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嘘でした

あれから何時間歩き続けたのだろう。

俺の顔を霞が掠り、周辺が良く見えない。そんな俺に反して、迷わずにスイスイと進んでいくボイルを見失わないように必死に追いかける。


「ボイルさん…あとどれくらいで…」


「もう少しだ。もう着くぞ」


もはや棒へと成り下がった足を地面に擦りながらも彼を追いかけていると、突如として俺の鼻を料理の匂いがくすぐった。


「これは…?」


「着いたようだな。ここが獣人の里だ」


彼がそう言うと一斉に霧が晴れて行き、水車がついた和風な屋敷や、木の柵で囲われた畑が眼前に拡がった。


そんな今までの中世的な世界観からかけ離れた異物のような空間に圧倒されていると、彼に背負われていたサヴェストが突然目を覚ました。


「ん…ここは」


「起きたか、お主には聞きたいことが山程ある…が俺は里長に話をしてこなければならない。少し」ここで待っててくれ」


「なっ…?え、え?誰だ!?」


突然の事態を理解できずに困惑の表情を浮かべる彼女を地面に降ろすと、麻袋を取り外しどこかに歩いて行ってしまった。


「えっと…混乱してると思うけど、あの獣人のボイルさんが俺達をここまで連れてきてくれたんだ」


「ほう…ならかなり失礼な態度を取ってしまったな。あとで詫びなければ」


「それもそうだけど、結局この不死鳥の卵ってのは…うわっ!」


「あー!すみません前見てなくてぶつかっちゃいました!」


彼女が倒れていた間のことを説明していると、突然もの凄い勢いで誰かが俺にぶつかってきた

危うく卵を割ってしまうところだった…1日に何度危機が訪れるのだと心の中で強く思う


しかし何よりも目を引いたのがその容姿だった

今まで見知った獣人と逆で、人間の体に白銀の狼の尻尾や耳が生えているのだ。ファンタジー漫画でよく見る方の獣人と言えば想像がしやすいだろう。


「お詫びの気持ちも兼ねて、私の料理店で食事でもしていきませんか?もちろん無料タダで!」


「えっ…いや今腹減ってないしボイルさんにここで待てって」


「それでは料理店でお待ちしております!」


そう足早く看板に『ボイル料理店』と書かれた店の暖簾のれんを軽く上げて中に入っていった

本当に彼女の店なのか怪しいが、ここで行かないという選択肢を選ぶことに気が引けてしまった俺は戸惑いながらも後を追うことにした


「話を聞かない奴に会うのも本日二度目だな…とりあえず行くか、サヴェスト」


「……えっ!?ああ!そうだな、ハハハ…」


彼女を誘導するように声をかけるも、当の本人は何かに気をとられていたようで、焦りながらそれを誤魔化す様子を見せた。


俺について行く彼女を横目に、ふと先程の視線の先を見ると、崖の上に厳重に鎖で閉鎖された洞窟が目に入った。

あれは一体…


◆   ◆   ◆


「お待たせ致しました!薬草のサラダです!」


「ご注文承りますコカトリスの石焼き風に…」


料理店に入り、一番最初に目に入ったのは客や従業員だった。

獣人の里というからには当たり前なのだが、その全てがボイルと同じ獣人であり人間との交流は少ないのだと確信した。


「お待ちしておりました!それでは特別な個室にご案内致します!」


ガヤガヤと繁盛している店の奥に、卵を抱えた俺とサヴェストは案内される。

その部屋は先程の光景と対比するように全体的にシンとしており、悪い言い方をすると独房に近かった


「さて…アンタ達、人間だろ?」


「そうだけど…それより、なんか性格変わった?」


「ああ…料理を提供してくれるのはありがたいが、何か君の様子がおかしい気がするぞ」


「そう?料理ならすぐ持ってくるから安心して待っててよ」


俺達の問いかけを無視し、彼女はニヤリと口角を上

げてその場から去っていった。


◆   ◆   ◆


「ほら、お待ちどおさま」


しばらくしてから彼女は俺とサヴェストの前に料理を出した。

