久しぶりのRPG感
「あれ、もう里に着いたんですか?」
外で俺達がドラゴンと戦っている。ということなど微塵も知らない彼女はのんきにそう言う。
「ワープ条件…よし!」
そんな彼女を横目に流し、俺は部屋の端まで行くと卵を抱え、助走をつけて扉の外に飛び出した
ワープする条件は『その場所から半径2km以内に女神を見たことがある奴がいること』
つまり条件さえ満たしていれば…
「ワープ場所は上空でも良いってこ…いや高所…」
ドラゴンの頭上にワープした俺は、扉を踏み台に空に駆けていき、さらに飛距離を稼いだ。
ゲーム風に『空中ジャンプ』とでも呼ぶべきかな。
当の俺は空中など見れないが
「こっち見ろ!ドラゴン!!」
卵を持っている俺のことを、ドラゴンは一目散に首を伸ばして追ってくる。所々吹き出す炎の熱がここまで伝わり、風の冷たさが瞼に触れた。
「なるほど…後は任せろ!」
下にいたサヴェストはそう呟き、思考を読み取ったように逆鱗に魔法を放った。
青白く光輝く火柱を手から噴き出し、見事ドラゴンの逆鱗を喉ごと焼き切った
最初からそれしとけば良かったんじゃ…
弱点を撃ち抜かれたドラゴンは目の光が消え瞳孔が開き、俺の目の前で口を開けたまま地面に落ちていった。
俺も同じく地面へと落下して行く
高所恐怖症のせいでロクに身動きも取れなかったが、前のような不安感は無い。
サヴェストが俺を助けてくれると信じているからだ
「後は任せてもらおう!」
落ちてきた俺を華麗にキャッチし、足を地面にめり込ませて衝撃を吸収した。
「…助かった〜!ありがとよサヴェスト!」
「倒せたからよかったが…あまり危険な真似をするんじゃないぞ。自分の命が一番大切だ。」
普段の様子とは打って変わり、俺を心配するように叱る彼女に邪神の威厳を感じた。
それにしても何か忘れているような…?
「ヨウ、そういえば卵は…」
「あっ…」
落下の途中に手を離してしまったのであろう卵は、俺の視線の先で自然落下していた。
「うわぁぁぁぁぁ危ねぇぇぇ!!!!」
その瞬間、ゾーンに入った俺は邪竜の油で衝撃を吸収して何とか卵を割らずにすんだ。
俺が安堵と息切れを同時並行で行っていると、サヴェストが申し訳なさそうな口調で側によってきた。
「申し訳ないことに…先程の『蒼炎魔法』で我の魔力が底をついた。つ、つまり…馬車を維持する力が…あぅ…」
「えちょっと、サヴェスト?サヴェストさーん?」
彼女がそう言うと、馬車は青い炎を散らせながら、俺の目の前で消滅した。それと同時にサヴェストがフラフラとした足取りでその場に倒れ込んだ。
「き、気絶しただけだよな?大丈夫かー?おーい」
そう反応を確かめるように声をかけるも、返答は一切無い。幸い息はしているようだが呼吸は荒く、顔色もハッキリとわかる程に悪かった。
「…とりあえずネロに聞いてみるか?」
「待て」
さすがにネロなら何か知っているだろうと思いワープの扉を出そうとしたその時、後ろから声をかけられる。
振り向くと、麻袋で顔を覆った男が立っていた。こんな感じのSCPいなかったっけ?
