁぁぁぁぁ! 少しは俺の肩を持てよ」
瀬能「超能力かどうかは私は見ていないので真偽の程はわかりませんが、ユアちゃんもタイガ君も、目の前で、ラムネの瓶が浮くところを見たんでしょ? だったらそれが全部じゃないですか。・・・・・言いたい事があるなら、タイガ君も、まず、そのおじさんと同じ様に、ラムネの瓶を浮かせてから言わないと、公平ではないと思いますよ?」
タイガ「そういう事じゃなくてだなぁ。」
ユア「ほらぁ、タイガ君、男らしくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぃ! 謝って!まず謝って、私とおじさんに。まず、そこからよ?」
タイガ「・・・・・・悪かったよ。謝るよ。」
ユア「誠意が伝わりません。この件は保留にします。いいですね?」
タイガ「・・・・・・はい。ユアさんの仰せのままに。」
瀬能「それで、ユアちゃんとタイガ君の同級生は、いつ、登場してくるんです?」
ユア「一緒に見てたのよ、その子。」
タイガ「そいつ。よせばいいのに、おじさんに向かってインチキだって言うんだぜ? 俺は、そこまでは言ってないからな?地味だとは思ったけど。」
ユア「私ね、浮いてるじゃない!これは正真正銘の超能力だ、って言ってあげたのよ!」
瀬能「ユアちゃんは正義感がありますね。・・・・・それに引き換え・・・・・」
タイガ「いや、だからな。俺は、ユアがおかしな事に巻き込まれるんじゃないかって思って、帰ろうとしたんだ。・・・・地味だし。浮くだけだし。でも、ユアが引き下がらないんだ。」
ユア「だって、酷いじゃない! 目の前でおじさんが超能力、見せてくれてるのに、インチキ呼ばわりするんだもの! 自分は何も出来ないくせに、偉そうに!」
タイガ「おじさんもさ、最初は困った顔してたんだけど、あんまり、そいつがインチキ、インチキ言うもんだから、超能力は本物だ、なんて言っちゃってさ。・・・・・そしたら、ビーだ。ビー。」
瀬能「ビー?」
ユア「警報機よ。すぐ警察が来たの。」
瀬能「ああ、今の警報機は、警察に直結しますもんね。防犯ブザーが鳴るのと一緒に、警察に通報されますから。」
ユア「私ね、警察の人にね、このおじさんは、超能力を見せてくれた人で、悪い人じゃない!って言ったの、それなのに、連れていかれちゃってぇ! おじさん、何も悪くないのにぃぃぃぃぃぃ! 本当、酷い!私、許せない! パパにも言ったの、ママにも言ったの!」
瀬能「それで、そこのナイト君は、どうしてたんですか?」
タイガ「・・・・俺は、俺の見たままを説明したさ。別に、このおじさん。悪い事はしてないって。話しかけたのはこっちだし、それについては責任は感じる。道義的な責任は感じる。不審者扱いされる謂れはないと思う。ラムネの瓶を浮かすのを見せてくれたって。」
瀬能「・・・・・・・ナイト君は立派ですよ。タイガ君はユアちゃんのナイトですから。・・・・ま、ただ、心証は悪くなりますよね。事実だけ述べたら。ラムネの瓶を浮かせるってなんだそりゃ?ってなりますもんね。」
タイガ「俺はな、別に、インチキとかそういう風には思っていないし、警察呼ぶのもやり過ぎだとは思う。あの、おじさん。・・・・・・大丈夫かなぁ」
ユア「おじさんは何も悪くないの!」
ウメ「・・・・最近、おじさん見かけないねぇ、杏子ちゃん。」
瀬能「ウメさん。時節柄、女子高校生がおじさんとか言うと、未成年売春みたいに聞こえるんで、いささか注意が必要ですよ?」
ウメ「時節柄生きにくい世の中になったねぇ。・・・・あれよ、あれ、超能力おぢさん。」
瀬能「ウメさん知らないんですか? 超能力おぢさん、行方不明なんですよ?」
ウメ「えぇぇ? ホント? 行方不明って? ・・・・・おじさん、何したの?」
瀬能「忽然と姿を消したそうです。」
ウメ「うげぇ。」
瀬能「それが、不思議な事に、一瞬、目を話した隙に、いなくなったとか。」
ウメ「やっぱりあのおじさん、超能力が使えるんだね。・・・・超能力で姿を消したって事でしょ?」
瀬能「そんな便利な超能力、あるんですか?」
ウメ「ほらぁ、瞬間移動! テレポーテーションってやつよ!」
瀬能「これまで、コップしか持ち上げてこなかった超能力者が、急に、テレポーテーションですか? ・・・・・にわかには信じがたいですけどね。」
ウメ「いや、ほら、ウチらには見せなかっただけで普段から、テレポーテーションしてたかも知れないじゃん?」
瀬能「ユアちゃんちのパパが車、乗ってるの、見たって言ってましたよ?」
ウメ「はぁぁ? 超能力おぢさん、車、乗るの? 免許、持ってるの?」
瀬能「別に超能力者であっても、日本に国籍があるなら、車くらい乗るでしょ?」
