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prologue. 兎と■■
煌びやかなものが、好きだ。
ナパージュでつやつや輝く、有名店のフルーツタルト。
軽やかに春風と踊る、ジョーゼット生地のワンピース。
高さを出して盛り付けられた、真っ赤なトマトクリームのパスタ。
明かりを消した部屋で灯す、花の香りのアロマキャンドル。
シャンデリアの光の下、きらきら弾けるロゼ・シャンパーニュ。
細番手の糸で織られた、上等な生地のスリーピーススーツ。
絢爛な花弁を開いて豊かに香る、大輪の薔薇の花。
全部、全部。
全部好きだ。
全部俺に似合う、全部俺のために選んだものたち。
……それなのに、どうして。
口にして、手に取って、身に纏って歩くたび。
何かが欠けているような、何かに負けたような――そんな気分になるんだろう。
幾重にも重なるふくよかな花弁を掻き分けた、奥の奥。
そこに居る『あの子』に問いかけても、答えは返ってこなくて。
だから今日も着飾って、眩い光の道を歩く。
愛される自分、幸せな自分――なりたい自分は、きっとそこにあるから。