野菜嫌いの草食動物…?
「なんだコイツ」
檻の中に入っている長髪の男に対し、そう小声で言葉を漏らす。檻の中にいる癖に、何故か清々しい顔で寝ているのだ。
「あれ?人間だー!」
「おわっ!ビックリした!」
もう少し近くで観察しようと檻に顔を近づけた瞬間
、後ろから子供の声がした。
体をビクッと震わせて後ろを振り向くと、そこには兎の獣人が四足歩行の犬…獣人?犬?と一緒に立っていた。
「こんにちは!私ねー!フランベっていうの!こっちは愛犬のシェインだよー!」
「え?そっちは獣人じゃないの?」
「ん?獣人と動物は別物だよー?」
「そ、そういうものなんだ…」
「うん!それでねー!お姉ちゃんみたいにカッコ良くなって欲しいから、同じ名前をつけたのー!」
「お、おお…」
フランベちゃんのセンスに若干の恐怖を感じる
その憧れのお姉ちゃんにリードつけてるし…
俺がそう思っていると、彼女は俺に嬉々として檻をガタガタと揺らしながら、その中の男を説明し始めた。
「この人間はねー!ちょっと前に酷いことして捕らえられたんだよー!」
彼女の大声と揺らした時の衝撃で中の男は目を覚ました。その男の黒目は、他の色など混じりようの無い黒色で染まっており真っ直ぐに俺を見つめていた
「拙者を…このイカヅチを起こしたのは貴殿だな」
「いや、この子です。」
その男は平然と二択を外すと、小さく咳払いをして再度喋り始めた。
「そうか…拙者は感情を失った身ゆえ、残念に思うことすら無い」
「いや知りませんけど…」
彼が『間違えたダサい男』というイメージを払拭するようにそう言う。正直、その言葉のせいで余計にダサいイメージを持ったがのだが…
「もう食糧庫に入って全部食べ尽くしちゃ駄目だよ!まだ反省してろって長が言ってたよー!」
「えっ罪状それなの?何してんだよ」
「なんとでも言うがいい…拙者は飢えていたのだ」
必死に威厳を保とうとする彼に追い討ちをかけるようにフランベは彼に再度話しかけた
「そういえば野菜だけは残ってたねー!嫌いなの?私もー!」
「チッ……………黙れや…」
「めっちゃ感情あるじゃねぇか」
明らかに舌打ちをして、小声でそう罵倒する彼には威厳など1ミリも残っていなかった。てか野菜食え
子供相手ですら割とキレているその様子に引いていると、横から現れたシェインが檻をガシャンと勢いよくひっくり返した
「アンタが悪いのにキレてんの?まだ反省が必要みたいだね」
「むっ…止めろ…うぷっ…止めろって!」
冷静さを失って感情的になるイカヅチにため息を吐き、檻の回転を止めた。
そして俺の方に向き直り、冷めた目で口を開く
「で、アンタは何でここに?まさかコイツを逃がそうだなんて思ってないよね?」
「いやいや、偶然ここに来ただけだよ」
「良いなソレ、おい同じ人間同士だろう。拙者を逃がしてくれ」
話がややこしくなりそうなことを言うイカヅチの檻を足で軽く蹴りシェインに向き直るも時すでに遅し
シェインは大きなため息を吐いて怒りを露わにする
「やっぱ人間は好きになれないな…さっさと出てってよ」
「はあ!?俺に芋虫食わせといてそりゃないだろ!」
「ああ、あれ食べたんだ…ヤバいね」
「誰のせいだと思ってんだコラ…」
「もう聞いたと思うけど、アタシは人間嫌いだから別に悪いとも思わないよ」
他人事のような発言に怒りを露わにしていると、彼女は俺を苛立たせるような素振りを見せてその場から去っていこうとした。
「じゃ、なるべく早く出ていって」
「あっおい待て!俺に謝れよ!」
「何…ついてこないでよ」
「いーやついて行くね!お前が俺に謝るまで!」
軽蔑したような目を向けながら、深くため息を吐いた彼女は、諦めたのかそのままどこかに歩いていこうとする。
別に昆虫食に慣れている訳ではない俺は、完全に頭に血が昇った状態で後先考えず彼女についていってしまった