ウメ「ああ、そりゃそうか。・・・・テレポーテーションできるのに車、乗るとか、意味なくない? ドラえもんがどこでもドアあるのに、歩くのと一緒よ?」
瀬能「タケコプターも使いますけどね。あの人達は。わりかし、アナログですよ?あのネコ型ロボットは。」
ウメ「まぁ、そうか。そうだね。言われてみれば。・・・・・車に乗るんだったら防犯カメラとかに映っているんじゃないの?」
瀬能「まぁ、そうですよね。人間がそう簡単に消える訳はありませんから。」
おばちゃん「あら!杏子ちゃん! やだぁ」
瀬能「あ、どうも。こんばんは。」
おばちゃん「杏子ちゃん、お水とか、お米とか、保存食?買った?」
瀬能「・・・なんかアレですか、防災訓練か何かありましたっけ?」
おばちゃん「やだぁ、杏子ちゃん! テレビ、見てないの? い・ん・せ・き、隕石よ! 隕石衝突よ!」
瀬能「あ、ああ。ああ。テレビで見ました。 彗星が地球に衝突するとか、しないとか、言うアレですね。」
おばちゃん「そうそう。そう。 隕石が衝突してもいいように、最低、一週間分、食料、買ったのよ!」
瀬能「彗星です。彗星。」
おばちゃん「あらま! やだ? なに? 彗星と隕石って違うの? おばちゃん、わかんない! どういうこと?」
瀬能「・・・・スターブリリアント彗星って言っていましたよ? 彗星じゃないんですか?」
おばちゃん「どっちでもいいのよ、あれでしょ? 隕石でしょ?」
瀬能「まぁ・・・・はい。」
おばちゃん「杏子ちゃんは、買った?保存食? それとも、どっか、避難するの?」
瀬能「ああ、私はまだ、なにも。」
おばちゃん「あれよ? 杏子ちゃん。・・・・・・杏子ちゃん、いい? 自治会長さんなんか、保存が効く食べ物、買い漁って、買い占めているんだって。いやになっちゃうわん。」
瀬能「・・・・おばちゃん、それ、本当ですか?」
おばちゃん「ホントよ、ホント。大きい声じゃ言えないけど、もう、一月くらい籠城できる準備ができているって噂よ?自治会長さんちは。・・・・・あの人、がめついもんねぇ?」
瀬能「それでおばちゃんも、買い漁っていると?」
おばちゃん「スーパーはもう、争奪戦よ?隕石で世紀末じゃない? インスタントとか、常温で保存が効くもの。もう、ほとんど無いわよ? みんな、買い占めているから。」
瀬能「うわぁ。・・・・知りませんでした。出遅れました。」
おばちゃん「ほら言わんこっちゃない。杏子ちゃんはズボラだから。ね? いい? まだ二丁目のスーパーはまだ売れ残ってる。でも他のチェーン店はダメ。ほとんどない。悪い事、言わないから二丁目に行きなさい。ね?」
瀬能「・・・・避難する人もいるんですか?」
おばちゃん「そりゃお金に余裕がある人とか、小さいお子さんがいるお宅は、疎開するみたいよ?もう、戦時中よ、戦時中。・・・・・・行く宛があるお宅はいいわよね?うらやましい。うちなんか、行く宛ないから、籠城よ、籠城。一週間、我慢すれば自衛隊が助けに来てくれるわ。それまで辛抱するのよ?」
瀬能「もう、隕石衝突は、間違いないって事ですか?」
おばちゃん「今更もう、後は、ぶつかるだけでしょ? もうぉ。ほんと、これから日本はどうなっちゃうのかしらねぇ? くわばらくわばら。 あ、杏子ちゃん? ちゃんと雨戸、雨戸、飛ばされないように固定しておかなくちゃダメよ?ガラス、割れたら危ないから。」
瀬能「あ、あ、はい。・・・・・わかりました。雨戸、閉めておきます。」
瀬能「あれ?瑠思亜、いるんですか?」
皇「ああ、勝手にあがってるぞ。おい、・・・・豚キャベツ炒め、食うか?」
瀬能「あ、食べます。いただきます。」
皇「じゃあ、待ってろ。」
瀬能「スーパー行ったら、ほとんど、食料品がないですよ。・・・・二割引きのお弁当だけ、買ってきました。」
皇「ああ、あれだろ?テレビでやってる、彗星衝突とかなんとか、のやつだろ? あ、米、炊いちゃったからな。」
瀬能「あ、いいです。あればあるだけ、食べますから。」
皇「なんか急にテレビで煽り出したよな?」
瀬能「昔っからマスコミはそういう偏向報道好きですからね。・・・・半世紀も前のオイルショックでトイレットペーパーを買い占めたり、地震で石油が届かなくなると聞けばガソリンを買い占めたり、最近だと、お米を買い占めたり。日本人は、踊らされるのが好きなんですよ。」
皇「煽る方も煽る方だけどな。」
瀬能「近所のおばちゃんから、買い占めがはじまっているって聞いたから、冗談だと思っていましたけど、本当でした。・・・・『メテオショック』だそうです。」
皇「『メテオショック』で食料品の買い占めかぁ。・・・・・・こういう買い占め騒動だと、実害が出るから困るんだよ。実際、スーパーの店頭から物が消えるだろ?静観してたくても静観できないからな。・・・・おい、出来たぞ。飯、よそえ、飯!」
