この世界で何を求める 短編
いつもは読む側ですが思い立ち頭の中にあった物語を書いてみました。
物語を書くこと自体初めてですので拙い文章であることをご了承ください。
「ひまだな~」
部室で昼食を食べながら無意識に呟いていた。大学3回生となり必修が少なくなりこれまでよりは余裕が生まれている。GWも過ぎ春休みボケも無くなり、所属している陸上部の大きな大会も終わった。
「死ぬほど忙しいよりはましだろ」
パンをかじりながら大河にそう言われる。同じ陸上部の同期で急に休講になったため部室にいた。
「それはそうやけど、大会終わっちゃったから気持ちがね」
「まあ、次のでかい大会秋だからわからんでも無いけど」
「目指してた標準切れなかったしな~」
「はいはいドンマイドンマイ、もう何回も聞いたし、くどい」
「ひで~な~、メンタルに来てるんだよ」
大会の愚痴を言いながら、昼食を食べているとふいに窓の外からカラスが初めて聴くほどうるさく鳴いていることに気が付いた。
「カラスうるさすぎないか」
「窓閉まってるのにな」
気になり窓を開けに窓に向かって歩いていくとすりガラス越しに空が薄く紫色になっている事に気が付いた。内心「は?」と思いながら窓を開けると空一面に薄いヴェールがかかるように紫色の何かが広がっていた。
「大河これなんだと思う?」
いまいち、状況を理解できずパンを齧りながらスマホを見ていた大河に振り返る。
「なんだって?・・・」
大河も気が付いたようだ。開けた窓の外の光景を見て絶句している。窓に向かって歩きながらもその顔には驚愕の表情を浮かべている。
「良太・・・これ、オーロラじゃないか?」
俺の名前を呼びながら無理やり可能性を絞りだしたようだ。確かに平安時代だったかなんだっかの京都でオーロラのような現象が見られたとドラマで見たことがある。
「でも、いま真昼間だぜ?オーロラの光強すぎないか?」
「確かにそうだけどそれ以外に・・・」
「なんにしろ、珍しい現象ではありそうだな。動画撮ってストーリーに上げるか」
「そうだな・・・珍しいことだろうし」
二人で動画を撮ろうとした時、空を覆っていた紫色のヴェールが一気に晴れた。二人して突然のことに困惑していると、ふいに地面から大きな衝撃を受け窓から離れる。
「オーロラの次は地震か?日本はどうなってんだよ」
急な出来事にそう毒づくと大河は首を傾げながら一言「変だな」とだけ呟いた。
「どうした?」
「あれだけの衝撃だったのに今揺れてない」
はっとした。確かに30秒も経っていないのに今はもう揺れていない。地震じゃないのか。そう結論付けようとした時に、次はカラスの鳴き声の比ではない咆哮に耳を塞いだ。
「次から次へと今日は厄日か⁉」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ! なんかおかしい!」
「んなことはわかってるよ!なんにしろ一回グラウンドに避難するぞ、意味が分からんし!」
「賛成‼」
二人で部室をでて部室棟からグラウンドに移動しようとしたときふと、廊下の窓からグラウンドに違和感を覚えた。大河も同じだった様だ。
「なあ良太、俺目が壊れたもしれない・・・」
「大丈夫だ、なら俺も壊れてる」
グラウンドは部室棟の横にあるがゆえに無視できない違和感。俺たちやサッカー部がいつも練習しているグラウンドに”ドラゴン”がいた。
「なにがどうなったらドラゴンがいるんだ・・・モンハンかよ」
「ドラクエかもしれないよ」
大河が話に乗ってきた。完全に頭の許容範囲をオーバーしたようだ。
「避難場所いけないし、あれさっきの声の主じゃないか?」
「そうじゃないかな・・・あれぐらいの声量出せるでしょ」
半ば呆然としながら立ち尽くしていると不意に目の前にホログラムが出てきた。
「・・・は?」
「RPGのステータスみたいな画面だね・・・」
呆然と目の前のホログラムを見ながら呟きが聞こえた。その言葉で少し頭が動き出すのがわかった。
「大河、これはほんとにドラクエなのかもな。じゃなければ異世界転生だ」
「・・・ふざけてると言いたいけど、目の前にドラゴンがいるんだよねー」
「どうする?あのドラゴンと戦ってみるか?」
「え?戦う?なんで?そんなことしたら死ぬよ?俺達は勇者でも、ハンターでもないんだよ?」
「そうだけど、あんな所にドラゴンがいて攻撃してこないなんてことあるか?」
「それはたしかに・・・」
「今は動いていなんだから、交渉出来る可能性はあるし、攻撃するにしても近づけるかもしれない」
二人でこれからどうするかを考えている時、ドラゴンが揺れた。こちらではない校舎側に向かっていると気が付くのは地面が揺れた時だった。
「まずくないか?あっちは人多いんじゃないか?」
「・・・良太、行こう。何もしないよりはした方がいいから」
「よし。やるか!」
二人で部室棟の階段を駆け下りながら改めてホログラムを確認する。武器一覧?