「…シェインお姉ちゃん、おじちゃんが野菜残
すから怒っちゃったのかなぁ?」
「そんな訳ないだろう、好き嫌いは人それぞれだ。…………君のは少々理解に苦しむが」
◆ ◆ ◆
鳥居を抜けた神社のような屋敷の中、金の悪趣味な椅子に腰をかけた狐姿の獣人が、俺を見下すようにしていた。
「…貴様がこの里に来た人間だな?」
「………………はい……」
眼前の獣人の威圧的な雰囲気に気圧され、縮こまりながら掠れた声でそう返事する。
取って食われるんじゃないかと思うほど恐怖心を覚えた。
「シェイン、何でここに来たんだよ…」
「は?アタシは早く出ていってもらうために母さ…里長に話をしに来たんだよ。アンタこそなんでここまでついて来たんだ」
「えっ、いやそれは…」
ホント俺なんでここまで来たんだろ…明らかにおぞましい雰囲気出してる鳥居とか抜け始めた辺りで帰っとけば良かった…
「里長、あの…俺すぐ出てくんで!」
「…なんだと…?」
俺がそう言うと、狐の獣人はさらに眉間に皺を寄せた。これ以上触発しないようにと放った言葉がかえって逆効果になってしまったかと思い、血の気が引いていく
その瞬間、里長は俺に向かって怒鳴った
「何を言っておる!好きなだけ滞在すると良いわ!!!」
「…え?」
「人間なんて久方振りに会うた!精一杯もてなそうぞ!」
その強面とは相反するように、喜びや高揚の感情を露わにした里長のギャップに対して、俺は戸惑いの様子を見せた。
____しかし、俺よりも驚いていたのがシェインだった。その光景に目を丸くし、里長に掴みかかる
「ざっけんな!アタシが人間嫌いなの知っててそれ言ってんのか!?」
自分の性格を無視されて話が進んでいくことに対し、激しい怒りを見せている彼女をなだめるように里長は優しい口調で語りかける
「落ち着け、お主もそろそろ妾の後を継いで里長になるんじゃ、それぐらい我慢せぇ」
「〜〜〜〜ッ!もういい!」
呆れたように胸ぐらから手を離し、大きな足音を立てて屋敷の奥へ消えていく彼女を俺は唖然とした顔で見ていることしかできなかった。
しばらくしてから、里長が俺に向かって口を開く
「すまないな人間よ、我が娘にももう少ししっかりして欲しいものだ。まったく」
「え、娘?」
「ああ、そうじゃ。そろそろこの里もあの子に渡そうかと思うのだがのぉ…ずっとボイルの店に籠もりっきりで全く妾と話をしようとしないのじゃ。夫の親友というだけでこの村に置いているが…こうも娘を誑かすようならいっそ…」
「…もう少しあの子のことも考えてあげてはどうでしょうか」
何を言ってるんだ俺は?
こんなこと言っても里長に嫌われるだけだろ、それにシェインのことはあんま好きじゃない。虫食わせてきたし…
なのに何で俺は…
「…それよりも人間よ、ここに好きなだけ滞在してくれて構わない。と言ったが、崖の近くにある洞窟…あそこにだけは近づいてくれるなよ?」
「あ、は、はい!すいませんなんか…」
咄嗟に出てしまった言葉を強引に流し、俺にそう忠告した。幸い俺も、マズい発言をしてしまったかと焦っていたので助かったな
「それじゃ僕はもう戻りま…」
額に滲む汗を拭きつつ、今の俺を誤魔化すように屋敷から出ていこうと後ろを向いた瞬間、足に重りがついたような感覚がした。
「それと先程言っていたことなのじゃが…妾は『子は親の言うことを聞くもの』だと、こう思っている…あまり奴に変な事を吹き込むなよ?」
「…はい」
その言葉には重圧がかかっていた。
『怖い』俺の中にその感情が渦巻きながらも必死に足を進めるようにと脳に指令を出す俺を、俺自身で情けないと悔やんだ。
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