瀬能「そこなんですよ、そこ。・・・・彗星衝突騒ぎで、踊らされた挙句、物価も上がるし、物はなくなるし。いい事、ありませんよ。」
皇「杏子、お前、食うもん、どうするんだよ? スーパー、売ってないんだろ?」
瀬能「まぁ。・・・・米がなけりゃ、小麦を買って、パンにして食べればいいし。うどんにもなるし。小麦は意外と重宝、しますよ。それに、乾麺もありますし。」
皇「そうだな。小麦はいろいろ使えるしな。」
瀬能「瑠思亜、これ、ホイコーローとは違うんですか?」
皇「バカだなぁ、味が違うだろ?味が? 醤油とソースで味付けしてんの。そば無し焼きそばだ。」
瀬能「そば無し?焼きそば・・・・あ、ああ。ああでも、白飯と合いますね。」
皇「このまま隕石が衝突したら、・・・・・ま、スーパーで食料を買い占めしようが、関係ないけどな。」
瀬能「結局、そうなんですよね。 衝突コースが確定なら、諦めるしかないですよ。」
皇「テレビで、山伏みたいのが、空に向かって、祝詞?祝詞っていうのか?あれ。お経みたいなの、あげてたけど。・・・・効くのかな?」
瀬能「反対に、世紀末信奉者っていうんですかね。破滅論者。破滅願望がある人も一定数、いますから、そういう人達も、ここぞとばかりに集会やってるみたいですね。」
皇「・・・・ほんとに世紀末だな。」
ワイドショー「では間違いなく、先生、彗星は地球に衝突するコースを取っていると?」
ツユクサ博士「ですから先程から私は、そう、ご説明しているでしょう?」
コメンテーター「ツユクサ先生。・・・・不躾ながら、世間では、先生の事を、陰謀論者とか、景気をデフレにする事で儲ける企業の回し者とか、そういう実しやかな話が流布しているようですが、ご自身では、どうお考えですかな?」
ツユクサ博士「はん? 馬鹿々々しい。一々反論する気も起きませんな。 いいですかな? あえて、そっちの土俵で相撲を取りますが、あえてですよ?あえて。 じゃ、その証拠を持ってきなさいよ?誰が私の事をそういう風に言っているんですかな?言っている本人を連れてきてから、反論しようじゃありませんか?」
ワイドショー「反論なさると?」
ツユクサ博士「こういう話はねぇ、正規の場で、話をしないと意味がないんですよ?誰が言ったとか、噂したとか、そういうのを全部、聞いていたら、本題から逸れてしまうじゃありませんか?私はそっちの方が危険だと申し上げている!いいですかな? 私は、ここで答えるのは簡単です。ええ、簡単ですとも。ですがねぇ、何処の馬の骨とも分からない、いるかもいないかも知れない話を真に受けて、時間を取られる方が、死活問題だと言っている! 私はねぇ、頼まれて、ここで、彗星衝突の話をしているんだ。 私の事が信じられないなら、その証拠と、言っている本人を連れてきたまえ!」
コメンテーター「・・・・・・・」
ワイドショー「ツユクサ先生。真っ向から勝負なさると、そう、受け取ってよろしいんですね?」
ツユクサ博士「ええ、構いませんよ。受けて立とうじゃないか! ただねぇ、ただねぇ、君。いいかね? 番組が用意するデッチ上げじゃ困るよ?エキストラじゃ。 私に意見がある人をちゃんと用意してからだ。」
コメンテーター「じゃ、番組で募集しましょうよ? カモ先生に意見がある人を。そうすれば先生も納得するんでしょ?」
カモ教授「私が納得するとか、しないとか、そういう話じゃないんだ! 私は真実を言っているんだ! それを何の根拠もなく、人の事をデマカセ呼ばわりする、愚弄な輩が許せんと言っているんだ!」
ワイドショー「ヒートアップして参りました。」
ツユクサ博士「いずれ彗星が、太陽と地球の引力で、引っ張られ、大きく彗星のコースを外れる。そして、地球に衝突してドッカーンだ! そうしたら台風、嵐、津波、地震の騒ぎじゃなくなる、人類史上未曽有の危機だ!」
ワイドショー「我々に助かる術はあるんですか?」
ツユクサ博士「・・・・・私が書いた、この本を読めば、その答えが書いてある!」
コメンテーター「宣伝ですか? この期に及んで? 人類が最後かも知れないのに、宣伝ですか?」
ツユクサ博士「私が何時、私が書いた本のコマーシャルをしようと、私の勝手だ。だがね、未来の事は、誰にも分からん。・・・・・・私以外を除いてね。そう、天文物理学、古代彗星学、天地推命学の権威である、私を除いて! さぁ、未来を知りたくば私の本を買えぇぇぇぇ! 今なら、サインもつけるぞ? はっ~っはっはっはっはっはっはっ!」
皇「おい、井戸端コタツ記事野郎。」
火野「誰が、井戸端コタツ記事野郎だ!」