「初期武器の配布があるぞ!良心的だな、・・・ロングソードと弓と杖となんだ?盾」
「タンクじゃないか?でかい盾っぽいし」
「なるほどな、武器なに使う?」
「弓も杖も初見じゃどうしようもない!盾も筋力足りなそうだから二人でロングソード!」
「乗った‼みんな丸太は持ったかー‼」
「ロングソードだってば」
部室からグラウンドに走ってくるまでドラゴンはそれほど移動していなかったようだ。
「良太!初撃は左足を狙って!機動力を削ぐ」
「了解!」
今まさに校舎を攻撃しようとするドラゴンに二人のロングソードが向かう。片方は横凪に、片方は突きで左足に確かな傷をつけた。その時頭上から咆哮が降ってきた。気絶しないように食いしばりながら離脱し、大河に近づいた。
「あいつ柔らかいな。初心者向け用に調節されてんじゃね」
「思った。油断せずにヒットアンドアウェイしてれば削れるかも。問題はHPがわからないことだ」
「普通動物のHPなんてわからんからそういうもんじゃね。ゲームじゃなさそうだし」
「かもな、基本は足を狙いながらいけたら胴体、あいつ翼あるから多分飛ぶ。気を付けていこう、攻撃よりも生存優先だぞ!」
「了解!」
作戦の調整をして散会し各自での攻撃に変更した。ロングソードは慣れないが何かしらのアシストを感じながらドラゴンに攻撃を当てていく。ドラゴンはちょこちょこと足元を動く二人を鬱陶しそうに攻撃しているが、回避を優先しているため当たらずにすんでいた。
戦闘開始から体感で5分以上経過し二人ともに疲労を感じ始めた頃、回避のためにドラゴンから離れているタイミングで不意に横に人影を感じた。
「良太!今二人がやっているようにヒットアンドアウェイでいいのか?手伝う!」
「宏太?ゲームじゃないから最悪死ぬぞ!」
「二人があれだけやってて見てるだけは居心地悪いだろ。サッカー部の足速い人も連れてきた、攪乱は任せろ!」
見れば大河の方にその足が速いのであろう人が追走していた。
「頼む。生存優先だ。俺たちは短距離だからスタミナギリギリだったんだ。サッカー部の力見せてくれ!」
「任せとけ‼」
宏太とサッカー部の人がドラゴンのターゲットを引いてくれたおかげで俺たちは少し余裕ができて休むことが出来た。常にターゲットを意識しながら走らなくても良くなったため、攻撃を優先しロングソードを叩き込む。
新たに二人が加わり攻撃パターンが確立できてしばらくたったころ、ドラゴンが再び咆哮した。
「飛ぶぞ‼」
離れた場所から大河の叫び声が聞こえた。攻撃モーションが変化したであろうドラゴンを注視しながら一定の間合いを取り続ける。地面に近い場所でホバリングしていたドラゴンが急上昇を開始した。
「急降下で攻撃してくるぞ!」
必死に叫びながら小さくなるドラゴンを視界に捉え続ける。徐々に小さくなっていたドラゴンが停止し首の向きが変わった。狙いは俺だったようだ。
「うおおお!」
ぐんぐんと大きくなる影をギリギリで左に飛んで回避、ドラゴンの攻撃を空振りさせることに成功し、そのまま地面に激突した。
「「いまだ‼」」