ものすごく新鮮な料理だ。まだ食材が生きているようで、ウネウネと皿から逃げようとしている。


…これが『芋虫』じゃなければもう少し美味そうに見えたのだろうか。


「食べないの?里の皆はよく食べるのに…」


彼女はニヤニヤとした顔でこちらを見つめる。


「これはちょっと俺の口には…」


「そうなの?じゃあ食べなくても良いけど」


「え、いいの___」


「その代わりに、さっさとこの里から出て行ってくれる?」


「は?な、なんでだよ!?」


『嵌められた』そう思い隣を向くと、サヴェストは目を輝かせながら、芋虫を次から次へと口に放り込んでいた


「久しぶりのタンパク質だ!このタレも良い風味だぞ!」


「えっ…ほ、ほらソイツもそう言ってるし、お前も食えば?」


「今驚いただろ?嘘だよね?里の皆がこれ食べてるなんて嘘だよね?」


今明らかに戸惑ったような声を漏らす彼女を問い詰めようとするも、サヴェストが横槍を入れる


「食わないのか?皆食べているんだぞ?」


「ちょ俺が間違ってるように感じるからやめて?」


「ひっ…す、すまない!許してくれ!」


まるでとてつもなく酷いことを言ったかのように縮こまる彼女を置いて、俺は再度料理…?に向き直る

すると、突然涙を啜る声が聞こえてきた

彼女が顔周りを赤くして目を擦っていたのだ。


「うう…酷い…人間に喜んで貰おうと頑張ったのに…そうやって見た目で否定して…」


「いやあの…涙出てないけど」


「あっ…とりあえず残すなよ、アタシは忙しいからもう行くけど」


涙を枯らしたまま、泣く演技をした彼女は都合が悪くなる前にこの部屋から去っていった。

もはや絶対に俺への嫌がらせなのだが…捨てるというのも気が引ける。


「本当に親しまれてる料理って線もあるし…」


恐る恐るその内の1つを取ると、目を瞑りながら口の中で噛んでみる。罪悪感が凄いが、確かに美味い。変な汁が変なタレと混ざってお互いの味を高めあっている。


「なんだ…美味いじゃん!」


「そうだろう!?我もそう思うぞ!」


「ああ!これ本当に名物料理かも…」


俺がそう言ってもう1つ手に取った瞬間、部屋の扉が開き、ボイルが入ってきた。


「ボイルさん、この料理美味しいです!」


今までの自分を戒めるように彼に感想を言う。

俺が間違っていたのだ。見た目で判断なんてしてはいけない。あの子には悪いことをしてしまったなぁ


「芋虫…?お主、こんな物を料理と呼んでいるのか?気は確かか?」


「すみません、エチケット袋持ってませんか?」


前言撤回、やっぱクソだ。騙しやがったな


◆   ◆   ◆


彼がいなかった間のことを説明すると、眉間にシワを寄せてミシミシと机を言わせ始めた。


「シェイン…!彼奴には前々から罰を与えねばと思っていた。良い機会だ…」


「いや、ちゃんと謝ってもらえれば全然良いんですけど、なんであんな事をしたんですかね?」


先程の獣人の物であろう名前を怒ったように独り言を呟く彼に俺が感じていた疑問を投げかけると、ボイルは重い口調で口を開いた。


「シェイン…あの子は獣人と人間の混血種なのだ。いつからか獣人より能力が劣っているとコンプレックスを抱いてしまってな、何故かその矛先が人間に向いてしまったのだ。」


「コンプレックスですか…」


その事を聞いて、ほんの少しだけ彼女に同情した。

自分の過去と彼女の境遇が似ていたためだ。


「…ちょっと外の風に当たってきます」


「?ああ、わかった」


重い空気を変えるため、気分転換でもしようと一度その部屋を後にした。

料理店の外に出て辺りを散策していると、丘の上に置かれていた木製の檻が目に入る。


「なんだアレ?」


その丘を登り、檻に近づくと中に男がいることがわかった。

日本刀のような剣を床に突き刺し、壁にもたれかかって寝ており、静かにそよ風が男の長髪が靡かせていた。

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