皇「お前達が、おばちゃんの井戸端会議程度の薄っすい記事書くから、世間で、食料品の買い占め運動が起きてんだぞ? あぁ?」
火野「薄くて悪かったわねぇ! 井戸端会議の話、書くのも大変なんだからぁ!」
皇「何処もかしこも彗星衝突の話ばっか。他に書く事ねぇのかよ。」
火野「あのねぇ、何処もかしこも、うちが記事書けるなら今頃、ピューピリッツアー賞?」
瀬能「ピューリッツァー賞」
火野「ピユーリッツアン賞、取ってるわよ! 世間を煽動できるくらい影響力あるなら私は、メディア王よ、マードックよ! わかるぅ?」
瀬能「そりゃ、御影の言う通りですよ。コタツ記事風情で、風説の流布が出来る訳がありません。」
火野「あんたも五月蠅いわねぇ!コタツ記事風情で、悪かったわねぇ!」
瀬能「それで、今日は何のコタツ記事の取材ですか?」
火野「コタツ、コタツ、五月蠅いのよ! コタツ記事だってねぇ、こうやって、取材して、コタツ記事書いているんだから、もうちょっと有難がって読みなさいよ!」
皇「けっきょくコタツ記事じゃねぇか。」
火野「・・・・・今、私は、超能力おぢさんの行方を追ってるの。」
瀬能「! ・・・・・世間が、『メテオショック』で食料品が品薄だって騒いでいるのに、超能力おぢさんを探しているなんて、御影はやっぱり一味違いますね。・・・・バカなんですか?」
皇「・・・・・バカなんだろう?」
火野「あのねぇ、私だって、『メテオショック』の取材、したいわよ! でも、お前はその、・・・・・警察署から消えた謎のおじさん。超能力おぢさんを探せって命令が出て・・・・・・。」
瀬能「まぁ。消えた超能力おぢさんの方が、コタツ記事としては、魅力は増大しますね。私は、どっちかと言えば、そっちを読みたいですし。」
皇「バカな記事の方が、気楽に読めるしな。・・・・・それで、見つかったのか?お目当てのおじさんは?」
火野「見つかるわけないじゃない! 見つかったらとっくに警察に通報してるわよ!」
瀬能「やっぱり、超能力で姿を消したんでしょうか? テレポーテーションだ、って言っている人もいますけど。」
皇「テレポーテーション?」
火野「テレポーテーションでもラナルータでも、何でもいいのよ。」
瀬能「ラナルータじゃ移動はできませんよ?」
火野「だから、瞬間移動でも消えるのも、なんでもいいけど、私は、足取りを追っているわけ。まるで、足取りが追えないんだもの。手がかりがまるでない。」
瀬能「じゃぁ。仕方がないですね。私が、御影に知恵を授けましょう。」
火野「何よ? 知恵って。」
瀬能「探しているものが見つかる、道具です。さぁ、これを貸して差し上げましょう。」
火野「はぁぁぁぁ?」
瀬能「どうぞ。遠慮なく。」
火野「なによ、これ?」
瀬能「なにって、ダウジングロッドですけど? ご存知ありませんか?」
火野「知ってるわよぉぉぉおおおおおお!」
瀬能「・・・・知ってるなら、話が早い。どうぞ。」
火野「いらんわぁぁぁぁぁ!」
瀬能「あーあーあー。ああ、もう。・・・・・これ、ノアが民を連れて彼の地を探していた時、使っていたとか、キリストが飢える民達を救う為に使っていたとか、ナポレオンが遠征に行った先で使っていたとか、源義経逃亡説の有力な説になっている、逃亡のルート開拓に使ったとか、坂本龍馬が寺田屋から逃げた時に使ったとか、ローマ法王の水洗トイレが詰まった時に使われたとか、ビルゲイツの眼鏡を直すのに使われたとか、まぁ、それはもう、由緒正しい、ダウンジングロッドですよ。」
火野「何一つ信じられないわ」
皇「じゃあ、なんでお前がそんな由緒正しい物を持っているんだよ?」
瀬能「・・・・バチカンでもらったんです。」
皇「嘘確定じゃねぇか。」
瀬能「嘘じゃないですよ、本当ですよ。 杏子ちゃん、背中が痒い時はこれ、使うといいよ?って」
火野「孫の手えぇ!それ孫の手ぇ!」
瀬能「本当は貸したくないですけど、・・・・友達だから貸してあげますけど、失くしたら、バチカンまで謝りにいってくださいね?」
ツユクサ博士「ついに私の研究の成果が、日の目を浴びる時が来たのだぁぁぁ!」
ワイドショー「先生。・・・世間では、先生の売名行為だ、なんて話もあがっておりますが? 実際、彗星が衝突するなんて、信憑性がないと言っている人もおりますが?」
コメンテーター「確かに、スターブリリアント彗星が地球をかすめるコースを取っているのは、間違いないと思いますが、だからと言って、地球と衝突するというのは、いささか大袈裟と言わざるを得ない。」
ツユクサ博士「誰も分かっちゃいない。フン! 私は、何十年も前から、この彗星の存在に気づいていたんだ。・・・・しかもだ、学会にその危険性を訴えた! だが、私の訴えは黙視された。何故だ、何故だと思う?」