「その魔族…『貧魔力』に陥っているな。」
「ひ、ひんまりょく?」
貧血っぽい状態??であることを見事に当てたのであろう男は、懐から大きなフライパンを取り出した
通常の3倍程ある頭おかしいサイズだ。
「え?フライパン??」
「今魔力が回復する料理を作ってやる。あのドラゴンの肉を使ってな」
そう言うと男は出刃包丁を取り出し、ドラゴンの死体の方へと歩いていき、手際よく解体し始めた。
腹から喉にかけて包丁を入れて行き、溢れ出した血の匂いが鼻を通る
「貧血…魔力?ってのはそれで治るんですか?」
「貧血では無く貧魔力…全くの別物だ。」
心配する俺に食い気味で返答をする男を、俺はただ見つめるしか無かった。
◆ ◆ ◆
俺の目の前には大雑把に切り分けられたステーキが置かれていた。
ガーリックの香ばしい香りと、溢れ出す肉汁がなんとも俺の食欲をそそる
「魔力を失ったら魔力を含む生物を食すのが一番手っ取り早い。お主も食うと良い。」
彼はそう言うと、ステーキを豪快にかぶりついた。
俺はドラゴンの肉など食べたことが無いため、食べ方に困ったものの、意を決して男のようにかぶりついてみた。
「あっ…ぐ…やば」
弾力が凄く、歯がミシミシと不安な音を奏でたかと思ったが、間一髪で噛み切ることに成功し、口いっぱいに旨味が広がった。
「美味い…美味い…!マトモな料理なんて久しぶりに食べた…」
「そうか…お主も苦労していたみたいだな。その魔族にも早く食わせてやれ」
男にそう言われ、旨味の余韻を味わいながらも恐る恐る肉を彼女の前に出した。
肉の匂いに気付いた彼女は、苦しげに体を上げて一口かじりついた。
「…お、おかわり」
「おお…よかった、とりあえず回復はしてそうだな」
消え入りそうな声で追加の要求をする彼女に安堵すると、俺は料理を作ってくれた男に向き直り感謝の言葉をかけた
「ありがとうございます。本当に助かりました。これ代金とかは…」
「…儂はしがない料理人だ。俺の料理で喜ぶ顔が見れたらそれで満足。金など必要ない。」
「はは…今度お礼も兼ねて貴方の店に行かせて下さい、もちろんその時はしっかり払います」
「そうか…楽しみに…む?」
彼女が回復するまで他愛もない会話を続けていると、男が何かの違和感を感じた。
「何か匂いが…これは卵か?」
「ああ、これですかね」
卵の匂いを感じとった男の前に、俺の不死鳥の卵を出すと、明らかに焦った口調に変わり俺の肩を掴んできた
「お前…何故これを!?」
そう鬼気迫る表情で詰める男に、俺は事の顛末を説明した。
◆ ◆ ◆
「グラスが…何故そこに?」
「グラス?俺に卵を渡してきた人のことですか?」
「そうだ。獣人の里に住む唯一の人間だ」
獣人の里の存在を知っていることに驚いた俺を見つめ、グラスと呼ばれる男が死んだことを知った男は少し儚げな雰囲気を出しながら俺の方に向き直った。
「獣人の里に案内しよう。ついてこい、徒歩だ。」
「え、獣人の里の場所を知ってるんですか?」
俺がそう疑問を口にすると、歩き始めていた彼は足を止めて、顔を覆っていた麻袋を外し、狼のような頭部をあらわにした。
その姿は漫画でよく見るコスプレのような獣人とは違い、RPGで見る二足歩行の獣という印象が近かった。
「儂は獣人のボイルだ。これで理解したか?」
汗を飛ばすように顔を左右に振りながら彼はそう言い、サヴェストを背負うと歩みを再開し、今まで俺達が来た道を戻って行った。
分かれ道どころか最初から道を間違えていたのか…
◆ ◆ ◆
「ぷはっ…生きてるッ!!やっぱボクは神に生かされているんだ!」
ドラゴンの肉をかき分けながら、踏み潰されたはずのセサミは天を仰ぎ大草原を見渡した。
いささか強めの日が彼を照らし、思わず目を細てしまう。
「…さぁ皆ッ!このボクの生還を祝福し、さっさと拠点に戻ろうッ!!」
そう叫ぶものの、大声虚しく彼に反応する者は1人もいなかった。
その瞬間に、『自分が仲間に見捨てられた』という事態を理解し絶望の感情が彼を撫でた。
「え、ボクどうやって帰るの?」
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