地面に激突した衝撃で地面に伏すドラゴンに総攻撃を仕掛ける。予想外に反撃出来るほどの余力がドラゴンには残っていないようだった。
「これで終わりだ‼」
叫びながらドラゴンの首を切り飛ばす。地面に伏すドラゴンの胴体が、宙を舞う首が青白いポリゴンとなり霧散していく。
”RAID BATTLE CLEAR”
俺たちの頭上に荘厳な音楽とともにホログラムが出現した。ドラゴンの討伐には成功したようだ。
気が付くとグラウンドに倒れこんでいた。頭を動かして周りを見ても三人とも同じ有様だ。無理矢理身体を起こして大河達に近づいていこうとすると横から腕が伸びてきた。
「蓮太郎、無事で何より」
「りょうちゃん無茶しすぎだろ、俺も手伝おうとしたけどサッカー部の人が誰もグラウンドに入れないようにしてた。本当に生きててよかった」
「なるほどね、とりあえず大河達のところに行きたいから肩貸してくれ」
「はいはい」
「大河、宏太、俺たちの勝ちだ。危なかったな」
「そうだな、宏太が途中で参戦してくれて助かった、ありがとう」
「他のサッカー部の人使ってグラウンドに人が入らないようにしてくれたんだろ?おかげ事故が起こらなかった」
「感謝するのはこっち側だよ。おかげでドラゴンに校舎押しつぶされずに済んだんだから。それに俺よりも先輩の方が積極的に援護してたぞ」
「「先輩?」」
二人でもう一人の参戦者に目を向けた。
「サッカー部の野口響だ。一応主将してる。二人のおかげで俺は死なずに済んだんだ。二人をサポート出来て良かったよ」
疲れているだろうに立ち上がって挨拶した先輩は爽やかに笑っていた。
「俺たちも走り続けるのは限界だったのでありがとうございました」
「”挨拶は済んだかい?”」
不意に不自然な声が聞こえ、その声の方向を向くとローブを着た仮面が立っていた。
「誰だ?」
大河の問いに仮面は笑った、ような気配がした。
「”君たちだけがこのタイミングでレイドボスの討伐に成功した。直々に賛辞を呈しようと思ってね。ほかにも20組ぐらい戦っていたけど全部壊滅した。”」
「壊滅・・・」
誰から漏れた声だろう。誰であっても驚かないほどこの場にいた全員が驚愕した。
「”今から全世界に向けてこの世界の説明をしようと思う。君たちも休みながら聴くといい。ここに来た理由は君たちがレイドボスに勝利したこともあるが、少なくとも当面は敵がリポップしないと伝えるためだよ。君たちが死んだら楽しくないからね♪”」
仮面は言いたいことは終わりだと示すように俺たちの目の前から消えた。
「何だったんだ、あいつ」
「この世界のゲームマスターか創造主のどっちかだろう」
宏太のつぶやきに大河が答えた。
「だろうな。今からの説明を聞けばある程度はわかるんだろう。そのためにわざわざ姿を現したんだからな」
今わかることはそれだけだ。
「面倒な世界に来たみたいだね~」
疲労がにじむ俺の言葉に皆が頷いた。
登場人物 (全員大学生)
竹中 良太 3回生 陸上部 主将 20歳
鈴木 大河 3回生 陸上部 20歳
東 蓮太郎 1回生 陸上部 18歳 良太とは小学校からの友達
野口 響 4回生 サッカー部 主将 21歳
前川 宏太 3回生 サッカー部 20歳