コメンテーター「いや、分からないですが」
ツユクサ博士「狂人の戯言、妄想、注目を浴びたいからホラを吹いた? 当時から酷い言われようだったのを覚えている! ああ、それで、学会を追放されたよ。説を撤回しない限り、学会に復帰は認めないとね。それで大学もクビになった。それから私は、自分一人で、自費を投じて、全財産を投じて、彗星の研究に人生をかけてきた。それが、ようやく日の目を見たのだ。分かるか! そして、学会のアホ共! 今こそ、私が正しかったと証明する時なのだ! 私こそが正しかったのだ!」
ワイドショー「・・・・・それは、先生。とても、凄い事ですね。」
ツユクサ博士「当然だ。アホ共は、ことの重要性がまるで理解できていなかった。・・・・・だが、もう、遅い。彗星はすぐそこまで来ている!人類に残された時間はないぞ? さぁ、どうする? 人類で、共に心中するのか? それとも、私の学説に乗っ取り、この彗星を回避するのか? さぁ、人類よ、選ぶがいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃいいいいい、はぁぁぁっぁははっははっははははははっはははは!」
ワイドショー「先生! 彗星を回避する方法があるんですか!」
ユツクサ博士「・・・・・・・・・・それもこれも、この本に書いてある。買えば分かる。彗星の軌道だけを研究してきた訳じゃないからなぁぁぁぁぁああああ! 私こそが真の救世主だぁぁぁああああああああああああ!」
ユア「私こそが真の救世主だああああああ!だって。」
瀬能「世間には色々な人がいますからね。」
ユア「ねぇ杏子ちゃん。本当に、隕石が地球にぶつかっちゃうの?」
タイガ「ぶつかる訳ねぇだろ!」
ユア「だってユツクサセンセイがぶつかるってテレビで言ってたじゃない」
タイガ「俺達には、北別府博士とバトメンファイターがいるだろ? きっと凄い発明で地球の危機を救ってくれるはずだ!」
ユア「え?・・・・・タイガ君、本気で言ってるの?」
タイガ「お前こそ、信じてないのかよ? テレビで、なんか、新開発の超兵器を開発中って言ってたぞ?」
瀬能「新開発を開発中・・・・・」
タイガ「なんだよ、杏子! 北別府博士を舐めてんのか!」
瀬能「舐めてません。尊敬してます。むしろ、真価能力研究所の人達も、一緒に、この地球の危機を乗り切ってもらいたいと思っています。」
タイガ「ああ、それは俺もそう思う。・・・・だって、地球がなくなっちまったら、敵も味方もなくなっちゃうもんな。・・・・・お前、たまには良い事、言うな。」
瀬能「もし、地球に隕石がぶつかってしまうとしたら、それはもう、見える形で、空に大きな隕石が見えるでしょうね。それに、耳をつんざく爆音が聞こえると思いますよ。耳を塞いでも聞こえてくるくらい、大きな音です。・・・・そうなってしまえばこの世は終わりですね。」
ユア「それが隕石が落ちる、合図なのね。」
タイガ「だから、そうはならねぇって言ってるだろ!なぁ杏子!」
瀬能「私も、そうならない事を祈っています。・・・・バトメンだけじゃなくて、ドラゴンフライの皆さんもいますから、なんとなるでしょう。」
タイガ「あいつら、空が主戦場だもんな。」
ユア「あ!」
多胡「・・・・・」
ユア「超能力おぢさん!」
多胡「・・・・・」
ユア「おじさん、ここ・・・・・・・私有地だから、入っちゃダメなんだよ? 知ってた?」
多胡「・・・・・・ええ。知ってます。この前、瀬能さんという人に教えてもらいました。」
ユア「杏子ちゃんに? 知ってて入っちゃもっとダメじゃない? おじさん、いい大人でしょ? ダメでしょ?」
多胡「はい。いい、おじさんです。・・・・・でも、ここが好きなんです。」
ユア「好きとか嫌いとかじゃなくて、ここ、人んちだから入っちゃダメなの。分かる?」
多胡「はぁ、分かっているつもりなんですが。」
ユア「じゃあ、早く、出てきなさい。誰にも言わないでおいてあげるから。ほら、・・・・ほら、おじさん。」
多胡「あ、ありがとうございます。星さんは優しいですね。・・・・よっこらしょっと。」
ユア「・・・・おじさん、なんでユアの名前、知ってるの? ストーカー? ロリコンストーカー?」
多胡「僕は、星さんのお母さんくらいの人が好みですね。」
ユア「ユアのママ? 人妻ストーカー? おじさん、人妻ストーカーなの? 逮捕じゃん?即、死刑じゃん!」
多胡「あ、あああ、好みの話であって、星さんのお母さんが好きな訳ではありません。」
ユア「・・・・良かった。おじさん、今、警察、呼ぶところだったよ?」
多胡「ありがとうございます。何度も助けて下さって。」
ユア「なんで、ユアの名前、知ってるの?」
