ほら吹き地蔵 第一夜 子どもを守る仏さま
【お断わり】今回は三題噺ではありません。
ボクのうちの裏庭に、お地蔵さんが引っ越して来ました。
そこに至る込み入った事情は、なにぶん狭い田舎では差し障りもあり、ここは一つ「石の地蔵さんに足が生えて歩いて来た」と言う事と致したい。
まあ、仏さんの縁起ものですから野暮は言いっこなしと言うことで。
ありがたや、ありがたや。
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さて、お地蔵さんをお迎えした第一夜、七人の子どもたちがボクの夢枕に立ちました。
そのうち四人は、ひと目で分かる病気の子でした。
一人目は慢性の扁桃腺炎もちだと言いました。いわく、
「微熱はいつでもグチュグチュと、腰まで浸かる水みたいにボクと共にあるけど、なあに、大した事ないよ。怖いのは土用波みたいに、一度にドンと来る高熱だ。そうならないのはお地蔵さんが守ってくれてるからだ。それよりも、ボクの隣りの子をご覧よ。」
隣の子は蓄膿症もちだと言いました。いわく、
「ボクの世界は頭痛を中心に回ってる。頭が痛い間は痛みがボクになる。でもまあ、頭痛でショック死はしないよ。そうならないのはお地蔵さんが守ってくれてるからだ。それよりも、ボクの隣りの子をご覧よ。」
隣の子は喘息もちだと言いました。いわく、
「咳が続く間は呼吸ができないから、ボクは半分死んでるようなもんだね。おかげでご覧の通り、蒸し饅頭みたいな色の肌になってしまった。でも、死なないのはお地蔵さんが守ってくれてるからだ。それよりも、ボクの隣りの子をご覧よ。」
隣にいたはずの子は、いつの間にかコツゼンと消えてました。
「小児白血病の子は、そうなんだ。アッと言う間に姿を消すんだよ」と言われました。
五人目の子は木から落ちて死に、
六人目の子は水に落ちて死に、
七人目の子は火事で死んだ。
これも、ひと目で分かりましたが、この三人は「ボクら、ほぼほぼ即死だったから、死んだと言われてもピンと来ないんだよね」と、ほんとにポカンとした顔をしてました。
そこにお地蔵さんがやって来て、七人とも、どこかへ連れて行っちゃいました。
「なんとか、ならんのですか」と談判したら、お地蔵さん、ニヤリと笑って、
「なあに、誰でも死ぬときゃ死ぬんだから。」
無責任な仏さんだなあ。
でも確かに、鼻の頭でも擦りむいたならともかく、ある程度以上の重い病気・ケガとなると、助かるかどうかは運しだいです。
かつぎ込まれた病院で、付いてくれたお医者さんが名医なのかヤブ医者なのかなんて、患者や家族には分かりません。そもそも、どんな名医にも誤診はあります。
お医者さまには「ベストを尽くしてくれ」以上の事は望みようがない。
これを悟りとは呼びたくない。
まあ、病人の生活の知恵みたいなもんでしょう。
誰でも死ぬときゃ死ぬ。
でも、お地蔵さんって、そういうもんでしたっけ?
なんか、いいことしてくれる仏さまじゃあなかったの?
ボクの心がそう叫んだところで目が覚めました。
外はまだ暗いけど、小鳥たちがピーチク、パーチク。
良かった。まだ死んでなかった。
ほら吹き地蔵の第一夜は、とりあえずここまでと言うことで。
(多分、続く)