多胡「僕、・・・・超能力が使えるんですよ。星さんの心が読めるんです。それで、名前が分かりました。」
ユア「・・・・・名前、見たからでしょ?カバンに名前、書いてあるもん。だから、名前、分かったんでしょ?」
多胡「あ、あああ。ははははははは そうだよね。そうだよね。はははははははは」
ユア「おじさん、この前、ラムネ、浮かせたじゃない? あれ、本物? 嘘、どっち?」
多胡「・・・・本物だよ。僕は超能力者だからね。」
ユア「本物ねぇ。ユア、信じてあげる。だって、あれ、凄かったもん。ふわぁ~って空に浮いてたもん。」
多胡「星さん、そのうち、もっと凄いものを空に浮かせてあげよう。」
ユア「凄いもの?」
多胡「そう。もっと、もっと、凄いものを、空に浮かせてあげよう。そうしたら、心の中が読めるの、信じてくれるかい?」
ユア「凄かったらね。・・・・ユア、男は結果が全てだと思ってるの。結果を出せない男はダメな男よ?」
多胡「・・・・・・・」
火野「何が、探しものが、みつかるよ?・・・・・・・・・・・・・・ああ!」
ユア「あ、御影ちゃん」
火野「ああああああ! あなた、あなた、誰ですか! ユアちゃんの知り合いですか! ユアちゃんに変な事したら通報しますよ! 近づかないでぇぇえええ!」
ユア「ちょ、ちょっと、ちょっと 待って、待って、待って、待って、御影ちゃん!」
多胡「・・・・・・・」
火野「大丈夫?ユアちゃん、変な事、されなかった? 大丈夫? 痴漢? 変質者? なに、なに、なんなのよぉおおおおおお!」
多胡「・・・・・・」
ユア「落ち着いて、落ち着いてよ、落ち着いて」
火野「落ち着いてるわよ、もし、へんな事したら、四十八の殺人技の一つ、殺人絞殺刑をお見舞いするわよぉぉおおおお!」
ユア「・・・・なに言ってんの?」
火野「この人、あぶない人なんでしょ?」
ユア「あぶないのは、御影ちゃんの方だと思うけど・・・・・・杏子ちゃんの友達はもれなく、あぶない人だし。」
火野「はぁぁぁぁああああ? 杏子はともかく、私は、いたってまともよ? なに言ってんの? ユアちゃんだって杏子の知り合いの時点で、終わってんのよ?」
ユア「・・・・終わってるってなに? 終わってるって? 御影ちゃんの方が終わってるじゃない!」
火野「終わってません! 始まってもおりません!」
ユア「ダメだ、この女、・・・・・・・」
火野「ダメってなによぉぉぉおお!」
多胡「・・・・・・・・・・まあまあ」
火野「あんたが一番、怪しいのに、なに、慰めてんのよぉぉおおおおお!」
ユア「落ち着いた?」
火野「あ、ああ、うん。ありがとう。ユアちゃん、本当に、なんにもされてない?大丈夫?」
ユア「・・・・・おじさんは、おかしな人だけど、おかしい事はしてないの。」
火野「・・・・・おかしな人なのは認めるのね」
多胡「・・・・・・・・」
ユア「おかしいのは、御影ちゃんもだけどね。・・・・・残念な人か」
火野「残念、言うな。 ・・・・・こっちのおじさんは誰? お父さんの知り合い?」
ユア「ううん。知り合いって程、知り合いじゃないけど、」
多胡「・・・・・・・」
ユア「超能力おぢさん。」
火野「!」
多胡「・・・・・・・・」
火野「えぇぇぇぇぇぇえ! この人が、このおじさんが、超能力おぢさん! えぇ? ユアちゃん本当なの?」
ユア「うん。」
火野「あなた! あなた、・・・・超能力おぢさんなんですか?」
多胡「・・・・・・・・」
ユア「そうだ、って言ってるじゃない。」
火野「ちょっと、ちょ、っちょっと、ちょっと、こっち、来てぇ。」
多胡「・・・・・・・・・」
火野「(あなた、本当に超能力おぢさんなの? ユアちゃんが可愛いからって何か変な事してないでしょうねぇ?場合によっちゃぁ・・・・・ここで命が終わるわよ?)」
多胡「(・・・・・・・いや、別に、なんにも)」
火野「・・・・・・ねぇ、ユアちゃん。本当に何もされてないの?脅されてるとか、ないの?」
ユア「だから何もされてないって。」
火野「私は大人として責任があるんだからね」
ユア「・・・・・・普段、子供に交じって、本気でカードゲームやってる大人が何を言ってんだか」
火野「・・・・・・・・。(それはそうと、あなた、こんな所で何やってるんですか? あなた、警察署から脱走したんでしょ? 子供に油うっている暇、あるんですか?)」
多胡「(ああ・・・・・ああ・・・・・・あれは、すみませんでした。)」
火野「(すみません、じゃ、すまない話ですよ? 犯罪ですよ? 子供に、しかも、女の子に声をかけている時点で犯罪ですけど、・・・・・・まぁ、何もされていないって言うからそれを信じますけど、ちょっと、私、あなたに話を聞きたいんです。)」
多胡「(・・・・・・・・僕に?)」
火野「(超能力、ご近所で有名ですけど、超能力、本当なんですか?)」
多胡「(・・・・・・・ええ。本当です。)」
火野「(本当に?)」
多胡「(本当に)」
火野「(・・・・・へぇ。)」
多胡「(・・・・・・ええ。)」
ユア「ねぇ?御影ちゃん。・・・・・・・なに、内緒話、してんの?」
火野「あ、ああ。超能力の事、聞いてたの。」
ユア「超能力おぢさんだもんね。」
火野「何か、超能力、見せて下さい。」
ユア「雑。・・・・雑な頼み方。もうちょっとマシなお願いの仕方があるんじゃないの?」
火野「・・・・・・・・・。超能力を見せて下さい。お願いします。」
多胡「・・・・・・・・。じゃあ、地球を止めてみせましょうか?」
ユア「地球を止める? えぇぇ?」
火野「え? あ? あの、どういう事ですか?」
多胡「一瞬ですよ、一瞬。一瞬だけ地球を止めますね。あんまり止めちゃうと、がっってなっちゃうから。」
火野「がっって、なに?がっって?」
ユア「面白そう! おじさん、やって、やって! 男は有言実行よ!真実一路よ!」
多胡「じゃ、いきますよ」
火野「待って!待って!待って! はぁぁ? ちょっと、待って!」
ユア「なによ?」
火野「意味が分からない。意味が? 地球を止める? なに、言ってんの? おじさん、何、言ってんの?」
多胡「ああ。・・・・一瞬、ふわってしますけど、またすぐ元に戻しますから安心して下さい。 いきますよ」
フワッ
多胡「・・・・・・・・・、ふわっとしたでしょう?」
ユア「した! した! ふわっとした! 凄い、おじさん、凄い! やっぱり超能力、あるんだねぇ! 凄い!」
火野「確かに、・・・・一瞬、ふわっとしたような、気がしたけど・・・・・」
多胡「実は止めるより、止めた後、元の回転に戻す方が大変なんですけどね。ははははははははは。」
ユア「はははははははははははは。」
火野「ははははははははははは、じゃないぃぃぃいいいいいい! こんなの、超能力か判断できないじゃない!」
瀬能「それで、・・・・帰ってきちゃったんですか?」
火野「そうよ。それが、何か?」
瀬能「ああ、言われてみれば、ふわっとした気がしたんですよね。」
火野「嘘つくな、嘘を。」
瀬能「・・・・・地球が止まったんなら、車で言えば、ブレーキを掛けられたのと同じ状況になるので、ふわっとはなりますよね。自転が止まる訳だから。」
火野「仮に地球が止まったら、遠心力がなくなるんだから、浮いちゃうんじゃないの?」
瀬能「だから文科系は。」
火野「今、文科系、バカにしたでしょ!」
瀬能「地球の重力は、地球自体が持っている核。真ん中の核のほうですよ。その核の重さで引っ張られているので、自転が止まったからといって、ふんわり浮くって訳じゃないんですよ。軽い横揺れ程度の地震みたいなもんです。・・・・超能力おぢさん、地球を止めたの一瞬だったんでしょう?」
火野「だからさぁ?それを信じてんの、あんたは?」
瀬能「超能力おぢさんが止めた、って言うなら、止めたんでしょう。それを証明する方法がないですから。私、対超能力人間でもないので、反発する利用もありませんから。」
火野「そりゃ、そうだけどさ。」
瀬能「・・・・・警察から逃亡した事については、何か、言ってたんですか?」
火野「なんか悪かった、みたいな事、言ってたけど。」
瀬能「御影は警察に通報しないんですか。」
火野「・・・・・忘れてたのよ。正直、地球を止めるとか、言い出して、それで、その事、忘れてたのよ。ユアちゃんと帰りながら思い出したの。最悪だわ。」
瀬能「記憶操作されてたんじゃないんですか?」
火野「・・・・・私が?」
瀬能「地球、止めたんでしょ? 記憶改ざんぐらい、出来るでしょ?」
火野「・・・・・・・・・・」
瀬能「御影、昨日、貸した二十三円、返して下さい。」
火野「嘘をつくな、嘘を。・・・だいたい二十三円、借りるか!何に使うのよ、二十三円!」
瀬能「一円だって足りなかったら、お買い物、出来ないんですよ?」
皇「おい! 杏子いるか!」
瀬能「いません」
皇「いるじゃねぇか、お前、バカか! おい、昨日貸した、二十三円、返せ!」
瀬能「・・・・・・すみません。すみません。明日までには必ず。必ず返しますから、今日の所はご勘弁を。すみません。すみません。」
皇「お前なぁ、借りたら、ちゃんと返せって、親に教わっただろう?」
火野「・・・・・・・・・」
瀬能「瑠思亜様。瑠思亜様。・・・・・体で返します。体で返しますから、どうか、どうか、それでご勘弁を。」
皇「お前の貧祖な体なんか、いらねぇんだよぉぉぉぉおお!」
火野「・・・・・・なんなの?その二十三円っていうのは?」
皇「ああ。・・・・・・こいつがチョコエッグが買いたいとか言い出して、消費税分、無かったから出してやったんだよ。」
火野「・・・・・・ああ、そう。へぇ。」
ユア「・・・・毎日、平和だねぇ。」
瀬能「ユアちゃん、半分食べます、チューペットのニセモノ。練乳味。」
ユア「ああん、食べる。」
瀬能「はい、どうぞ。」
ユア「・・・・・隕石、落ちなかったねぇ。」
瀬能「そういう事もありますよ。また、一億年後、やってきますから。」
ユア「じゃ一億年後は地球に落っこちるかもしれないね。」
瀬能「そうですね。そうかも知れませんね。」
ユア「一億年後はまだ地球、あるのかな?」
瀬能「まだ地球は四十六億歳ですから、まだまだ大丈夫ですよ。まぁ、でも、それまで人類が存在しているかは定かではありませんが。」
ユア「うそ? 人間の方が先に死んじゃうの?」
瀬能「ええ。生物なんて脆いものですから何かの加減で、増えたり減ったり、新しいのが出てきたり、古いのが消えたり、するもんですよ。」
ユア「そうかもしれないね。」
瀬能「またあれですよ、誰か、忘れた頃に、地震がぁとか、津波がぁとか、隕石がぁとか、騒ぎだしますよ。」
ユア「・・・・飽きないねぇ」
瀬能「そういう話は普遍的ですから。忘れた頃に、思い出したように、出て来るんですよねぇ。不思議と。」
ユア「・・・・・超能力おぢさん、いないね。」
瀬能「ここは私有地ですから、あれだけ、入っちゃダメって言ったから、さすがに入ってこないでしょ?」
ユア「あそこの土管の上に座ってるんだよね。」
瀬能「座ってましたね。自分ちみたいな顔して。・・・・・・私も怒られた事、あるんですよ。」
ユア「杏子ちゃんはいつも怒られてるじゃない。」
瀬能「それはそうなんですけど。ほら、猫型ロボットのアニメ、あるじゃないですか?あれで空き地とか言って、みんな、遊んでるから、私も真似してここにあるように、土管の上に乗って遊んでいたんです。そうしたら、知らないおじさんがやって来て、いきなり怒鳴るんですよ、ここは私有地だ!って。」
ユア「そうだよねぇ、そりゃ怒るよね。」
瀬能「私、小さかったから意味が分からなくて泣いてしまったんです。それでよく分からないまま知らない会社に連れていかれて、そこで謝されたんです。ごめんなさいって。」
ユア「怖い。怖い。なにそれ杏子ちゃん。それ、誘拐?」
瀬能「今、思うと、土管って建築資材じゃないですか。これ、商品なんですよ。猫のロボットとか主人公がアニメだと勝手に乗って遊んでますけど、あれ、会社の商品なんですよ。勝手に、会社の敷地に入って、商品にまたがって遊んでいて、腹を立てない大人はいませんよね?当然だと思います。それに、そこで怪我をされたら誰が責任、取るんですか?きっとその会社が管理責任、問われますからね。子供が勝手に入ってこれるようにずさんな管理してたって。」
ユア「・・・・まぁ、そう言うかもね。」
瀬能「ここはほら、一応、策で囲ってありますから空き地じゃないと分かりますけど。・・・・いくら普段、誰もいないからって勝手に入ったらダメですよ。おじさんなら尚の事です。」
ユア「おじさん、怒られたからまた違う、空き地、探しているのかな?」
瀬能「入っていい空き地は、公園くらいしかありませんからね。学校の校庭も、物騒な事件が起きてから封鎖されてしまいましたし。」
ユア「あれおかしいよね。学校の生徒が、学校の校庭で遊ぶのもダメなんだから。」
瀬能「確かに、校庭を解放すると、犬の散歩で入ってくる人もいますからね。・・・・糞の始末とか、しない人もいるでしょうし。もう、性善説じゃ成り立たない社会になっているんですよ。」
ユア「・・・・・そうなると、超能力おぢさんも生きづらくなっちゃったのかしら?」
瀬能「どうなんでしょうねぇ。」
ワイドショー「次の話題は、防災ワンポイントです。・・・・・防災で備蓄した食料や、生活必需品。これらが家を圧迫している、なんて話題を耳にします。」
コメンテーター「最近まで”メテオショック”とか言って、色々な物を買い占めしていましたからね。それが家に溢れているのでしょう。」
ワイドショー「腐らないものは良いんですけどね。・・・・人間と一緒で、賞味期限があるものがありますから。」
コメンテーター「それはあなたでしょう? ふははははは、 ふははははは ふはははっははははっははははは」
ワイドショー「まったく、これは一本取られましたな。 ふはははははははは ふははははははははっはははは ふはははははははははははははは」
空知「・・・・最近、超能力おぢさん、見ないのよねぇ。」
ウメ「超能力おぢさん、見かけないなぁ。」
※全編会話劇です。